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いざない

「アマテラス、出る!」

 格納庫の扉が開き、全面に星々の煌く宇宙が見える。

「そういえばアマテラスでの宇宙戦闘は初めてだったな」

 大型戦闘機用のカタパルトに乗り、アマテラスが宇宙に射出される。

 その加速の中アマテラスの黒いマントが硬質化し、背中で円を形作かたちづくる。

 蝙蝠の羽を丸くしたような形になったマントの円の中心部分。そこに緑色のプラズマが発生し、アマテラスは凄まじい速度で宇宙を飛翔し始める。

 アマテラスのマントは伸縮自在であり、近くにある「意識したもの」を包み込む力を持つ。

 その力で宇宙に漂うエーテルのみを包み込み、それを吸収する。

 巨人最大の能力は増幅装置であること。

 宇宙に漂うエネルギー、「エーテル」をアマテラスを通してアンブロシウスの体に一旦取り込。

 そして数千倍に増幅してマントから再びエネルギー波として放出し、推進力としていた。

 魔法陣を足元に展開させての飛行が宇宙で出来ないことはない。

 しかし速度不足。

 戦艦は最速航行ならその速度は秒速二五万キロメートル。

 高速に近い速さで進む。

 地球の赤道直径が約一万二千キロから察するにどれほどの速さか分かるだろうか。

 今はジリジリと敵との距離を詰めているところなので平均速度は秒速五万キロメートル程度。

 それでも一秒で地球約四個分ほどを進んでいる。

 魔導騎兵が宇宙で活動できないエネルギー問題。

 その推進力のエネルギー確保がどれほど難しいか分かるだろうか。

 そしてその速度で動く戦艦に追いついて、強力なバリアを突き抜けるほどの大出力のレーザー攻撃をしなければならないのだ。

 人の十倍程度の大きさの機械兵にはそんな膨大なエネルギーを搭載することなどできない。

 それだけのエネルギー炉やエンジンを積もうと思えば結局その大きさを戦艦クラスまで大きくせざるを得ない。

 ならコスト面からいっても戦艦を作ると言うわけだ。

 

 戦艦「朝盛」から射出されたアマテラスは戦艦の速度を上回るスピードで加速する。

 艦隊よりも先に敵と接触し、戦う為の時間が欲しかった。

 もの凄く早いと思われるかもしれないが、これでも宇宙の尺度からすれば遅いほうである。

 銀河は途方もなく大きい。

 光速(秒速三十万キロ)のスピードでも端から端まで行くのに十万年ほどかかる。

 アスマンとマガダン、この二つの勢力争いは銀河の三分の一ほどを巻き込んでの戦争である。

 そんな戦争の最中に宇宙を単機で高速も出せずに飛んでいても何の意味もなかった。

 そもそもこの戦争も、ワープ航法が開発されていなければとてもではないが成立するものではない。


 白い彗星になったアマテラスが疾駆する。

 アマテラスは飛翔しながら亜空間に手を入れて巨大なビームライフルを取り出す。

 ライフル自体のエネルギー源はエーテル。

 推進力にだけでなく、直接このレーザーライフルに供給して使用できる。

 よって弾はほぼ無限と言えた。

 まあ銃自体の熱量耐久性がどれ程連続使用に耐え得るかは怪しいものなのだが。

 ティターンは強大なエネルギーシールドで護られている戦艦ではない。

 この銃であれば一撃当ればほぼ無力化できる。

 バスターランチャーと呼んだ方がいい程のそれを構え、アンブロシウスは大きく息を吸い込み、操縦桿に手を置く。

「アンブロシウス押して参る!!」

 まだ戦闘空域には達していない。

 しかしアンブロシウスは脳内シナプス全開で予測ポイントに撃ちまくる。

 レーザーは光速。現在のアマテラスの速度の三倍以上の速さで敵に到達する。

 敵との距離はまだあるものの、相対速度的にはお互いが接触するまでそれ程の時間は無かった。


「馬鹿な!?何故たった一機を落とせない!そして何故躱せない!」

 はるか前方の宙域、戦場となった場所をモニターで見つめ、天王国第二王女メープルが怒りの声を上げる。

 此度の防衛線の為にこの宙域に配置された艦隊を預かるメープル。

 彼女は新たに導入された新兵器ともいえる高軌道型の神兵ティターンが、あっさりと敵の白い魔導機兵一機に迎撃されていくさまを目にする。

 アベルはそんな王女を見つめながら黙する。

 自分の目に見える先の出来事はティターンが撤退をする未来。

 数分しか先が見えないのでその先の本当の防衛線はどうなるかはまだ分からない。

 しかし目の前で行なわれる戦闘の結果は見える。

 しかしそれを口にすれば王女の怒りは収まらず、単身でも進軍を開始してしまうことを恐れ、その結果を口に出せないでいた。


 撃破され続け、陣形すらも保てなくなる敵の神機兵ティターン。

 高速移動状態ではお互いに戦闘にはならない。

 マッハなど及びもしないスピードで移動していては敵に攻撃をするどころではない。

 宇宙で基本的に戦闘機等が出撃するのは大気圏突入時か防衛戦、それかこのように睨み合いでの戦闘時のみである。

 なので接触空域に入ってからはお互いに足を止め、小規模加速を繰り返しての戦闘となる。

 ここでアンブロシウスは大きな間違いに気がつくべきであった。

 そもそも高速移動する戦艦に神兵が単身で迎撃しに来る事など、ほぼ不可能である事に……。

 相対速度で近付けば擦れ違う瞬間など正しく光速での擦れ違い。

 気がついた時にはお互いがすでに戦闘にもならないほど離れてしまう。

 アンブロシウス自身なら予測地点で反転し、並走移動に入って速度を合わせる事により単機での敵艦の迎撃可能。

 自分自身なら出来てしまう。それ故の勘違い。

 何故なにゆえここにティターンが出撃し、アンブロシウスが単機迎撃戦をこの場で繰り広げているのか。

 それが一人の少女の手の平の上で踊らされていることなのだと気が着けないでいる。

 自分はおびき出されたのだと言う事に……。


 アンブロシウスは脳内シナプスを強化し、人ではありえない反応速度でアマテラスを操作、敵の攻撃を躱す。

 ロックオンシステムでは捉えられない動き。

 当然それはアマテラスにもいえるが、アンブロシウスはロックオンには頼らずに攻撃を繰り出す。

 敵の行動を見、予測ポイントを狙って手に持つランチャーを撃ちまくる。

 針の穴を通すほどの正確さを要する攻撃。

 次々と打ち抜かれ爆破していくティターン。

 アマテラスを無視し、背後の艦隊に向かおうとする者は一人残らず背後からの迎撃を受けている。

 一度足を止めてしまっては、最大加速に至るまでの僅かな隙を背後から打ち落とされてしまう。 

 それを打ち落とすアンブロシウスの腕前はもはや神の領域と言えるのだが……。

 この場での戦闘を強いられるティターン達。

 誰の目にもそう映る。

 撃墜された数は既に八十機を越えていた。

 後方でそれを見て進軍するマガダン軍は、エトランゼより連絡を受けたセレトニーの進言により、彼の戦闘の邪魔にならないように進行速度を少し緩め、さらに少し早めの前面シールド張っての移動をしている。

 神機兵ティターンの残骸の浮かぶ宙域にむけての進軍である。

 それまでの速度でシールドを張らずに漂流物に突っ込めば、たとえ戦艦の装甲と言えど被害が出る可能性もあったからだ。

 進軍しながらもマガダン軍兵全員がその光景に目を奪われていた。

 たった一機の、敵とは形状を事にする白い巨人。

 それが自軍がものだと分かってはいても到底信じられるものではなかった。

 敵の数はおよそ二百。

 艦隊戦であろうが人の戦う個人戦であろうが、一対二百では勝負にもならない。

 そういう常識が目の前で崩れていく。

 軍神と呼ばれるアンブロシウスという男。

 将軍にして智将と呼ばれるもの。

 軍師であり、秀でた剣術を持つ男。

 だがそれは彼の一面でしかない。

 彼の化け物じみた能力を目の当たりにした事があるのは前回のいくさの折、朝盛のブリッジクルー達だけであった。

 後は話に聞くのみ。

 しかし今回は全兵がモニターで見守る中でそれが行なわれていた。

「人間じゃない」「化け物だ」

 それを眺めるアスマンのもの達も同じ事を思っているの違いないであろう。

 目で捉えられぬほどの速度で宇宙を駆け巡り、一瞬の光の後に敵兵が消えていく。

 敵に対する同情心、哀れみ。

 そんな感傷すら彼らの中には起こりつつあった。


「やる~!流石我らが艦長、いや元艦長!」

 後方の風神首尾部隊の一員である駆逐艦「牙」。

 そのブリッジで副操舵士のヘンリーがモニターを見ながらはしゃぐ。

 アンブロシウスが親しみある「化け物」である事に何の疑問も持たない彼。

 そして長い付き合いである駆逐艦「牙」のクルー達。

 ヘンリーだけでなく他の面々も同じように少なからず興奮し、騒いでいた。

「おかしい」

 「牙」の艦長席に座りモニターを見ながらアーネットが呟く。

「どうしたんですか?」

 それを耳にした副官のテスタニアがアーネットに問いかける。

「敵の動きが少しおかしくないか?それにレーザーを有効に使わないのは何故だ……。これではまるでわざとやられているようだ……」

 モニターを見る。

 アマテラスは背後の推進力だけでなく手足の先に小さな魔法陣を展開し、それを踏み代替わりにして襲い来るレーザーを次々にかいくぐる。

 見て躱しているのではなく、来ることを予測しての回避。

 圧倒的スピード。

 アマテラスは魔法陣を蹴った力を利用してティターンに急接近し、空間から取り出した巨大な斧(魔槍斧ソドム)で敵機を両断する。

 アーネットは不安そうにしているがテスタニアには全然分からない。

 確かに光の速さのレーザーを躱すなど尋常ではない。

 それもロックセンサーの範囲内からであれば分かるが、数キロ先からの攻撃すらも躱すのは不自然には思える。

『わざと外している?何故??』

 しかし敵は足を止めての銃撃戦に持ち込まざるを得ない状況に追い込まれている。

 固定されたその戦場を凄まじいスピードで闊歩し、敵を撃破していくアンブロシウスの白い機体。

 わざとやられることに何の意味も見出せない。

「気のせいではないのですか?」

「そうであればいいが……」

 眉間に皺を寄せてアーネットは爪を噛み始めた。

『高々二百機相手。アンブロシウスであればもう既に片が着いていてもおかしくはない。しかしまるで目に見えない何かに操られるかのように足を引っ張られている』

 自分にはアンブロシウスから受け負った重大な任務がある。

 それを放り出してこの場を離れるわけにはいかない。

 それが出来るのであれば、とっくの昔に目の前のモニターに映る場所に自分も巨人ツクヨミに乗って駆けつけていた。

 そして彼女の予想は遠く離れたアンブロシウスの現状を的確に捉えていた。


『唄が聞こえる。幻聴だろうか……気持ち悪いものだな……』

 エーテルを吸収すると一言で言っても、それはアンブロシウスというフィルターを通して行なわれる。

 推進力だけでなく急加速に耐えるだけの連続しての身体強化、脳内強化。

 さらに魔法陣の連続展開とかなりの負担を強いられていた。

 そしてロックオンシステムなども使わない計算での予測連続射撃。

 自動誘導の実弾兵器に切り替えられれば少しは負担も減るのだろうが、弾速が遅すぎて宇宙では話しにならない。

 戦艦同士の戦闘時でも実弾兵器を使うのは防衛線などの完全に足を止めての戦闘時くらいのものだからだ。

 右に左にとGを受けながら、膨大な計算を一瞬で行ない続けなければならない。

 さすがに脳がオーバーヒートしてきて額を冷や汗が流れ落ち、冷静な判断力が鈍る。

「ええい!」

 とうとう怒りに任せた唸り声のようなものまで口に出始める。


 メープルとアベルのいる艦隊よりも後方。

 惑星メテオドスの衛星軌道上に一つの影が落ちる。

 駆逐艦サイズの巨大な十字架。

 十字架の形をしているがそれは別に十字架等ではなく、円柱を二本くっつけたような人口の飛行物。

 その表面には無数の機械の目、モノアイが光り、辺りの宙域をせわしなく睨みつけながら動く。

【魔神兵 フォトグリフ】

 そのなかで今二人の少女が無重力の宙に浮かび念話を交す。

『上手くいきそう?』

『ええ、予定通りよアビンクス』

【龍仙術 龍象棋ロンシャンチー

 無数のマス目の描かれた立方体の盤がノーラロールの前に浮かんでいる。

 その中には同じく無数の光の駒が配置され、彼女の指示通りに動いていく。

 その横でノーラロール寄り添うようにしてアビンクスは歌を唄い、彼女の指示通りに駒である魔獣を操る。

 彼女の操る魔獣が乗るはティターンの中。

 そこには彼女により召還された人の姿をした蟻のような魔獣が乗り、彼女の指示通りに機体を動かしていた。

 そう、ティターンに乗る全ての兵はアビンクスの作り出した魔獣たちであった。


 アンブロシウスのレーザーが初めて敵から外れる。

 たった一度のミス。

 アンブロシウスはここに来て初めてその予測に乱れを生じさせ、レーザーを空振りさせてしまう。

「今だ!!」

 それを見てメープルが声を上げる。

 ティターンによる反撃が始まる。

 誰もがそう予想した。

 しかしその予想は大きく外れる事になる。

 ティターン達はミスをし、動きを一瞬だけ止めたアンブロシウスの機体を前にして反転。

 退却を始める。

「何故だ!!お前の妹達は何を考えている!!」

 王女メープルはアベルを振り返り、声を荒げる。

 その怒りは当然のもの。

 しかし困惑しているのはアベルも同様。

 それに対する明確な答えは返せないでいる。

 妹達の行動はただ与えられた新兵器を無残にも破壊されただけにしか見えない。

 しかし……。

「メープル様。あのもの達は我が軍を不利にする為にあのようなことをしているのではありません。おそらく何か考えがあっての事です。もうしばしお待ちいただけないでしょうか?」

 見ている側から退却してきたティターン達が艦隊の前で整列する。

 その数僅か六十機にも満たない。

 彼女には敗残の徒にしか見えない。

 そして再びチィターン達が奇怪な行動に出る。

 敵艦隊方向に向けて手に持つレーザーを狙いもつけずに放つ。

 敵はまだレーザーでロック出来るこの宙域に来ているわけではない。

 当るかどうかもわからない予測撃ち。

 この砲撃ではもし当ったとしても既にバリヤーを前面展開している敵艦にダメージを与える事など不可能。

 アベルは頭を抱える。

「馬鹿が……。待てんな。ティターンを下がらせろ!戦闘準備!!」

「お待ちください」

 そんな時、突然目の前のモニターが切り替わり龍の角を生やした美しい少女の顔が映る。

「お前か、ノーラロール。どうするつもりだ、この失態。客分と言えど見逃せるものではないぞ!」

「これは失態などと否事いなことを。私共に与えられた任務は既に終わっております」

「終わっているだと?ただティターンをやられただけではないか!」

「私達に与えられた任務は「雷神」の破壊にございます。敵の作戦の中心にあるそれさえ破壊すれば良いとの事でしたが、違いますか?」

「確かにそうだが…お前はもう雷神は破壊したというのか?私の目にはこちらに無傷で近付いてくる雷神が見えるが、あれは幻か?」

 龍の少女は笑う。

「ではこれより今世紀最大のマジックをお見せいたしましょう。それを見届けますれば私達は与えられた任務を終えますのでこの宙域を離脱します。というか逃げます。さあ、どうぞごゆるくりとご覧あれ」

「バイバ~イ、アベル。ちみも早く逃げたほうがいいよ~」

 ノーラロールの後ろからモニター越しに手を振り、半分小馬鹿にしたような口調のセリフを吐くアビンクス。 

「おい!逃げるとはどういう事だ?雷神を破壊する魔術を見せるのであろう!?言ってることがバラバラではないか!」

 その問いには答えずノーラロールからの通信が切れ、モニターが再びもとの宙域を映し出す。

 巨大な雷神の勇姿が映る。

 かつては王国を守護するものであったが、今は大きく、威圧感を放つ魔物のように彼女は感じたのであった。


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