愛しきものの死(中編)
【串刺し公】
昔、アンブロシウスに聞いたことがある。
攻め込まれた国の領主が、攻め込んだ帝国の王を暗殺しようとして失敗し、自国の城に攻め込まれた。
しかし入城した帝国の王が見たものは、殺された帝国兵の串刺しの林。
それを見て戦意を失った王は撤退するというお話しだ
後にその領主は「串刺し公」または「ドラキュラ公」として吸血鬼のモデルとなったそうだ。
『しかしこれは……』
皮肉な事に帝国の王、皇女、貴族その他無数の人々の串刺しの林とは……。
暗殺に成功し、なおかつそれでいてアスマンの領地から撤退しろと言う意思表示の現れであろうか。
アーネットは昔、セレトニーからマガダン皇族は吸血鬼の一族であると聞いたことがある。
これが全て考え抜かれて行なわれたことであるならば、このようなあてつけが出来るものは多くは無いだろう。
アンブロシウスから聞いた「串刺し公」の話とは、地球という星の昔のお話。
その星の知識を持つものでなければこのようなことは思いつかない。
それとも、これはまったくの偶然か……。
死体の中でも特に皇族の死体の損傷は激しく、誰がどの部分であるか判らぬほどにバラバラにされ、鉄の杭に串刺しにされている。
その中でセレトニーはティッツェ皇女の頭の部分を見つけ、柱より外して胸に抱く。
そうして膝を折って泣き崩れるセレトニー。
周りに人(兵)がいるというのに、自分の立場を忘れているとしか思えない。
人前で、皇族が泣き崩れるなどあってはならないこと。
しかしアーネットはそんなセレトニーの姿を見、咎めるでもなく、止めるでもなく、ただデジャヴを感じていた。
セレトニーの姿が昔の自分と重なり合う。
彼と違い、その胸に抱いたのは自分の手で殺めた自国の子供たち。
「殺された」「殺した」、「唯一の愛しき家族」「護ろうとした子供たち」優劣や比較などができるわけではない。
苦しみや悲しみの度合いは人それぞれなのだから……。
しかし、落ちていく場所は皆決まって同じ場所である。
何処までも沈む、深淵の底なし沼。
そこに捕らわれてしまえば、自らの力で抜け出すことは不可能。
蜘蛛の糸でもいい。
「藁をも掴む」と言う諺があるように、闇の中、何か一筋の光が差し込まれなければ脱出する事など出来なかった。
『私にとっての光とはアンブロシウスだった。セレトニーが私と同じように闇に捕らわれると決まったわけではない。しかし、もし捕らわれたならば。その時、闇から救い出してくれるものが彼にいれば良いのだが……』
それから三日。
セレトニーは言葉も無く、食事を取るでもなく、眠ることもなく、ただ妹の首を抱いたまま対策本部にある自室から出てこなかった。
彼が自分の責務を果たせないので、その間の指揮はエトランゼが代理で仕切っていた。
貴族たちの反感を買いそうなものであるが、彼女が陣頭指揮をとることは、マザーコンピュータ『フィアレンス』からの決定事項であった。
「よくできたお人形だ」とアーネットは思う。
アーネットの認識はアンブロシウスのそれとは違う。
多くの人々の認識に近いもの。
AIに自我(魂)があろうとも無かろうとも、人の手で創られた彼女は人に逆らうことができないようにプログラムを施されている。
『自我(魂)はあれど、縛られた存在』
それが人造人間であった。
アーネットにとって、そんなエトランゼは正しい意味での「自由な人間」ではない。
ただ、本当の意味で自由な人間などいるのかはアーネットには分からない。
「自由」というのは何者にも縛られないで生きるということ。
人は誰もが何かに縛られ、何かに操られて生きている。
「自由」であると思うことすら縛られているということを理解しないでいるものが多い。
何かを基準に自分が自由であると、何かを基準に人が自由であると、比べる基準が無ければ自由であるかどうかも分からない。
そして生と死、逃れられない運命に人は縛られて生きている。
それが人間である。
何かと比べ、誰かと共にでなければ人は生きられない。弱い生き物。
それ故、人は本当の意味での自由になど永遠になれない。
アーネットはそう思う。
ただ、それでいいと思う。
「人は「孤独」の中では生きられないものなのだから……」
それを忘れて生きていけるものがいるとすれば、それはもう人ではない。
それはただの「獣」か、それとも「神」であるのかもしれない……。
セレトニーが自室に引き篭もり、三日が経った。
流石にこれ以上彼を放って置くわけにも行ず、アーネットは兵を連れてセレトニーの部屋に押し入る。
彼と妹の亡骸を別にし、皇女の亡骸は王や貴族の遺体と共に安置室に収める事となった。
その時、セレトニーの抵抗があまりに激しく、仕方なくアーネットはセレトニーの意識を奪った。
ティッツェ皇女の亡骸は既に異臭を放ち、それを抱く異様な皇子の姿を目にした兵は、しばらく食物が喉を通らなかったと言う。
彼が悪いわけではない。
愛するものを失って悲しいという彼の気持ちは分からないわけではない。
しかしこのままでは兵の士気にも関わる。
家族を失ったのは彼だけではないのだ。
多くの兵の家族も、ここ帝都に住み、此度の事件で亡くなっている。
墜落した王宮がもたらした被害者の数は数万にも及んだ。
それから一週間が過ぎた。
アーネットは屋敷の自室で髪をすく。
今いる屋敷は少将アンブロシウスの屋敷。
アンブロシウスが消息不明である今、屋敷は未だ新たなる所有者を見出すことは無い。
伏せる前にセレトニーが権力にものを言わせて取りはからってくれていたおかげで、アーネットは維持管理と称してこの屋敷に住まうことができる。
都の外れにあるこの屋敷は、此度のことでの被害は無く、この夜アーネットは久しぶりに屋敷に帰り、しばしの休息を取っていた。
ただ残念ながら都市機能自体は依然麻痺しており、電力の供給がおぼつかないので明かりは独立したエーテル光の室内灯だけである。
シャワーでは湯も出ないので水浴びをした。
水源だけは一番に復旧されたので困らずにすんでいる。
常春の国ではあるが、流石に夜は冷える。
それでも汗を洗い流し、布団に入ることができるだけでもアーネットはましといえよう。
不意に玄関の呼び鈴が鳴る。
夜着であるアーネットは仕方なく上着を羽織り、片手に明かりを持って玄関に赴く。
『こんな夜分に一体誰だろう。アンブロシウスか、セーレか、それとも何か至急の報せか』
玄関に着いて気を探るが殺気は感じられない。
扉の鍵を外し、開くとそこにはセレトニーが立っていた。
コートを羽織り、うなだれている。
顔色が良くない。
背後を見渡せど護衛の兵の姿も見えない。
「護衛はどうした?まあ、ここでは何だから茶でも入れるので入れ」
十年来の付き合いであるアーネットは警戒心も薄く、今にも倒れそうな友人を家に誘い入れる。
応接間のソファーに座らせ、茶を入れてくる。
アーネットは魂の入れ替えで巨大なエネルギーを体内に持ち、またアリスと一つになった事で魔法を使いこなせるようになった。
必要最小限の火の精霊との契約だが、茶程度の湯を沸かすぐらいなら何とかなる。
戻るとセレトニーは未だコートも脱がず、身じろぎ一つしないでいた。
「で?本当にどうしたんだ?」
来たときよりセレトニーは黙したまま何も話さない。
おかげでアーネットは子供をあやすように話かけるばかりである。
テーブルに入れた茶を置き、自分も正面のソファーに腰を掛けようとする。
相手がセレトニーであり、殺気が無かった為に気を抜いていたのは間違いの無い事実。
アーネットは突然に腕を引っ張られ、絨毯の敷かれた床に仰向けに倒れる。
『白い天井。思ったより高いな』
一瞬だがアーネットはそんな事を考え、どうして自分がそんな事になっているのかをあらためて知る。
アーネットの上にセレトニーがまたがり、彼女の細い四肢は完全に彼に押さえ込まれていた。
―――――――――――――
その頃、ここはヴァートリムという惑星。
冥国マガダンでも人霊の地に近い、霊の民が多く住まう地。
霊の民はその殆どが獣人。
王族は狐の獣人の一族であった。
アリスと一体化したアーネットは猫の尻尾と耳を持つ。
その上何故か魔力を持つはずの地の民であるのに、彼女は霊の民と同じく霊力をその身に持つ。
彼女はIDの上ではここ、霊の民となっていた。
戦地よりはかなり遠く、静養地として重宝される温暖な気候の星。
マガダン帝国の第一王位継承者ノイエ・ド・バイモンが治める地であった。
緑生い茂る山々の頂上。
そこより見下ろす先には大きな都市と海が見える。
都市の屋根は朱色が多く、街全体が明るい雰囲気をかもし出している。
懐かしの石や木、赤レンガを使った中世ヨーロッパ風の建物が建ち並び、山の中腹には石造りの立派な城が見える。
そんな地に、今三つの影が舞い降りる。
長身の男と二人の少女。
男は白い髪をオールバックにし、黒の丸いサングラスを掛けている。
裾の長い詰襟のある黒い服に身を包み、それは一見すると軍服に見えないことも無い。
ただマガダンのものとはその形が違う。
二人の少女は色違いの裾の短いスカートにブレザー。
学生のようないでたちであった。
狼の耳の少女は赤を基調とし、竜の角の少女は青を基調とする服を身に着けている。
「無事着いたようだな。本当にお前達は来なくていいんだぞ?」
アンブロシウスはついて来た娘たちに、やんわりと「帰れ」と言葉の中に漂わせて聞いてみる。
「ダメだよ。私から離れたらパパの未来が観えなくなっちゃうよ?」
アンブロシウスの未来は白紙。
ノーラロールは自分と行動を共にしない父の未来は占えない。
メテオドスの戦地では自分と父の運命が交わった為に、ある程度父の動きを予想することが出来た。
自分と共にあれば少しばかり見難くとも、未来を予想できる。
そう、ノーラロールは父を説得する。
「それにパパって一人じゃ何も出来ないって母様が言ってたよ。だからわたしたちが着いて行かなくちゃね」
アビンクスが腰に手を当て、胸を張りながらおかしな事をのたまう。
「誰だ?そんな事をお前達に言った母さんって」
アンブロシウスは「心外な」と、誰が言ったのか娘達に問いただす。
「「皆」」
声を合わして応えてくれる。
ガックリと肩を落とすアンブロシウス。
「そっ、そうか……」
『おかしいぞ?俺ってそんなに頼りないのか?』
「そんな馬鹿な!?」と思いつつ、ようよう考えてみるとアンブロシウスは思い当ることがある。
『あれ?もしかして俺が一人で戦ったのって魔王に負けたときくらいか?あれ??』
アンブロシウスは悩む。
アンブロシウスは常にアリスと一緒にいた。
アリスとアーネットが一つになった後はアーネットがずっと側にいる。
『地球に一人で行った時も梓姉が側にいたし……本当に完全に一人で戦ったことってあったかな?いや、そりゃ雑魚相手に戦うときぐらいはあったが……根本的に俺ってソロ活動しないタイプ??』
アンブロシウスは言われてみて初めて自分の習慣となった行動に気が付き、少し驚きを隠せない。
「自分一人でも何でも出来る!」そう思い込んでいた。
しかしよく知った周りのものから言わせればそうではないのかも知れない。
「ちょっとビックリ。目から鱗だ……ふむふむ」
「パパ、早く行こうよ!」
娘二人に急かされ、アンブロシウスは今いる場所より山の中腹にある城に向かう。
アンブロシウスがシズクと話をしてから一週間近く何をしていたかというと、魔王の尖兵と戦っていた。
数日おきに星を壊滅するだけの力を持つ強力な魔物(自分にとっては雑魚だが)が天地の星に襲来し、アンブロシウスの手を煩わせる。
秘蔵の戦艦である神無をカインに預け、自分がいない間はそれで対処してもらうように手を打ったので、やっと自由になれたのだった。
カムイには常時数十機の魔導機兵が配備されている。
設計図を基にアンブロシウスが独自に造り上げたもので、完全なワンメイク仕様の個人所有物の機体だ。
強力な機体だが人を選ぶ。
しかし宇宙中から集められた孤児の中にはかなり特異な能力を持つ子供達もおり、惑星バビロンにはそういう子供達の能力を伸ばす機関もある。
カインやアベルならその子たちと機体を旨く使いこなし、星を守ってくれるだろう。
それにメープル皇女(通称 鬼姫)もいることが幸いした。
自分の領内の星を守るのだから彼女もわだかまり無く力を貸してくれると信じている。
そんな事をしている間にアンブロシウスは冥の星に赴く機を逃してしまっていた。
再度の襲撃を恐れ、厳重な結界の張られた帝都に直接赴くことができなくなっていたのだ。
無理に転移することはかなりのリスクが伴う。
行方不明で死んだと思われているアンブロシウス。
セレトニーの状態が芳しくない事をアーネットから聞き及んでいた。
そんな折に突然死んだと思われていたものが転移し、帝都に現れ、混乱している人々を更に混乱させるというわけにはいかない。
セレトニーや兵達の神経も今は極限状態である。
アンブロシウスはその身分を隠し、正規の方法で入国しなければならない。
今の現状で偽造IDを作り入国し、万が一ばれでもしたら大事である。
それに……「俺は目立つ」とアンブロシウスは自嘲する。
偽造のIDを作ろうと作るまいとばれないわけが無い。
という訳でここに来た目的なのだが、本国に向かうであろうノイエ皇子に事情を説明し、助力を得る為であった。
彼と共にであれば側近として身分を保障してもらえ、なおかつ面倒な入国手続きもしなくて済む。
そうして安全に帝都に入国できる(ハズ)。
顔は仮面でもして隠せばいい。
普通そんなものを身に着けて入国審査が通るわけも無いが、皇族の要人の側にいればそんなナリでもフリーパスで捕まる事はないだろう。
そうしてある程度の身分と発言力を確保できれば、これからのマガダン情勢に少しばかりの助言や助力もできるという訳だ。
これはノーラロールの占いに基づき考えられた作戦である。
アンブロシウス一人であれば少し躊躇したかもしれない無策にも近い行動。
会ったことの無い皇子と話をし、助力を請うなど、娘の「とんでも(ない)能力」を信じていなければ却下していたところだ。
「実際俺が帝国に来る前から領地に引き篭もっている人だからな。俺は会った事が無い。噂は色々あるが本当は一体どういう人物なのか……」
『おおいなる血族の継承者。
彼のものを訪ねよ。
そして血のルーツを悟れ。
そして救い、与えよ。
されば道は開かれん』
それがノーラロールの占いで出た結果。
「大いなる血族の継承者」とは皇族。
それも第一王位継承者のノイエが一番濃厚。
ノーラローラとアビンクス。
二人は竜神と獣人のハーフである。
特に竜神の血を引くノーラロールの魔力は人のそれを凌駕する。
魔人クラス。
そう言っても過言ではない。
彼女はアニーと違い、占いで観た場所にゲートを開くことができる。
アンブロシウス達はそこを通ってこの場所に出た。
ここに来たと言うことは、これが彼女の占いでいうところの正しい行動なのだろう。
『後は血のルーツを「悟れ」「救え」「与えよ」か。「探れ」じゃ無く「悟れ」か。救えとは何から救うのか、また与えるとは何を与えるのだろう……』
アンブロリウスは考えても答えが出ないので、途中で諦め、いくつかのパターンだけを心に留めておくだけにした。
城の門が見えてくる。
「さて、どうやってアポを取ったものか。突然「皇子に会わせろ!」とは言えんしな」
「まかせてパパ」
ノーラロールが胸を張って任せろという。
『これは楽でいい。何かを考え、作戦を練るというのはいつも俺の仕事だったが、今回はノーラ頼り。本当に役に立つ娘を持ってパパは幸せだ』
見ている前でノーラロールは自分の上着の袖とスカートの裾を破る。
薄い青色の下着がチラリと見える。
「ん??」
アビンクスも服の胸元を引っ張り、破く。
こちらはピンク色の下着が少し見えるが、娘たちの下着を見て喜ぶような趣味は無い。
彼女らは念話で打ち合わせでもしていたのか目配せをし、頷き合うと城の門に向かって走り出す。
「「キャー、たすけて~~~!」」
「あの男が!」「わたしたちを~~~」
そして門兵にすがりつく娘二人。
悲鳴をあげ、美しい美少女が二人助けを求めてくる。
見れば彼女達の後ろには真っ黒な長いコートを着た怪しげな男がいる。
城を護り、民を守る兵。
「普段鍛えたるこの体はこの時の為にあり!」とばかりに、彼は奮起した。
城中に鳴り響く警報。
あっという間に駆けつけた城兵の一団にアンブロシウスは取り囲まれてしまう。
「あ~~え~~~~~~~と。なにこれ!?」
「黙れ!この変質者め!」
「あの男が私たちに突然襲い掛かってきたんです!」
「黙って従わないなら殺すぞ!って脅されたんです!」
兵達の後ろに隠れ、涙を流し、アンブロシウスを指差しながら訴える娘たち。
『女優顔負けの迫真の演技ですな』
アンブロシウスは少しばかり別な方向で感心する。
「なんという不貞のやから!」「このような可憐な少女たちを襲うとは!」「うらやましい!」「言語道断だ!」「男の風上にも置けない!」
憤り、手に持つ武器を構える兵士達。
なにやら間におかしなセリフも混じっていたような気がするが、アンブロシウスはそんなことに突っ込みを入れている場合ではない。
後方でレーザー銃を構える兵。
前に出てアンブロシウスを囲む者たちは手に手に青白い電磁棒を持つ。
『五十人はいるか……。
ここで取る選択肢は三つ。
1.娘たちを置いて逃げる。
2.おとなしく捕まる(降参する)。
3.反撃する(暴れる)
さて、どれにするか……』
「3かな」
アンブロシウスは拳を開いて閉じてを繰り返し、指の屈伸運動をする。
「強化を使うまでも無い。田舎でなまっている兵たちに、少しばかり訓練をつけてやろう」
「何をカッコつけてるこの強姦魔が!」
とうとう変質者から強姦魔にランクアップしたようだ。
一人の兵がアンブロシウスに襲い掛かる。
それを皮切りに、電磁棒を持った他の兵もアンブロシウスに襲い掛かってくる。
「あまい!」
一人目の突き出して来た電磁棒を躱し、その腕を掴む。
彼の突進する勢いを殺さないようにその腕を進行方向に引きながら足を引っ掛けて転がす。
見事に一回転して地面に背中から叩きつけられる兵。
二人目に上段から電磁棒を振り下ろしてくる。
踏み込み、振り下ろす腕の中で背を向け、その腕が肩に触れるか触れないかで身体を沈ませて背負い投げ。
三人目と四人目。
背負い投げで背中を見せているアンブロシウスの背後からと、正面から、同時に電磁棒を突き出してくる。
アンブロシウスは背後を振り返りもせずに身体を半身にし、突き出して来る二人の腕を的確に掴み、身体を回転させ、二人の飛び込んでくる勢いに回転による力を加え、一人は背後で銃を構える兵達に向かって、もう一人は最初に転がした男に向かって左右に投げてやる。
五人目、六人目……以下略。
半数以上が投げ飛ばされ、深い傷を負うものは無いがクルクルとまるでお手玉のように手玉に取られる兵達。
飛び掛っては繰り返し投げ飛ばされる兵達は息も荒くなり、足を引き摺りはじめ、対するアンブロシウスは汗一つかかずに笑っている。
接近戦は不利と前衛の兵がとうとう下がり、後衛の兵が銃を構えて前に出る。
「撃て!」
一斉射撃の合図。
しかし……、
「そりゃダメだ。撃つタイミングを教えちゃ折角のレーザー銃の意味が無い。躱しちゃうじゃないか」
アンブロシウスに向かって幾筋もの光が延び、その体を貫く。
かに見えたが既にアンブロシウスの姿はそこには無く。
跳躍し、空中で体を捻り、銃を構える一人の兵の前に降り立つ。
銃を構えるその兵は目を見開く。
自分が手に持つレーザー銃。
その銃口の先に、今撃ち抜いたはずの男が立っていた。
重さは感じない。
仕事中銃はいつも持っている。相棒であり自分の分身。
その重量くらいは目をつぶっていても感覚で分かる。
自分の目と感覚を疑う。
長身の男は痩せているように見えても体重は七十キロは下るまい。
それなのに、自分が持つ銃の先に立つその男の重さをまったく感じないでいた。
「うああああああああああああ」
「化け物~~!?」彼はそう叫びたかったが、口から出たのは言葉にならない悲鳴であった。




