新しい仲間
ヒゲのじいさんとこまでもう少しだが、俺はチョット姫のことが心配になって、荷物を開く。
姫は無事なんだろうか。両開きの扉をソーッと開く。
大量のドレスに抱かれてスヤスヤと寝息を立てていました。
俺は自分のカバンから長方形の札を出す。その札にはサクラの花のような形の彫り物がしてあった。それを寝ている姫の着物の袖に入れると、再び扉を閉めた。
「アリス」
カバンを担ぐ俺の頭の上にアリスが乗ってくる。
俺はヒゲのじいさんの家に向かって走る。
ヒゲのじいさんの家は北の街の西の一角、石畳の階段を登った所にある石造りの一軒屋。
その建物からは煌々と光が漏れ、煙突からは煙が立ち昇っている。
鉄を打つ音が響いてくる。じいさんが打っているのだろう。
ヒゲのじいさんはドワーフで鍛冶屋をしている。ここに挑む冒険者達にこの階層における一晩の宿と、武器のメンテナンスをしてくれるのだ。
じいさん自身も凄腕の戦士で、このあたりの魔物程度なら素手で殴り倒してしまう。
家の前の広い庭には沢山のモンスターの彫像があり、今にも動き出しそうなその精巧な作りに驚かされるだろうが、これは作り物ではない。
先ほど俺が取り出した札に掘ってあったサクラの花のような彫り物が敷地全体を覆うように足元に掘られてある。
これは石化の結界で、この札を身につけるか、身につけたものの近くにいないで、一歩屋敷の敷地に入れば目の前のモンスターの彫像のようになってしまう。
ここを初めて訪れる冒険者達も知らずに入ってこの洗礼を受ける。
解くのは簡単で、石化したものを1歩この彫刻の円から出せばいいだけなのだが、勢い込んで敷地に飛び込むと、哀れこのような石像になってしまう(まあじいさんは冒険者が引っかかったときは外に出して解くので、冒険者の彫像は無い。)
「じいさんいるか~?おじゃましま~す」
荷物を庭に置き、姫を抱えた俺はじいさんの返事を聞かずに家に入る。
「おお、坊主久しぶりだな~」
左手奥の扉の無い部屋から上半身裸のドワーフのじいさんがタオルで汗を拭きながらでてくる。
「悪いんだけど客間一つ借りるね」
じいさんの了承を得て、かって知ったるなんとかとばかりに俺は右の奥の通路に入っていく。
簡易なベッドの置かれた客間に入り、アリスに姫を任せて俺はじいさんの所に戻る。
じいさんは先ほど出てきた左手の部屋にいた。
そこはかなり広い部屋で工房になっており、炉には火がくべられている。
炉の置いてある部屋の一部は剥き出しの土になっていた。
「で?今日は女連れで何のようだ?」
「今日はじいさんに用があってきたわけじゃなかったんだがね。連れが武器を壊してしまって、ついでに俺にも何か武器を都合して欲しいんだ」
背を向けて炉の火を調整していたじいさんは「よっこらせ」と立ち上がり俺を振り返る。
「どれ、壊れたって武器を見せてみな」
俺はこの部屋に来る前に荷物から取り出してきていた小鉄をじいさんに渡す。
今更ながらだが、じいさんを典型的ドワーフの姿で想像していた方は申し訳ない。
じいさんの容姿は至って人間。白髪をオールバックの様に上で上げ、鼻の下には同じく白いヒゲを少しだけ蓄えてはいるが、どこからどう見ても人間。
背丈は180cmくらい、姫より少し大きい。
じいさんはハーフドワーフで、母が人間で、身体的特徴は母の血を濃く受け継いでいるらしく(似ているわけではない)、ドワーフの様な濃い顎鬚や、人より小さい背丈というような特徴は無い。
筋骨粒々な歴戦の戦士という風体だ。
「モンスター相手に峰打ちでもやらかしたか?」
じいさんは鞘から折れた剣を抜き出して見ながら言う。
俺は思わず拭き出してしまった。
「姫(あ、言っちゃった)が峰打ちだって?ありえね~」
「姫?……成程な、ナイチンゲールか」
じいさんは別に理由まで深く追求してこなかった。
「この剣は固いものを切っておれたんじゃないな。まあ最後はそうだったにしてもそれは剣の限界だったって~ことだ」
途中まで折れた剣を眼前にして見せられる。
「これは!?」
折れた剣の残った刀身がわずかに刃の方に向かって曲がっていた。
「確かナイチンゲールっていや~神速の抜刀術を使うんだったな。反しが早すぎて剣がついていけなかったんだろうな」
姫の剣術に刀がついてこれてない。俺は愕然となる。それじゃ普通の剣じゃいくら打ち直してもらってもまた、すぐに壊れてしまう。
どうしたもんかと悩んでいると、おっちゃにこっちにきなと顎で誘われてついていくと、武器が正しく山ほど並べられた倉庫。
「これが家で一番いい刀だ」
投げてよこされた刀を受け取り、俺は鞘から刀を引き抜く。
きれいな波紋だ。
「緋幻一文字って、まあ儂の作ったものの中じゃ一番いいものだ。それならしばらくは持つだろうが…………」
じいさんはしばらく悩み、頭をかきながら俺にいい案を出してくれる。
「そんなに長いたびじゃないんだろう?ならこの旅の間だけだが儂がついってってやるよ」
俺は驚く。ヒゲのじいさんは見た目は人間だが、ドワーフの血も引いており、土の精霊術に長けている。少し曲がったり刃こぼれした程度の修理くらいなら、設備が無くてもその場でなんとかしてくれる。
「そりゃ願っても無いことだがいいのか?」
俺が問いかける。俺が知っている限り、ヒゲのじいさんは立場上人間に手を貸しても一緒に旅をしたことは無いはずだ。
「まあ、この儂が人間の姫と行動ってのも……。時代の節目だろうよ」
頭をガシガシとかくじいさん。
俺は新しい仲間を得た、テレレレッテレ~。
「感謝する。ところで、話は変わるが「れいのもの」の方はどうなってる?」
俺は2年前にここに来たときから、その後も何度か使い魔で連絡を取っている。
「ああ、順調だ」
じいさんはニヤリと笑った。
次の日、姫に刀を渡し、なんとか説得の末にカバン(タンス)はここに置いていく事にする。
じいさんからリュックを借りて必要なものだけをまとめた。
俺はじいさんの武器庫から短めのポールアックスをもらった。
流石に武器なしじゃいざという時つらいし、この武器なら背丈の無い俺でもジャンプせずにモンスターの弱点(首)をつける。
じいさんはテンプレに漏れずドワーフ御用達の大きなトマホークアックス。
伝統だそうだ。
「あらためて、儂はバズロー=緋幻。よろしく頼む」
「こちらこそ、武器を都合してもらってすまないな。感謝する」
手を取り合うじいさんと姫。あれ?姫なんか行動まともじゃない?
聞いてみたら、
「歴戦の勇士というのはお互いに礼を失さぬものだ」
当たり前だろうってな感じで姫に諭された。
「ゴリラに人間の道理を諭された。ああ、俺はクズだ」
俺は膝から崩れ折れた。
「ほう、丁度新しい刀の試し切りをしたかったところだ」
姫はそういうと微笑みながら刀をスラリと抜き放つ。
この感覚久しぶり~~~。出発が1時間遅れました。あれ、俺チョットマゾってたりする?




