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【完結】大天使、悪魔のお見合いを阻止せよ!?〜地獄の王がお見合いを断ろうとしたら、大天使に婚約者が爆誕!〜  作者: 久茉莉himari


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5/25

【5】千年前の常識では、結婚前提は婚約者らしい〜大天使、聖なる務め確定です〜

そして、一週間後。


セレニス州の空は、穏やかな青に澄み渡っていた。

何事も起きていない――

かのように。


その静けさを破るように、

ルチアーノの泊まるヴィラへ、

地獄から、お付きの一人が現れた。


無言で、差し出されたのは、一通の封筒。


深紅のシルクの布に、丁寧に包まれ、

その中央には――

血のように濃い色をした蝋印が、

重々しく、押されていた。


ルチアーノは、それを一目見るなり、

パパッと慌てて、封筒を再び布で包み直す。


次の瞬間。


「いだだだだっ……!

痛いであります!

ロクシー先生!!」


ロクシーが、容赦なく、

ルチアーノの耳を引っ張っていた。


「だったら、さっさと、開けろ!」


「で、でも〜……!

もし、

この蝋印に魔術が施されていたら!?

俺様は、強制的に結婚させられてしまいます……!

顔も知らない相手と……!」


「だーかーらー!」


ロクシーは、ペーパーナイフをテーブルに置いた。


カツン。


乾いた音に、

ルチアーノは椅子からぴょんと跳ねる。


「あのね……。

私たちは、なぜ、セレニス州にいるんだっけ?」


ロクシーは、指を一本、立てる。


「ここは、魔術無効。

あんたのお父さんが、どんな細工をしていようが、発動しないの。

……理解した?」


そして、にっこり笑ったまま、告げる。


「5秒以内に開けないなら、

この計画は、ここで終了。

残金は返す。

はい、いくよ――」


「ちょ、ちょっと待っ……!」


「5」


「分かりました〜!!」


ルチアーノは、情けない声を上げ、

慌ててペーパーナイフを取り、封を切った。


中に入っていたのは、

古式ゆかしい便箋が一枚――

それだけだった。


そこには、簡潔な文字で、こう記されていた。


『我が最愛の息子、ルチアーノよ。

 そなたの親友と、

 その婚約者に会えるのならば、

 セレニス州に、

 再び行くことも、

 やぶさかではない。』


沈黙。


「……婚約者?」


ルチアーノとロクシーの声が、同時に重なった。





「……婚約者!?

私が……!?

アンジュさまの……!?」


思わず息を呑み、

ルシアンは天を仰いだ。


「……なんと、恐れ多い……!!」


――その一時間後。


ルチアーノのヴィラのメインリビングには、

普段の冷静沈着さも、大天使としての威厳も、

すでに、影も形もなかった……。


真っ赤な顔のまま、

頭を抱え、ソファに沈み込むルシアンがいる。


ルチアーノは、脂汗を浮かべつつも、

いつもの調子を装った笑顔で声をかけた。


「ズッ友❤️

そんなに緊張すんなって!

ルシアンなら、完璧に演じられるって!

なっ!」


その軽い声とは裏腹に、

指先は、落ち着きなく動いている。


「……いや、無理だ……」


地を這うような、低い声。


ルシアンの言葉に、

ルチアーノは慌てて背中を揺さぶった。


「ルシアン! 頼むって〜!

もう、ロクシー先生は、その気なんだよ!

脚本作りに、入っちゃってるんだって!」


一瞬、言葉を切り、

そして必死に続ける。


「ここで、ルシアンが降りたら……

ロクシー先生も、降りるんだよ!

あの人はさ、

一度降りたら、絶対に引き返さない!

そうなったら……」


声が、ほんの少しだけ小さくなる。


「……俺様は、強制的に、結婚確定……!」


そこまで、一気に言ったあと、

ルチアーノは、ぽつりと付け足した。


「俺様はさ……

ルシアンみたいな、初恋を、してみたいんだ……」


その言葉に、

ルシアンが、ゆっくりと視線を向ける。


「……ルチアーノ……」


ルチアーノは、目を伏せ、

手に持った特大クラッカーの紐を、

もじもじと弄っていた。


ルシアンは、小さく息を吐く。


「……アンジュさまは、何と?」


その問いに――


ルチアーノは、がばっと顔を上げた。


さっきまでの沈んだ表情は消え、

妙に輝いた目で、叫ぶ。


「これを見ろーーー!!」


勢いよく声を張り上げながら、

テレビのリモコンを、叩きつけるように押した。





そこに、映し出されたのは、

アンジュの顔のアップだった。


ルシアンは、反射的に立ち上がり、

テレビの前に跪く。


画面の中のアンジュは、

チョコレートラテを一口飲むと、

少し考えるように首を傾げ、

すぐに、晴れやかな声で言い切った。


「婚約者?

なるほど!

悪魔の王だっただけはあるな!

“結婚を前提とした恋人”であれば、

婚約者で、間違いは無い!

やろう!」


その清らかな笑顔は、まさに、大天使ガブリエル。


どこか幼さを残した神々しい美しさに、

ルシアンは一瞬、言葉を失い――

思わず、見惚れていた。


そして、その背後。


ルチアーノが、音もなく、

ルシアンの後ろに回り込み、

肩越しに、まるで確認するように、低く囁く。


「……ルシアン。

やってくれるよな?」


ルシアンは、ゆっくりと胸に手を当てる。


祈るように目を伏せ、

次の瞬間、

覚悟を宿した瞳で、力強く頷いた。


「これは……聖なる務めだ。

私は――

やり遂げよう」





セレニス・ベイのお洒落なカフェ。


ロクシーは、地ビールに口を付けると、

グラスを軽く傾け――

口元だけで、ニヤリと笑った。


その目は、24歳の女子のものではない。

盤面を確認し終えた、軍師の眼だった。


「ルチアーノ……

あんた、やれば出来るじゃん。

そのタイミングで、

よくアンジュちゃんのビデオを流したわね」


まずは、第一段階、成功。


――そんな声なき呟きが、

確かに、その表情に浮かんでいた。


ルチアーノは、背筋を正し、

弟子のように深く頭を下げる。


そして、赤ワインのグラスを掲げ、

誇らしげに言った。


「ありがたきお言葉……!

ロクシー先生の、脚本と演出、

毎回、本当にお見事であります!」


「でもさ」


ロクシーは、グラスを置き、肩をすくめる。


「あんたの本音が漏れたから、

ルシアンの心が、開いたんだと思うよ?

やっぱり、そこは、あんたのお手柄」


「いえいえ!」


ルチアーノは、照れたように笑い、即座に明言した。


「ルシアンが迷ったら、

“心を開いた瞬間に、あのビデオを流せ”と、

教えて下さったのは、ロクシー先生です!

ラブ❤️」


二人は、顔を見合わせ、ぐふふ、と笑い合う。


だが――


二人は、知らない。


そのやり取りの一部始終を、

イレイナが、

水晶玉越しに、

静かに見つめていることを。

ここまでお読み下さり、ありがとうございます(^^)

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