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どこかわからない行先

 首都圏の電車は相互乗入れが盛んなことから、日々乗る電車の行先が何県のどこにあるのか、さっぱりわからないという人は少なくないであろう。

 昭和53年10月改正当時、首都圏の相互乗入れは今ほどではなかったので、横須賀線上りの終着駅は東京で、津田沼など耳慣れない行先に惑うことはなかった。

 が、全国にはりめぐらされた路線のさまざまな目的地への直通列車が多数運行されていたので、行先の多様性で言えば、今とは比べようがない。


 東京駅東海道本線ホームからは静岡方面へ中距離電車が発車する。その中に何本か「浜松」ゆきがあった。これを「浜松町」ゆきと勘違いする人がいたかどうか。

 静岡方面で所在地がどこかわからない行先ナンバーワンは「島田」ゆきだろう。東京を19時44分に出て、静岡23時22分、用宗、焼津、藤枝と停車し、島田23時48分着。


 上野駅常磐線ホームからは「草野」ゆきだろうか。多くがせいぜい「平」までなのに、上野16時36分発は一駅先の「草野」まで足を伸ばす。

 上野16時4分発の急行「奥久慈3号」の「磐城石川」ゆきは、旧国名からなんとなくどっち方面かわかるものの、なかなかにユニークな行先だ。


 大阪駅東海道本線下りホーム。姫路から支線に入る直通列車がそこそこ運転されていた。今は播但線特急「はまかぜ」ぐらいしかないが、当時は姫新線経由で中国山地を西に向かう急行列車が幾本かあった。そのうちの一本「みまさか3号」の行き先が「月田」。この駅名から所在を言い当てられる人は稀であろう。途中、津山までは倉吉ゆき急行「みささ3号」に併結し、美作落合、久世、中国勝山と停車して、月田16時51分着。

 姫新線の下り列車は多くが中国勝山までで、そこから西の新見をめざすのは半数ほどしかない。が、中国勝山の次の駅の月田を終着とするのはこの「みまさか3号」のみ。

 いったい終着の月田になにがあったのか不明ながら、この「みまさか3号」の折返しは16時59分発の鳥取ゆき普通列車である。津山から因美線に入る。上り「みまさか」に月田を始発とする列車はないことから、「みまさか3号」を月田まで走らせた理由は、折返しの鳥取ゆき普通列車を月田始発に仕立てたかったためと推察させる。時間を考えれば、学校だろうか。


 余談ながら、この「みまさか3号」は趣味的には話題豊富な列車であった。

 まず始発の大阪駅を12時30分に出る。新快速と同時発車である。京阪間では特急より速い新快速に先行しつづけ、西明石で新快速を振り切る。急行列車の矜持であろう。

 姫路で6分の休息を取り、姫新線に入ってから途中の津山で「みささ3号」と分離する。津山着が15時38分、津山発が15時55分だから、停車時間17分である。神戸ー明石間を15分で駆け抜けたこの列車が、それ以上の長時間を田舎駅でただ停まっている。僚友ともいうべき「みささ3号」の津山発は16時5分であるから、さらに長く、半時間ほどの停車である。ふつうの感覚なら、なにか事故でも起こったかと思うだろう。

 急行にもかかわらず、かくも長く停車するのには理由があって、岡山からの急行「砂丘4号」の到着を待っているからである。「砂丘4号」は津山から「みささ3号」と併結してともに倉吉を目指す。しかし、「砂丘4号」の津山着は13時50分である。「みまさか3号」の55分発はともかく、「みささ3号」と「砂丘4号」の16時5分発は冗長であろう。

 大阪ー鳥取の所要時間では「みささ3号」は5時間5分。福知山線経由の特急「まつかぜ1号」は4時間10分、急行「だいせん1号」は4時間54分、播但線経由の特急「はまかぜ1号」は4時間15分である。「みささ3号」は津山での30分近くのお休みがなければ、決してわるくないルートであったと思われる。姫路まで新快速を振り切る力走をみせるくらいなら、途中あくびが出るような延々停車などしないダイヤを引いてもらいたかったと残念な思いがする。

 前述のとおり、月田に着いた「みまさか3号」は折返し鳥取ゆき普通列車となる。20時5分に鳥取に着いた車両が、そこからどうやって「みまさか3号」の運用に戻るのか、時刻表からはわからない。


 京都駅山陰本線ホーム。「浜田」ゆきや「出雲市」ゆきは特急や急行ならともかく、普通列車の行き先としては、やはり奇異であったろう。ただ、上野発の「長岡」ゆきや「仙台」ゆき、新宿発の「長野」ゆきに似た奇異さはあっても、場所はだいたいわかる。その点、「胡麻」ゆきはどうか。蘊蓄好きならともかく、場所のイメージがつく人は少なかろう。


 名古屋駅関西本線ホーム。ここに現れる「天王寺」ゆきの表示に、多くはなにを感じたであろう。もっとも、当時の国鉄関西本線の名古屋口を利用する客は希少であったろうから、「天王寺」がどこであろうと気にかける人はまずいなかったろうけれども。

 これが天王寺駅では「名古屋」ゆきの表示に驚く人はいても、名古屋がどこなのかで悩む人などいなかったであろう。


 山陰本線浜田駅。島根県西部の過疎地の駅ながら、この駅を発つ列車の行き先は多彩である。東京ゆき寝台特急「出雲4号」、大阪ゆき726列車、東舞鶴ゆき544列車、岡山ゆきエル特急「やくも4号」、新大阪ゆき特急「まつかぜ4号」、博多ゆき特急「まつかぜ1号」、熊本ゆき急行「さんべ3号」等。

 東京、大阪、岡山、博多、熊本と、わかりやすい目的地の中で、「天ヶ瀬」ゆきはわからない目的地であったろう。美祢線経由急行「あきよし」の行き先である。

 下り「あきよし」は天ヶ瀬に着くと、上り「あきよし」として折返す。天ヶ瀬駅には「浜田」ゆきと掲示されていたであろうが、天ヶ瀬駅を発つ列車の中で、九州以外の目的地はこれだけである。浜田がどこなのか、わかっている人はきわめて少なかったと思われる。

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