出発決定
東方出身の刀鍛冶師、渡島一刀斉は世界中を渡り歩き、各地で珍しい鉱石を見付けては刀を打つというちょっと変わった御仁。
たまたまこの地で打った一振りが王家に献上された。
それが名刀 夜桜だった。
「で、これを見て」
今俺は姫と二人で自分の部屋にいる。言っておくがやましいことはまったく、全然、これっぽっちも2人の間には無い。
姫が取り出したそれは何かの大きな本のページを破いたような紙の束。
そこには夜桜の姉妹刀、黒雪のことが書かれてあった。
読むと、一刀斉が帝国を訪れた際、空より落ちて来る巨大な石を発見し、それにより刀を打ったという。
「その刃は漆黒で、光と言うものを一切帯びず、人の魂をも切り裂いた」とある。
『空よりって隕石だよな。人の魂を切る?ゴーストかな?魔剣ということか?』
当時の帝国の王に献上されたその刀は後に、名高い剣士であったベイモルド伯爵に褒美として与えられたが、ベイモルドは帝都にある闇の迷宮に挑み、黒雪と共に帰ってこなかったと書いている。
「で?姫はこれが欲しいのか?」
コクコクと頷く姫。
「勝手にどこへでも取りに行ったらいいだろう。何故俺に見せる?」
「命の恩人」
ボソッと姫が呟く。
『グハッ!?』俺の心臓が抉られたように痛む。
覚えていやがったか……。
そう俺は姫を迎えに行った時、不覚にも姫に命を助けられてしまった。
「これ取りにいくの手伝えばチャラになる?」
コクリと頷く姫。
「しゃ~ね~な~」
刀を取りに行くことで姫への借りが返せるなら安いものだ。
でないとこの先もっととんでもない要求が来たら大変だからだ。
「ところでこの王家の紋章までされた紙、どこかで見たような……。姫、これどこから持ってきたんだ?」
「ん~、武器のところの鍵がしまってた」
「ふむふむ、夜桜奪い返しに行こうと宝物庫に行ったが、武器の部屋の扉に鍵がしまってたと」
俺が補足説明すると姫がそうそうと頷く。
「近くにあった大きい本で殴ってたらこのページを……見つけた」
「ふむふむ、扉を砕こうと近くにあった大きな本……ああ、武器の部屋の手前の部屋にある大きな本
といえば宝典だな。なるほど、見たことがあると思った。それで偶然このページを見つけて破って持っ
てきたのか」
またもや姫はそうそうと頷く。
「なんばしょっとね!?あ~たっ!あれ国宝よ!!式典の時の最重要アイテムよ!?やぶってどうするの!?」
俺は頭を抱えてしまう。さて、父になんて言ってこの破れたページを渡すか、俺は途方に暮れた。
「まあいい」
俺は立ち上がり、拳を握って天に振りかざす。
「兎も角夏休み始めの冒険は敵国である帝国進入及びお膝もとの迷宮探索に決定だな」
お~パチパチと姫が拍手喝采。
「そうと決まれば姫の変装用のマスクを調達しなければな。流石に敵国に素顔で行くわけにもいかないだろうし。ゴリラのマスクなんて売ってたかな~?あ、俺としたことが!?それじゃ変装にならないじゃないか」
俺が笑いながら姫を見ると、肩を震わせて半分涙目になっている。
『いける!今ならやりたい放題だ。剣も権力も持たない姫なぞ、クリープをいれないコーヒーのようなもの。あれ?それって唯のコーヒーだよな?』と考えていると、いつの間に来たのか姫の肩をチョンチョンとつつくネコミミアリス。
その手には一振りの刀が握られている。
「家の宝刀小鉄だよ。夜桜には及ばないけど」
姿を見ないと思ったら取りに行ってたらしい。
姫は無言で受け取ると、スラリと抜刀する。
「先程からの無礼。取り敢えず首一つくらいで勘弁してやる」
俺を見てニコリと微笑んだ。
俺は汗を滝のように流しながら、後ずさる。
「姫様~、残念ながらケルベロスやヒドラと違って俺には首は一つしかないんだけどな~、きっと死んじゃうと思うな~」
『アリスめ~余計な事を!』
その後、一時間近くネコミミメイド服の美女に追いかけ回される俺の姿がそこにはあった。
ある意味ご褒美と捉える人もいるかもしれないが、よし、言ってくれれば何時でも交代しよう。




