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異世界リストランテ『ピッコラ』  作者: 黒砂 無糖
腹が減っては戦はできぬ

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帰れる?いまさら帰れないよな。


 魔族の国の復興が順調に進む中、いつも通りにキッチンで魔素飴を作っていたら、マハトから連絡が来た。


「今度、ペリル様を別荘にお招きしたから、もてなしてくれないか?」


 ペリル様……ってことは、マハトの恩人の大魔導師だよな?


「マハト、その人の好みを知ってるか? 魔導師だし、魔素料理がいいかな?」


 どんな料理が喜ばれるだろう?


「んー、知らん。とりあえず、うまいもんで頼む。ユージンに任せたぞ」


 マハトは俺に一任すると、あっさり通信を切った。



「あいつ……適当にもほどがあるだろう」


 さて、どうしたもんかと頭を悩ませていたら、子供たちがおやつを求めてキッチンに入ってきた。


「ユージン、今日のおやつはなぁに?」


 ピコラとリコラが、作業台の上に広げてあるメモを覗き込んだ。


「ユージン、コレ、なんて書いてあるの?」


 おもてなしメニューを日本語でメモに書いていたので、二人には読めない。


「ああ、今度マハトの知り合いの『人間の大魔導師様』が来るから、料理を考えていたんだ。何かいいアイデアないかな?」


 子供達に、魔素を練りこんだカップケーキを手渡し、俺は休憩がてら子供の相手をする。


「大魔導師様がくるの?! 僕のたまご食べてくれるかな」


 エリソンはコルージャから色々聞いたのか、大魔導師を尊敬しているらしく、自分の育てたたまごを食べて欲しいらしい。


「ユージン! ボクの畑の野菜も使ってよ」


 ピコラは、エリソンに釣られただけだ。


 自分も役に立ちたい。それだけだろう。


「そうだな、どっちも使わせてもらうよ」


 カップケーキを仲良くほおばる子供達に癒されながら、何にしようか?と考える。


「こっちの世界の人間の料理なんて、俺は知らないし、いつも通りでいいか」


 俺は、とりあえずマハトが気に入っているメニューを準備することにした。




 ***




「こんにちは。お邪魔します」


 マハトに連れられてリビングに入ってきたのは、綺麗な顔をした線の細い優しそうな若い青年だった。



 ——俺よりも若いよな?



 青年は、キッチンにいる俺とも目が合うと会釈をしてくれた。


 マハトはそれに気づくと、


「ユージン、紹介するよ。この方が恩人のペリル様だ。ペリル様、彼は料理人のユージン。俺の友達です」


 マハトが、わざわざ紹介してくれた。


「マハト、『様』をつけるのはやめて。初めまして。お会いできて光栄です」


 青年はマハトから様付けで呼ばれるのが不快のようで、笑顔だけれど有無を言わさない圧力を感じた。


「……料理人のユージンです。今日は楽しんで頂けるよう、精一杯尽くします」


 年下とはいえ立派な肩書きを持っている相手だし、ちょっと怖いので俺はしっかり挨拶をしておいた。


「君の事はマハトから聞いたよ。楽しみにしてるね」


 ペリル様は、人の好い笑顔を向けるとリビングのソファーに静かに座った。



 ——あれが大魔導師?


 俺が想像していたのは、髭の長い不老長寿の爺さんだった。



 ——想定外だ



「……唐揚げに変更だな」


 メインはお年寄りにも受けが良い『スコルピオンの煮付け』を考えていたが、俺より若い青年なら、唐揚げの方がいいだろう。


「丁度、エリソンから貰った鶏肉で作った唐揚げがあったよな……」


 少しずつ作りためてきたものがあるから丁度いいだろう。


 ——思い込みのせいで、リサーチ不足だ。


 俺は急遽、お客様に提供する料理を有り合わせの物に変更することにした。





「お料理は以上になります。後にデザートをお持ちいたしますね」


 テーブルの上には、サンドイッチ、唐揚げ、ポテト、ミートボールパスタにオムライス。カップにはコーンスープ。


 今やマハトの好物で、あえて男子学生が好みそうなものを大皿料理にして並べてみた。


「おお、ユージンこんなに沢山作ってくれたのか!」


 マハトは、案の定テンションが上がってる。


 ——マハトが喜んでるし、大丈夫だな


 配膳を手伝ってくれたアルプは、二人にお茶を入れると、マハトの背後へ回り静かに控えている。


 流れるようなアルプの一連の動きに感心しながら、俺は料理を取り分ける。


「最初に少しずつお取りします。後は、お好みのものをご自由にお楽しみください」


 俺は、料理を皿に少量ずつ綺麗に盛り付け、マハトと青年の前に置いた。


 野菜は……飾り程度。


 男は揚げた芋で十分だ。


「とても美味しそうですね。いただきます……ん? この料理……」


 ペリルは、何かが気になるのか、黙々とそれぞれの料理の味を確認している。


 ——口に合わなかったか?


「ペリル様、どうかしましたか?」


 明らかに様子がおかしいので、マハトが気付いて声を掛けた。


 ——何か不都合でもあったのだろうか?



「……しかし、この料理を作るのを見たことがない」


 何か呟いたが、ペリルの声は小さくて、よく聞こえなかった。


「……あの、大丈夫ですか?」


 俺も心配になったので、ペリルの足もとに膝をついて声を掛けてみた。


 すると、ペリルは俺と唐揚げを見比べ、


「勇者も……聖女が唐揚げを作った時、感激していたんだ……君は、転移者だよね?」


 嘘など簡単に見抜いてしまいそうな、澄んだ目に見つめられた。



 ——しまった。どうする?



 俺は、どう答えればいいのか分からず、咄嗟にマハトを見た。


 マハトは、ペリルの発言に驚いたが、彼になら言ってもいいと深く頷いた。


 ここでアルプにバラすのか……


 アルプに対して後ろめたさを感じながら、俺は意を決して返事をした。



「——そうだ」



 マハトの後ろにいたアルプは、俺の返事にショックを受け、咄嗟に


「ユージン!! あなた、私に嘘をついていたのですか?!」


 アルプに責められるのは仕方がないが……



 ——正直キツいな



「……済まないアルプ」


 こればかりは、俺には言い訳が出来ない。



「アルプやめろ。今は来客中だ。ユージンは悪くない。俺が口止めしていたんだ」


 マハトが、フォローをしようと声を掛けてくれたが、


「マハト様は……私を信じていなかったのですか?!」


 アルプの怒りが、マハトにも飛び火した。


「そうじゃない。そもそも、お前は転移者をよく思っていなかっただろう? だからユージンの事は隠したんだ」


 マハトはため息をつきながら、アルプの事を思ってしたことだと伝えるも、


「っですが!!」


 アルプは納得がいかないようで、マハトに対して食い下がった。



 ——ダメだ。止めないと。


 主人が絶対だと誇っていたアルプに、逆らわせてはいけない。



「アルプ! 頼むから落ち着いてくれ」


 俺は、とにかくアルプを止めたかった。


「ユージン……私はあなたを、ずっと友達だと信じていました」


 アルプは、怒りを浮かべた瞳で俺を睨みつけている。


「俺は、ずっとそう思ってるよ」


 お願いだから、過去形で話すのは止めてくれないか……


「でも、でも……あなたは私を信じてくださらなかった」


 アルプの目から、徐々に涙があふれてきた。


「アルプ、違うぞ。マハトはお前の主人だ。だから、許しが出るまで待っていただけだ」


 アルプは、涙がこぼれないように耐えているのか、プルプル震えている。


「アルプ、よく考えろ。お前、最初からユージンが転移者だと聞いていたら、今みたいに付き合えたか?」


 マハトが静かにアルプに問いかけた。


「そ、それは……」


 アルプは否定できないのだろう。狼狽えた後、うなだれて下を向いた。


 アルプの足もとには、パタパタと水滴がこぼれた。


 ——ごめんアルプ。


「お前の気持ちもわかるが、アルプには差別意識があったろ。だから、ユージンのことは秘密にした。言いたいことはわかるな?」


 アルプは拳を握り涙を流しながら、小さくうなずいた。


「アルプ、今は来客対応中だ。俺への不満なら後からいくらでも聞くから、一旦下がって頭冷やしてこい」


 アルプはマハトから退席するように言われ、


「……お話の邪魔をしてしまい、申し訳ありませんでした。このまま席を外させていただきます」


 ペリルに一礼をすると、部屋を後にした。


 ——後から話さなきゃな


 そう思いながらアルプが部屋を退出したのを見送ると、


「ペリル様、俺の獣魔の躾がなっていませんでした。お恥ずかしい姿をお見せしてしまい申し訳ありませんでした」


 マハトが、気まずそうになりながらペリルに謝罪している。


 俺にも責任があるので、マハトと一緒に頭を下げた。


「気にしていないから構わないよ。ユージンだっけ? 君は転移者だけど、獣魔と友達だったんだね」


 ペリルは、さっきと変わらず穏やかそうににこにこしている。


「あ、ああ、アルプにはいつも助けられた。人間だったから、魔法の使い方も一から教わった。おかげで俺はすっかり魔族だ」


 ——だから、俺はもう転移者じゃないよな?


 転移者じゃなくなれば、アルプは許してくれるか?


「……そうみたいだね。ユージンの魔族化はいつから?」


 なんだ? この、ペリルという男は優しそうだが、何となく底知れない怖さを感じる。


 ——エリート営業マンと商談している感じ


 気を抜いたら、一気に根こそぎいかれる気がする。


「……マハトが行方不明になる前からだ」


 俺は、警戒心を緩めないように慎重になって答える。


「……随分と時期がズレてるな」


 ペリルが俺から目を離した一瞬だけ、俺を縛っていたような空気が緩んだ。


「……俺が何か?」


 それに、さっきからこの重圧……何だ?


「……ペリル様、ユージンは嘘は言ってないので、精神干渉しなくても大丈夫ですよ」


 マハトがペリルに一言伝えると、俺の体がフッと軽くなった。


「ああ、ごめん。念のためにね。そうだね……転移者なら知る権利があるか」


 ペリルは、俺に対して何らかの精神魔法を使っていたのだろう。


 解放されたのか、ペリルからさっきのような重圧は感じない。


 ——何か疑われたのかな?


「……転移者が知る権利って?」


 それよりも、何か俺が知っておくべきことがあるのだろうか?


「今回の勇者転移は、そもそも予定になかったんだ。知っての通り今期の魔王は、人間の脅威にはなりえなかっただろう?」


 確かに、魔族は動けなかったが、人間側からしたら大したことは無かったのだろう。


「己の欲のために勇者召喚を利用した者が、未熟な陣を発動した。気付いた魔導師が陣の修正をしたから世界の崩壊は免れたけど、召喚者たちの場所と時間は異なったんだ」


 コイツヤバいな。


 さらっと、世界の崩壊って言ってる……


 ——やっぱ、大魔導師怖い


「ユージンがマハトを拾う前に来たのが本当なら、転移者なら魔族化するのも理解できるかな。だからもう警戒はしないよ」


 ごめんね?と謝るペリルの姿は、見た目からして優男そのものだ。


「……ペリル様、聖女がいれば魔族が人間になれるというのは本当ですか?」


 マハトは、複雑な顔をしながら追加でペリルに尋ねた。


「魔族を人間に戻すことは、聖女さえいれば思っている以上に簡単だよ」


 ペリルは、マハトに軽く伝えると、俺の方を見て……


「君は、元の世界に帰りたい?」


 初めて見た時と同様に、人の好い笑顔を浮かべたまま、なんてことないようにサラッと尋ねてきた。



 ——帰る?



 大魔導師様なら、人ひとり送り返すことくらい簡単なのか?


 ふと、置き去りにしてきた、自分の店を思い出した。



 ——でも、今さら……帰れないよな……

ここまで読んで頂きありがとうございました。

残すところ、後5話で完結です!

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