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愛する者の裏切り(後編)

 転移装置を使い、眼下の都市に移動する。

 王宮に設置されたそれはエーテル石を利用した固定型の転移装置で、自分の魔力を使わずに対となった装置へと移動できる。

 ただ残念な事にいまだ長距離の移動には使えない上、一般市民が利用できるようにはなっていない。

 装置自体の厳重な維持管理が必要な為、コストが馬鹿にならないのが理由だ。


 元王である俺や王妃、それに子供達が街中に行くと言うので当然にSPがついて来るというが断った。

 俺という存在はマガダン軍では行方不明扱い。

 アスマン軍にとっては敵。

 どこに目があるかも分からないので、極力目立つ可能性は捨てたかったからだ。

 こんな辺境惑星でそこまできにすることもないとは思うが、念には念をと思い、断った。


 もちろん建前だが。


 本音は家族の時間を無粋なやからに見られたり、邪魔されたりしたくないからだ。


 娘達に先導されて有名ブランドからカジュアルグッズまで取り揃えてある巨大なデパートのような場所に赴く。


 移動手段は転移装置のある豪華な建物を出てからは、普通にタクシーのような乗り物を停留所でチャーターしてから移動した。

 停留所には一つの丸いポストのような装置があり、そこで目的地と人数を入力するだけで金属の地面から半重力車が出てくる。

 それに乗るだけで目的地に無料で運んでくれると言う便利なものであった。


 そして都市部には天候管理ウェザーシステムもあり、近郊の生産地帯以外は雨が降らない。

 便利な世の中になったものである。


 本来であれば買い物に行くことも必要は無い。

 ネットにアクセスし、家(この場合王宮だが)から3Dホログラムで店の商品を全て確認、採寸し、購入すればその日の内に仕立てられた商品が配達される。

 出掛ける理由は身体を動かし、気分転換の理由以外はほぼない。


 未来世界では機械が全ての事を代理で行い、完全に自動化されているという訳ではない。

 人々が働く場所を持って仕事をするという事は国民の義務とされている。


 怠惰な生活は身を滅ぼす。


 肉体を一切動かさずに生活をするという事は極めて危険なことである。

 人類の全てがそんな生活を行なえば百年と経たずに滅亡するという裏づけられたデータの元に、目的と意思、そして最低限の生活を保障しながらも、それ以上の裕福な生活をする為と義務で人々は仕事をする。

 未来世界とはそういうものであった。


 といっても全ての星や都市がそうであるわけではない。


 たまたまこの星の、この都市がそういう設備を備え付けているだけであって、それれは全てアソロ財団のおかげ。

 ここ以外の星や地域の都市では、巨大な企業を抱えるような裕福な都市以外は宇宙船の離着陸の空港がある以外、昔ながらの生活をしている星が殆どである。

 富裕層の住まう都市。

 そういう人間がアスマンやマガダンでいうところの王侯貴族たちであり、戦争がなくならない理由の一つは彼らの身体を動かす上での趣味、そして貴族のステータスの一部であることも起因するのかもしれない。


 地下を含めて四百階になる大きな建物に着き、そこで降りる。

 娘達に促されて建物の中を上下左右しながら買い物をする。

 上下は高速エレベータを利用、左右は移動する地面での移動と、歩くことは少ないが、思ったよりも人の数が多く、正直三時間もすれば俺は疲労を感じ始めた。


 百時間労働でも疲れ知らずで動ける肉体のはずなのに、この程度で根を上げるのか?と自分でも不思議だったが、娘たちのパワフルなエネルギーと妻のブネへの気遣いでかなり俺はバテていた。


 今いる場所は空が見えるドーム状になったショッピングモール部分。

 そこにあるゲームショップの前に俺はいる。


 流石に娘たちのするゲームまで俺が選ぶわけにはいかないので、そこは娘たちに任せて俺は店の前の浮かぶベンチに腰を掛ける。

 買い物した荷物は、同じく浮かぶカゴにうずたかく積まれ、俺の横で三台程浮かんで一緒に待機中だ。


 ブネはというとゴスロリファッションに似合う黒いフリル付きの日傘をさし、側にある別の店の商品を眺め、時折ドーム状の天窓から空を見て、溜め息をついている。

 思惑通りというか、俺の努力のかいもあってか、彼女は不気味なくらい娘たちと打ち解け、楽しく会話を交して買い物をしていた。

 女性用品の買い物に、参加できない俺を気遣って娘たちと一緒に意見を交しながら買い物をしてくれるほどにだ。


 彼女もゲームはするが、今は欲しいものがないからと俺とここにいると言って娘達に着いて店には入らなかった。

 俺が見ている側から再び溜め息をつく彼女。

 魔人である彼女も少し疲労を感じているのだろうか?

 それとも何か悩み事でもあるのか?


 そう考えながら彼女を見つめていると、彼女は俺の視線に気がついたらしく、近付いてきて俺の座るベンチの横に腰掛ける。


「どうした?疲れたか?」

 彼女は頭を振る。

「……そうではないのよ……」

 彼女はそう言いながらうつむく。


「ブネの話を聞いてくれる?」

 真剣な眼差しで俺を見つめるブネ。


「こんな場所でいいのか?なんなら場所を変えるか?」

「……いえ、ここでいいわ。もう時間も無いから」

 時間が無いとはどういうことなのだろう。

 俺は彼女の話を黙って聞くことにした。


はね。昔、アスマンに反抗するレジスタンスの一員だったの……」

 彼女の口から話された過去、それはこんな場所で聞くには余りにも衝撃的な話であった。


【クーデリカ・ド・バイモン】

 それが彼女の本名だった。

 バイモン家といえばマガダンの皇族のこと。

 彼女は遥か昔、マガダンの皇女だったという。


 アスマンの初代王ジェーダス=クリストファー=ドルイドⅠ世(現在の歴史書にその名は記されていない)。


 彼の起した戦争は、かつて宇宙に複数存在した国家の幾つもを滅ぼし、その魔の手はマガダンにも及んだ。

 当時のクーデリカ(ブネ)は本国より外れた惑星に避難していたが、彼女の逃げた惑星にもアスマン軍が襲来し、瞬く間に彼女は捕まることとなった。

 そんな時に彼女を助けたのが当時戦争に反対するレジスタンスの長、ディアブロ(現在の魔王。彼の本名ではないが当時もそう名乗っていた)だったという。

 そして彼女は彼に助けられたことにより、行動を共にする事になる。

 セーレやアニーもその当時からの仲間だった。

 ただ、彼女らはディアブロと同じく天の民(翼人)であり、自分だけはマガダン王族の不死の一族(ノスフェラトゥ)だった。


 ちなみに余りの残虐な行為が目立つジェーダス王は一代限りでその座を追われ、歴史の闇に消える。

 現在の鬼族の祖がマガダンの王となり、歴史に語られることとなった。

 鬼族たるニーニョ家がアスマンを継いだその時、戦乱は既にアスマンとマガダンという二つの勢力に分かれて長く続いており、内紛で王族交代があったとはいえ、元々血の気の多い力を持った鬼族が王族となった為に、結局戦争は終わらなかったのだと言う。


「ノスフェラトゥ?」

 彼女はロールパンのような形の青く長い髪を手で後ろに流す。

 貴族みたいな髪形だと思ったが、皇族とは……。

 その長い髪の下には尖った長い耳が見えた。


「ええ、マガダンの王族はもともと吸血鬼の一族。アスマンの鬼族とはまあ、親戚のようなものだったの。今は血も薄れて怪我の治りが早いとか、力が強いとか、耳に特徴があるくらいで吸血鬼でもなんでもないみたいだけれど……」


「ちょっと待てよ?悪魔にされて転生したんだよな?吸血鬼で悪魔?」 

 俺は不思議におもい、聞いてみる。


「私は悪魔になってなんかいないわ。悪魔や魔人となったディアブロたちとずっと共にいるだけ……。私は不死の吸血鬼なのだから」

 今世紀最大のショックが俺を襲う。


「まてまてまてまて、俺の嫁は吸血鬼??奥様は魔女(悪魔)ではなく?」


「そうよ、光栄に思いなさい。あなたはマガダンの皇族であり、吸血鬼である私を妻にしたのだから」


「なにこのビックリ萌える展開!」


「萌えるの?」


「たぶん一部の読者層が萌えるかな?」


「疑問子形なのね」


『ゴスロリで吸血鬼の美少女皇女。かなり萌えますけど周りが魔人やら翼人、エルフに人魚に竜神にネコ娘にctc。俺の奥さんって種族に富みすぎててある意味インフレ、ん?デフレ?だからな~』


「じゃあその日傘もファッションじゃなくて?」


「違うわ。これはただのお気に入り。吸血鬼の真祖である私は太陽如きで灰になったりしないわよ」


「ああ、そうなのね……ちょっとまてよ。俺さっきお前に噛まれたぞ!?もしかして俺も吸血鬼に!?」


「確かに美味しかったけど、あなたは噛んでも直ぐに元に戻るでしょうに……」


 そう言えばそうでした。

 吸血鬼になるって確かDNAから変換する細菌ウィルスに犯されるからと聞いたことがある。

 病気にもかからないから吸血鬼にもなることは無いか。


「それに血だって吸わなくても生きていけるしね。普通に食事でエネルギーはまかなえるし」


「なんか吸血鬼のイメージと違うね?」


「そうでもないわよ?私の魔王軍での呼び名は【死霊使い(ネクロマンサー)】。死体なんか操っても可愛いくないから人形を使っているだけで、本来の私の力はノスフェラトゥらしくアンデッドを配下にして操る能力なのよ」


「ふ~ん」


「ムッ!反応悪っ!もうちょっと驚いてよね!」


「ああ、いや元々夜中に勝手に動き出して笑う人形もゾンビも同じホラー系かなってね」


「うっ、まあ確かに似たようなものかもしれないけど、と話がそれたわね」

 彼女は立ち上がる。


「ここからの話が本題かな。そんな私の役目はね、監視なの」


「監視?」


「そう、セーレたち転生した悪魔であり、人間である彼女達魔人の監視。私は不変の存在。生まれ変わってしまった彼女達と違い、古来よりずっと魔王のお側に仕えしもの。私以上の適任者はいないわね」


「俺と結婚したのもその為か?」


「……最初はね、そうだったの。魔王様以外にこの身体を好きにさせるなんて抵抗があったのだけれど……。最近はまあ悪くないかなって思う。結婚なんて初めてだったしね……」

 彼女の声は後半少し小さくなって聞き取りにくかった。


「……だからお願い。逃げてくれない?」


「逃げる?」


「ええ、今すぐにあの子たちや皆を連れて逃げて欲しいの」


 彼女の言う皆と言うのは自分を覗く俺の家族をさしているのだと理解する。

 しかし……。

「それは無理だな」


「何故!?」

 彼女が大きな声を上げる。


 流石にそれでは衆目を集め、周りを行きかう人の何人かは何があったのかと様子を覗うようにこちらを見つめている。


「君が監視者だというのは分かった。一体何から逃げるかは言わないが、それからすれば容易に想像がつく」

「それならっ!?」


「それでも俺は元、とはいえこの星の王だからな。身内だけを連れて逃げるなんて出来ない。逃げるなら全員連れてだな」


「あなたって人は……もう時間が無いのよ!今直ぐにだって魔王がここに現れるかもしれない!私はこの星の位置を伝えてしまったわ!買い物なんかしていたこの三時間が奇跡のようなもの!宇宙は途轍もなく広いけど、場所がわかってしまっては転移して直ぐにでも来るわよ!」


「ん~実を言うともう既に来ているんだが……」

「えっ!?」


 俺は天を指差す。


「言ったことなかったっけ?この星に浮かぶアルテミスのこと。あれ、アーネットの分身なんだけど、この星の防衛システムでもあるんだよね」


 そう、魔王の尖兵というのだろうか、人型巨人クラスの化け物が既にこの星の宙域近くに転移し、この星に下りようとしていると、アーネットが念話で俺に報せてきた。

 ただ俺たちが買い物に出掛ける時であったので、邪魔をされたくなかったので後回しにしていたのだ。

 敵は俺→アーネット→アルテミスと経由して、俺の魔法により大気圏外で既に拘束して放置してある。

 買い物が終わったら処理しようと思っていたところだ。

 それを彼女に説明する。


「この星が永遠に魔王に見つからず、絶対に安全なんて思ってなんかいなかったよ。君が報せようと報せまいと、いつか奴はここを探し当てたさ。それが少し早くなっただけのことだ」


「そう……なの……。でも魔王がくればそんなに悠長にしていられるのかしら?」


「ああ、それは無理だろうね。ただ、その時はこちらも遠慮なく全力でいかせてもらうさ」


 俺が不敵に笑う。

 それを見てブネは肩をすくめる。


「それで?」


「それで、とは?」


「私の事をどうするの?」


「どうもしないよ?」


「私は裏切り者なのよ?あなたも、この星の人々も全て裏切ったのよ?それを許すと言うの?」


「許すも許さないも無いさ。お前は俺の妻だ。お前が俺の事をどう思うおうと、俺はお前を愛している。 この程度のこと、目くじらを立てるほどでもないさ」


「この程度って……。私は魔王軍の将であり、魔王様に忠誠を誓っている!それでもお前は私を愛すると言うの!」


 俺は椅子から立ち上がり、ブネの前に立つ。

「当たり前だ。忠誠と愛は別物。俺がお前に求めているのは忠誠ではない。今はもし俺の事を愛していないというのなら、いつか俺を愛してくれたらいい。もし愛せないならそれでもいい。それでも俺はお前を愛しているよ、ブネ」

 俺はブネにキスをする。


 周りの人々の全てが足を止め、俺達を見ているのが分かる。

 しかし気にしない。

 見ている若い女性達から黄色い声が聞こえるも気にしない。

 まあ明らかに頭二つ程違う美少女とのキス。

 端から見たらある意味犯罪者かな?


 抵抗もせずにキスを受け入れ、離れた後も彼女は不思議そうな顔で俺を見つめる。


「あなたって本当に……馬鹿ね。裏切り者を愛し続けられるの?また、裏切るわよ」


「馬鹿なんて言われるのは久しぶりだな……。な~に、女の裏切りは薔薇の棘と一緒だ。気にすることは無い」


 彼女は俺を見て微笑み、そして……俺の腕に噛み付いた。

「イタタタタ何するんだよ!?」


 彼女は俺の腕から離れ、後ろを向く。


「このプレイボーイ!いったいむこう(マガダン)で何人の女をその手で落とした!皇女であるこの私を差し置いて他の女に手を出しまくるなんて、不敬罪もいいとこよ!反省しなさい!」

 それを言われると俺は笑うしかない。


 娘たちが外の騒ぎを聞きつけ、店から飛び出してくる。

 それでもちゃっかりと欲しいゲームを買った袋を持っているのは流石我が娘たちである。


「どうしたの?パパ」「何かあったの?」


「ハハ、チョットね。パパが悪いんだよ。ママを怒らせてしまった」


「可愛い女の子でもいたの?」

「パパって節操が無いから、義母ママがいるのに口説いたりしたの?」


「お~い!?娘にまで言われたらパパも侵害だよ!」


「だって「「ね~」」

「ママ達がいつもそう話してるし」


「え~と、どのママ?ミーナママ?それともエターニャかな?」


「「みんな」」


『皆ですか……如何な子供に何てこと吹き込んでるんだあいつらは!いや、悪いのは俺か。ちょっと自重しよう……』

 しかしつい先程この星を襲う未曾有の大惨事を未然に防いだだと言うのに、俺はその場で正座させられ、娘二人とブネに小一時間ほど説教された。

 その後三人で遅めの昼食を取る。

 もし、アビンクスのお腹が鳴らなければ彼女らの説教はもっと長引いたかもしれなかった。

 娘の腹の虫が唯一俺の味方であった。

 

 その日の夜。

 俺はベッドで横になり、ブネをその腕の中で抱く。


 大気圏外の雑魚は既にアマテラスで処理済だ。

 あの大爆発のおり、俺はアベルとメープル王女の乗る旗艦の艦橋部分だけはなんとかアマテラスで護り抜いた。

 おかげでアマテラスはボロボロの状態。腕も吹き飛び、何処かにいってしまった。

 仕方が無いので個人戦艦の神無カムイで修理。

 ついでに一本無くなってしまった腕を改造して四本にしといてあげた。

 操縦する時二本の腕は俺が操作し、残り二本はアマテラスが自分で勝手に動かせるようにしている。

 これでもし戦闘中に一本無くなっても戦いに支障はあるまい。

 アマテラスは始め戸惑っているようであったが、最後は気に入ったようであった。

 今では器用に四本の腕を使い、編み物までしている(誰に送るのやら……)。


「ねえ、あなた……。ブネのこと本当に愛している?」

 彼女は俺の腕の中で潤んだ瞳で見つめ、そう俺に問いかける。


「ああ、愛しているよ、ブネ」


「ブネもアンブロシウスのことを愛してる。の忠誠は魔王のもの……だけどブネの愛はあなただけのものよ」


 その夜、俺達二人は激しく愛し合い、気がつけば朝だった。

 ブネは俺の腕を枕に幸せそうに寝息を立てている。

 俺はそんな彼女の額にキスをする。


 そして、唐突にあることを思い出す。

「アベルのこと忘れてた……。まあいいか」

『頑張れ!我が息子』

 そう心の中で応援しつつ、俺は眠りにつく。

 それが後に二人の息子の間に大きな確執を生み、骨肉の争いとなる事など俺は予想していなかった。


 俺が目を覚ますとブネの姿は何処にも無かった。

 王宮どころかこの星にすらいない。

 彼女は魔王の元に帰ったのかもしれない。

 

 そして、

【帝都崩壊】

 その報せが全宇宙を駆け巡る。

 それにより、アスマンとマガダンの争いは前よりも激しさを増すことになる。

次回「愛しき者の死」です。


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