エピローグ、そして南国へ
何とか無事にドワーフのじいさんの家にたどり着いた俺達は一晩そこで休んで王都に帰ることになる。
その日の夜、俺はじいさんに呼ばれ、武器庫に行く。
「おお、坊主。これを持っていけ。試作品の1つだ」
そう言ってじいさんが鞄から取り出したのは布に包まれた小さな包み。
俺は受け取り、くくってある紐を少し解くと黒光りする鉄の筒が少し見える。
「『れいのもの』の内一番小さいものを取り寄せた。これなら坊主にも使えるだろう」
さらにじいさんは鞄から少し大きな箱を取り出す。
「後こっちは弾だ。500発ある。内100発はミスリル製の弾だから大事に使えよ」
そう言って弾の入っている箱を一緒に受け取る。
「ありがたい感謝する」
俺は弾の入った箱を開けて中身を確認する。
「凄いな流石ドワーフだ。もうここまで完成させてるのか」
「そう言って貰えると儂らも鼻が高い。まあ、坊主がいなけりゃこんなもの、想像もできなかったがな」
俺とじいさんは二人で笑い合い、今後の予定について少し話し合った。
翌日朝早くにじいさんの家を離れ、昼までに外に出ることが出来た。
あ、ちなみに魔力は睡眠や休息さえ取れれば回復するので俺の魔力は完全に回復している。
「くううああああああああ~~~~~~~!」
俺は外に出て直ぐに荷物を降ろし、命一杯空気を吸って体を伸ばす。
洞窟の中も精霊の力か空気が汚れているとは言わないが、やっぱり外の空気は旨い。
姫やアリス、ウォーレンも俺と同じように感じているのか、少しリラックスして体を伸ばしたりしている。
ウォーレンのおっさんは結局俺達についてくることになった。
1000年も経てば行くところも帰るところもないらしく(まあウォーレンならどこでも一人でやっていけるだろうが)、俺が『望み』を言わないので決まるまでゆっくりと俺の側でのんびり待つらしい。まあ言葉の裏にはおもしろそうだからと顔に書いていたのだが。アリスと馬が合いそうだ。
ふと姫を見る。腰には2本の刀を下げている。1本はドワーフのじいさんにもらった紫の鞘に入った「緋幻一文字」、もう1本は黒い鞘に入った「黒雪」。
そこで俺はふと気が付く。
「そう言えば姫。何時までマスクしてるんですか?」
結局俺達は帝国領地に入らなかった(正確には帝国の地下だったのだが)。
おかげで用意していた偽名やマスクってあんまり意味が無かった。
「これか?結構気に入ってるんだがな。何故かこれをつけていると剣速が上がるような気がするしな」
金色のマスクを触りながら姫が嬉しそうに言う。
『そのマスクにそんな効果は無いですから、姫』
「帰ったら今度は赤い鬼のマスクでも作らせるかな?もしかしたら3倍ほど剣速が上がるかもしれん」
姫はその姿を想像してさらに笑いを深める。
『赤い鬼……赤、角、マスク、3倍早く……偶然にしても酷すぎます、姫』
「まあ、好きにしてください。帰りますか」
俺は姫の荷物を担ぎなおして歩き出そうとする。
「あ、ありがとう」
俺の足が止まる。本当に蚊の鳴くような小さな声で姫がボソリと言う。
「え?」
俺は耳を疑う。なんか幻聴が聞こえたような……。
「すいません。い、今なんていいました?」
「なんでもない!」
姫は俺達をほって足早く歩いて行く。
マスクで見えないが頬の辺りがほんのり赤くなっているように見えたのは気のせいだろうか。
俺は慌てて追いかける。
「姫!待ってくださいよ!今なんて言ったんですか?」
「知らん!」
こうして俺達のドワーフ地下帝国の冒険は幕を閉じたのだった。
-エピローグ-
夕刻、家に辿り着いた俺達だが結局この冒険は1週間と経っていなかった。
夏休みは1ヶ月あり、まだ3週間程残っている。
家について早速荷物を降ろし、メイド達に荷物と姫達を任せて父に報告に行く。
「父さん只今。」
父の書斎を開けると、父の姿は無く、何故かそこには俺の母が待っていた。
「母さん……」
「おかえり、アンブロシウス」
『黄金の歌姫』メイリーン・マキシス(27歳)
母は絶世の美女といっても過言ではない。美しく流れるような長いプロチナブロンドの髪を軽く結い上げ、その瞳は金色。透けるような肌に薄紅色の花のような唇が色を添えている。
彼女の天使の歌声は広く大陸に知れ渡り、その美貌もあいまってか王国中から求婚が後を絶たなかったが、何故かヒゲモジャの神官のような俺の父と結婚した。この時は国中の男達が俺の父を呪ったことだろう。
まあ当時将軍であり三大貴族の父に見初められて断れなかったというのもあるのかもしれない。金と権力か……俺も大きくなったら……。
母は俺を生んでから少し体を悪くし、事あるごとに寝込むようになった。
それらの事から俺と父は、母に頭が上がらない。
「大丈夫なんですか?起きてこんなところにいて」
「今日は気分が良いの。それになんだかあなたが帰ってくる気がしてここで本を読んでいたの」
何時もながら勘が鋭い母である。
よく考えたら俺が夏休みでも、父が休みな訳が無く、ネズミモニターを見れば父は城の執務室でまだ仕事をしていた。
その日の晩、父に事のあらましを報告し、流石にこっぴどく叱られた。
まあ、今は勘当中の身であるとはいえ、一国の姫を伴って敵国の地下迷宮に挑もうとしていたのだから当然だ。
さらに宝典の破ったページを渡すと、父は白目をむき倒れそうになった。
外出禁止を言い渡された俺達だが、2日後には父の懇願で南東の島国にバカンスに出掛けることになった。
『何故かって?』
理由は簡単。たった2日で修理したばかりの家が再び半壊状態になり、母がまた寝込んでしまったからだ。
どうしてそうなったかはご想像にお任せしよう。
父が俺の足元にすがりつき、泣きながら「手続き取ったから、夏休みの間はそこで暮らしてくれ」と渡されたのが、南国竜神パラダイスという怪しいタイトルの1枚のチラシ。
俺達がバカンスに行っている間に離れの屋敷を俺と姫とウォーレン(+アリス)が使えるように改築すると言う。俺の想像だが、多分離れの屋敷は鉄の要塞のような家になるのかもしれない……。
「海は広いね~」
俺達は今、王国貴族ご用達の豪華客船に乗って、南国を目指している。
潮風に吹かれながら船のデッキで俺は手すりに持たれ、海を見ながらつぶやく。
「天気は良好。雲もなし。暗雲や災いが来る気配な~~~~し!」
「先生!」
背後から懐かしい女性の声が聞こえる……。
『気のせいだ!絶対気のせいだ~~~~!』
俺は耳をふさいだ。
~追記~
アンブロシウスの父は妻のことを「メイリン」と呼びます。
決して間違った訳ではありません。




