第04話
アリスとエステリーナ様についてのお話は、これくらいにしまして。
そろそろ、わたくしが二年生のときに起こした騒動の顛末をお話しましょう。
騒動の数日前、二年生になって最初の定期試験が行われました。
二年生になると一年生の時よりも試験科目が増え、内容も基礎的なものから応用的なもの、実践的なものへと移っていくのです。
そしてこの日、その試験結果が学内に掲示されました。
はぁ・・・。
成績が上がりませんわ。
試験前あれほど頑張ったのに、どうして・・・。
掲示物を確認したわたくしは、その結果に落胆しました。
学年全体で287人中117番。クラス内では30人中27番。
試験に臨むにあたり、今回こそはと試験前の勉強量を増やしたのですが、結果は振るわなかったのです。
ちなみに。
学年上位13番目までわたくしのクラスメートで占められており、エステリーナ様は学年10番。
そして一年生からずっと学年1番のアリスは、今回も1番でした。もはや笑うしかありません。
・・・いえ。この時のわたくしは、笑う余裕すら失っておりました。
教室に戻り、自席に着いたわたくしの脳裏に浮かんだのは、定期的に届く実家からの手紙のこと。
先日届いた手紙には、『お前は誰よりもできるはずだ』『家族みんなが期待している』『二年目こそは頑張るように』などの言葉が連ねられておりました。
それらを思い出した次の瞬間、湧き上がってたのは強迫観念に似た衝動。
手紙にあった言葉が、わたくしに繰り返し襲い掛かってくるような、そんな感覚。
怖い。
気持ち悪い。
その感覚から逃れる術を知らないわたくしは、机に肘を付いたまま頭を抱えて目を瞑り、時が過ぎるのを待つしかありませんでした。
「・・・様。・・・シュテフェニ様」
「えっ?」
わたくしの名を呼ぶ声に顔を上げ、目を開けると、アリスが心配そうな表情でわたくしを覗き込んでおります。
「シュテフェニ様。お身体の具合いが悪いのですか」
アリスのその言葉に、わたくしの一年間溜め込んでいた何かが弾けてしまった、そんな気がしました。
「・・・てくださる」
「え?」
「放っておいてくださるかしらっ!?」
わたくしは教室で声を荒げてしまいました。
貴族出身のわたくしに対して、アリスは平民出身。
アリスが絶対に歯向かえないとわかっていたから。強い立場を利用して、弱い立場の彼女に悪態をついたのです。
「え、シュテフェニ様、一体どうなされたのですか・・・」
「もう話し掛けないでっ!貴女にはわたくしの気持ちなんてわからないわっ!」
「シュテフェニ様、そのようなことは・・・」
「1番しか取ったことのない貴女に、わたくしのような平凡な者の気持ちなんてわかるわけがないのよ!」
「っ・・・!」
それは、きっとわたくしが、心の奥底に沈めておいた本音。
決して他人には聞かせたくなかった醜い思い。
言った。
言ってしまった。
そして気付きます。
知らぬ間にわたくしは席から立ち上がっておりました。そのわたくしに向けて、教室中の視線が集中していたのです。
己の振る舞いが貴族の令嬢としてどれほど横暴であったことか。どれほど卑怯であったことか。
我に返ったわたくしはそれらを自覚してしまい、羞恥心で居たたまれなくなりました。
この場から逃げ出したい。
その思いにわたくしは支配されてしまいます。
口元に当てた手が震えるアリスの横を早足で通り抜け、教室の出口から一目散に駆け出してしまうのでした。
わたくしが去った後の教室では・・・。
「アリス!何があったのですか!?」
狼狽えているアリスに真っ先に声を掛けたのは、わたくしとちょうど入れ違いで教室に入ってきたチュートリアル様。
入学当初からアリスの友人である彼女は、騒動の内容は分からないまでも、アリスに何かあったのだと察して心配そうに気遣います。
教室には気まずい空気が流れ、誰もが口を開かず、どこか落ち着かない様子。
そんな中、ガタッと音を立てて、勢いよく椅子から立ち上がった一人の女生徒。
誰あろう、エステリーナ様でした。
教室中の視線が一斉にエステリーナ様へと集まります。
彼女はぐるっと教室を見渡してから、自信たっぷりの表情で、アリスとクラスメートたちに向けて高らかに宣言するのです。
「わたくしに、まーかせなさいっ!」




