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異世界リストランテ『ピッコラ』  作者: 黒砂 無糖
腹が減っては戦はできぬ

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魔族の秘密?と作戦会議


 ——勇者がいる?!


 シュピンネは、俺とマハトが絶句した姿を見て、フッと笑顔を見せた。


「バカな!勇者だと?!そんなはずはない」


 マハトの驚きはもっともだ。


 人間側に被害が出ていないなら、本来なら勇者は召喚されないはず……


「本来ならそうですが、少し前に、人間の国で勇者召喚の儀式が行われたらしく……」


 ——なんでわざわざ?


 被害はマハトが食い止めていたんだ。勇者召喚の必要なんてなかったはずだ。


「マハト……勇者が来ると、全魔族が有無を言わさず戦うことになるんだよな?」


 魔族は、魔王の命令には逆らえない。


「……かなりヤバいな」


 マハトは、ギリっと奥歯を噛み締めた。


 勇者の存在は、魔族達からしたら悪夢でしかない。


「マハト、どうするんだ?」


 俺は、これからどうなってしまうのか気になったが、マハトは即座に判断したようだ。


「アルプ!すぐ部隊に報告を!」


 アルプに指示を出し、マハト自身も通信具に手をかけた。


「ああ!お二人とも待ってください!話はまだ終わってません。大丈夫ですから!」


 シュピンネが、慌てて立ち上がり、叫びながら二人を止めた。


「何がだ?!大丈夫なわけないだろ!!」


 マハトは、シュピンネに反発したけど


「私は勇者に実際に会ったので大丈夫です!勇者はただの少女で、人間の特殊部隊が保護していました!」


 勇者が少女だと聞き、通信具から手を下ろしシュピンネに向き直った。


「勇者が少女?転移者だよな?詳しく話せ」


 マハトは、警戒心を残したままシュピンネに話をするよう命じる。


 ——マハトの警戒は当然だ。


 たとえ少女でもチート能力ならマズい。


「勇者を『保護』ですか?召喚された勇者は、あり得ないくらい強いはずですが……」


 シュピンネの話に違和感を感じたアルプは、連絡をする手を止めた。


 ——確かに。保護は必要ないよな


 俺もアルプに同意見だ。


「それが……私もお会いしましたが、あくまでも普通の少女でした。あ、いえ、女神のような人でした」


 シュピンネはわざわざ女神と言い直した。


 ——女神ねぇ


 頭の黒板のせいで、女神と聞くとハイテンションな女神を想像してしまう。


 シュピンネの言う女神とは違いそうだ。


「は?普通か、女神かどっちだ?」


 ニヤつくシュピンネを見て、マハトは苛立ったのか声のトーンがいつもより下がった。


「そ、その、ふ、普通です!可愛らし……んんっ、失礼しました。——勇者は、我々にかなり同情していました」


 シュピンネはだらしない顔で余計なことを口走り、マハトに睨まれたので、慌てて急に真顔になった。


 ——シュピンネ好みの可愛い子か?


 マハトはシュピンネの言葉に、睨みつけていた眼差しをさらに強くした。


「勇者が同情していただと?」


 マハトは同情と聞いて、すごく不愉快な顔をしている。


 今の魔王軍の状況はどうあれ、ぽっと出の勇者なんかに同情はされたくないか……


「……勇者が平和な世界からやって来たのなら、同情は仕方がないかもな」


 魔王軍があっちの世界にあったなら、だれもが嫌悪する『超絶ブラック企業』だ。


 日本から来た少女なら、魔族に同情するのは当然だと思う……


 ——俺は勇者の気持ちがわかるぞ。


「そんなもんか?」


 マハトが俺の呟きに反応したので、目を見てしっかりと頷いておく。


「そんなもんだ」


 マハトは俺が転移してきたことを知っているからか、


「転移者なら、仕方がないのか……」


 腑に落ちないながらも、納得したようだ。


「……勇者は、魔族をどうこうするつもりはないらしいです。でも、魔王に対してはかなり怒りがあるようでした」


 シュピンネは、俺とマハトのやり取りを見た後、引き続き話を続けた。


「どのような形で召喚されても、勇者は、魔王とは相容れないのだな」


 マハトは、勇者と魔王だから理解し合えないと考えているようだが


「いや、それは多分違う……」


 俺は、どうしても一言物申したかった。


「単に、魔王がドクズだからだと思うぞ」


 だから勇者も同情したんだと思う。


 そもそも、魔族の気質が日本人に似てるから、なおのこと痛みがわかるんだ。


「あ、ああ、それは確かに……」

「ドクズ……」


 マハトとアルプは遠い目をした。


「私もユージンに同意です。それから、ペリル様は、近いうちに魔王の捕縛と『装置』を破壊すると言っていました」


 シュピンネも魔王が悪いだけだと感じているようだ。サラッと流して話を先に進めた。


「装置ってなんだ?」


 マハトも知らない物を、なぜ人間側が知っているんだか……


「あ、申し訳ありません聞き忘れました」


 シュピンネは聞いただけで、とくに深掘りはしなかったようだ。


 ——装置って、魔王に何か関係あるのか?


「なんだ?まあ、聞けば分かるか」


 マハトは、とりあえず後から聞けばいいと判断し、シュピンネに話の先を促した。


「お手数おかけします。もう一つ重大な話ですが……魔人族と人間との違いは『魔石があるかないか』だけだと言われました」


 ——いや、だからなんで人間が知ってる?


「まて、待て待て、なんのことだ?」


 マハトは、言われた意味が理解できなくて、シュピンネに聞き返したが


「しかも、人間になりたければ、魔人族の『魔石を抜けばいい』と言われました」


 シュピンネは、ちょっと興奮気味に魔族を人間にするやり方を語る


 ——俺にも魔石があるのか?わからんな。


「はぁ?魔族から魔石を抜くだと?そんなことしたら死ぬだろ」


 マハトは信じられないとばかりにシュピンネに反論している。


 ——魔族、魔石を抜くと死ぬのか?


 困惑するマハトを見ながら『魔石を抜けば人間に戻れる』ことについて考えていた。


「魔石を抜くと命を落とす。魔族ではそれが常識です。しかし、聖女の立ち会いで即座に癒せば可能だと……」


 要するに、後付けの器官なのかな?


 俺も人間から魔族に変化したわけだし……


「魔人族が人間に……」


 マハトはまだショックから立ち直れないようだ。アルプが心配そうに主人を見ている。

 

「魔王討伐に聖女も来るなら、ユージンは人間に戻れるな……」


 不意にマハトは顔を上げ、俺のことを見た。


「確かに、戻れる……よな?」


 ——あれ?俺どっちがいいんだ?


 マハトから、自分が人間に戻れる可能性を突きつけられたが、なんだかピンとこない。俺自体には、なんら変わりがないから——


 ——種族などぶっちゃけどっちでもいい。


「聖女には終わったらお願いするとして、マハト様が以前から言っていたように、やはり魔族は人間と争う必要はないのです」


 シュピンネも人間と争う気はない。


 ——平和になるなら、人間に戻りたいか?


 ま、今考えることじゃないな。この先も、ここで生活するんだ。


 真剣に考えておくべきだな。


「マハト様、バカを玉座から引き摺り下ろすチャンスです。これ以上魔族の被害者が増えないように、ペリル様に協力しましょう」


 とりあえず、魔王討伐が先だが……


 マハトはシュピンネの意見に賛成のようだし、恩人の魔導師と手を組むつもりだ。


「魔王を引きずり下ろす策はあるのか?」


 魔王に支配された中では、分かっていても思うように動けないよな?


「そうだな……可能な限り、魔族と勇者は引き合わせたくないな」


 俺が勇者に出会ったら、認識した瞬間に即消されるモブだろう。


「せめて、力が弱い魔族を優先的に避難させられませんか?」


 ずっと黙って聞いていたアルプが、魔族の避難を訴えた。


 ここは今では避難所になっているから、アルプは気にしているのだろう。


「でも、避難する際に怪しまれませんか?」


 シュピンネの心配はもっともだ。現にアマイゼは過激な連中のせいで酷い目にあっていた。


「失礼、先程から少し話を聞かせて頂いておりましたが、避難ではなく『北山の関所』に集結させれば良いかと」


 いつから話を聞いていたのか、コルージャが話しかけてきた。


「そうか!魔王と魔族を騙して引き離し、油断させたところに勇者を引き込むんだな?」


 マハトはサッと理解したが、俺には詳しくはわからないが、魔王を騙すことはわかる。


「どんな作戦だ?」


 俺の言葉に、マハトはチラッとコルージャを伺い見た。


「では、私が説明を……魔王城よりも北にある、ここの『北山の関所』に兵士と全魔族を集結させるだけです」


 コルージャは、地図を広げ指差しながら説明してくれた。


「確か僻地だと、魔王の支配力が薄いんだよな?魔王は嫌がらないか?」


 なのに、どうやって集めるんだ?


「魔王と魔族には、歴史通り勇者は魔王城を目指して北から来ると伝えるのです」


 え?それだけ?


「いや、それじゃ無理だろ……」


 さすがにもうちょっとあるだろう?


「北の大地は魔王の影響力が確かに弱いが、勇者を迎え撃つためだと言えば、暴れたい魔族は集結するぞ」


 マハトは、馬鹿なんだよと言わんばかりに、ウンザリした顔で補足した。


「でも、そんな簡単な話に乗るのか?」


 いくら魔族と魔王がバカでも、さすがに怪しいと思うだろう。


「ユージン、歴史通りなら、本来なら勇者は北から回って魔王城に来るんだ」


 把握できていない俺に、マハトが追加で説明してくれる。


「人間の国からこう来ると、魔王城に来るまでに、多くの魔族を倒しながら進むことになるんだ」


 マハトが指を滑らす地図を見ると、魔王城は最北端に位置している。


「それだと大変だから、こっちの最短距離で向かえる『北山の関所』から勇者が来るのがセオリーなんだ」


 そうか、それなら話が通じるか。


 でも、勇者との共同戦略なんて、バレたらマハトの信用が終わるよな……いいのか?


「魔族は分かったけど、魔王は護衛が減ることに納得するのか?」


 あのタイプは、真っ先に自分だけを守ろうとするだろ?


「ああ、魔王はバカだから結界があると言えば、今は色ボケしてるから大丈夫だろう」


 用心に越したことはないよな……


 ——媚薬飴、もう少し強力にしておくか


 俺は、マハトに渡す追加分の媚薬飴の濃度をもう一段高めようと考えた。


「では、手薄になったその隙に、勇者を今の古城に直接向かわせるのですね?」


 シュピンネは明らかにワクワクしている


「勇者は、魔族を解放する術を知っています。解放されるまでは、力がある者は北にいたほうがいいでしょう」


 古城から離すなら、魔族を北に集めるのは効率がいいな。


 ——俺は、どうしようかな


「仕込みをしたら俺も北に向かうが、解放されてしまえば、俺も自由に動ける。先に、集結の通達は魔王から出させるか」


 マハトの考えを誰よりも理解しているアルプは、さっきから下を向いて鞄の中身を色々入れ替えている。


「マハト『北山の関所』には俺も行くよ。兵士の兵糧は任せろ。炊き出しをしてやる」


 俺は、争いに行くわけじゃない。


 ——疲れた魔族を労いに行くんだ。


「え?いいのか?」


 マハトは、驚きに固まった。アルプですらギョッとしている。


「ああ、パフォーマンスは必要だろ?」


 マハトの後方支援がわざわざ前線に来たら、信憑性が高まるはずだ。


「フッ、せっかくだから魔族達に、美味いもの食わせてやってくれ」


 マハトは、俺の肩をポンと叩くと、数ある通信具を手にして一斉に連絡を入れた。


「報告だ。転移勇者が現れた。詳しくは追って連絡をする」


 そう指示を出したマハトは、ニカっと笑って魔王を騙すべく飛び出して行った。

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