魔法と精霊魔法
「「「どうやったんですか先生!?」」」
皆が俺に詰め寄ってくる。
「あ~実は、俺は少しだが精霊と契約しているんだ。
さっき説明したように、お前達は「魔力を餌に呪文で命令を与える」というプロセスを取り魔法を使うが、簡単な魔法なら、俺は契約した精霊にお願いするだけで使える」
「嘘よ!みんな騙されないで!トリックに決まってるわ!そんなの魔法な訳ないじゃない!」
本当にこのアソロって娘は……、俺は肩を竦める。
まあ、信じろって方が無理なのかもしれない。
なにせ今使った、チョットした水を出す魔法一つでも、精霊の契約を知らなければ、普通の魔術師が生涯をかけて研究しても解けないようなことなのだから。
この子達は気がついてないかもしれないが、俺が使ったような精霊魔法を一つ解明できるだけで、直ぐにでも宮廷魔術師になれるということに。
「言っただろ。信じるも信じないもお前達が自分自身で考えるんだ」
「さて、そうこうしている内に着いたようだ。外を見てみろ!」
今の今までコップに集中していて、皆は外をまったく見ていなかった。
飛行船の窓から外を見ると、そこには頬をツネリたくなるような夢の世界が広がっていた。
空に浮かぶ大地、そしてその中心部には、天にまで届くかと思う程の高い塔や建物。
白と言うよりプラチナの輝きを放つその巨大な都市。
「あれが古文書に書かれている、伝説の精霊都市アヴァロンだ」
空に浮かぶ大地の平原部分のところまで進んで、アンカーを打ちこみ、飛行船を固定すると、俺は扉を開けてタラップを下ろす。
「さあ、降りて降りて~」
タラップを降りると、さわやかな風が辺りに吹いている。
ここは標高2万フィート(約6km)。普通であれば呼吸も碌に出来ず、氷点下も-30度以下で生活圏には程遠いところ。
「お待ちしておりました」
いつの間に来ていたのか、背後には7人の人、いやエルフ達が立っていた。
「あれ?」「おい、もしかして」「まさか」
皆が口々に彼らを見てヒソヒソ話をしている。
「気がついたか?彼らは幻の民、エルフだ」
「うそ」「すごい」「本当にいたんだ」
「久しぶりですね。ミラーンさん」
先頭にいるエルフ、銀色の髪に、切れ長の緋色の瞳の絶世の美女に、俺は話しかける。
「ええ、本当に。事前に連絡をいただいたときには城の者達も皆喜んでいましたよ。特に王が」
「お世辞でもうれしいです。今日はお世話になります」
「はい、心行くまで御滞在ください」
俺は頷く。
ミラーンさんに飛行船に積んである例のものを頼み、俺は生徒に3班に分かれるように指示を出す。
用意された屋根のない豪華な馬車が3台だった為だ。
馬車を引いているのは真っ白なユニコーン。
「それじゃあ、エルフの皆さんはとても優しいから、礼儀正しくするように。
後、これから街へ行き、案内や誘導、説明等は各馬車に乗っている案内の人がしてくれるから、質問があればその人にするように」
「「「は~い」」」
皆がそれぞれ分かれて馬車に乗る。
目をキラキラと輝かせてるのは流石に子供だなと思う。
あ、俺も子供か。
「さて、俺はこの馬車だな」
当然の用にアソロ達の乗る馬車に、俺も乗る。
「なんでここなんですか」
アソロが不満そうにのたまうが、
「当然だろう。お前、バーンズ、アナベル、ミリア、メリッサ、ナルカ。よくも問題児ばかりがそろったもんだな」
「ガクッ、ひどいっすよ~先生~」
バーンズが肩を落としながらこける。
「冗談だ」
馬車は程なくして街に向かって出発した。
街が近づくにつれ、始めに驚かせるのが入り口の門。
凱旋門も裸足で逃げ出すほどの美しい装飾の施された、巨大な白い門を潜る。
街には数多くのエルフがいて、賑わっている。
街の上空には目に見える精霊たちの群れが行きかい、その間をエルフを乗せて運ぶシルフ達や、荷物を絨毯に載せて運ぶ交通網が敷かれている。
街の至るところに、光る水晶のようなものが浮かび、くるくると回っている。
露天が立ち並ぶ通りにでる。そこでも、地上の街では見たことも無い店が立ち並ぶ。
珍しいものをいくつか挙げると、あるものは果物を冷やしながら空中に浮かぶ水のボールのようなものを回し、あるものはトウモロコシのいれたガラスのような坪の中に、火の精霊を入れて、ポップコーンのようなものを作って売っている。
こちらでは、炎の精霊が掌で銀の雫のようなものを溶かしたと思うと、横にいるシルフがそれに息をふきかける、すると糸のようなものが空中に舞い、店主が木の枝でまきつけて虹色の雲のおかしのようなものを作っている。
生徒達は瞬きや息をする間も惜しんで、街の様子を見、いろいろなことをエルフの案内人に質問している。
俺の横に座る生徒達も同じような状況だ。流石にこの時ばかりはアソロも皆と一緒にはしゃいでいる。可愛いものだ。
市場を過ぎて、次は工房見学に入る。
パン工場では火の精霊がパンを釜戸に入って自分で焼いている姿を見、お菓子工場ではフルーツの汁を凍らせてアイスをつくってる氷の精霊(水の精霊亜種)達も見た。
次に訪れた芸術の館では、歌を詠って壁や氷に美しい彫刻を彫っているエルフ達を見ることが出来た。
その後は、小高い丘の上にあるパルテノン神殿のような建物で、皆で昼食を取る。
百人は並んで座れそうな長く大きな大理石の机に、見たことも無い料理が所狭しと並び、次々と新しい料理がエルフの給仕達と空中に浮く皿に乗せられ、運ばれてくる。
でてくるものはどれも美しく飾られ、美味であった。
その後も壮大な建築物や、遥か塔の高みから街の風景を見たり、夢のような時間はあっという間に過ぎ、帰らねばならない時間になった。
流石に宿泊する予定ではない。あくまで課外授業の一環で、外泊許可は取っていない。
ここは、街を見下ろせる高さに設置された浮遊する空中庭園。
最後にここで休憩を取って帰る予定である。
「皆、どうだった?」
「もう何がなにやら」「これって夢じゃないんですよね?」「一生の思い出ってこんなことを言うんですね」
満足だったみたいだ。
「これが、魔法使いを目指すものが夢見る理想郷、だとは思わないか?」
一人を除いて、他の皆が一同に頷く。
「アソロは違うようだな」
「私は……」
彼女は何かを言おうとして押し黙る。
「皆もこの街を見ていて気がついたと思うが、ここでは魔法は当たり前のように日常生活に溶け込んでいる。
しかし、気がついたと思うが、彼らは魔力も使わず、ましてや呪文などと言うものは使っていない。
それに比べ、一度地上に降りれば、俺達の住む世界はどうだ?
魔法はある。しかしそれはこの街で見てきたものの、どれとも違う。
歪。そう感じないか?」
ここで、一呼吸於いて皆を見る。
「その歪み(ゆがみ)の正体を俺はこう感じている。地上における魔法はなんて血生臭いんだろうと……。
それは何故か?簡単だ。お前達が学園で習う魔法の殆どが戦争(戦闘)の為のものだからだ」
「学園に通い、魔法使いになろうとするお前達に、こんな話をするのは、その学園の教職者としてどうかと思うのだが。
魔法学園は表向きは国の人々の為になる魔法使いを育てる、とは言ってるが、実際は効率良く人を殺すための魔法を習得させる軍事施設の役割が主だ。
その証拠に戦争となれば、学生であろうと真っ先にお前達は戦線に投入されるように学園と国の取り決めがある」
ざわつく生徒達。
「そんなことは解っています。私達は将来、国に仕官する為に頑張っているんですから。
戦争となれば当然、敵国と戦わなければなりません」
「そうだな、しかしお前達はよくても精霊達はどうだろう?」
「精霊達?」
「そうだ、ここに来るときも言ったように、俺達の使う魔法は精霊魔法だ。
魔法使いは自分の力で戦って人を殺しているんだと勘違いしてはいるが、本当は精霊達に命令して人殺しをさせているんだ。
自分達の手を汚さずに、人の命を奪う。
それが戦いにおける魔法使いの正体だ」
皆愕然となる。
それはそうだろう。
今までは自分の力で魔法を使っていると思っていた。
そこにあるのは魔法を使うことに対する責任は全て自己責任。
自分さえ納得すれば魔法を使って人を傷つけることもやむなし、と思っていたのに、実際は精霊という第三者に命令して他人を傷つけさせ、自分の手は一切汚していないというのだから。
「だから、それはあなたの想像でしょう!私達の使っている魔法が実は精霊魔法だなんて、そんな突拍子も無いことを言って、私達を迷わすのはやめてください!」
「皆、下がれ。アソロ、俺を炎の矢で攻撃してみろ」
アソロを除く皆が一歩下がる。
「そんなことをして、何が解るというんですか!?」
「いいから、何時ものように魔力を使って、呪文を唱えて魔法を使ってみろ。
魔法は「お前の力」なんだから、当然俺を炎の矢が射抜くはずだろう?」
アソロを挑発する。
「どうなっても知りませんよ?」
魔法を唱え始めるアソロ。
「我は全てのものを射抜き、我は全てのものを燃やし尽くす。煉獄の炎よ来たれ!
『ファイヤーアロー!!!』」
しかし、魔法は発動しなかった。
魔力も放出し、呪文も唱えた。なのに魔法はでなかったのだ。
「なんで……、なんで出ないのよ!!」
「言っただろ。魔法は精霊なくしては使えないんだ。
ここ(精霊都市)にいる精霊達は魔力なんて食べないんだよ(エーテルが満ちている為)。
ましてや、精霊は本来優しいんだ。人を傷つける命令なんて聞きたくないんだよ」
アソロは崩れ落ち、泣き始める。
「もう、それぐらいでいいんじゃないか?」
空中庭園に、聖なる気が満ちるのを感じる。
そこには、美しい装飾の施された衣装を纏った、威厳を持って佇む一人のエルフの男がいた。
「王……」
俺は跪く(かしずく)。
それを見ていた他の生徒も俺に倣う。
「人間の娘よ。立ちなさい」
「…………はい」
アソロは王の前でゆっくりと立ち上がる。
「我々エルフは、遥か昔に人間に魔法を教えた。それは知っているね?」
「はい」
「我々が魔法を君達人間に教えたのは、決して人と人とがいがみ合い、傷つけあうためではない。
人間達の生活が豊かになり、人々が笑って暮らせるようにと伝えたのだ。
だから、それが精霊魔法であろうと無かろうと、そんなことは些細なことだ。
君が正しいことに魔法を使う限り、魔法は君を裏切ることは決して無いだろう」
「……は……い」
アソロは頷く。その目に流れる涙は先程のような悔し涙ではなく、自分は正しい魔法使いでありたいと願う、そんな心の涙に見えた。
飛行船に皆が乗り込む。
俺は飛行船の前で、一人、最後に王と二人向き合っている。
「なんか、最後においしいところ持ってかれたな。エルナーク(王の名前)」
先程とはうって変わって口調が少しラフになっている。
「まあ、少しは花を持たせてもらってもいいだろう。
何せ人と会うのはお前以外では1000年ぶりだ。
それもあんなに大勢の人と会ったのは……もう思いだせんよ」
「じゃあ、また」
「ああ、次会えるのを心待ちにしているよ」
「フッ、俺じゃなくて、例のあれに、だろ?」
「そうだな」
王は微笑む。
俺は飛行船に乗り込み、タラップを上げて扉を閉める。
飛行船が飛び立つ。
「いつの日か、人間達と共に暮らせる日が来るのを心待ちにしているよ」
エルナーク王はそう呟くと、去っていく飛行船を何時までも見つめているのだった。




