竜神の国
「先生~~~!」
後ろから突然に抱きつかれ、俺の首に細くやわらかい腕が巻きつく。
背中にやわらかいものがあたる。
「ア、アソロ先輩!?なんでここに!?」
俺は振り向き、一応上級生のアソロに先輩と付けて呼ぶ。
あれ以来、俺はアソロ達と校舎や敷地自体が違うのでまったく会っていなかった。
学生服ではなく、白いセイラー服のようなものを着ているアソロ。
この手の服はアソロのような金髪碧眼が着ると映える。
久しぶりに会ったアソロは少し印象が違う。
「イヤダ、先生」
モジモジと床に座り込み目線をそらして床にのの字を書き始める。
「先輩だなんて……、前みたいに虫けらを見るような冷たい視線で『アソロ君』って呼んでください」
『俺はお前をそんな目で見たことは一度も無い!!』
訂正しよう、まったく印象が違う。どこかで頭でも打ったんだろうか?
「で、ではアソロ君」
「はい!先生!(注:←の!マークはハートマークと思ってください)」
満面の笑みで俺を見つめるアソロ。
「な、何でここにいるのかな?」
俺はチョット引きながら理由を聞く。
言っておくが彼女の家は貴族ではない。
だからこの貴族ご用達の豪華客船に普通乗ることは無いはずだ。
話によると彼女の家は商人、それも普通の商人ではなく中立国カーシングを拠点とする富豪。
知らなかった……いや、正確にいえば脳の記録のどこかにあるのかもしれないが探す気は無い。
他国を含め貴族情報は常に引き出せるように持ってるが、流石に商人の全てまで記録していない。
で、この船の名前はアソロⅣ世号……俺は慌てて甲板のマークに描かれてある文字を確認する。
『ほんとだ』
貴族御用達の船だが所有者はアソロ四世つまりレイナ・アソロ(15歳)だ。
彼女の誕生日に祖父が所有権をプレゼントしてくれたらしい。
王国は内陸部の平原を中心とした国であるため、海には面していない。
よって独自の船も持たないため、東の中立国カーシングに入り、このように個人が経営する貴族専用の船等を利用して南東の島国に行くことになる。
彼女は去年から夏休みを父の経営する竜神の国の高級宿で過ごしているらしい。
ここ数日かけて夏休みの宿題を全て終わらせ、丁度行こうと船に乗っていたら偶然俺を見つけここに至る訳だが。
「先生はあちらでどの宿に留まるご予定ですか?」
教えると危険な気がしたが、「教えない」という理由もないので答える。
彼女の父親の経営する宿でした…………。
『え?なに??神の悪戯???それとも悪魔の罠????』
彼女はフッフッフッと不気味に笑う。
「では、私は一応この船に乗ってる間はオーナーとしての仕事がありますので」
と言って去っていった。
俺は一人になって海を見つめる。波の音がやけに耳に付く。
「あ、あんなところにいた。お~い」
アリスが声を上げ姫と俺の側に来る。
アリスの今日のお洋服は白のワンピースに、真っ白なつばの広い帽子でネコミミを隠し、清楚な美少女風。尻尾はスカートの中に仕舞っている。
姫は長い髪を後ろで三つ網にして白の薄いシャツで腕まくりをし、黒のズボンを履いて腰には無骨な2本の刀。
『似合ってますが宝塚ですか?』
着物と違ってこのような服を着ると姫の体のラインがすごく際立つ。
特に胸がありえません。年齢詐称してませんか?17歳のそれではありません。
こんな時、何時もの俺なら何かしらの冗談を言いたいところだが、俺の心は現実逃避している真っ最中だった。
「世間って狭いんだな……」
それから運良くアソロに再び会うことはなく、船が港に着く。
港に着いた俺達をを待っていたのは面倒な入国手続きではなく、豪華な馬車と竜神達だった。
竜神族とは「神の竜」とか「聖なる竜」と呼ばれる神の現し身たる竜の血を引く半竜半人達のことだ。
モンスターの方の竜ではない。
竜神達は皆額から真上に向けて2本の角を持つ。尖った鬼のような角ではなく、枝分かれした古木のような角だ。
それ以外の外見は人と殆ど変わらない。
竜神達の真ん中で1歩前に立ち、一際ライトを浴びたように光り輝く美しい女性。
「お待ちしておりました。アンブロシウス様」
彼女は微笑む。
エメラルド色に輝く長い髪を二つの毬のように頭の上で結上げ、その瞳の色はダークグリーン。煌びやかなチャイナドレスを着た竜の姫、エターニャ・オデッセイ(?歳)だった。
-竜神の国 パンナメリア-
話は4年ほど前に遡る。
当時竜神族は貧窮していた。
この島国は大陸から少し離れており、この辺りを統治していたのは人ではなく人魚族だった。
遥か昔にこの地に移り住んだ竜神達は、この地に拠を構える代わりに、元々ここを統治していた人魚達に竜の財宝を毎年払う約束をしたのだ。
しかし当時は山程あった財宝も何時までも持つはずがなく、仕方なくこの島の特産物であるヤシの実の油を人の地へと出荷し、貿易で地代を賄っていた。
しかし何時ごろからか海竜の群がこの近辺に現れ船を襲うようになり、人魚達に払わなければならない収入を得ることが難しくなった。
俺がこの地に来たのは丁度その頃、4歳の時だった。
初めてこの島に来た時は、俺はその美しさのあまり涙した。
朝日に照らされる白い砂浜が銀色に輝き、永遠に続くかのように地平線の向こうまで広がる海岸線。
どこまでも澄んだ透明の海に、生い茂るヤシの木が風に揺れ、爽やかな波音と共に静けさのメロディーを奏でる。
「俺、ここに移住しよう」と思ったほどだ。
そこで俺はこの地を現代人?の住める楽園にしようと、貧窮していた竜神族にリゾート地の発案をする。
それからが大変だった。
暴れていた海竜達をぶちのめしファミリアー化し、この地を逆に守護させる。
法整備もしなければならないし、2年前にはドワーフの技術者も呼んで建物を建築させ、あれよあれよと言う間にこの地は発展した。
各国で竜はモンスターだが、竜神は「神の使者」と神聖視する国も多いので、一部俺が裏から手を回し、各国の要人を取り込み、または操り、この地を大々的な人々のリゾート地であると容認、周知させた。
『竜神に守られた争いのない最後の楽園』をキャッチフレーズに集客した結果、貴族の夏は必ず竜神の国で過ごすと言われるまでになった。
ちなみにエターニャは姫でありながら、当時一緒に海竜を倒しに行った仲間だ。
怒らせるとうちのゴリラ姫といい勝負かもしれない。
「あれ?報せてなかったのによくわかったね」
俺はこっちに来ることをファミリアーで報せていなかった。
遊び(バカンス)に来ただけなのに、こういう仰々しい迎えが来るのが嫌だったからだ。
「ここへ来る者のリストを管理しているものがアンブロシウス様のお名前に気がついたもので、差し出がましいとは思いましたがお迎えにあがりました」
「ん~」
俺は考える。ここで付いていったらパーティやなんだと暫く自由が無くなる。
かといってこのままアソロが待つであろう宿に直行するのもなんか嫌だ。怖い。
結局お言葉に甘えることにした。
アリスや姫は不満があるみたいだったが、なんとか説得した。
どうせ長期滞在するんだからこれも一つの思い出になるだろうと。
豪華な馬車に乗り、王城に向かう道すがら俺は「姫と姫と姫に(しつこいようだが、様はうちの姫)」この国でのルールを説明する。
でないとこの人が一番危ない。俺が着いて目を光らせているうちは大丈夫だが。一人になったら……いや俺が着いていてもダメな気がする。止めれる気がしない。ここに来るの早まったかもしれない……。
ここでは敵対する国同士の貴族が出会い、もし諍い(いさかい)を起こしたら、たとえどこの大貴族であろうと強制送還(縄でくくられ船に乗せられる)か、下手をすると多額の賠償金を払うまで投獄される。そしてその貴族は永久的に入国禁止。
その処遇にご立腹して、もしこの国に攻め入ろうとしても、海竜達の群がお出迎えをしてくれて穏便に片をつけられてしまう。
「だからこの国では基本的に絶対に刀を抜かないことです!たとえ鞘当てがあってもだめですからね!」
俺は姫に念を押す。
「ん~解った」
姫は外の景色を見ながら俺を振り向かずに言う。
『あんた絶対解ってないでしょ!』
俺は半分あきらめて、イザという時は他人のフリをすることに決めた。
それから数日後。
俺達は白い砂浜に来ていた。
俺の左横には白いビキニを着けたすごい美女がいる。
遠くを見つめる紫色の瞳には海と空の青が反射し、潮風に揺れる長い黒髪に手を当て、夏の日差しを浴びて少しうだるげな表情をしている。
もう一方の手は腰に当て、その腰には2本の刀……。
そう、姫だ。
姫はこうして水着姿を見ると物凄くプロポーションがいい。
いつもは見慣れた?裸のはずなのに、こうして1枚の布で隠されるているとまた別の色気を感じて何故かチョットドキドキしてしまう。
いや、俺はどっちかって言うとこっちの方が裸より……イカンイカン。
右横にはアリス。
アリスはネコって水が苦手じゃないの?って思う人はいるかもしれないが、化け猫だから全然平気みたいで笑いながら俺の横に……てか何故にスクール水着?
「喜ぶかな~と思って」
「誰が?」
「読者が」
「あ、そう」
気にしないでおく。
まあ、可愛いのは可愛い。
何時もの如くショートの黒髪にクリっとした可愛い瞳、クロネコミミ&二股の尻尾がフリフリと動いており、それに黒のスクール水着……。
『いかんぞ!?これが現代日本だったなら確実にさらわれる(誘拐される)!!』
そして最後に俺の後ろにいるのは赤や緑を基調とした南国の花のデザインのハデなビキニ水着を着たエターニャ。腰には同じく派手な柄のスカーフをしている。
その手には扇子……完璧です。
そんな3人の美女を引き連れる俺!!今男として俺は最強のステータスを背負ってる!?
「なのに何故俺は八歳なんだ!!」
俺は這いつくばって血の涙を流す。
『チクショー!!八歳でなかったら他のヤローどもから妬みや嫉みの負の感情を一身に浴びて優越感を抱けるというのに!!
今のこの状況じゃ「お姉さんに連れられて一緒に来た弟か?」や「もしかして若奥様と子供?」状態じゃないか!!
神よ!せめてもう5年早く生まれるようにしてくれていたら!!俺はあなたを呪う!!』
「よう、アンブロシウス~」
顔を上げるとウォーレンが赤いサーフパンツにアロハシャツをし、グラサンを頭にかけて両手に美女をはべらしている。
その赤毛やブロンドの美女はどこから生えてきたんだ!?
「わり~けど、俺はここでは自由にさせてもらうぜ」
俺の前にしゃがみ込み、笑いながら言う。
「なんかあっても俺はいないと思ってくれ」
俺はここで「望み」を使ってしまいそうになった。「その女達を置いていけ!」と。
が、真剣に悩むも止めておく。『ヘッ、俺はどうせ八歳ですからね!』
ウォーレンが美女達の肩に手を回し笑いながら去っていく。
俺には……、そう俺だって今は美女に囲まれてるんだい!
俺には今、美女&美少女がいるじゃないか!なにを僻む必要がある!
俺の左右に広がる数十キロに伸びた白い砂浜。青い海。生い茂るヤシの木。
結構な数の人の姿もみえる。
「さあ!楽しくいこうか!」
俺は美女&美少女に声をかける。
「先生~~~~!(注:←の!マークはハートマークと思ってください)」
ああ……嵐が近づいてくる……。
空を眺めると、何故かくすんで見えた。あ、涙のせいか……。
『世間って本当に狭いです。はい。』




