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石と悪魔と平凡な私 〜世界を越えてカタチを変えて少女は〈物語〉を届ける〜  作者: 銀天儀
第2章

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第43話 銀行襲撃

 週明けの講義はいつも気分が乗らないものだが、今日は特に先生の話が頭へ入ってこなかった。


 襲撃の予定時刻は既に過ぎている。おそらく今頃、銀行では何かが起きている。



 今朝エリへ確認したところ、治安局は匿名電報を悪戯(いたずら)の可能性が高いと見ていた。それでも内容が具体的だったため、念のため、少数の私服局員を銀行へ送り込んでいるらしい。


 本格的な動員は見送られたが、銀行の警戒は私服局員が担い、周辺で異常が起きれば巡回中の局員が対応できるよう、その経路や交代時間は調整されていた。


 銀行側も、治安局員の受け入れや建物の点検には協力している。ただし、匿名の予告だけで休業するほどではないと判断し、営業は普段どおり続けていた。予告を知らされているのも一部の責任者だけで、一般の行員や客には何も伝えられていない。


――まあ、悪戯の電報が届くたびに銀行を閉めていたら、きりがないもんね。


 それに、警備が露骨に増えれば、本当に襲撃を計画している犯人達へ発覚を悟らせてしまう。少なくとも外から見た銀行には、普段と大きな違いがないようにしているらしい。



 自分にできる事はもうない。それでも時計ばかりが気になり、同じ行を何度読んでも先生の説明と結び付かなかった。


 その時、天井近くの拡声器から、低くうなるような警報音が鳴り響いた。


「ウゥゥゥー!ウゥゥゥー!ウゥゥゥー!」


 火災訓練で聞いたものと同じ音に、学生達が一斉に顔を上げる。警報が途切れると、わずかな雑音を伴った放送が流れ始めた。


「治安局より通達。学園付近において、武装集団による襲撃が発生しました。状況が確認できるまで、学園関係者は建物の内部にとどまってください。繰り返します――」


 一瞬の静寂の後、講義室が騒然となった。


 窓辺の学生達が外を見ようと身を乗り出し、先生が窓から離れるよう鋭い声で命じる。遠くからは緊急車両の警笛(サイレン)らしき音が聞こえてきた。


 私は机の下で両手を握り締める。


――お願い。誰も撃たれたりしていませんように。


 秘密を知っているのに、周りの学生と同じように不安そうな顔をする事しかできなかった。



 私がエリに状況を確認できたのは、カレフィーネが自分の部屋へ戻ってからだった。


 結局、講義は全て中止となった。しばらく待機した後、学生は寮ごとに集められ、事務員や教師に先導されて戻る事になった。自宅から通う学生は講堂へ移動し、保護者の迎えが来るまで待機している。


 寮での待機は夕方になっても解かれず、夕食には握り飯と漬物が届けられた。

 談話室で配られた食事を取りながらも、学生達は襲撃の話ばかりしていた。銀行が襲われた。都電が脱線した。何人も亡くなった。確かな知らせがないため、噂だけが膨らんでいく。


 不安になったカレフィーネは、夕食後もしばらく私の部屋に残っていた。


 カレフィーネの部屋の扉が閉まる音を確認して、私は耳当て式受話器(ヘッドホン)へ賢者の石を嵌(は)めた。


「エリ、今日の銀行襲撃がどうなったのか教えて。まず、怪我人は出ていない?」

『軽症者12名。入院が必要な重症者は0名』

「良かったぁ……」


 強張っていた肩から力が抜けた。


 詳しく尋ねると、怪我人の多くは犯人に突き飛ばされた客や行員だった。犯人を追跡中に車両事故を起こした治安局員もいたが、武器による攻撃を受けた者はいなかったらしい。


『犯人達は弩矢の不足を考慮し、極力武器を使用しなかった模様』


 旧式の手弩(ハンドボウガン)に合う弩矢の備蓄が少なく、犯人達は使用を控えたという。


「それで、犯人達は捕まったの?」

『犯人達は山林を走行可能な特殊装甲車で逃走に成功。犯人集団に逮捕者は皆無』

「えっ、1人も捕まっていないの?それに特殊装甲車って、そんなものまで持っていたんだ。エリ、どうして教えてくれなかったのかな?」

『犯人装備に対するミリアナの確認対象は武器のみ。装甲車は対象外』

「そうかもしれないけど!」


 思わず大きな声を出し、慌てて口を押さえる。


 悪魔へ腹を立てても仕方がない。エリは私が尋ねた事へ正確に答える。適切に質問しなければ期待した答えが返ってこない事は、何度も経験していた。


 それなのに私は、襲撃への対応は治安局へ任せれば良いと思い、通報に必要そうな情報を得たところで質問をやめた。


――でも、装甲車まで持っているなんて普通は思わないよ!


 胸の内で文句を言い、話を先へ進める。


「それで、犯人達は肝心のお金を奪えたの?」

『金庫内の現金奪取には失敗。窓口で行員が取り扱っていた現金のみを奪取。金額は犯人達の想定を大幅に下回る』

「少ないとはいえ、お金を持ったまま逃げられたんだ……。治安局も、警戒していたのに逃げられるなんて情けない。どんな状況だったの?」

『襲撃開始時、銀行前の都電線路が陥没。接近していた都電は異常を確認し、緊急停止』

「犯人達は、都電を脱線させる計画だったよね?」

『匿名電報により都電側も警戒し低速で運転。緊急停止により脱線を回避』


 電報で知らせた事が役に立ったのだ。もし都電が陥没した線路へ進入していれば、乗客にも大勢の怪我人が出ていたかもしれない。


『銀行正面では私服の治安局員が警戒を継続。線路陥没後、周辺を巡回していた制服の治安局員が、都電の乗客と住民の避難誘導に対応。その間に犯人集団が銀行裏手の非常口から侵入』

「えっ。非常口は警戒していなかったの?」

『該当箇所は通常封鎖され、外部から開放不能。銀行責任者による封鎖確認を受け、治安局は侵入経路から除外』

「それなら、どうやって入ったの?」

『銀行内部にいた協力者が、襲撃直前に封鎖を解除』

「ちょっと待って。内部協力者なんて聞いてないよ。犯人の組織は、みんな元兵士だって言ってなかったっけ?」


 また私の質問が足りなかったのだろう。そう思ったが、エリから返ってきた答えは想像とは違っていた。


『協力者は犯人組織とは無関係。子供を人質に取られた一般行員』


悪魔(エリ): 犯人達は多輪式装甲車を使用。舗装路の移動が速く、悪路の走破性に優れる。銃器がないので装甲は薄く比較的軽量。

悪魔の眷属(エーアイ): 作者は評価や本栞(ブックマーク)、共感(リアクション)に深く感謝しています。今後も応援をよろしくお願いします。

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