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古代の英雄王

 俺達は三階層に来ていた。


 ここは農業を中心とした街で、真ん中に小さな建物がいくつかある以外剥き出しの土の荒野が広がっている。広さとしては数キロ程度のものだ。


 耕すことが無くなって数百年も経てば瓦礫や岩がむき出しになり、農耕地帯の跡であるとは到底思えない。


 この階層からは巨体のモンスターが多くなる。


 ミノタウロスの上半身に牛の体を付けた様なモンスター、胞子を手裏剣のように飛ばしてくる巨大なキノコのモンスター等数種類の凶悪なモンスターを倒し、この階層終盤辺りに差し掛かった頃だろうか。


 姫が爪を噛むしぐさを時々するようになる。



 三階層を過ぎ、通路を四階層に降りていく。


 四階層は一階層と変わらない石造りの中堅都市。少し変わっているといえば建物から建物にいくつものアーチ状の水路がかかっており、それには細やかで美しい彫り物が施されている。


 街の中央広場には塔があり、天井から滝のように水が流れ落ちてそこに入り、そこから町中の建物に広がるアーチの水路に水が供給されている。


 ここには機械仕掛けの時計のようなモンスターが街の至るところにおり、姫の新しい刀「緋幻」と俺のポールアックスを何度か修理することになったが、それ程苦労も無く街の中央の塔に辿りついた。


 塔を囲む水門の崩れかけた階段を登って、その上で休息と食事を取る。


 食事終えて俺は一息ついていたが、姫は次の門がある北西を睨み爪を噛んでいる。


 そして、とうとう左手で刀の鍔を親指で弾き始めた。


「ああ、もう姫!何をそんなに苛立ってるんだよ!こっちが落ち着かない」


 流石に黙っていられなくなった俺は姫に問う。


 だが、俺の問いに返答したのはじいさんだった。


「坊主は気がつかないか?」


「なにがだよ!」


 俺はつい苛立って口調を強めてしまう。


 じいさんは気にせず答えてくれる。


「儂も先程気がついたんだが、僅かに殺気を感じる。姫さんは前の階層辺りから気がついてたみたいだがな」


 俺も姫の睨んでいる方向に視線を向けるが、全然解らない。


 死線を潜り抜けた数が違うからか?


 じいさんは若い頃に魔獣倒しまくって、新大陸を切り開いた猛者だから感じるのだろう。


 そこで俺はふと気がつく。


『あれ?殺気を感じているなら喜ぶところじゃないのか?』


 聞いてみると姫は自分だけに向いてくれない殺気にイライラしていたらしい。


 姫は普通人の感覚と完全に感じ方のポイントがずれてます。はい。




 五階層


 ここまで来れば流石に俺でも感じる。


 息苦しい、空気が重い。殺気が目に見えるような気がする。


 本来なら襲って来るはずのモンスター達も影を潜め、まったく姿を見せない。


 アリスは毛を逆立たせて俺の頭に爪を立てるので、下に降ろす。


 降ろすと家では何時ものメイド服の姿になる。新しい服を想像する余裕も無いらしい。


「ここやだ、いたくない」


 しゃがみ込み、体を震わす。


 この階層は連立する数十mの柱がいたる所に立ち並び、白い石畳が見渡す限り続いている。中央には見上げる程の階段とその上に神殿のような建物。


 殺気はその神殿から撒き散らされている。


「まさか……。こりゃ~、冗談じゃないぜ」


 じいさんが皆に聞こえるように話し出す。


「ここは昔あるものを封印していた所だ。完全に目覚めちまってる」


 封印されていた……。


「あ!?」


 俺は突然に2年前、ここに来た時の事を思い出す。


 が、時既に遅く、姫が我慢できずに走り出していた。




 俺は慌てて姫を追いかける。


 置き去りにされたアリスとじいさんも慌てて後からついて来る。


「待てって!姫!」


 姫が止まる気配は無い。


 平らなところでは追いつけなかったが、姫が階段を登り出したところで、俺は身体強化でジャンプして姫よりも先に神殿に着き、叫ぶ。


「やめろ!おっさん!殺気を消せ!!」


 次の瞬間、まるで空気が羽のように軽くなり、俺は思わず前のめりに倒れそうになった。


「フウ」


 間に合った。思わず息を吐く。


 殺気が消えたせいか、姫は剣から手を離しゆっくり歩いて俺の後ろに立ち、さらにその後ろに息を上下させてじいさんとアリスが追いついて来くる。


 石柱の立ち並ぶその神殿には奥に砕けた壁、そしてその前に一つの豪華な王座があった。


 王座には一人の黒い鎧を身に纏った偉丈夫がマントを広げて座っていた。


「ん?アンブロシウス……か?」


「アンブロシウスか?じゃね~~~~~~!!」


 俺は思わず飛び蹴りを食らわせてしまった。




「カカカ、いや~スマンスマン。てっきり『あ奴』かと思ったわい」


 男は頭をボリボリとかいて謝る男にはさっきまでの威厳は無い。


 その男は右眼に眼帯をし、クセのある青みがかった黒髪を後ろにざっくばらんに流し、無精ヒゲを生やしている。


 口元にはニヤついた笑いを張り付かせてはいるが、左眼の眼光は鋭く、とても笑っているようには見えない。


「ああ、皆すまない。紹介するよ。こいつはウォーレンって言う変なおっさんだ」


「ウォーレンって……確か……」


 アリスが呟く。


「古代の英雄王ウォーレン……」


 じいさんが語り始める。


「千年前、まだ人間が今みたいに大陸を覆うかのように増える前、かつての繁栄していた我らドワーフ帝国にたった一人で挑んだ男がいた。その男の名がウォーレン=ガーランド。不老不死にして我らドワーフに他の大陸への移住を決意させた男じゃ。不老不死のこの男を殺せずに、石にしてここに封印しておったんじゃが……」


「カカカ、今そこのドワーフのじいさんから詳しい紹介のあった英雄王ウォーレンだ。よろしくなお嬢ちゃん」


 おっさんは姫の前に立ち、握手をするかのように手を出す。


 姫は何時もなら「お譲ちゃん」呼ばわりなどされたら怒りをあらわにするか殺気を出すはずが、この男の先ほどまでの殺気から間違いの無い歴戦の勇士としての実力を感じ取ったのか、素直に握手しようと手を出すが……。


ムニムニムニムニ


「ほほ~良いチチじゃ~~~。久しぶりじゃ~~」


 まさしく、命知らずの勇者(英雄王)がここにいた。


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