表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界リストランテ『ピッコラ』  作者: 黒砂 無糖
腹が減っては戦はできぬ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
69/80

特別なんだよ


「ユージン! お願い、助けて!!」


 リコラが、外の調理場に泣きながら駆け込んできた。


 ——何があった?


「落ち着け、リコラ。どうした?」


 泣きじゃくるリコラを宥めようと手を差し出したら、


「ここはいいから、早く来て! ピコラが死んじゃう!」


 リコラは俺の手を掴むなり、グイグイ引っ張って、山に向かって走り出した。


 ——なんだと?


「リコラ、ピコラが死ぬって、一体どういうことだ?!」


 俺はリコラと一緒に走っているが、トビ族は足が速いため、半分引きずられている。


「話はいいから、早く走ってぇ!!」


 リコラは、必死に俺の手を引っ張りながら走っていく。


 ——とにかく急ぐか。


 走ることに集中してリコラについていくと、藪を抜けた先に……


「ピコラ!!」


 ピコラは、明らかに重傷だった。


 右肩から下に向かって、半身を火傷した状態で倒れている。


「コルージャ!! 一体何があった?!」


 俺は混乱して焦るあまり、思わず近くにいたコルージャに怒鳴りつけてしまった。


「負傷兵が、ピコラに謝って魔法をぶつけてしまいました。この負傷者は、地下拠点に回収するよう連絡済みです」


 ——くそっ、なんてことを!


 コルージャが、静かに状況説明をしたので、俺は一旦冷静になろうと深呼吸をした。


 コルージャの足元を見ると、魔族の男は気を失っている。


「酷いな……」


 魔族の男は、げっそりとやつれ、服は破れ、あちこち血が滲み傷だらけだった。


 ——違う。こいつも被害者だ。


「ピコラには浄化と睡眠魔法をかけてあります。ポーションも服用していますが、アルプに頼んで早急に処置をお願いします」


 コルージャの説明を聞き、そっとピコラの小さな体を抱き上げた。


「ピコラ、すぐ連れて行くからな」


 ——振動が辛くないよう気をつけなきゃ。


 でも、一刻も早く家に戻らなければ。


「リコラ、先に帰ってアルプに怪我の状態と、状況を先に伝えてくれるか?」


 リコラはピコラが心配すぎて、ずっと俺のシャツの背中を掴んだままだ。


「分かった、行ってくるね」


 リコラは、俺から手を離し負傷していない側のピコラの手をぎゅっと握ると、涙を堪えたまま走っていった。


 目の前でピコラが負傷したんだ。


 ——リコラ、辛いな。


 慎重かつ足早に歩いていたら、地下拠点の兵士に負傷兵の引き渡しを終え、コルージャが追いついた。


「私がいながらこんなことになって……申し訳なかった」


 コルージャは、魔法で眠るピコラを見て心を痛めているのだろう。


 羽でそっとピコラのおでこを撫でた。


「コルージャ、一体、どうしてこんなことになったんだ?」


 俺はコルージャに詳しい話を聞いた。


「今日は山で、二人を連れてナッツを拾っていたのです。私から少し離れたピコラが、避難してきた負傷兵を見つけたのですが……」


 ——負傷兵に気付いてしまったのか。


 普段なら、ピコラはコルージャから離れることなどなかっただろう。


「急に目の前に現れたピコラに、負傷兵はパニックに陥り、敵と勘違いして魔法を……」


 コルージャはぎゅっと目を閉じて、


「……私のせいです。私の怠慢がこのような事態を招いてしまった」


 コルージャは酷く責任を感じているのか、視線を下げて俯いている。


 ——ピコラ、もうすぐ着くからな。


 目前には、家が見えてきた。


「コルージャ……気にするなとは言わないが、落ち込んだ姿を子供達だけには、絶対に見せないでくれ」


 特に、リコラは気にするだろう。


「そうですね。大人の私がしっかりしなければいけませんね。ユージン、ありがとう」


 コルージャは、気持ちを切り替え顔を上げ、先に玄関へ行き入り口のドアを開けてくれた。


「アルプ!! 戻ったぞ!」


 玄関口で声を張ると、


「ユージン! 部屋へ運んでください!」


 アルプは、準備万端で待ち構えていた。



 ***



「とりあえず、今できるのはここまでです」


 処置を終えたアルプは、脱がすために切り刻んだ服や、汚れてしまった鞄をまとめて、部屋の外へ運んでいった。


 処置にはかなりの時間がかかり、外はすっかり暗くなっていた。


「……ピコラ?」


 入れ替わるかのように、処置の間外に出されていたリコラが、部屋に滑り込んできた。


「ピコラ? ……ねぇ、起きてよピコラ」


 リコラは、ピコラがまだ眠ったままなことが信じられないようだ。


「リコラ、ピコラは起きると痛みがひどい。だから魔法で眠っているんだ。ゆっくり眠らせてやれ」


 ピコラの傷はかなり酷かった。


 当然だ。目の前で大人の兵士が全力で、火炎をぶつけたんだ。


「そんな……ユージン、ピコラは、ピコラは大丈夫だよね?」


 リコラは、俺に縋るように問いただす。


「大丈夫だ。だからリコラも少し休め」


 安心させるために頭を撫でてやるが、


「やだ。私、ここにいる」


 リコラはピコラのそばから離れない。


「リコラ、ちゃんと休まなきゃダメだ」


 正直なところ、ピコラの状態は良くない。


 アルプが『今夜が一番危ないでしょう』と言っていた。


 俺とアルプとコルージャで回復魔法を交代で、夜通しかけることにしている。


 ——リコラには教えられない。


「嫌よ! 絶対離れないもん!!」


 双子だからか、ピコラの状況が良くないことを理解しているのかもしれない。


 普段は聞き分けがいいリコラが、全く譲らなかった。


「……リコラ……って、リコラ?」


 ピコラのベッドの横に跪いていたリコラが、グラリと倒れてきたので慌てて支えた。


「可哀想ですが、リコラは眠らせました」


 アルプがリコラを眠らせると、後から部屋に入ってきたコルージャが、リコラを抱えて部屋に連れて行った。


「アルプ、助かったよ。ありがとう」


 あのままでは、リコラも倒れただろう。


「リコラは、ピコラが元気になるまで眠らせておきます」


 アルプは、硬い表情でピコラに近寄ると回復魔法を発動した。


 ——アルプも集中力の限界だろ。


「アルプ、ピコラの看護は俺がやる。だからお前は一旦休め」


 アルプは、ハッとして俺を見た。


「今はまだダメです。ユージンも仕事が忙しいですよね?」


 確かに普段ならこの時間は、追加の料理を作るが、そんなこと、今はどうでもいい。


「数日分の作り置きはある。代わってくれ」


 俺は強引にアルプと交代して、ピコラに回復魔法をかける。


「アルプ頼む。この後、コルージャに代わるから、とにかく一度しっかり休んでくれ」


 俺の魔力が尽きるまで、コルージャと代わる気などさらさらないが、今は、とにかくアルプを休ませたい。


「分かりました。確かに今の私は魔力が不安定なので、一度休ませていただきます」


 アルプは納得したのか、ペコリと頭を下げて部屋を出て行った。


 アルプのことだから、きっちり回復してから戻ってくるだろう。


「ユージン、代わりますよ」


 リコラを休ませたコルージャが、戻ってきたけれど、


「コルージャ、俺の魔力に限界が来たら呼ぶ。俺が一番魔力が弱いし、コルージャはアルプが来るまで長いから、今は温存してくれ」


 コルージャは、納得というより、俺の気持ちを汲んでくれたのだろう。


「分かりました。リビングで休んでいるので、いつでも声を掛けてくださいね」


 そう言って、そっと部屋を出た。


 パタンと扉が閉まる音が聞こえたら、俺の頬に一筋の涙が溢れた。


「……なんで、ピコラが傷付かなきゃならなかったんだ」


 ——ピコラは、俺の始まりの存在だ。


 何もかもなくなった俺を、ここまで連れてきてくれた子なんだ。


「絶対に治してやるからな」


 ——特別な存在なんだ。傷つけないでくれ。


 実際、後方支援をする俺達には、良質なポーションはない。


『普通のポーションでは治りません』


 アルプはそう言った時、一瞬、絶望的な表情をしていた。


『とにかく処置をした後に、回復魔法をかけ続けましょう』


 治るまで、回復魔法をかけ続ける。


 ——今、俺達にはそれしか出来ない。


 俺は、液体魔素を直接舐めながら、回復魔法を使い続ける。


「くっ、もっと、魔力があれば……」


 増えたと言っても魔力量が少ない俺は、すぐに魔力が足りなくなる。


 液体魔素を、2本目、3本目……5本目を手にした時、頭に鈍い痛みが走った。


「……っ痛。そろそろまずいか?」


 これ以上魔素を摂取すると、多分倒れるだろうと感じてはいるが、構わないと思った。


 ガチャリ


「ユージン。そこまでです。そろそろ私と交代してください」


 コルージャは先読みしたのか、タイミングを見計らっていたのか、部屋に入るなり俺の手から液体魔素を取り上げた。


「……頼む」


 俺は大人しくコルージャに場所を開け、ピコラのおでこをひと撫でして部屋から出た。



 ***



 魔素を安定させるために一眠りした後、夜中に目覚めた俺はピコラの部屋を覗いた。


「……発熱がひどくなってきました」


 コルージャと交代したアルプから、ピコラの今の状態を聞いた。


「そうか。なら、解熱作用のある薬があるから取ってくるよ」


 正直、叫び出したい。


 だけど、アルプも俺もあくまでも冷静に振る舞っている。


 ——取り乱すな。落ち着け。


「パニックになると、小さな変化に気づけなくなるぞ」


 俺は、自分に言い聞かせた後、手元のさまざまな作用の薬瓶を見る。


「解熱剤は……これか」


 俺は震える手で、瓶をぎゅっと握る。


「目覚めたら、ピコラには回復食を作ってやらなきゃな」


 不安な気持ちをかき消すように、ピコラが治った後のことを考える。


「確かフォキアから貰った海藻類に、傷の回復効果が高い……そうだ! フォキアだ!」


 俺は、デッキに向かうといるかわからないけれど、とにかくデカい声で


「フォキア! フォキア、いないか?! 頼む! 助けてくれ!」


 いるかどうかもわからないけど、フォキアは強力な回復魔法が使えたはずだ。


「……頼む、頼むよ」


 暗い海に叫び続けていて、不安に押しつぶされそうになり、声が小さくなった時、


 チャプッ


「ユージン、こんばんは。呼びましたか?」


 暗い海面から、フォキアが目を真ん丸くして、ひょこっと顔を出した。


「フォキア! いたのか?!」


 ——良かった!! ピコラ、助かるぞ!


 フォキアが、ヒョイとデッキに上がってきたので、俺は軽量魔法をかけ、担ぐと急いで部屋に走った。


「ユージン?! まさか、やっぱり私を食べるのですか?」


 フォキアは相変わらずだが、今は構っている場合ではない。


「頼む、仲間を、仲間を回復してくれ!」


 フォキアは必死に懇願する俺を見て、神妙な顔で頷いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ