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石と悪魔と平凡な私 〜世界を越えてカタチを変えて少女は〈物語〉を届ける〜  作者: 銀天儀
第3章

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第72話 故障の真相

「そういえば、明日はいつもの小会議室とは違う場所だから気をつけてね」


 火曜日の夕方、学生食堂で鳥の唐揚げを食べていると、向かいのカレフィーネが思い出したように言った。


 私は口の中の熱い一切れを飲み込み、箸を止める。


「水曜の定例会だよね。外部の人と打ち合わせでもあるんだっけ?」

「それがねぇ、カーンバルト先輩が、あの投影機を持ってきてくれるんだよ。実際に映してみるから、部屋を暗くできる場所に変えたんだ」

「えっ、もう直ったの!」


 セルヴィンがディアネリス教授から借りてきた、透光図板式の投影機の事だ。故障しているので「ついでに修理も頼む」と、押し付けられたらしい。


 その話を聞いたのは、昨日だったはずだ。もう使えるようになったとは、随分と早い。


「うーん、詳しい事はわからないけど、試しに映すところまではできたんだって。まだ調べたい所があるみたいだけどねぇ」

「へぇ、それは楽しみだね!」


 講義では、小さな映写膜(フィルム)の画片(スライド)を使う映写機を時々見かける。けれど、紙ほどの大きさの透明な薄板を、そのまま映すところはまだ見た事がない。


 説明会で使えるかもしれないと話していた道具が、急に身近になった気がして、思わず笑みがこぼれた。


 画片を作るには、仕上げた原稿を写真工房へ持ち込み、映写膜へ焼き付けてもらわなければならない。時間も費用も掛かるし、一度作ってから絵や文字を直すのも大変だ。


 薄板に直接描いたものを映せるなら、その場で線を一本足すだけでも、見ている人に違いを伝えられる。絵で物語を表現する漫画の説明には、ぴったりだろう。


 カレフィーネは唐揚げを一つ口へ運び、ゆっくりと飲み込んでから、もう一つ予定を教えてくれた。


「あと、弁理士さんから連絡があってね。明日の昼には先用登録の申請が済む見込みだって。予定どおり済めば、商会の関係者以外にも、漫画の技法を見せて良くなるよ」

「じゃあ、タルシェリオ先輩にも?」

「うん。明日の定例会に来てもらって、絵を描いてもらう相談をする予定だよ」

「おお、説明会で見せる見本の話だね。じゃあ、先輩に技法を説明できるように、準備しておくよ」


 絵を描いてもらうには、まず、どんな絵が欲しいのかを私から伝えなければならない。


 エリの説明を聞きながら、何枚も紙を無駄にした時の事を思い出す。今度は私が教える側なのだから、同じように相手を困らせないようにしよう。


 ◇ ◇ ◇ 


 寮の部屋へ戻ると、鞄から説明資料の控えを取り出し、机に置いた。それから、賢者の石を耳当て式受話器(ヘッドホン)へ収め、頭にかける。左側の耳覆いの穴へ指を差し入れ、早速エリを呼び出した。


 資料に手を付ける前に、投影機の様子を確認しておこう。


 カレフィーネの話では、カーンバルトは彼女からのお(・)願(・)い(・)に、随分と張り切っていたらしい。工学系が得意だというのは聞いているけれど、良いところを見せようと、つい見栄を張ってはいないだろうか。


「エリ、セルヴィンが借りてきた投影機は、もう動くの?カーンバルト先輩が修理したって聞いたんだけど」

『カーンバルトは熔断栓(ヒューズ)を交換し、投影機能の動作を確認済み。ただし、熔断栓が切れた原因は継続調査中』

「そっか。動くようにはなったけど、修理が終わったわけじゃないんだね」


 カレフィーネが「試しに」と言っていたのは、そういう事か。映るのを確かめた後も、きちんと調べてくれているようだ。


「ちなみに、どうして熔断栓が切れたの?」

『交換した熔断栓は熱検知式。冷却送風機(ファン)の停止による過熱が原因。冷却送風機の回路が、人為的に切断されている』

「えっ、誰かがわざと壊したって事?」


 机に置いた資料へ伸ばしかけていた手が止まる。教授の持ち物に、誰かが細工をしたのだろうか。

 まさか、こんなところにも事件が潜んでいるのかと身構えたが、続く説明で拍子抜けしてしまった。


『冷却送風機の動作音を煩(わずら)わしく感じたディアネリスが、手段を問わず停止させるよう指示した結果』

「あー……教授が止めさせちゃったのか。うるさいからって、それは駄目でしょう……」


 音を止めたら、機械まで止まってしまったわけだ。しかも、それを学生に貸し出して、ついでに修理させるとは。


 肩の力が抜けて、椅子の背もたれへ体を預けた。


「でも、それなら送風機を動くようにすれば良いんだよね?」

『切断された回路を復旧し、冷却機能を確認すれば修理可能』


 特殊な部品を取り寄せなければ直らない、という故障ではなさそうだし、カーンバルトも原因にすぐ気づけるだろう。


 けれど、安心した途端に、異世界の物語でいう〈フラグ〉が頭をよぎった。


――カレフィーネに良いところを見せようと張り切って、分解し過ぎて元に戻せなくなるなんて……ないよね?


 想像したら、少し心配になってしまった。明日は映す前に、送風機もちゃんと直ったのか確認しておこう。


悪魔(エリ): 熱検知式の熔断栓は、高温により内部の線が溶けて絶縁状態となる電気部品。

悪魔の眷属(エーアイ): 温度が上がりすぎないように付けられた、安全装置ですね。

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