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異世界リストランテ『ピッコラ』  作者: 黒砂 無糖
腹が減っては戦はできぬ

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フラグを立てるな!


「全魔族『北山の関所』に集結せよ」


 魔王から魔族への通達から三日。


「ユージンは基本的にこの部屋を使ってくれ。しかし、炊き出しがあるかないかで、兵士のヤル気に違いが出るよな」


 マハトに連れられてきた俺は、北山の関所の大広間で、炊き出し用のキッチンを取り出して準備を始めた。


「腹が減っては戦はできぬって言うしな」


 あれから俺は、作れるだけ料理を作り、鞄に詰めて持ってきた。ここでは、簡単な物を作るつもりだ。


「はは、なんだそれ?なんかいいな!」


 マハトはことわざが気に入ったのか、わざわざアルプにメモをさせていた。


「ユージン!元気だったか?!」

「ユージン、ご無沙汰してます」


 フィアールとソワが部屋に入ってきた。


「二人ともこっちに来ていたんだな?あの時はありがとう」


 二人のおかげで、ログハウスが守られた。


「子供達は一緒じゃないのか?まさか、何かあったのか?」


 フィアールはピコラ達がいないことに気がつき、心配しているのだろう。


「前線は危ないから、コルージャに任せて置いてきただけだよ」


 ピコラがまだ全快していないからだけど、わざわざ言わなくていいだろう。


 地下にはジェリコ部隊もいるから安心だ。


「そうか、しかし、お前さんは……こんなところにいていいのか?」


 フィアールは、俺が人間のままだと思っているし、今回の作戦のことは知らなかったな。


「俺は飯作るだけだから大丈夫だ」


 建物付近には、全魔族が集結しているから、迂闊に喋れない。


 ——申し訳ないが黙っておこう。


 俺は曖昧に笑い、炊き出しの準備を始めようと鍋を取り出した。



 ガチャリ



「マハトちょっといいか?って、ユージン、お前、無事だったんだな?」


 マハトに用事があったのか、セルヴォとシエルボが部屋に入ってきた。


「……久しぶりだな」


 なんて言うか、助けてもらいはしたが、この二人の扱いは面倒くさい。


「料理人のお前が、なんでこんなところにいるんだ?」


 シエルボにジロジロ見られて、気分が悪いが、その目に悪意はない。


「ユージンは俺の隊の後方支援だ」


 マハトが話に割って入ってくれたので、俺は黙々と準備をする。


「セルヴォ様、マハトの後方支援部隊では魔素の回復ができる兵糧があると噂に……」


「何?それは本当か?」


 二人はコソコソ話しているつもりなのだろうが、丸聞こえだ。


「俺の料理なら回復するものがあるぞ。でも、お前達は魔王直属の部隊だよな?」


 俺は意地悪く、お前らは魔王の部下だと強調した。


「俺の部隊以外には、料理は届いてないぞ。ユージンの料理は美味いだけじゃなく、回復も凄かったな」


 マハトも、俺の言葉に乗っかり料理の自慢をする。


「そ、そんな……」

「う、羨ましい……」


 セルヴォは酷くショックを受けている。


 料理を前にすると、この二人は随分扱いやすくなった。


 ——そろそろ許してやるか


 マハトと目を合わせ笑っていたら、また部屋に誰かが入ってきた。



「マハト様、この配置……おい!お前、もしかして、魔王様に嫌われた湖の料理人か?」


 やたらとでかい声で呼ばれたので思わず振り返った。



「え?……」


 ……ライオンの獣魔族?


 デカいし、目はギラギラしている。


 ——うわ、コレは怖い。


 明らかに強そうだし、俺を狙っている。


「おい!どうなんだ?!」


 瞬間的に俺の目の前に移動してきたライオンが、ぐわっと拳を振り上げた。


「待て!やめろ!」


 セルヴォが叫び止めようとしたが、パンチはすでに繰り出されている。



 ——あ、これ、当たったら死ぬ



 俺にめがけて振り下ろされる拳を、スローモーションのように感じていた。



 ゴツッ



 怖くて咄嗟に目を閉じた、骨に鈍く響く音がした。



 ——あれ?痛くない



 そっと目を開けたら



「……レーヴェ、お前は何をしているんだ」


 マハトが、レーヴェの拳を片手で掴んで止めていた。


 ——マハト、いつの間に


「グッ、ま、マハト……」


 レーヴェの拳がギシギシ音がする。


 助かったけど、マハトはレーヴェより遥かに早いのか?


 ——その事実に驚きだ。


「マハト、離せ。コイツは魔王に逆らったんだぞ!序列を無視する奴は秩序が乱れるから、潰せと言われたんだ。だから離せ」


 レーヴェは、掴まれている手を引こうともがいているが、マハトは離さない。


 ——あれ?こいつ、真面目なだけか?


 もしかしたら、真っ直ぐなだけなのかも。


「レーヴェ、ユージンは俺の仲間で味方だ。これ以上手を出すなら、俺が相手になるぞ」


 手は解放されたが、マハトに睨まれ、レーヴェは耳を伏せ勢いをなくす。


「マハト……でもよ、魔王の命令だぞ?」


 レーヴェは、命令に忠実な魔族のようだ。


「レーヴェ、あれは魔王の我儘な気まぐれだから……その、気にするな」


 なぜかセルヴォが、困惑しているレーヴェをフォローしている。


「あん?ああ! セルヴォ?!お前……ちくしょう! 俺はあの時はめられたのか!!」


 ログハウスに来ていた魔族を追い払ったのはセルヴォだ。


 レーヴェは、セルヴォ達に騙されていたと気がついたようだ。


「レーヴェ、ユージンは何も悪くない。お前の隊のバーサーカー気質を、魔王に利用されただけだ」


 マハトも、レーヴェをフォローし始めた。


「……ちょっとした行き違いです」


 セルヴォは気まずそうに、レーヴェから目を逸らしている。


「んだよ、ちくしょう……おう、お前、料理人、あー、なんだ。悪かったな」


 レーヴェは、しどろもどろになりながら俺に謝ってきた。


 ——悪い奴じゃなさそうだ


 魔族は仲間を大切にするのかもしれない。


「レーヴェ、お前にはいつも冷静に考えろと言っているだろうが。真っ直ぐなのは利点だが、ちゃんと判断をしろ」


 マハトがため息混じりに忠告をした。


「そうですよ、相手をちゃんとみなければ痛い目を見ることになる」


 ずっと様子を伺っていたフィアールが、急に話に参加した。


 レーヴェは糸をフリフリしているフィアールを見て、嫌な顔をした。


「あーもう、お前の糸はもう懲り懲りだ」


 ぎゅっと鼻の頭に皺を寄せてレーヴェはフンと鼻を鳴らした。


「あなたの部下にも、縛られたくなかったら、無駄にユージンに絡まないようによく言っておく方がいいわよ」


 レーヴェはソワにも忠告されている。


「分かっている。あの時は済まんかった」


 やれやれとばかりに、レーヴェが背を向けて部屋を出ようとしたが、


「ユージンが今から料理するから、お前入り口見張っておけ」


 マハトに命じられ、レーヴェは不服そうに


「なんで料理人を護衛するんだ?」


 凄くもっともな質問をした。


 ——俺も同じ気持ちだ。


「まあ、そのうちわかるだろう。どうせ暇だろ?とりあえずやれ」


 マハトに追い払われたレーヴェは、渋々大広間の扉の前にスタンバイした。




 ***




「まずはスタミナ丼だな。下準備に醤油、みりん、酒、砂糖、おろしニンニク、おろし生姜、ごま油を混ぜて……」


 部屋には、俺の知り合いしかいない。


 各々が情報交換しているのが見て取れる。


「大鍋にニンニクとごま油を熱し香りを出したら……よし豚肉を炒めるぞ」


 ジュワワァ


 弾ける音と共に、部屋いっぱいに香ばしい香りが広がる。


「ああ……この香りは……」

「セルヴォ様、この香りはダメです。何も考えられなくなります」


 なぜか部屋に居着いたセルヴォとシエルボが、うっとりしている。


「そろそろだな」


 マハトは、なぜかニヤニヤしている。



 ドン!!ゴン!!



「ああ?文句あるか?誰も入れるなってマハトに言われてんだよ!」


 外からレーヴェの怒鳴り声がする。


 香りに釣られて魔族が覗きにきたようだ。


「よし、肉の色が変わってきたな。そろそろ一緒に玉ねぎを炒めて、少し透き通ってきたら、混ぜて置いたタレを投入すると……」



 ジュワワワワァ〜



 これだけで旨い。確定の香りが爆発的に広がった。


「ああ……」


 セルヴォとシエルボは、目を閉じてただ香りを楽しみ始めた。



「おい!馬鹿、やめろ!くそっ」


 ドカッ、バキッ、ドシャッ



 扉の外では、何が起こっているのか……


 ——見なくてもわかるな


「最後にニラを入れ、サッと火が通ったら保存だ。後は飯にかけるだけだが……」


 ——トッピングが欲しいか


「卵はいっぱい持ってきたし、温泉卵とマヨネーズでも作るかな」


 俺は鍋にお湯を張り、状態保存をかけて卵をザルに入れゆっくり漬けた。


「何してるんだ?」


 マハトが近寄ってきた。


「温泉卵だよ。これ、かなり旨いぞ」


 マハトは袋を突いている。


「マハト、これ見てみろよ」


 俺は料理がたんまりと入った袋をマハトに見せるために渡した。


「うぉ?!こんなに?凄いな」


 マハトの目がキラキラしている。


「アルプ、頼めるか?」


 俺は、シーサーペントの唐揚げ串を取り出し、部屋の中にいるメンバーに渡すようにお願いした。


「あいつらにも渡してやってくれ」


 アルプは俺の意図を理解して、セルヴォとシエルボにも唐揚げ串を渡した。


 二人は唐揚げ串を手に、俺を拝み始めた。


「……良かったのか?」


 マハトの目が、許さなくても良かったぞ?と言っているので


「みんな解放されたら、どっちにしろ宴会が必要だろ?そのための料理だ」


 俺は小さな声で、こっそり伝えた。


 ——それが早くなっただけだ。


「はは、勝ったら宴か!そりゃいいな!」


 マハトは、楽しそうに笑い、唐揚げ串に齧り付いた。


「ま、俺は飯作ったらさっさと帰るけどな」


 後数品作ったら、俺はお暇する予定だ。


「ユージンは、宴には参加しないのか?」


 フィアールが唐揚げを片手に、上機嫌に俺に話しかけてきた


「ああ、俺は帰るよ。きっと子供達が心配して待ってるからな」


 分かっていても、心配する子達だから……


「それは……そうだな帰らなきゃな」


 マハトは優しい顔をして笑った。




 ***




 北山の関所は、マハトから任されたセルヴォが種族ごとに持ち場を決められていく。


 マハトとアルプ以外を部屋から追い出し、内緒で着々と宴の準備を進めていたら、マハトの通信具が光った。




「あーくそっ、ついに呼び出しだ」



 ついに、魔王にバレたようだ。



「マハト!!何をしている?!今すぐ戻れ!襲撃だぁ!」


 パニックになった魔王の叫び声がするが、あらかじめ音量を下げていたからか、か細く聞こえてきた。


「分かった。すぐに戻る」


 マハトは魔王に対して一言だけ言葉を伝えると、俺に振り返り


「ユージン、とりあえず行ってくる。帰ったら釣りに付き合えよ。後、絶対俺も海でBBQをするから、必ず準備して待ってろよ」


 マハトは俺に背を向け、手を振りながら、広間の横の部屋にある転移陣の上に立つとあっけなくフッと消えた。



 なあ、マハト、それってフラグ……

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