それぞれの道
「よし、みんな荷物は全部持ったか?」
子供達に声をかけると、お互いに荷物を見せ合って確認している。
「ユージン、大丈夫!もし忘れ物しても、アルプが届けてくれるって言ってたよ!」
そうだよね?と、確認されたアルプは作業の手を止めて頷いている。
「ユージン、お前、本当にログハウスに戻るのか?」
マハトは、少しだけ不貞腐れながら俺に話しかけた。
「ああ、争いも終わったんだ。ピコラのログハウスで、世話になるよ」
マハトの別荘での生活は、気付けばログハウスにいた時よりも長くなっていた。
「なあ、せっかくなら、このままここにいても良くないか?それか、王都の俺の家にみんなで遊びに来ないか?」
先日マハトから、俺達を屋敷の料理人と使用人として雇いたいと言われたが、丁重にお断りをした。
マハトとは、友人のままでいたいからと言ったら、納得はしてくれたけど……
——まだ諦めてないらしい。
「以前、子供達と店をやる約束したからな。早く戻って『ピッコラ』を、店として成り立たせたいんだ」
俺がいなくても、子供達が生活できるようにしておきたい。
今は残りたいとは思っているけど、いざとなったら、気が変わるかもしれない。
「……いつだって、俺は待ってるからな?」
マハトは諦めがつかないのか、そろそろ仕事に行かなければならないのに、近くを彷徨いている。
「お前こそ、ちゃんと店に顔を出せよ。あと、食事はアルプに渡すから、残さずに食えよ?ほら、さっさと仕事に行け」
マハトは、今日は魔王城で仕事がある。
その後は、本来の家に帰るため、俺たちとはお別れだ。
アルプとフリーゲンも、俺たちをログハウスに送ったら、マハトの元へ帰る。
「……ユージン、必ず行くからな?ちゃんと俺が来るのを待ってろよ?」
マハトは、俺が迷っているのを理解しているせいか、しつこく釘を刺してくる。
——忙しいのがわかってるからだな
もしかしたら、マハトと、こうやって話せるのはこれが最後かもしれない。
「マハト、今までありがと……」
せめて、感謝の言葉だけは送っておこうとしたのに……
「はぁ?ユージン、違うだろ!俺が待てって言ったんだから、返事はイエスかハイだ!」
マハトは最後まで聞かず、反論さえ聞くつもりがないようだ。
——この傍若無人め
「わかったよ。ほら、今日はフリーゲンがいないんだから、仕事遅れるぞ」
必要としてくれるのはありがたいけど、もし、会えなかったらどうするつもりだ。
フリーゲンは、一足先にログハウスまで荷物を届けに出ているため、今日のマハトは、飛竜に乗っていく。
「くそっ、ユージン、いいな?絶対に勝手に行くなよ?約束だぞ!」
マハトは時間ギリギリまで、俺を引き止める言葉を吐き、慌てて空へ消えて行った。
「これからも頑張れよマハト」
魔王軍の立て直しもある。マハトは、また忙しい毎日が始まるはずだ。
「ユージン、行きますよ」
アルプに呼ばれて馬車に乗り込み、世話になった別荘を振り返った。
「バイバーイ!」
「じゃあねー!」
「またなー!!」
「ありがとうございました!」
子供達は、見送りに来てくれたトビ族と、ジェリコの部下達に力一杯手を振った。
「……ここでの暮らしも、楽しかったな」
ログハウスで『ピッコラ』をオープンしたはずだったのに、いつの間にか魔王軍の後方支援をしていた。
「あっという間でしたね……」
俺もアルプも、言葉にできない気持ちを噛み締めながら、ログハウスまでの長い道をひたすら前に進んだ。
***
「アルプさん、なぜ俺の尻は無事なんだ」
帰りは行きと違って、馬車の揺れが全く気にならなかった。
「ペリル様を迎えに行った時、揺れがきついからと馬車に細工してくださいました。と、何度もお伝えしましたよね?」
俺が何度も尋ねたせいで、アルプは呆れながら、同じ答えを返していた。
「さすが大魔導師だな?!」
行きと同じ長い道のりだったが、俺の尻と腰にダメージどころか、乗り心地が良くて、何度も夢の中へ……
「はい、魔法をかけなくても、よく眠れたみたいですから、ペリル様には感謝ですね」
そう、俺はあまりの心地よさに、ほとんどの時間眠っていたようだ。
目覚めるたびに、アルプに同じ事を言っていたようなので、面目が立たない。
「……申し訳ない」
全く気にしてないアルプにホッとしていたら
「帰ってきたぁ!!」
「やっと着いたわぁ!!」
「よっしゃー!オイラ下りる!」
「あ、ガバル危ない!」
減速して角を曲がり、ログハウスが見えてきた途端、子供達は口々に喜び、ガバルは馬車から飛び出し家に向かって走り出した。
「おかえり、頑張ったな」
「おかえりなさい。お疲れ様でした」
ガバルが知らせたのか、ログハウスを守ってくれていたフィアールとソワが、入り口まで出迎えてくれた。
「フィア爺、ソワ様ただいまー!」
ピコラが馬車から飛び降りたので、驚いたフィアールは糸を使って、ピコラを安全に下ろしてやった。
「元気にしとったか?既に懐かしいな!」
フィアールは、ついでにリコラとエリソンも糸を使って馬車から回収した。
「フィアール、ログハウスの被害は?修復の必要はありますか?」
アルプは、馬車を止めると、襲撃現状の確認を急いだ。
「なぁに、ちっと燃やされたけど、軽く焦げただけですぐに消火したし、焦げた場所の修復ももう済んでいる。確認してくれ」
フィアールは、アルプと子供達を引き連れ、中に入って行った。
「ユージンも帰ってきたのね?」
外に配置する荷物を取り出そうとしたら、ソワが話しかけてきた。
「なんだよ、ダメだったか?」
俺は、ログハウスに不要だったのか……
「違うわよ。マハトがあなたを手放すはずがないと思ったから……」
ソワは、クスッと楽しそうに笑う。
マハトが俺の料理に、執着しているように見えていたんだろうな。
「あー、ぐずぐず文句は言っていたな」
俺の今後を、気にかけてくれるのはありがたかったが、マハトに雇われるのはごめんだ。
「よく断る事ができたわね?」
確かに、マハトはかなりしつこかった……
「友人が雇用主では、色々やり難いからな」
あいつとの関係を『利害関係』にはしたくなかっただけだ。
「それもそうね。私はそろそろ中に戻るけど、手伝いが必要なら声を掛けてね」
ソワは、ふわっと袖を翻し上品に室内へ戻って行った。
「やっぱり、ここだよなぁ」
俺は、ログハウスのウッドデッキ横に広がるだだっ広い空間に、最初にマハトが作ってくれたオープンキッチンを広げた。
「ジェリコ部隊、もう戻って来たのかな?」
この湖の底にある拠点と、マハトの別荘の地下とをジェリコ部隊は、班を分けて行ったり来たりするらしい。
「食事管理は、もうしなくてもいいのか?」
今は緊急時ではないから、食事支援のやり方は、変えたほうがいいのかもしれない。
「……後でアルプに聞いておくか」
魔王の支配が壊れ、それぞれの生活が変化したよな……
ピコラの畑は、後方支援に使ったからかなりの規模になったから、残ったトビ族が畑を引き継いでくれて助かった。
「出てくる時に、沢山野菜や果物を詰めてくれたから、当分安泰だな」
エリソンの鶏舎は、彼の両親に任せることにして、数匹だけ連れて帰ってきた。
「エリソンと、ピコラは特に忙しくなるな」
俺は、みんなで食事をするために、急いでアウトドアキッチン周りのウッドデッキとテラス席を配置した。
「みんなが自由になったから、きっとこれから『ピッコラ』には、いっぱい魔族が来るね!」
食事をしながら、子供達はワイワイとこれからの話で盛り上がっていたけれど
夕方、それぞれが帰宅する時間になり……
「嫌だー!アルプ行かないでー」
「アルプも一緒がいいのにー」
「ユージン!止めてよ!」
「……ユージン助けてください!」
案の定、ピコラとリコラは、アルプにしがみついて、嫌だ嫌だと大号泣。
「惜しんでくださりありがとうございます。ちゃんと顔を出しますから」
アルプは、ピコラとリコラに挟まれ、もみくちゃになりながら二人を宥めている。
「はは、アルプ人気者だな」
一方の俺は、ガバルとエリソンからなんとかしろと、足元をパンチで攻撃されている。
——地味に痛い。
「……ずっと一緒にいましたからね」
アルプは、執事なだけあって、いつもさりげなく子供達のフォローをしてくれていた。
俺だって、本当なら縋りつきたい気分だ。
「アルプには、随分助けられたよ。今まで……本当にありがとう」
空を見たら、最後の荷物の搬送を終わらせたフリーゲンが迎えに来たようで、ぐるぐると旋回している。
「……ピコラ、リコラ離れなさい。アルプも忙しいんだから、困らせたらダメだぞ」
そばにいて欲しい気持ちは、嫌なほど分かるけど、こればかりはどうしようもない。
「「うわぁん、ユージン」」
元から聞き分けがいい二人は、渋々アルプから離れると、今度は、俺にしがみついて泣きだした。
エリソンとガバルまで、足にしがみついて泣き出す始末だ。
「では、みなさんまたお会いしましょう」
子供の涙でグシャグシャになったアルプの毛は、魔法で一瞬のうちに綺麗になり、迎えに来たフリーゲンにさっさと飛び乗った。
「ああ、またな。必ず来いよ」
アルプと俺は大人だし、お互いがしっかり友達認定しているので、やるべきことがあるのも理解出来ている。
ただ、子供達には、ちょっと辛い別れに感じるのは仕方がないだろう。
「アルプは凄いよな……寂しくなるな」
俺の呟きを拾ったピコラが、意外そうに顔を上げた。
「ユージンも……大人も寂しいの?」
大人達が、平然としていたから、ピコラにしてみたら寂しくは見えないのだろう。
「当然だ。寂しくないわけないだろ?」
そう答えながら、まだメソメソしている子供達の頭を順に撫でてやる。
「でも、ユージン笑ってたよ?」
リコラも顔を上げ、俺を疑っている。
「大人だからだろうな。なんでかな? 大人は悲しくても笑えるようになるんだよ」
喜怒哀楽が、はっきりしている子供達を見ると、羨ましいと思う。
俺も、泣き喚けばスッキリするのかな?
「悲しくても笑うって……なんだか、大人って寂しいね?」
——確かにそうだ。
大人になると、自分の心さえ簡単に偽る事ができるようになる。
でも、そうすることで、自分の本質的なものまで見失ってしまうのに……
「本当に、なんでなんだろうな?」
理由があるなら、俺が教えてほしいよ。
残り3話!




