【6】婚約指輪は心でいいと言ったら、60億円が出てきました 〜天使と悪魔、プールに落ちる〜
そして、翌日。
ルチアーノは父親に、
「親友とその婚約者を紹介するお茶会」
の招待状を送った。
日にちは一週間後。
悪魔の側近が届けるため、今日中には父親の手元に届く。
そして午後――
ロクシーとアンジュが泊まるヴィラへ、
ルシアンとルチアーノがやって来た。
午後の日差しを受けるプールサイドは、
年間平均気温が20度を超えるセレニスでは心地よく暖かい。
ルチアーノは鼻歌交じりに、
持参したシャンパン――ドン・ペリニヨン――を
それぞれの前に置かれたシャンパンフルートへ注ぐ。
「よーし! 前祝いだ!
そ・れ・に!
ルシアンとアンジュちゃんの“婚約者役”の小道具も持って来たぞ!
乾杯〜!」
カチン、と軽快な音がヴィラの庭に響いた。
ルシアンは一口だけシャンパンを含むと、
表情を崩さぬまま冷静に問う。
「……ルチアーノ。
小道具とは、何だ?」
ルチアーノはシャンパンフルートをテーブルに置き、
やれやれと肩をすくめる。
「ルシアン。
お前とアンジュちゃんは、仮にも“婚約者”だ。
だとしたら――必要不可欠な物は何だ?」
間を置き、声を張り上げる。
「そう! 婚約指輪だーーー!!」
そうして、テーブルの中央に
ビロード張りの小箱が置かれた。
蓋が開く。
中に収められていたのは、
ウィストン・ブルーを彷彿とさせる、
13カラット以上はあるブルーダイヤモンドの指輪だった。
「……これは……」
言葉を失うルシアンに、
ルチアーノは誇らしげに胸を張る。
「アンジュちゃんのブルーの瞳にピッタリだろ?
いや〜俺様のリリカルな感性、我ながら天才すぎるよな!
ラブ❤️」
アンジュがにっこりと笑う。
「うむ! 綺麗だ!
ルチアーノ、わざわざありがとう。
礼を言うぞ!」
「どういたしまして♪
……って、ルシアン! お前も何とか言えよ!」
ルシアンは、じっと指輪を見つめたまま言った。
「ルチアーノ……。
この指輪は、60億円以上はするだろう。
いささか高価すぎる。
婚約指輪は、心さえ籠っていれば良いのではないか?」
その言葉に、
ルチアーノが一瞬で表情を引き締める。
「駄目だッ!
お父様の目は誤魔化せない!
あの人、ダイヤモンドの採掘事業までやってたんだぞ!?
“気持ち”だけで納得する相手じゃない!」
そう言って、勢いよく続ける。
「ちなみにロクシー先生にも、
ウィストン・ピンク・レガシー級の指輪を用意した!」
ロクシーが、すっと左手を上げた。
そこには、18カラットはくだらない
ピンクダイヤモンドが眩く輝いている。
アンジュが目を輝かせた。
「なるほど!
これが“婚約指輪”なのだな!
ロクシーの指輪も、とても綺麗だ!」
そして、屈託のない笑顔で続ける。
「ルシアン!
私の左手の薬指に、嵌めてくれ!」
――その瞬間。
ルシアンの顔から、血の気が一気に引いた。
深海のような蒼さ。
「……わ、私が……でございますか……!?」
声が裏返るルシアンに、
アンジュは鈴の音のような声で即答する。
「当たり前だ!
お前は、私の婚約者役なのだから!」
ルシアンの手が、制御不能なほど震え始める。
アンジュは不思議そうに微笑み、
ルシアンの顔を覗き込む。
「どうした?」
――その笑顔が、
さらにルシアンの心臓を直撃した。
すると。
「よし! 俺様が代わりに嵌めてやる♪」
楽しげに言いながら、
ルチアーノがアンジュの手へ伸ばした、その瞬間――
ドンッ!!
ルチアーノの身体が突き飛ばされ、
インフィニティプールへと真っ逆さまに落ちた。
「ぶはぁっ!?」
水しぶきが上がる中、
ルシアンはアンジュの前に跪く。
「……失礼いたします……!」
その声は震えていたが、
動きに迷いはなかった。
ルシアンは、そっとアンジュの左手を取り、
薬指にブルーダイヤモンドを嵌める。
アンジュが満足そうに頷く。
「うむ! ご苦労!
ルシアンよ、見ろ!
右手の中指には、
お前に貰ったホースシューリングをしておるぞ!」
その言葉に――
ルシアンの顔が、
今度は火山のマグマのように真っ赤になった。
次の瞬間、
彼は何も言わず、
完璧なフォームでインフィニティプールへ飛び込んだ。
ルチアーノの悲鳴と、
ルシアンの豪快なバタフライ。
それを横目に、
ロクシーはドン・ペリニヨンを一気に飲み干し、
再び自分のグラスに注ぐ。
アンジュは太陽にかざすように両手を見つめ、
嬉しそうに声を上げた。
「綺麗だ!」
ロクシーはその光景を確認すると、
小さく呟く。
「……第二段階、成功ね」
そうして、
またもシャンパンフルートを傾け、
静かに飲み干した。
それからも、ルチアーノの父親とのお茶会に向けて、
準備は、常識を逸脱した速度と密度で進められていった。
アンジュとルシアンの装いは、
洋服だけでなく、アクセサリー、時計、靴に至るまで――
それぞれ三パターンずつ揃えられる。
通常であれば一着で十分なはずの場面で、
「選択肢」を用意すること自体が、すでに異常事態だ。
それは、父親を迎える側である
ルチアーノとロクシーも同様である。
どの角度から見られても、
どの順番で質問されても、
どの価値観をぶつけられても――
即座に“正解”を返せるように。
ロクシーは、まるで就職試験の圧迫面接――
いや、それ以上に悪意と地雷を想定した脚本を用意し、
一つ残らず、ルシアンに叩き込んでいった。
想定される質問。
想定されない質問。
そして、わざと踏ませるための問い。
逃げ道は、最初から存在しない。
ルシアンは、それを一切口に出さず、
淡々と、黙々と、
ただ暗記し、再現し、修正され続けた。
そうして――
長かったのか、短かったのかも分からないまま。
ついに、
お茶会の日がやって来た。
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