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異世界リストランテ『ピッコラ』  作者: 黒砂 無糖
腹が減っては戦はできぬ

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勇者がいるらしい


 ピコラの部屋まで食事を届けた後に、薬膳料理を地下拠点に持っていくと、


「ユージン様、先日の負傷兵がお話があると言っていますが、お時間ありますか?」


 拠点に入るなり、ジェリコの部下から声を掛けられた。


「俺に話? 分かった。とりあえず傷が酷い負傷者には、これを食べさせてくれ」


 門番をしているジェリコの部下に案内されつつ、鞄を渡すと、


「これは粥ですか? ……食事がままならない者もいるので、粥は助かります。では、どうぞこちらへ」


 鞄の中にあるのが、療養用の粥とスープだと知ると、お礼を言いつつ案内してくれた。


「アマイゼ、ユージン様を連れてきたぞ」


 ——様はつけなくていいんだが。


 どうせ言っても無駄だよな……


 地下拠点の奥にある回復室で横になっていた負傷兵は、ジェリコの部下から声を掛けられ、俺を見るなり、


「あ、も、申し訳なかった。あの……あの時の子供は大丈夫ですか?」


 痛む体を無理やり起こしながら、ピコラの心配をしていた。


「一時は危なかったが、もう大丈夫だ」


 口では大人な対応ができていたけど、俺は咄嗟に拳を握った。


 こいつに会ったら、絶対文句を言ってやろうと思っていたのに……


 ——必死に謝られたら、文句が言い難い



「……無事でしたか。 良かった。改めまして、私はシュピンネの部下アマイゼと申します」


 ——マジか


 ピコラを襲ったのは、シュピンネの部下だったのか……


 知人の部下だと、責め難いじゃないか。


「俺はユージンだ。話ってなんだ?」


 俺はまだ、お前を許せてないんだが……


 モヤる気持ち抑えて握った拳を開き、とりあえず話を聞く。


「不躾なお願いだとは心得ております。ですが、至急マハト様に連絡をしていただくことは可能ですか?」


 アマイゼは焦っているのか、全身の痛みに耐えながら声を絞り出している。


 ——こいつも、かなり傷が酷いな。


 土地柄か、回復がかなり遅くなってる。


「その前に、なんでピコラを攻撃したのか、ちゃんと教えてくれないか?」


 パニックになっていたとは聞いたが……


 怒りが収まってはきたが、ピコラの怪我に納得しているわけじゃない。


「申し訳ありませんでした。私はマハト様を探しながら人間の国から移動したのですが、あの日、魔王の手下に捕まり……」


 アマイゼは今の痛みだけでなく、思い出した苦痛までも感じたのか、顔を歪めながら当時の理由を話していく。


「私は囮として争いの前線に投げ出され……必死に逃げたのですが、矢傷から回った毒に視界が閉ざされてしまい……」


 ——同族を囮に? かなり非道だ。


 魔族らしい魔族もいるんだな……


 ——俺は今までかなり恵まれていたのか。


「視界が塞がれた私は、あろうことか、助けようとした心優しい子供を敵と勘違いし、愚かにも……攻撃してしまったのです!!」


 アマイゼは涙を流しながら、悲鳴のように言葉を吐き出している。


 後悔が募っているのだろう。


 ——これは……責められない。


 許し難いが、正直、状況的には難しかっただろうと同情してしまう。


「……マハトに用事があるんだな?」


 俺はアマイゼにあえて何も言わなかった。


 目の前の魔族は、ピコラを傷つけたことで心も酷く傷付いている。


 だが、同情の言葉を口にすることはない。


「はい。早急に、マハト様にお伝えしなければならないことがあるのです」


 アマイゼはハッとして、自分の使命を全うするべく、気持ちを切り替えたのか、痛みに耐えつつ背を伸ばした。


「アルプ。手が空いているなら、マハトにアマイゼから『早急に伝えたいことがある』と連絡してくれ」


 お願いされたので、割り切ってその場でアルプに連絡を入れた。


『かしこまりました。折り返しご連絡いたしますのでお待ちください』


 アルプは一度通信を閉ざしたが、すぐに折り返し連絡をしてきた。


『ユージン、マハト様がお帰りになります。私は今からフリーゲンと共に迎えに行ってきます。話は直接聞くそうです。では』


 アルプは俺への通信は簡潔に済ませ、急いでマハトを迎えに行ったようだ。


「聞こえたか?」


 音を最大にしていたので、アマイゼにも聞こえたのか、ぐっと頷くと、なぜか指輪を使って通信を始めた。


 ——それも通信具なのか?


 かなり小さいが、便利そうだ。


「シュピンネ様、アマイゼです。マハト様に連絡が付きました。ユージン様に指輪を託してもよろしいでしょうか?」


 連絡している相手はシュピンネだった。



 シュピンネ、無事だったか……


 ——良かった。



「ユージン様、シュピンネは比較的ここの近くにいるようです。あとお願いなのですが、この指輪をマハト様に渡してください」


 アマイゼは自分の指から指輪型の通信具を取り外し、俺に渡してきた。


 ——随分と俺のこと、信用してるんだな。


 俺は文句を言うつもりだったから、少しだけ複雑な気持ちで通信具を受け取った。


「珍しい形だな。本当に通信具なのか?」


 普通の通信具は腕輪だ。


 こんなに小さく……器用な奴がいるんだな。


「シュピンネ様も、全く同じ通信具を持っています。マハト様に、これで連絡を……」


 シュピンネの部下は、使命を果たすとホッとしたのか気絶してしまい、その場にドシャッと崩れ落ちた。


「おい、大丈夫か?!」


 ——気絶したのか。


 後でフォキアに回復してもらうか。


 用事が済んだので地下拠点を後にして、家に戻った。


***


「ユージン、戻ったぞ。アルプから大体話は聞いた。色々大変だったな」


 外の調理場で魔物食材の解体をしていたら、フリーゲンに乗ったマハトがアルプと一緒に空から降りてきた。


「ああ、お前には色々伝えることがある」


 俺は一旦作業を止めて、解体中の食材を鞄にしまった。


 とりあえず託された指輪を渡さなければと思っていたが、


「ピコラは部屋か?」


 マハトはアルプに尋ねるや否や、足早にピコラの部屋へ向かった。


 コンコン。


「入るぞ」


 声かけと同時に、マハトは慌ただしく扉を開けていたので、ノックの意味がない。


 ——マハトも心配していたんだな。


「……ピコラは、大丈夫なんだよな?」


 部屋の中を覗いたマハトは、ぎょっとしてアルプに尋ねた。


 眠るピコラの側に心配そうに手を握るリコラとガバル、枕元には涙を流しながら回復魔法を使うエリソンがいたからだ。


「マハト様、ピコラは大丈夫。無事ですよ。エリソン変わりますね」


 アルプはエリソンと交代して回復魔法をかけ始めた。


 ガバルは、まだメソメソ泣いているエリソンを膝に抱えて抱き締めている。


「……うちの兵士が済まなかった」


 アルプから話を聞いたマハトは、子供達に頭を下げた。


「マハト、兵士から話を聞いたんだが……」


 俺はさっき聞いたばかりの兵士の話を、マハトと子供達にも伝えた。



 話を聞いた子供達は、一瞬の困惑と、同情を顔に浮かべると、お互いに顔を見合わせ


「見えなかったなら仕方がないわ」


「なあ、その兵士は大丈夫なのか?」


「僕が結界を渡せばよかったんだ……」


 ——思いは様々のようだな。


 だが、エリソンはお守りを渡さなかったことで自分を責めているようだ。


「エリソン。違う。誰も悪くないんだ。マハトもだ。謝るのはお前じゃない」



 ——悪いのは魔王だ。



「いや、アマイゼは俺の部下でもあるんだ。俺にも責任がある」


 シュピンネはマハトの部下だから、シュピンネの部下ならマハトの部下か。


 当たり前のことではあるが、今はそんなことはどうでもいい。


「……そうだ。マハト、ちょっといいか?」


 俺は頭を下げるマハトを強引に部屋の外に引き摺り出してリビングに向かい、アマイゼから預かった指輪を渡した。


「アマイゼから、マハトに通信具を渡すように頼まれた。シュピンネに繋がるらしい」


 マハトは受け取った通信具を不思議そうに見つめたが、行方不明の部下の名を聞き、


「シュピンネ? あいつ、無事だったのか」


 マハトは即座に使い方を理解して、通信を開始した。




「こちらシュピンネ……」


 シュピンネが繋がった瞬間、


「シュピンネ! お前、無事だったのか?!」


 マハトは驚きと安堵に叫んでいる。


 ——本当に無事でよかった。


「あ、マハト様! やっと、良かった!」


 シュピンネもマハトに連絡がついてホッとしたのだろう。少しテンションが高い。


「ん? なんだこれ。同時通話が可能?」


 マハトは通信具が普段使っているものと違うと気がついた。


 ——音声メールか通話かの違いだな。


 使い勝手は明らかに違うだろう。


「マハト様、こちらはペリル様ご自身が作成された通信具ですよ」


 シュピンネは、なぜか自慢げに話している。


 ——ペリル? 誰だそれ?


「あの方が? そうか、やっぱりさすがだな。お元気だったか?」


 マハトは知り合いのようだ。


 ——凄腕の魔導具師か?


 マハトは楽しそうに指輪を眺めている。


「はい。私達も、マハト様を助けてくださったあのお方に捕獲されました」


 ——捕獲って、捕まったんだよな?


 マハトを助けた……大魔導師か?!


「そうか、そうだったのか……あの方には世話になりっぱなしだ」


 話を聞いた感じ、ペリルとはマハトを助けてくれた大魔導師で当たりのようだ。


「シュピンネ、ムカエ、イク?」


 フリーゲンがマハトに擦り寄り、迎えは自分が行くかと尋ねた。


「そうだな、話は戻り次第聞く。シュピンネ、フリーゲンが今から迎えにいく。位置を教えてくれ」


 シュピンネの場所を把握すると、フリーゲンは外へ行き颯爽と飛び立った。




 フリーゲンがシュピンネを連れて戻ってきたのか、キッチンにいる俺の側に寄ってきた。


「ユージン、マハト、ヨンデル」


 フリーゲンはわざわざ俺を呼びにきてくれたみたいだ。


 リビングに向かうと、すでにソファにはマハトとアルプ、シュピンネが座っていた。


「揃ったな。シュピンネ、話を」


 マハトは俺を待っていたようだ。


 大人しく空いているソファに座ると、シュピンネは語り始めた。


「私はアマイゼと他の者と共に捕虜として捕らえられましたが……非常に手厚く介抱されていました」


 捕まりはしたけど、シュピンネ達魔族は安全に守られていたらしい。


「一足早く、アマイゼ達はこちらに向かったのですが、やはり時間がかかりましたね」


 シュピンネとアマイゼはコッソリマハトに連絡を取りたかったらしい。


「バレたらマズイのか?」


 ——同じ魔族だよな?


「人間との諍いを望む者が国境付近を中心に彷徨いているので、間違いなく争いに巻き込まれますから……」


 シュピンネは力無く笑う。


 アマイゼのやつは巻き込まれていたな。


「私は彼らより数日遅れて解放されたのですが、滞在中にペリル様から色々とお話を伺ったので共有させてください」


 アマイゼは深刻な顔になると意を決して、


「人間の勇者が召喚されています」


 そう、はっきり宣言した。

ここまで読んで頂きありがとうございました⭐︎

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