地下迷宮最後の戦い
結局俺達は話し合いの末七階層を目指すことになった
目的の剣が七階層の悪魔が持っていること、そして「あ奴」と呼ばれる謎の男の気配があれ以来感じられないとウォーレンが言った為だ。
そういえば話は変わるが、モンスターを倒した後気になる仕草をウォーレンがしていた。
姫とアリスを交互に眺め首を傾げていたのだ。
俺はどうした?と聞いたが、ウォーレンはなんでもないと一言いってその話はそれで終わったのだが、一体なんだったんだろう……。
俺は「あ奴」と呼ばれる男のことから、あまり時間をかけてこの地下迷宮に長期滞在したくなかった為、休息無しの行軍を提案し決行する。
アリス以外の俺達4人は3日程度なら睡眠を取らずとも体調を維持できる。
アリスだけは疲れると俺の頭の上で寝ていた。
戦いながらも1日と経たずに真都に辿り着いた。
じいさんの家から1日半かかっているが、並の冒険者ではたどり着けない難易度の高い階層を走破しているのだから、ありえない早さだった。
「ここが真都ドンドルマか……」
どう表現したらいいのだろうか。
遥か数キロ先には地底火山の山々が見える。
幅数キロにも及ぶ建造物の柱が石畳の地面と遥か上空数百メートルの岩盤との間を結ぶように何本も立ち並び、まるで大地を支えている柱のようにも思える。
その建造物の柱の途中々に、小さな街のようなものがあり、かなり高い位置に設けられているそれはドワーフ達の貴族の住まう街だろうか。
当然地上部にはそれ以上の大きな町並みが広がり、その中心には黒い鉄で出来た巨大な城が見える。
街中を歩くと悪魔としか思えないような生物の骨があちらこちらに散乱しており、この階層が悪魔の巣窟であったと伺える。
しかし俺達が城に向かって進む間には生きた悪魔の気配すら感じることは無かった。
開け放たれた城門を潜り、ウォーレンが刀を持った悪魔と戦ったという最上階の王の間を目指す。
巨大な鉄で出来た両開きの扉を開けると、そこは巨大な大広間。
正面には20段ほどの階段があり、その上には王座があったと思われる。
王座に向かう階段には話に聞いた刀を持った悪魔が座って待ち構えていた。
「また来たのか人間よ、今度は逃がさんぞ」
悪魔はウォーレンを見て流暢に喋る。
「逃げたのでは無い!あんときゃ~、そう、ばあさんが危篤で急いで帰らねばならんかっただけだ!」
ウォーレン……あんたのばあさん生きてたらいったいいくつだよ!と突っ込みたくなったが、それをぐっと堪える。
濃厚な殺気と重圧が広い王の間を支配する。
「仲間を連れて戻ってきたみたいだが……、女に子供、ジジイにネコか?我をなめているのか?」
悪魔が立ち上がる。
「まあいい、ここへ来た限りは等しく死んでもらおう。地獄に俺の名を持って逝け、我の名はベイモルド。悪魔ベイモルドなり!」
上半身を黒紫色の包帯でグルグル巻きにし、肌は一切見えない。
腰には刀「黒雪」。腰から下は昔は豪華であったのだろうが、今は見る影もないローブの残骸のようなものを纏っている。
目に当たる部分には包帯の隙間があり、その中には闇が満たされ、ギョロリと丸い目玉が浮いている。
覗くその目には狂気を宿し、口の辺りは耳まで裂け唇の無い口からはゾロリと剥き出しの歯が見える。
姫が口上も述べずに先陣をきった。
縮地でベイモルドの懐に飛び込み抜刀する。
神速の剣は確実にベイモルドをとらえたかのように見えた。が、ゆっくりとベイモルドは腰の刀を抜く。
光が吸い込まれ、黒光りすらしない漆黒の刀身が姫に襲い掛かる。
姫はそれを寸前でかわし、後ろに数歩下がる。
「無駄だ。我をそのようなただの鋼で斬ることはできぬ」
緋幻は魔剣ではない。魔力のこもった武器でなければどうやらベイモルドを斬ることは叶わないようだ。
ウォーレンが姫の頭の上を飛び越えベイモルドに大剣を振り下ろす。
鉄の床が大きく歪み裂けるがそこにベイモルドの姿は無い。
『転移魔法!?』
ウォーレンの剣が当たる瞬間に半歩後退したベイモルドが、闇のように空間に消えるのを観た。
次の瞬間殺気が俺の背後から感じられ、俺はアリスを頭に乗せたまま前に飛ぶ。
コンマ数秒遅ければ俺は斬られていただろう。
俺が今その瞬間までいた場所に、黒い刀の軌跡が見える。
しかし、そこには既にベイモルドの姿は無い。
「纏めて死ね」
ベイモルドの声が天井付近から聞こえる。
上を見るとベイモルドが天井に立っており、その体から無数の黒紫色の包帯が伸びて襲い掛かってくる。
「それに触れるな!」
ウォーレンが叫び俺は身体強化を命一杯使って襲い掛かってくる包帯をかわす。
包帯は恐ろしい切れ味で鉄の床や壁を切り裂いていく。
チチチチチ
姫が抜刀術で飛来する包帯の剣をはじき返している。
ウォーレンは襲い掛かる包帯を剣の腹でまとめて叩き落す。
じいさんもなんとかかわしながら逃げている。がんばれじいさん!
俺はこいつを倒す方法を脳内シナプスを強化、加速し、攻撃をかわしながら考える。
じいさんの武器ではだめだ、ウォーレンの武器は魔剣だがあの空間魔法まで駆使するベイモルドの本体を捕らえる程速くはない。
残るは俺か姫。俺と姫の持っている刀とポールアックスは魔剣や魔槍ではないが、俺なら魔力を込め続けることによって継続的に武器を魔槍化できる。
姫の剣技にも一瞬なら同じことが出来る技がある。ただ、姫の場合武器が剣技に何度も耐えられるとは思えない。
俺しかないのか?
そう考えていたとき、
「もうだめ~~~~!?」
頭の上にいたアリスが俺の身体強化の横加速に着いて来れずに吹き飛ぶ。
「しまった!?」
俺は手を伸ばすが、左横に向かってジャンプしてる最中の俺が反対方向に飛ぶ為には地面に足が着くまでのタイムラグが生じ、間に合わない。
「くそ!」
振り落とされ、空中にいるアリスに包帯の剣が襲い掛かる。
アリスに包帯の剣が当たる瞬間、一つの影が重なる。
血が空中に飛び散る。
「姫!?」
縮地を使い一瞬でアリスの側に移動した姫が、アリスをかばったのだ。
片手で空中にいるアリスを咄嗟に引き寄せた為に抜刀術を出せず、姫は包帯の剣をまともに受けてしまう。
受けたのは左肩。見たところそれ程深い傷ではない。
「!?」
しかしそのスキを逃すほどベイモルドは甘くなかった。
吹き飛ぶ姫の横に突然現れ、刀を突き出す。
『間に合え!!』
爪先が地面を捉えた瞬間、俺は足の腱が引きちぎれるような音を立てるが、気にせず、姫とベイモルドの間に跳躍する。
姫は最初に包帯の剣に斬られた反動で無事床に倒れる。
なんとか間に合ったようだ。
「カハッ」
俺は大量の血を口から吐き出した。
ベイモルドの刀は俺の腹に深々と突き刺さり、俺の背中からはその剣先が飛び出していた。
「「「アンブロシウス!?」」」
皆がベイモルドの刀に串刺しにされている俺を見る。
「まずは、一人」
ベイモルドは刀から俺を引き抜こうとする、が、
「ヌ?」
俺は刀を持ったベイモルドの右腕を左手で掴み放させない。
「無駄なことを、この刀は斬ったものの魔力を吸い取る魔剣。直ぐにお前は干からびてミイラになる」
「ミ、ミイラ男に、ミイラになるって言われたのもしかして人類で俺が初めてなんじゃない?」
ベイモルドの顔が驚愕に変わる。
「馬鹿な!?何故吸い取られん!?いや……これは……」
「吸い取ってるさ、俺の魔力をすごい勢いでね。ただ、俺の魔力はチョットだけ人より多いのさ」
俺はベイモルドを掴んだ左手に力を込める。
嫌な音を立てて俺の手の中でベイモルドの腕が潰れていく。
「グオオオオオオオオ」
ベイモルドの体から無数の包帯が俺に向かってくる。
「遅い!」
包帯の剣が俺に届くよりも早く、俺は右手に持ったポールアックスを魔槍化し、ベイモルドの脳天に振り下ろした。
頭のてっぺんから股まで魔槍を振りぬく。それと同時にベイモルドの背後にせまっていたウォーレンが大剣を横薙ぎに振るった。
「その魔力……あなたは……あなた様は……」
四つの破片斬られたベイモルドは訳の解らない事を言いながら、流石に息絶えたのか闇となって飛び散り、二度と現れることは無かった。
ベイモルドの腰に差してあった刀の柄が床に落ち乾いた音を立てる。
ベイモルドという支えを失った俺はその場に膝を着く。腹には黒雪が刺さったままだ。
「アンブロシウス!?」
自分の肩の怪我も忘れて倒れ掛かる俺を抱きとめる姫。
「しっかりしろ!」
「刀を・・刀を抜いてくれ」
俺は姫に頼み込む。
「しかし今抜いたら……」
「俺の魔力が吸われ続けてる……力が抜けていく。いいから抜いて……くれ」
俺はこの時まで自分の魔力の上限を知らなかった。
どんなに使っても減った気がしないし、計測する装置があるものでもない。
しかし、どうやら限界があった様で今正にこの刀に吸われて枯渇しそうになってきている。
このままじゃ脳パソのメモリを維持できなくなる。
「解った抜くぞ?」
姫が刀を引き抜く。
抜かれた腹の傷口から噴水のように血が飛び散る。
姫はあれ程執着していた刀が自分の手の中にあるのに、あっさりとそれを投げ捨てる。
「このままじゃ死んでしまう、ダメだ死ぬな!死ぬなよ!」「坊主気をしっかり持てよ!」
じいさんも駆けつけて来る。
姫はなんとか血を止めようと俺の腹を手で押さえ着けてくる。
俺は2人を見ながら、
「ハハ、ここは傷は深いぞガックリしろって言うシーンじゃないか?」
「こんなときに冗談を言うな!馬鹿もの!」
よく見ると姫の目には涙がうっすらと滲んできている。え?マジ!?
そんな名シーンを冷たい視線で見つめる2人がいる。
「いいかげんにしたら?」「もう帰るぜ?腹減ったわ」
アリスとウォーレンが言う。
「お前達何を!?」
姫がマジ切れの殺気をアリスとウォーレンに向ける。
「まあ確かに、これ以上は俺の良心が痛むな」
俺はムクリと起き上がる。
「な?え?アンブロシウス傷は!?」
驚くのも無理は無い、俺の腹の傷は既に塞がりかけていたのだ。
そして見る間に傷跡すら無くなってしまう。
まあ失った血のおかげで流石に顔色は良くないがな。
「あ~なんというか俺って傷の治りが早いんだよ」
実は俺は身体強化で治癒能力を強化すれば腹を切られたぐらいでは死なない。
ただ再生ではないので、首を斬られたり、腕を斬られては流石に生えては来ないし、武器が刺さってたり、串刺しにでもなったら、刺されたままの状態での治癒は無理なので確実に死ねる。
ちなみに、アリスは長い付き合いで知っているし、ウォーレンとはまあ、蘇らせたときにチョットいろいろとあって、2人で斬りあった挙句怪我がお互いに治ってしまうのを知っている。
だから知らなかったのは姫とじいさんだけだった。
「それならそうと早く言わないか!!」
姫は俺の頭を殴ると肩を怒らせながらスタスタと刀を拾いに行ってしまった。
帰路に着く。
俺は帰りがけに姫の横に並び、「心配した?」と聞いてみた。
「し、心配なんてしていない!ただ・・そう、お前がいなかったら誰が帰りに私のタンスを担ぐのか心配してたんだ」
ウンウンと頷く姫。
俺は少し笑いながら両手を頭の上で組んで前へ歩き出す。
「自分で担げば~?ゴリラパワー発揮してさ」
ピクっと姫の眉毛が上がる。
「ほう、やはりお前は死んだほうが世の為、いや私の為だな」
スラリと黒雪を抜く。
「斬られても平気なんだったな。丁度良い、お前の体で新しい刀の試し切りをさせてもらおう」
「それ冗談になってないって!?」
その時の追い駆けっこは姫の太刀筋がいつもより苛烈であったことは言うまでもない。




