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異世界リストランテ『ピッコラ』  作者: 黒砂 無糖
腹が減っては戦はできぬ

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種族長会議


「どうなったかな……」


 宴の準備を終わらせた後、アルプにお願いして転移陣を使って北山の関所をこっそり抜け出し、俺は海辺の別荘に帰ってきていた。


 今は、下処理した食材を全て使い切ってしまったので、子供達と一緒に作業中だ。


「ユージン、ナッツはこれで全部?」


 リコラが中心に動いているが、別荘に戻った時、子供達は俺のことを相当心配していたのか、帰宅後、側から誰一人離れない。


「ああ、それで全部だ、ありがとう。お前達、今日は卵と畑はいいのか?」


 いつもなら、この時間ならまだ外にいるはずだよな?


「……今日は疲れたからいいの」


 動けるようになったはずのピコラは、そう言って俺にしがみついた。


「なんだ?ピコラ、疲れたのか?なら、部屋で休むか?」


 まだ、絶好調とはいえないか?


 少し心配になりピコラに目を向けたが、ピコラはブンブン首を振っている。


「ピコラ、どうした?」


 しがみついたまま、嫌がるピコラにどうしたものかと思っていたら


「……今日、ピコラが目覚めた時には、ユージンはもういなかっただろ?だからだよ」


 ガバルが、剥いたナッツを持って来ながら、ピコラの状態を教えてくれた。


「黙って行ってしまわれたから、みんな驚きました」


 エリソンも、少しだけ不満そうだ。


「あー、ごめん。すぐに帰るつもりだったから、起こすのも悪いなと思ったんだ」


 俺は、ピコラを撫でながら子供達に言い訳をした。


「……心配……したもん」


 ピコラは涙を堪えながら訴えている。


「悪かった。本当にごめんな」


 確かに、コルージャから前線に向かったと聞いたら心配するのも当然だな。


「ユージン、通信具光ってるぞ」


 ガバルに言われて気付き、通信を受け取り音声を流すと……



『ユージン、やりました!魔族は……我々はついに、魔王から解放されました!』



 アルプの声が部屋に響き、作戦が成功したことが明らかになった。


「……解放?」

「え、何よ?どういうこと?」

「解放ってなんだ?」

「まさか……」


 子供達は作戦を知らなかったな……


「喜べ!魔王は勇者に討伐されたぞ!魔族は魔王の支配から解放されたんだ!」


 初めはキョトンとしていた子供達が、だんだんと嬉しそうな笑顔になり


「もしかして、もう自由なの?!」

「逃げなくてもいいのね?」

「やっと自由か!」


 ピコラとリコラとガバルはキラキラした目をしているが、エリソンだけは


「勇者?それ、大丈夫なのですか?」


 一人だけ、真剣な顔だ。


「エリソン。心配いらないよ。今回の勇者は魔族を嫌ってないから大丈夫だ」


 詳しい話はさておき、今は子供達を安心させたい。


「アルプ、お疲れ様。そっちにいるみんなは無事なんだな?」


 フィアールや、ソワも……あいつらも。


『みんな無事です。影響下の土地だったので、全魔族、マハト様の報告よりも前に解放に気づきました。今から宴です!』


 アルプも興奮気味だ。


 ——良かった。


『それから、マハト様からの伝言をお伝えします。「種族長会議」を開催するので、料理を頼むとのことです』


 種族……会議ってことは会食か?


『あと少ししたら、私は一旦帰宅しますので、詳しくはその時に。折り返しは不要です』


 アルプはそう言って、慌ただしく通信を終わらせた。


「よし、とりあえず、今日はお祝いだな?」


 俺が声を掛けると、子供達は喜びすぎて興奮したのか、きゃーっと奇声を上げながら、部屋の中を走り回った。




 ***




 種族長会議は、マハトの別荘で開かれた。


「慌ただしい中、集まってくれてありがとう。分かっていると思うが、先日、魔王が倒れたから今後のことだ」


 集まって来たのは、各種族の族長達だ。


「思うことはそれぞれあるだろうが、とりあえず今日は、各部族の被害状況の把握だ」


 アルプから、族長達に書類が配られていく。


 俺はアルプから渡された、各種族の好物が書かれているメモを確認しながら、族長の前に飲み物と茶請けを置いていく。



「失礼致します。お茶請けにどうぞ」


 元からお得意様だったトビ族の族長と、フィアール(紡糸スパイダー)、ソワ(紬族)は、俺の料理ならなんでもいいらしい。


「お?これはなんだ?」


 フィアールは、出された皿を見てワクワクしている。


「こちらは、魔豚のベーコンとランバグラスとパミドルのキッシュになります」


 今回の茶請けは、キッシュかパイにした。


「まあ、彩りが素敵だわ」


 ソワは見た目にも拘るから、断面がカラフルなキッシュが気に入ったようだ。


 馴染みのメンツは、いつでも食べられるだろうから、敢えてシンプルなキッシュにした。



「失礼致します。こちらは、硬魔牛を使ったミートパイです」


 レーヴェ(パンテラ族)とライカン(人狼族)はがっつり肉食なので、塊肉がゴロゴロ入ったミートパイにした。


「肉か!ほぅ……いい香りだ。先日のスタミナ丼もめちゃくちゃ美味かったし、これもかなり期待できるぞ」


 レーヴェは隣にいる同じく肉好きの人狼族と、仲良く歓談中だ。



「お待たせしました。こちらはシーフードクリームのグラタンパイです」


「あら?それぞれちゃんと違うのねぇ。ユーちゃんのお料理はね、なんだって美味しいから楽しみなのよぉ〜♡」


 魚介好きのジェリコ(ラマンティーヌ族)は、隣の皿と見比べながら、隣にいる魚好きのフェリス(猫霊)に話しかけている。



「……お口に合うといいのですが……」


 俺は、主に虫を好むパッと見が爬虫類のラガルト族と、蝙蝠人間のサキュバスの前には、


「クナールとワームのキッシュになります」


 これは、全く味見はしていない。


 爆発ナッツと立派なワーム、シュクレルートをしっかり炒めて、チーズと卵で閉じ込めたキッシュだ。


「……我の好みを知っているのだな。その心配り、礼を言おう。感謝する」


 ラガルト族の族長は、長い舌をピロピロしながら頭を下げたら、隣のサキュバスも一緒に会釈した。


 ——なんか、みんな性格がいいな。


 俺は会釈を返し、一番作り方に悩んだ皿を、アタナシア(不死の者)の前に置いた。


「こちらは、魔素のタルトです」


 彼女は魔素しか摂取出来ないので、液体魔素を型に入れて凍らせタルト型にし、クリーム状にした液体魔素を甘く味変した特別仕様だ。


「……スゴイ、コレナラ、タベレル」


 アタナシアは、喜んでいるのか存在が薄いはずが、少しだけ濃く薄くと点滅している。



 ***



「食べながらで構わない。魔王の支配から解放されたが、魔族は今、まだ混乱中だ」


 マハトの一声で、緩んでいた空気感が引き締まった。


「解放された瞬間、皆も魔王が倒されたと理解しただろう」


 族長達は、頬がこけ目が窪んだ顔をしてはいるが、どことなくスッキリしている。


 ——本当に大変だったもんな。


「討伐に集まっていた者は、ユージンの料理もあるからと、宴を開いた者もいたな」


 初めて会う族長達が、あの料理もこの料理人が?とチラチラ俺を見てくる。


 ——なんか、気恥ずかしいな。


 俺は、族長と目が合うたびに曖昧にヘラッと笑って見せた。


「しかし、その後、疑問が湧いた者も多くいるはずだ」


 マハトの声のトーンが下がり、会場内にピリッとした緊張感が走る。


「そうだ!勇者は、北からくるんじゃなかったのか?いつの間に魔王を討伐したんだ?」


 レーヴェが代表して声を上げた。


 ——北山の関所には討伐に集まったもんな。



「それを今から説明する。皆には話を聞いた後、どうするか聞こう」


 マハトは、魔王を退けるために勇者と手を組んだことを嘘偽りなく皆に伝え、


「全ては、俺の独断だ。覚悟は出来ている」


 マハトは、族長達に頭を下げて、これからの判断を仰いだ。


 ——他の魔族は、どう捉えるかな。



「勇者と……」

「それは……裏切りでは?」

「本来なら、魔王は絶対だが……」


 マハトの話の後、口々に困惑した言葉を口にしている。


「本来なら、魔族が魔族を裏切るなんてありえないわ。仲間を裏切るなんて、重罪よ」


 ジェリコは、ハッキリとマハトが罪を犯したと突きつけた。


 ——ジェリコ、お前がその役目なんだな。


 一言も反論はせず、マハトはジェリコを真っ直ぐ見つめて首を縦に振る。


 マハトは、自分の判断が本来なら罪であることを認めているんだ。


「でも、我々魔族は、身勝手な魔王をかなり恨んでいただろう。マハトがいなければ魔族の国はとっくに崩壊していたはずだ」


 ラガルト族の族長は、マハトのことを擁護している。


 ——本当に苦労したから、擁護は当然だ。


「側近だったセルヴォとシエルボすら、魔王が討伐された後は、歓喜に涙していたな」


 フィアールが笑いながら、魔王の配下の話をしたので、少しだけ緊張感が緩んだ。


「マハトに感謝をすることは沢山あるけど、誰も彼を責められないはずだわ」


 ソワも、マハトをしっかり擁護する。


「勇者にいいところを掻っ攫われたのは気に食わないが、マハトが魔族を思ってやったことだと、みんな理解しているよ」


 人狼のライカンも、真面目な顔をしているマハトを見て、フッと笑った。


「北山で暴れたかった魔族が、多少の文句は言ったけど、後から全力のマハトに相手して貰ってぼろぼろな姿で満足していたよなぁ」


 サキュバスは、ラガルト族と共に、レーヴェとライカンを煽っている。


「やかましい!お前達みたいな穴倉にいる奴に、俺たちのワイルドさは理解できまい!」


 レーヴェは噛み付かんばかりに文句を言うと、ジェリコに向かって


「ジェリコ、マハトが悪くない事は、お前が一番分かってるんだろ?茶番はいらん!」


 と、一喝した。


「そうね。確かに茶番よね。マハト、良かったわね」


 他の族長も頷いていて、マハトを罪に問うつもりは全くないようだ。


 ——魔族は、仲間思いだな。


 俺は、少しだけマハトが羨ましく感じた。



「失礼致します。お話が落ち着いたようなので、私から、ちょっと皆様にお伝えしたいことがあるので、お時間をください」


 部屋の隅で待機していたコルージャが、挙手をしてから発言した。


「コルージャ、頼む」


 立ったまま頭を下げていたマハトは、姿勢を正し、コルージャに話を振ると、ようやく着席した。


 ——とりあえず、話はひと段落か。


 マハトが悪く捉えられなくて良かった。



「では、私が知った事実をお伝えします。今から資料もお配りしますが、こちらは目だけ通して下されば充分です」


 資料は俺にも回ってきたが、目を通すより先にコルージャが話し始めた。


「今まで、魔王が魔族を支配するのは当然でしたが、実は『魔族を支配下に置く装置』が存在していました」


 ——どんな装置だ?魔術具だろうか。



「は?」

「装置とは?」

「なんのことだ?!」


 俺は何となく話を聞いていたから、驚きは少ないが……


「今までの王位継承は、装置の継承を意味することだったようです」


 コルージャが語る今まで聞いたことすらない内容に、みんなは目を丸くした。


「は?」

「装置とは?」

「なんのことだ?!」


 コルージャの言葉の意味を理解したくない族長達は、その場で固まった。

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