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石と悪魔と平凡な私 〜世界を越えてカタチを変えて少女は〈物語〉を届ける〜  作者: 銀天儀
第3章

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第56話 物語の楽しみ方

 〈4コマ漫画〉がどんなものか、ようやくわかったところで、ふと気がついた。


――あれ、でもこれをそのまま提案したら、私が考案した方法になっちゃうのでは?


 美術や意匠の知識もない私が、こんな表現手法を思いつくのは不自然だろう。どうやって考えたのかと聞かれても、答えようがない。


「エリ、この表現手法は、誰かが発明したものなの?権利とかどうなっているのかな?」

『〈4コマ漫画〉は自然発生的に発展した表現手法。特定人物に帰属する知財権発生の事実は皆無』


 自然に発展した手法なら、皇国にある表現を工夫したものとして紹介できないだろうか。それなら、賢者の石の存在を隠したまま提案できるかもしれない。


 私は素直にエリに尋ねてみた。


「これを新聞社に提案したいんだけど、私が考えたと思われても困るし、異世界から仕入れたとも言えないでしょう?うまく説明する方法はないかな?」

『継譚商会の提案として個人名を伏せる事は可能。ただし、商会として知識の入手経路を問われる可能性は残る。既存(きそん)の風刺画や挿絵(イラスト)から発展させた表現手法として提案する事を推奨』

「うーん、うまくごまかせるかな?……なんにしても、カレフィーネやルッシェリーナの手助けなしで実現できる気がしないよ」


 この話をすれば、また一歩、二人を賢者の石に近づける事になるだろう。


 それでも、〈漫画〉について知るほど、物語を広めるために使ってみたくなっていた。


――もう今更だし、どうやって知ったのかだけは伏せて、二人にはそのまま相談してみよう!


 ◇ ◇ ◇ 


 翌日の放課後、私はカレフィーネと一緒にルッシェリーナの部屋を訪れた。


 机の上に、昨夜書いた〈コマ割りネーム〉――図入りの脚本を広げる。二人がのぞき込むのを待って、縦に並んだ4つの枠を上から順に指差した。


「一枚の絵で場面を見せる風刺画を、こんな風に幾つか並べるの。絵の中に人物の台詞を書いて、順番に読めば短い物語になるんだよ」


 説明に使う呼び名も、皇国で意味の通じそうな言葉に直しておいた。〈漫画〉には同じ意味の帝国文字を当てて『漫画』、〈コマ〉は『画枠』、〈吹き出し〉は『台詞枠』。そして、〈コマ割りネーム〉は『画枠付き脚本』と名付けた。

 ちなみに、文章で楽しむ物語を指す『小説』という言葉は、こちらの世界にもある。統一帝国時代には普通に使われていたけれど、今ではすっかり廃(すた)れて、古語扱いだ。


「画枠の大きさや並べ方で大事な場面を目立たせたり、台詞枠の形で大声と心の声を描き分けたりもできるんだ。ただ、今回は新聞向けだから、読みやすいように同じ大きさの画枠を縦に4つ並べているの。『風渡りの行商人』の登場人物を使って、この漫画を描いてもらうのはどうかなって?」


 ルッシェリーナは紙面へ目を落としたまま、しばらく動かなかった。


「つまり、毎日の紙面へこの形式の作品を載せて、『風渡りの行商人』の登場人物を読者に覚えてもらう。それが今回の提案ですか?」

「うん。小さな枠でも短い物語を届けられるし、面白そうでしょう?漫画で登場人物を好きになってもらえたら、日曜版の物語も読んでみたくなると思うんだ」

「そうだねぇ。絵を追うだけでも楽しめそうだし、これなら女性や子どもにも物語へ興味を持ってもらえそうだよ」


 カレフィーネが紙面をのぞき込みながら笑う。その隣で、ルッシェリーナが小さく頷(うなず)いた。


「平日の新聞しか読まない方に知ってもらうだけでなく、文章よりも絵を好む方にも、同じ物語を楽しんでもらおうというわけですね」

「そう!日曜版を読んでいる人だって、好きな登場人物が漫画に出てきたら、読んでみたくなると思うんだ」


 二人に伝わったのが嬉しくて、つい、その先の夢まで口にしてしまう。


「いずれは『風渡りの行商人』を劇場で上演したいね!劇を見て好きになった人が、登場人物の気持ちをもっと知りたくて物語を読む。物語を読んだ人は、好きな場面が舞台でどう演じられるのか見に行くの」

「そっかぁ。同じお話でも、楽しみ方が違えば、両方見たくなるんだねぇ」

「うん!だからこの漫画も、日曜版を読んでねって呼びかけるだけじゃなくて、それだけで楽しめるものにしたいんだ」


 カレフィーネは楽しそうに頷き、ルッシェリーナはもう一度、4つの画枠を見比べた。


「確かに、面白い表現です。風刺画を描ける絵師ならば、この技法を使った作品も作れるでしょう」


 その言葉に、私は胸を撫(な)で下ろした。


「良かった。それなら、この表現手法を使いこなせる絵師さんを見つけて、『風渡りの行商人』の漫画を描いてもらいたいんだ。私は絵を描けないから」


 そこで一度、言葉を切った。話を進める前に、どうしても伝えておかなければならない事がある。私は二人の顔を見て、少し声を落とした。


「でもね、申し訳ないけど、この表現手法をどこで知ったのかは話せないんだ」


 ルッシェリーナが、ゆっくりと顔を上げる。


「あなたは、出所を明かせない新しい表現手法を絵師に習得させた上で、新聞社の日刊企画に採用させたいと?」

「うん!」


 無茶なお願いだという自覚はある。だからこそ、私は勢いで押し切るように明るく答えた。


 すると、ルッシェリーナはもう一度紙へ目を落とした。それから両肘を机につき、両手で頭を抱えたまま俯(うつむ)いてしまう。


――あれ?少し無茶振りしすぎたかな。ルッシェリーナが動かなくなっちゃった!


悪魔(エリ): 〈小説〉は、古代中国で、くだらない世間話を指した言葉が語源。立派な論説・学説を意味する〈大説〉と対になる呼び名。統一帝国にも同様の用語が存在。

悪魔の眷属(エーアイ): その説明、私がマスターに教えた話の受け売りですね。

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