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異世界リストランテ『ピッコラ』  作者: 黒砂 無糖
腹が減っては戦はできぬ

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愚か者の末路


「今回、勇者に破壊されてしまったようですが、その装置さえあれば、魔族を簡単に支配することができていたようです」


 ——魔王就任に、実力は関係なかったか。


 まあ、だからクソみたいな魔王が支配できていたんだな。


 感情を排して話をするコルージャとは裏腹に、魔族達はザワついている。


「なんてことだ……」

「我々は、歴代魔王に騙されていたのか」

「今まで信じていたのは……」


 さすがにショックが大きかったのだろう。頭を抱える者、顔を伏せる者もいる。


 ——そう感じるのは当然だよな。


「基本的に、装置の話は魔王になる者しか知らない極秘情報だったようです。まあ、知っていたら簒奪に遭うかもしれませんし」


 コルージャも気分を害したが、渋々自分を納得させたのだろう。


 族長達の空気感もピリピリしている。


「……確かに、知っていたら俺は早急にあの魔王を引き摺り下ろしていただろうな」


 レーヴェは腕を組んだまま、鼻先に皺を寄せて唸っている。


「ああ、あんな奴に、いいように使われていたなんて……今思い出しても忌々しい」


 ライカンも牙を剥き出し、爪で机をカンカン叩いている。


 武闘派組、明らかにイラついてるな……


 ——このまま、魔族国が荒れないか?


 俺は、咄嗟にマハトを見たが、マハトは腕を組んだまま、冷静に見つめている。


 落ち着かずソワソワしていたら、小さいけれど直接脳に響くような声がした。



「……シラナクテ、ヨカッタノ。ミンナ、アラソウカラ」


 アタナシアが、参加者の脳内に向かって発言したことで、一斉に静かになった。



「アタナシアの言う通りね。あなたは誰よりも長い間、魔族同士の関係を見てきましたものね……」


 ソワが真っ先にアタナシアに賛同したので、族長達も、秘匿されてきたことに不満はあれど納得して、とりあえず落ち着いた。


 ——アタナシアは不死者だ。


 色々知っていたのかもしれないな……


「それはそれとして……」


 ——誰も言及しないなら俺が聞くか。


 明らかにおかしいことがあるんだ。


「部外者が口出ししてすまんが、なんで人間がその話を知っていたんだ?」


 俺は我慢できず、気になっていることをコルージャに質問した。


 族長達も質問にハッとして、コルージャに目を向けて回答を待っている。


「どうやら、元人間の魔王が執筆した手記に、事細かく書いてあったそうで……」


 コルージャも、この件に関して話しづらさを感じているのか、困ったように眉を下げた。


「それ、人間が持っていたんだよな?」


 本来なら、魔族の管理下にあるべき物だ。


 ——なんで人間が持ってるんだ?


「聞いた限りそうなりますね。他の勇者が魔王を討伐に来た時、面白がって魔導書と共に手記も持ち去られたそうで……」


 ——面白がってやることじゃないだろう?


「持ち去るって、私的にか?」


 だとしたら、なおのことやっていいことと、悪いことがあるだろ。


「私的にというか、持ち去った勇者は『魔王になった勇者の手記を奪ってきた』と武勇伝に記し、一括保管していたと……」


 人間側の歴史に混ざってしまったのか……


「いや、だとしても、人間の勇者、結構やること酷くないか?」


 魔王の手記は、本来なら魔族の歴史の一角だろう? と、周りを見たが、魔族は俺の気持ちを理解できないのか、首を傾げている。


 ——敗者は全て奪われるのが当然なのか?


 情報ダダ漏れなのに、なぜ平気なんだ?!


「ユージン、我々魔族は『勇者』に負けたのです。だから仕方がないかと……では、みなさんへの報告は以上です」


 コルージャは俺を見て、穏やかに目を細めた後、話を終わらせた。


 ——それでいいのか?


 俺としては全く理解できないけれど、魔族の総意なら受け止めるしかない。



「コルージャ貴重な情報ありがとう。ところでマハト、次の魔王はどうするつもり?」


 コルージャが話し終わると、ジェリコが話の場を引き継いだ。


 ジェリコが話し始めたことで、場の空気がまた引き締まった。


「大切なことだけど、今は、疲弊した魔族を立て直すのが何より先決だ。みんな、本当によく耐えてくれた」


 マハトは、まず魔族の回復を願った。


 魔王の支配下で心身共に疲弊してしまった魔族は、かなり沢山いたはずだ。


「とりあえず、うちの部隊の魔物達はかなり負傷している。仲間の蓄積したダメージを回復するのが先だな」


 ラガルト族の言葉に、他の族長も同意するように頷いている。


 ——きっと、あちこちに負傷者がいるよな。


 地下拠点の魔族もまだ完全じゃない。


「各々が思うこともあるだろう。その事は後日、もう一度まとめよう。それまでに、魔王を置くか置かないか考えてきてくれ」


 ——魔王を決めないことも考慮してるのか。


 俺は、マハトが魔王になるのかと思っていたけど、本人にそのつもりはなさそうだ。



「では、今日はここまでだ。帰りにユージンから液体魔素を受け取ってから帰ってくれ」


 俺はマハトから頼まれて、大量に準備しておいた液体魔素を族長達に配った。


 ——少しでも早く、回復するといい。


「こんなに……」

「大変だったろう……」

「助かります」


 族長達は、恭しく受け取るとそれぞれ忙しいからか、慌ただしく帰って行った。




 ***




 コツン、コツン、コツン


「うわ、なんだよコレ……えげつないなぁ」


 手渡された資料には、元魔王の処遇が記載されていた。


「まあ、あの魔王、魔族からかなり嫌われているし、確かに『因果応報』なんだよな」


 俺は、マハトからの指示で、別荘から少し離れた場所に作られた石牢に赴いてる。


『魔王は生かされたが、勇者自らの手で制裁を与えられている』


マハトから出がけに話を聞いた上で、制裁の内容が書かれた書類を預かってきた。


「うーっ、足元が冷えるな」


石牢までの道は舗装はされているが、湿った石畳は冷たく、さっきから足元から冷気が上がってくる。


 「日の当たらない山の中だと、この時間はかなり寒いな……あいつ凍えてそうだよな」


 魔王は魔族から嫌われて当然だったけど、命を奪ってやりたいと思うほど、俺には関わりはなかった。


 だから、マハトから魔王が生きていると聞いた時、正直ホッとしたのも事実だ。


「しかし……なかなかエグい罰だよな」


 勇者が日本人の少女と聞いて、俺は少し心配していた。


 たとえ勇者だとしても、他人の生死を背負わせるのは、可哀想だと思っていた。


「お、ここだな」


 石畳の終わりには、山に埋め込まれたような石造りの壁が見えた。


 アルプから預かった鍵を堅牢な扉に近づけると、壁全体に大きく複雑な魔法陣が現れ、扉が自動で開いた。



 ——真っ暗だな。



「しかし、石牢の中はさらに寒いな」


 牢の中は、石畳の冷気よりも圧倒的に冷えていて、俺はブルブルっと身震いした。


 マハトからは『囚人が移動するまでの間、死なない程度に食事を与えてほしい』と言われている。


「明日、魔王城の前の広間に晒すんだったか」


 入り口にある魔導ランプに灯を灯すと、牢内に等間隔に灯りが広がっていく。



「……本当に囚人は、ひとりだけなんだな」


 牢の中はだだっ広く、何もない空間だ。


「床と天井がある、壁は見えない結界箱が置いてあると聞いていたが……」


 確かに中央に、それらしき物があった。



「結界なんて、本当にあるのか?」


 うずくまる囚人が丸見えなんだが……



「……これ、近づいてもいいんだよな?」


 まあ、今のこいつなら襲ってきたとしてもなんとかなるとは思うが。


「水や食事を提供するための小窓があると言っていたが……確かにあるな」


 何もない空間の下方に、鍵付きのフレームのような小窓があった。


 近づきながらふと囚人に目をやると、土下座状態でうずくまったままピクリとも動かない。


「眠っているのか?」


 囚人は今、勇者の魔法によって精神的な干渉を受けている。


「今までに自分が行った理不尽や、相手が受けた苦しみが全て自分に降り注ぎ、追体験をする『因果応報』魔法……か」


 勇者は『絶対に反省させてやる』とでも考えたのだろう。


「嫌な魔法だ……」


 ——ある意味、死んだ方が楽だろうな。


 手にしていた資料の内容に目を落とすと、


『勇者が過去に受けた理不尽な苦しみと、魔族の苦しみが酷似していたらしく、怨念を魔法にして濃縮して込めたらしい』


 ——怨念って、濃縮できるのか?


「勇者は若い少女のはずだよな?怨念なんて……一体、何があったんだ?」


 怨念を濃縮ってそもそもの発想が怖い。


「多分勇者は、この元魔王を現実の誰かに重ねたんだろうな……」


 確かに、若い少女がこんな奴にいいように利用されたら、きっと心が壊れるだろう。


 ——俺ですらお断りレベルだしな。


 嫌悪するのは当然だろう。



 さらに資料の続きを見ると、


 勇者は『命は奪いたくないけど、魔族を解放して、魔王を引き摺り下ろすだけでは満足できない』と言っていた。


 と、記載されている。



 ——満足ってなんだよ。


 勇者よ、それはただの八つ当たりだ。



「勇者、魔王には情け容赦ないし、やっぱり強いな……完全に心を折りにきてやがる」


 シュピンネは女神とか言っていたが、俺は、『絶対に勇者には会いたくない』と思いながら資料をしまっていたら、




「……うううぁぁぁ! や、やめ……ろ……」



 急に聞こえた囚人のうわ言がデカくて、俺の心臓がキュゥっとした。



「……っと、びっくりした。寝言か?」


 囚人の姿勢は、さっきと全く変わってない。


 ただ……囚人の背中は、速いスピードで上下に揺れている。



「かなり呼吸が荒いな……一体、どんな追体験をしてるんだかな」



 明日、この姿が民衆に晒されるのか……



「自分勝手に振る舞って、仲間を苦しめ続けた者の末路だ……」


 俺はある意味無関係だから、苦しむ姿を見てもザマアミロとは思えない。


「立場が転落して晒されることすら、今のこいつにはわからないんだろうな……」


 ——不憫だな


 同情からか、俺は切なさを感じた。



「与えることを許されたのはスープだけだ」


 スプーンなどを使わせると、自害される可能性があるから、囚人に与えても良いと言われたのは、具のないスープだ。


「お前、バカだよな……」


 やってきたことは本当にバカだけど、俺の料理は気に入ってくれたんだよな……


 だから、マハトは俺をここに向かわせたんだろうな。



「……特別だからな」


 俺は、準備してあったシンプルなスープではなく『シーサーペントの薬膳スープ』を取り出し、魔法で粉砕した。


「これなら、少しは身体の足しになる。死なれちゃ困るからな」


 そう、俺はこいつに『死なない程度に飯を食わせろ』と言われたことを言い訳にした。


「どうせ飯を持ってきたことすら、気づくことはないだろうが、暖かいうちに飲めよ」



 あわよくば、少しだけ暖が取れたらいい。


 俺は、そっと配給用の小窓から暖かいスープを差し入れた。




「……せいぜい長生きして反省しろよ」



 ——生きて、いつかまた食いに来い。



 俺は仕事を終えると、灯を消して石牢の扉をしっかりと閉めた。

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