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【完結】大天使、悪魔のお見合いを阻止せよ!?〜地獄の王がお見合いを断ろうとしたら、大天使に婚約者が爆誕!〜  作者: 久茉莉himari


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7/25

【7】お茶会は静かに始まる。 〜地獄の王の父が言葉を失った瞬間〜

午後一時。


十人のお付きの者を従え、

ルチアーノの父親は、セレニス州のヴィラに到着した。


空気が、目に見えない形で、一段、冷える。


そのヴィラは、セレニス州の中でも、

特に、眺望に優れた一棟。


前回――

ルチアーノとロクシーが、

父親と、初めて相対した場所でもあった。


メインリビングへと入って来た父親の前で、

ルチアーノと、その半歩後ろに立つロクシーが、

揃って、深く頭を下げる。


「お父様。

本日は、お越し頂き、ありがとうごさいます」


それは、普段の軽薄さが一切消えた、

極めて礼儀正しい声音だった。


父親は、返事をしない。


ただ、威厳に満ちた眼差しで二人を見下ろし――

数秒の沈黙の後、

低く、鋭い声を落とした。


「我が息子、ルチアーノよ。

お前の親友と、その婚約者は、どこだ?」


ルチアーノは、すっと一歩前に出る。


「お父様。

まずは、少しお休みになられては?

長旅で、お疲れでしょう」


次の瞬間。


「――わしを、

年寄り扱いするとは、何事だ!」


雷鳴のような怒声が、

リビングに響き渡った。


「今すぐに、二人に会わせんか!

それとも……」


父親の目が、妖しく光る。


「わしに、恐れをなして逃げ出したのか?

地獄の王の父親に会う……

その緊張感は、計り知れぬものだからな」


ロクシーは、しおらしく視線を伏せたまま、

内心で、静かに息を整える。


――来たわね。

想定通り。

最初は、必ず、圧で揺さぶってくる。


その間にも、ルチアーノは一切、動揺を見せず、

穏やかな笑みを浮かべて答えた。


「いえ、決して。俺様のズッ友――」


一瞬、言葉を区切る。


「……いえ、親友のルシアンは、

お父様にお会い出来る時を、心よりお待ちしております」


「ほう……」


父親は、ゆっくりと白い髭を撫でた。


「わしの“指示”を、待つ、か。

殊勝な、心がけよ」


その口元に、わずかな笑みが浮かぶ。


「では、そのルシアン殿と、婚約者に、会おうではないか」


ルチアーノは、姿勢を正し、

一切の躊躇もなく、ヴィラのバルコニーへ向かって、

手の平を差し出した。


その動きは、優雅でありながら、

主導権を渡さぬ、計算されたものだった。


「では、ご案内、致します。

――お父様」





まず、父親の目に入ったのは、光だった。


午後の陽光を受け、

完璧に配置されたテーブルと、

その脇に立つ二人の輪郭が、

まるで一枚の絵画のように、浮かび上がっている。


そして――

千年以上前の価値観を持ってなお、

思考が追いつく前に、言葉を失わせる“美”が、あった。


完璧に整えられたテーブルの脇に立つ、二人。


背の高い、細身で、引き締まった体躯の男性は、

紺のジャケットに、白い襟付きシャツ。

堅さを感じさせない、遊び心のあるネクタイに、革靴。


だが、その立ち姿は、どこまでも静かで、

人の視線を受け止めながらも、微塵も揺らがない。


隣に立つ女性は、

金色の髪が、陽光に溶けるように輝き、

真っ白なワンピースは、華やかでありながら、品を失わない。


視線は、穏やかで、

見られていることを、評価されていることを、

意識している様子は、まるで、なかった。


清潔感と上品さが融合した、

まさに、理想形とも言えるスマートカジュアル。


作り込まれたはずの空間の中で、

二人だけが、場そのものを支配していた。


――圧倒的な、美。


父親の足が、ほんの一瞬、止まる。


その沈黙に気づき、

ルチアーノが、半歩だけ前に出た。


――ロクシーの脚本通りに――


「お父様、いかがなさいました?」


父親は、わずかに視線を逸らし、

次の瞬間、キッとルチアーノを睨みつける。


「何でもないわ!

いちいち、私の行動に、口を出すな!」


雷鳴のような、怒鳴り声。

だが、その声には、隠しきれない動揺が滲んでいた。


その様子を、ロクシーは、

視界の端で、静かに捉える。


そして――


ロクシーの口元が、ほんの少しだけ、上がった。





父親が、バルコニーに到着すると、

ルシアンが、静かに口を開いた。


「初めまして。ルシアンと申します」


ただ、それだけ。


だが、父親は、文句の一つも口にしなかった。


ルシアンから自然と放たれる品格は、

その一言だけで、初対面の挨拶として、

十分に成立していたからだ。


やがて、父親のお付きの者が椅子を引き、

父親が腰を下ろす。


それを見届けると、

ルシアンは、アンジュの椅子を引いた。


アンジュが、ふわりと微笑みながら、椅子に座る。


その一連の所作に、

父親の眼光が鋭く光り、

眉が、一瞬だけ動いた。


そして、勝ち誇ったような口調で言う。


「君は、自分で、レディに椅子を引くのかね?

それは、使用人の仕事では、ないのか?」


ルシアンは、一切、視線を逸らさず、

父親の目を真っ直ぐに見て、答えた。


「大切な、お方なので」


その言葉に、アンジュが、にっこりと笑う。


疑う余地のない、信頼に満ちたその笑みは、

無垢で、そして、聖なる美しさを放っていた。


父親の額に、意図せず、

うっすらと脂汗が浮かぶ。


――そうして。


お茶会は、

静かに、始まった。

ここまでお読み下さり、ありがとうございます(^^)

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