後方支援
「ユージン、お前、魔素を集められるのか?」
マハトには、まだ新能力も魔族になったことも伝えてなかったな。
——マハトには言ってもいいよな?
アルプを見たら、頷いている。
「ああ、実は俺、魔族になったんだ」
マハトはどう思う?
「そうか……って、なんだと?」
マハトは腕を組んで聞いていたけど、それを振り解いて、俺の肩をガッと掴んだ。
「痛いぞ。だから、魔族になったんだって」
魔族になっても軟弱さは変わらないんだから、丁寧に扱って貰えないか?
「……いつからだ?」
マハトにジロジロ観察されている。
見ても、何も変わらんと思うが……
「ちょっと前だな」
そもそも、いつから変わったのかはよくわからんし。
「なんでだ?」
マハト、お前の語彙力どこに行ったんだ?
「多分、魔素の過剰摂取かな?」
コルージャがそれ以外、ないだろうと言っていたしな。
「……マジか?」
信じられないのか、俺の耳も引っ張って確認している。
——地味に痛いんだが。
「マハト様、本当です」
見かねてアルプが宣言した。
「いや……マジか?!」
俺の耳は解放されたが、今度は、アルプのツノをガッと掴んだので、アルプは驚きビクッとした。
——あのツノはよく掴まれるな。
「マジだって」
マハトは、アルプのツノを掴んだままだ。
「いや、だってこんな早くおかしいだろ」
マハトは、俺が魔族化するまでの時間が早いことに納得がいかないようだ。
「稀にあるらしいよ」
なっちゃったものは、仕方がないだろ?
俺は、望んで魔族になったわけじゃない。
「稀にあるのか……。で? なんでユージンが液体魔素を用意できるんだ?」
強引に現状を飲み込んだマハトは、次なる疑問にたどり着いたらしい。
「魔力付与ができるようになったんだ」
これは、一般的なことだろうから、事実確認だけでいいよな?
「もしかして、新しい能力か?」
これも、いつから可能だったのだろう?
確認した時が、始まりだったのか?
「ああ、そうだ」
まあ、増える分には都合がいいよな?
「……なんで能力が増えたんだ?」
マハトは、異様なものを見るような目をしてこっちを見ている。
——なんだ、なんか変か?
「器が育ったらしいよ」
器が何かは俺にはわからんが。
「……なんでだ?」
なんでって言われても……
「魔力が増えたから?って、なんだこれ」
なんだよこの時間。
「なにが?」
マハトは、俺のツッコミの意味がわからずキョトンとしている。
「なんか、さっきからループしてるぞ?」
なんでなんでって、子供か?!
「とりあえず、魔力が増えて器が育って、能力が増えて魔素が集められるようになった。分かったか? 俺だってよくわからん!」
魔族のことは、お前の方が詳しいだろ。
俺は分析できるだけの知識も情報もない。聞かれても困る。
「ああ、すまん。とりあえず理解した」
マハトは俺の状況は理解したようだが……
「腑に落ちない顔だな?」
マハトの顔は納得していない。
「まあ……意味がわからんな」
実際、俺はイレギュラーみたいだからな。
「……気にしたら負けだ」
そういえば、黒板に書かれていたもう一つ『調整中』って、魔族化のことだったのか?
女神の雑な仕事に、俺の眉根が寄った。
「ユージン、お前、誰と勝負してるんだ?」
マハトがその顔を見て尋ねてきた。
「……女神かな? とにかく、液体魔素はどのくらい集めればいいんだ?」
女神のことは、考えるだけ無駄だろう。
「女神って……まあいい。液体魔素はあるならあるだけ助かるな」
無限に生成すればいいのか?
——小瓶、たくさんいるよな。
子供達に手伝ってもらうか。
「マハト様、一般の魔族はあなたとは違うので、ポーションで充分ですよ」
アルプがマハトに物申している。
ピコラも倒れていたし、液体魔素だと濃すぎて魔力酔いを起こすからだ。
「なあ、液体魔素もだけど、料理に魔力付与をしたらダメなのか?」
俺の能力は、本来ならそっちなはずだ。
「料理に? そんなの聞いたことないぞ」
だよな? 俺はもっとわからんよ。
「でもな、俺の魔力付与は『食材に限る』なんだ」
だから、料理に魔力付与するのが正解だと思うんだ。
「なんだその限定的な能力は……」
マハトが、理解不能とばかりに遠い目をしている。
——は? 舐めんな。
「そもそも、鑑定能力も『食材に限る』だ。元から俺の能力は限定的だ!!」
俺だって、色々やってみたかったぞ!
「そうだったな、なんかすまん」
マハトに謝られたが、かえって虚しい。
「で? 料理に魔力付与はどう思う?」
使えると思うだろうか?
「料理に魔力付与なんて、やったことないから正直わからんな……」
そうか、経験がないなら分からないか。
「なら、今やってみるから判断してくれ」
鞄の中には料理が色々ある。
「今から? 分かった。試してみるよ」
——マハトも乗り気になったな。
何はともあれ、とりあえずやってみよう。
「食後だから、プリンにするか」
たくさん食べた後だから、軽いものがいいだろう。
「プリンですか?!」
プリン好きなアルプが、反応した。
アルプにも食べて貰おうと、プリンをふたつ取り出した。
「ぷりんとはなんだ?」
マハトは、プリンのカップを見ながら声を掛けてきた。
「あ、マハトはプリン知らないか?」
そうか、いつもマハトには、お腹に溜まるものしか渡してなかったな。
マハトに持たせる物も、今後考えないとな。
「マハト様、プリンはプルプルで甘くて素晴らしいものですよ」
アルプはウキウキしながらマハトに説明をしている。
「マハト、プリンはアルプの好物だ」
今後、アルプのご機嫌取り用に、いくつか余分に持たせよう。
「……魔力付与」
俺は、能力を使い、プリンに魔力付与をしてみる。
プリンが、一瞬ポワッと光った。
「できたけど少ないか……プリンだとどのくらいまで付与できるんだろ?」
俺の魔力は少ない。
だから、追加で液体魔素をプリンに移すことにした。
「味は変わってしまうのでしょうか?」
アルプが俺に近づき、心配なのか至近距離でプリンを見つめている。
「どうかな? 変わるなら、今後それに合わせて作っていくよ」
大気中には魔素が少なく、取り出した魔素を付与した方が手っ取り早いのだけど……
液体魔素はほんのり苦味があるんだ。
——魔素が無味無臭だったらいいのにな。
そんな事を思いながら、プリンに魔素を付与した。
「よし、できたぞ」
プリンには、1番小さな小瓶の半分ほど付与できた。
「かなり入ったな? よし、食ってみる」
マハトは、試す気満々で手を出している。
「じゃあこれ、試してみてくれ」
アルプとマハトにプリンを手渡すが、アルプは恐る恐るプリンを手にした。
大好きなプリンと魔素の味が混ざったのを想像しているのだろう。
「……魔素の味は、早急に対応しなきゃな」
お茶系のプリンなら馴染むだろうか?
魔素の苦味をもう一度確認しておこうと、考えていたら
「なんだこれ、柔らかくてうまいな」
マハトは、プリンをチュルンと一口で食べていた。
——マハト、飲み込んだな?
「どうだ?」
味は一旦さておき、効果はどうだ?
「ほう、なかなかいいな」
効果は問題なさそうだ。
「アルプ、どうだ?」
アルプにも意見を聞こうとしたら、アルプはプリンを少しずつ大切に食べている。
「ゆっくり食べる分には、この量なら倒れる事はないでしょう」
食べ方には注意が必要か。
「魔素を無駄にするのは良くないし、一般魔族は、もう少し弱くてもいいだろう」
そうか、アルプも魔力が多いか。
「なら、魔素は今の半量でいいかもな」
大中小みたいに大きさを変えるか?
待てよ、サイズごとに含有量を変えるのもいいが……
「料理ごとに付与量を変える方がいいか?」
そこから、必要量食べればいいか。
「それ、わかりやすくていいな」
アルプも頷く。
二人とも賛成のようだ。
「アルプ、味の方はどうだ?」
苦味はどの程度邪魔しているだろう。
「それが、驚くほど全く変化がありません」
美味しいままです。と、まだプリンを食べている。
アルプがプリンをゆっくり食べていたのは、味わっていただけか。
「変わらないのか? 付与だからかな?」
後で、俺も作って食べてみよう。
「この件は、ユージンに任せていいか?」
マハトは確認できたから、そろそろ仕事に向かうのだろう。
「ああ、後方支援なら任せておけ」
前衛では全く役に立たないが、安全確保した上での支援ならばいくらでもやろう。
「そうか、助かる。ありがとう」
マハトはグッと背を伸ばすと、外へ向かおうとした。
「マハト、とりあえず、これ、持っていけ」
俺は、作りためておいた小瓶に入った液体魔素を、あるだけマハトに渡した。
「こんなに……いいのか?」
そこそこの量があったので、マハトは躊躇している。
「今日からたくさん作っておくから、それがなくなる前には必ず取りに来いよ」
海から魔素を集めるのは、案外簡単だ。
「ああ、善処する」
マハトの返答に、アルプの羊毛が膨らんだ。
——善処ね? それ、絶対来ないだろ。
「定期的に来ない場合、マハトは飯抜きな」
自発的に来ないなら、罰則をつけるしか無いよな。
「何? それじゃ俺の魔力回復ができないぞ? それでいいのか?」
本末転倒だろ? とマハトは言うが
「従えないなら生で食え」
と、突き放した。本来魔族は生食文化だ。
望まないやつに、俺の大切な料理を出すなんて勿体ない。
「ゔっ、それは嫌だ。分かった、必ず戻る」
食道楽のマハトには、ちゃんと罰として機能するようだ。
「よし、約束だ。支援食が仕上がったら、一旦マハトに連絡するよ」
量産するには、食材も必要だ。
「結局呼び出しかよ。アルプ、部下に食材を集めさせろ。ユージンは無理するなよ」
食材の補充はしてくれるようだ。
——ありがたいな。
「おう、今後はうっかり行き倒れるなよ?」
絶対いいもの準備するからな。
「ユージンの飯があるんだ。もうしないよ」
マハトはニッと笑う。
「そう言って倒れたのは誰ですか?」
横から、アルプが冷たい眼差しでマハトを見つめている。
「……マハト、一度失った信用を取り戻すには時間がかかるぞ」
こんな時『アルプ用のプリン』は絶対必要になるよな。
——準備しておこう。
「まいったな、分かった。呼んでくれたらすぐ来るよ」
アルプを泣かせた手前、マハトは強く出れないみたいだ。
「よし、じゃあちょっと待て」
俺は、マハトに追加で渡す物を取り出した。
「は? もう行っちゃダメか?」
マハトは一刻も早く部下の元へ行きたいのだろう。
「いや、とりあえずこれだけ持っていけよ」
俺は、袋を手渡した。
「あ? なんだ?」
マハトは液体魔素とは別に渡された袋の中身を確認して、ニヤリと笑顔になった。
「お前の飯と、シュヴェルトフィッシュの揚げ物。魔素補給用の子供達のおやつだけど、ちょっとは足しにはなるだろ」
また、作り置きしないとな。
「お、これ、酒に合いそうだな」
マハトはウキウキしながら、料理を自分の鞄に移し替えている。
「ツマミにもいいぞ」
大人はそれでいい。
「ありがたい。もらってくよ」
マハトは移し替えると、颯爽と外に出て待機していたフリーゲンの背中に飛び乗った。
「では、ご主人様、お気を付けて」
アルプは深々と頭を下げている。
「早く帰ってこいよ」
俺もとりあえず、頑張りますか。
「はは、行ってきます」
マハトは楽しげに笑うと、フリーゲンと一緒に空高く飛んでいった。




