戸惑い
「迎えが来たようだ」
連なった山の影から二十近くの大きな影が飛び立ち、こちらに向かってくる。
生徒達は窓に張り付いて、何が迎えに来るのだろうか、と見ていたが、それが何であるか気がつくと、驚愕の表情を浮かべる。
「せせせ、先生、ああ、あれ」「ドド、ドラゴン」「いっぱいいるね~」
そう、嵐の中に住むという伝説のストームドラゴンだ。
全身は金属のような皮膚で覆われ、鱗は無い。2枚の翼を持ち、四足歩行。角は1本で顔の前にナイフのように薄く細長く伸びている。体長は7mくらいと、ものすごく巨大というわけではない。
それが二十体近くはいるだろうか、飛行船よりは小さいが、攻撃されたならひとたまりもあるまい。
飛んできたストームドラゴン達は飛行船を取り囲むように滑空する。
何処にいても落ちれば同じなのに、心細いのか、皆が俺の側に寄ってくる。
「心配ない。あれは迎えだよ」
「先生。迎えってどこにいくんですか?」
緑の髪のナルカさんが聞いてくる。
「ん?さっきもいったが、あ・そ・こ」
竜巻を指指す。
「あの、先生?巨大な竜巻しかみえませんが?」
「そうだよ?これから竜巻に入るんだ」
「嘘だよね」「あれ死んじゃうよね」「お父さんお母さん」
皆が口々に叫ぶ中、アソロさんが前に出て叫ぶ。
「いいかげん冗談はやめてください!あんな処に突っ込んだら飛行船なんてバラバラになってしまうじゃないですか!引き返して下さい!」
俺は少し考えるようなポーズを取る。
「う~ん。と言われてもね。実はさっきから操縦なんてしてないんだよ。飛行船はもうとっくに風にひっばられていて、操縦不能なんだよね」
そう、飛行船はとっくの昔に竜巻の風に引き込まれてしまっていたのだ。
「どうするんですか!?」
「まあ見てろって」
竜巻に近づくにつれ、その大きさがはっきりと見えて来る。
でかい、兎に角でかい。
この大きな飛行船が小枝のように感じる。
もう誰もが、飛行船の周りにいるストームドラゴンのことなど忘れ、迫り来る巨大な黒い嵐の壁に目を奪われている。
その時、ストームドラゴン達が飛行船の向かう正面の竜巻に突進をかけ始める。
そして竜巻に触れる瞬間に翼を大きく丸めて、まるで円形の筒のような形で嵐に飛び込んだ。
ストームドラゴンが飛び込んだ後には、円形の風の穴がポッかりと開いていた。
次々と同じような場所に翼を大きく丸めて、飛び込んで行くストームドラゴン達。
最後には、竜巻に飛行船が楽に通れる程の巨大な穴が開いていた。
「突っ込むぞ!」
固まっていた生徒達は皆、転けないようにと床に寄り添って座る。
それほど大きな振動もなく、飛行船は分厚い嵐の壁を越えた。
竜巻の目(中心部)は、直径20k程もある穏やかな無風の空間だった。
飛行船はその中をゆっくりと上昇していく。
ストームドラゴン達は、挨拶をするかのように飛行船の周りをくるくると旋回した後、竜巻の中にバラバラに飛び去っていったのだった。
「さて、取り敢えず最大の山場は越えた訳だが、ここで皆に質問だ」
目的地まではしばらく時間がある。
後は上に上にと浮いて登っていくだけだから、気球と同じで操縦も必要ない。
俺は今からちょっとした授業をするつもりだ。
「アソロ、エルフとはなんだ?」
質問を受けたアソロは、先程までのことで嫌味を言うわけでもなく、真面目に考え始める。
「エルフですか?古代にいたとされる幻の種族ですよね。人間にいろいろな魔法を伝えたと言われています」
「そうだな。次はミリア!」
次は赤毛のミリアに質問だ。
「はっ、はい」
「魔法とはなんだ?」
大きな瞳をくりくりさせながら彼女は答える。
「えと、「魔力を使って世界に干渉し、呪文に応じた自然現象を起こすもの」でしょうか?」
「うん、教科書ではそうだな」
「?、まるで教科書が間違っているかのような言い方ですね?」
毎度アソロさんの突っ込みは厳しい口調だ。
「これから俺が話すことを皆には黙って聞いてほしい。
そして、この先でお前達が聞くもの、目にするもの、全てはお前達の教わってきた魔法の概念を真っ向から否定するものかも知れない。
信じるも良し。信じないも良し。
お前達自身が自分で考え、自分で判断してほしい」
俺は生徒達全員を、一人々真剣に見つめながら喋る。
「まず、この世界における魔法は全て精霊魔法である。皆も知っている通り、魔法には全部で四種類の分類に別れる」
俺の話を要約するとこうなる。
この世界の魔法は四大元素に基づく。
つまりは、地・水・火・風で構成されており、魔力を糧に精霊を使役し、呪文で命令を与えるというもので、物理法則を魔力で歪めているのではない、と言うこと。
そして、本来魔法は精霊と契約してから、協力の元に発動するもので、本当の意味での魔法には、魔力は必要ないということを伝えた。
皆は何を言ってるか解らないという顔をしている。
「まあ百聞は一見に如かずだな。バーンズ」
「はいっす先生」
俺は近くにあった鞄からコップを取り出す。
「このコップに水を出してみろ」
そんなの簡単とばかりにコップを受け取り、バーンズは呪文を唱えだす。
魔力が感じられ、呪文を唱え終わると、コップの少し上、何もない空中から水が生まれてコップを水で満たす。
俺は受け取り、飲み干す。
ちょうど喋り過ぎで喉が乾いてきたところだった。
「よし、じゃあ次はアソロ」
アソロに向かってコップを差し出す。
アソロは受け取ろうとするが、
「呪文を唱えずに出してみろ」
手を出してきた状態で、アソロの動きが止まる。
「無理です。呪文も無しに水が出せるわけ無いじゃないですか!」
「じゃあ魔力を使わずに、呪文だけ唱えて水は出せるか?」
「それも無理です」
「じゃあ魔力も使わず、呪文も無しに水が出せたら?それはなんだ?」
「ん~、トリック……ですか?」
「違う」
俺が手に持つコップに、皆が見ている前で、バーンズが使った魔法とまったく同じように水が注がれコップを満たす。
「魔法だ」
俺は魔力も使わず、呪文も詠唱せず水を出してみせた。




