帝国への道
「大きい、とても大きい」
出発の日、屋敷の玄関前で俺と姫、父にネコのアリスがいる。
父には「夏休みを利用して、姫と旅に出かけてくる」と言うと涙を流しながら「お前は本当に親孝行な息子だ」と泣いて褒められた。
それも当然だろう、なにせ事あるごとに俺は姫を怒らせ、刀を抜いた姫に屋敷の中で追い掛け回される。
当然我が家の中は滅茶苦茶だ。
高級な花瓶が割れ、肖像画や絵画が真っ二つになり、石造りの女神像は首と腕が切り落とされ、いくつもの部屋の壁が無くなって、大きな部屋になっている。
家のメイド達も土木作業に類似する掃除は経験が無く、掃除も満足に進まない。
母はその惨状を見て寝込んでしまい、父は王の頼みを断らなかった自分を呪っていた。
半分は俺のせいなのだが……。
それは兎も角、フード付きの外装に旅の支度を終えた俺が、玄関口にある茶色の山の前で立ちすくむ。
「これはなんだ?」
「なんだとはなんだ、私の荷物に決まっておろうが」
気が付いている人もいるだろうが、姫は刀を持つとすこし喋り方が変わる。
普段はボケキャラのような喋り方しかできないのだが、なのに刀を持つと姫将軍ってこんな感じかな?ってペラペラ流暢になり、口調までかわる。
まあ、実際に戦時中は姫将軍をやっていたので、その名残ともいえる(その話は後ほど語る事になる)。
あ、姫の格好は俺と同じくフード付きの外装に中にはサクラの花びらが舞う黒を基調とした着物。腰には小鉄を差し、顔を隠すために舞踏会で見かけるような金のマスクをしている。まあ……、派手だな。姫だとばれなければなんでもいいのだが。
「これ!?カバンなの!?ドラゴンの革かなんかで作ったの!?途轍もなくでかいカバンだな!?」
縦五メートル横三メートル厚み二メートル、鞄部分が大きすぎて背負子の金属部分がグリップにしか見えない。
「中身はなんですか?」
「私の着替えとおまけの食料だ」
「逆ですよね!着替えの方がメインなの!?」
「なんだ?旅の途中で服が汚れたら着替えるなというのか?ならお前がキチンと毎日洗ってアイロンもかけてくれるのだな?」
「……好きにしてください」
「何を言っている。持つのはお前だぞ?」
「はあ!?」
「私がこんなもの持てるわけが無いだろう。私は剣より重いものは持てん」
「そういう場合箸より重たいものっていうところですが・・違うって、なんで俺が!?」
「荷物を主人に持たせる従者がどこの世界にいるのだ」
ダメだ、既にこの人の頭の中では決定事項だ。ここで言い争っても勝てる気がしない。
「持ちますよ」
素直に従っておく。でないと出発もできない。
身体強化を持続できる俺がいなければ、この人と旅に出掛けるのには荷馬車がいるな。
しかしこれから向かう帝国への道には荷馬車は入れない。
「あ、行く前に、「姫」って呼び方を何とかしないとな」
「ふむ、名前ね。アーネット(本名)じゃだめなのか?」
「それもマズイですよね。姫の名を知っている人もだろうし」
「ゴ・、っと」
姫が腰の刀に手をかける。
出掛ける前からつまずいてちゃダメだな。真剣に考えよう。
「…………ジャンヌなんてどうですか?」
生前の世界で女傑として知られるジャンヌ=ダルクから名前をお借りいたしました
「ジャンヌか。……いいだろう」
「では今日から私のことはジャンヌ様と呼べ」
「様はつけるんですね。やっぱり……」
「まあ、それじゃいってきます」
父に別れを告げて姫と俺とアリスの2人と1匹は屋敷から出た。
ちなみにアリスは俺が担ぐ山の上で先程からすでにお昼寝状態だ。
王都を離れて2時間。北の山脈が見えてきた。
普通であれば徒歩で2週間かかる距離を2時間だ。
俺は何時もの如く身体強化で走ってきたわけだが、姫は縮地法を使って走っている。
魔法ではなく、剣の達人である姫はいくつものとんでもないスキル(技術)を持っている。
その一つがこの縮地法という重力を利用した移動法だ。
端から見ていると優雅に歩いてるかのようにしか見えないのだが……。
山の麓に着き、姫と一緒に歩いて登っていく。
縮地法は踏み込む程度の短距離の移動なら傾斜など関係ないが、長距離を重力に逆らって上には登って行けないからだ。
「ヒ~メヒメヒメヒ~メヒメ~ ヒメなのだ~」
「何の歌ですか?」
「さあ?坂道を登ってたら歌いたくなった」
「一応変装までしてのお忍びの旅なんですから、そんなに姫姫連呼してちゃ意味がないですよね」
「そうか、なら……別の歌にするかな」
そうして歌い始めた曲が……
『プ○プ○(プ○ンセスプ○ンセス)かよ!』
イカンイカン『芸が細かいんだよ!』って言って後頭部に飛び蹴りをかますところだった。
関西人の魂を持つ俺は条件反射の域までボケに突っ込んでしまう。今回はなんとかギリギリ身体強化で制動をかけて抑えられた。
あ、ちなみに歌は俺が姫に教えました。他にも沢山レパートリーがあります。
中身ゴリラだけど姫は声も凄く綺麗で、一時期俺の記憶メモリーファイルに歌謡曲をいっぱい登録したくて、知ってる曲を片っ端から姫に教えて、歌ってもらい登録しました。
アリスの歌声バージョンもあります。
危険だ。よく考えたら姫と旅をするのは初めてだった。
俺は旅の間ずっと姫のボケに突っ込まずにいられるだろうか。
『敵は内にあり』
盗賊でも魔物でも帝国でもなく、本当の敵は姫のボケだった。
ここは家じゃないんだから姫のボケに突っ込むたびに刀を抜かれて命を危険に晒すわけにはいかない。
てなことを考えていると定番の山賊登場。




