やっぱり肉か?
マハトを見送った後、俺はプリンに魔素を追加して食べてみた。
「あれ? なんか微妙な味だぞ?」
マハトもアルプも、もしかして魔族だから味覚がアバウトなのか?
「困ったな……」
この苦味が気になって、ただ添付するのは躊躇してしまう。
「あ、プリン……どうかしましたか?」
アルプは、俺の手元にあるプリンしか目に入っていないらしい。
「魔素を添付すると、やっぱり苦味が邪魔するんだ」
やっぱり、お茶やコーヒー系で誤魔化すのを試してみるしかないかもな。
「え、本当ですか? 全く気になりませんでしたよ。魔素の量を間違えましたか?」
首を傾げながら、アルプはプリンに近づいてきた。
「いや、魔素の量は全く同じだ」
たとえ減らしても、この苦味は残るだろう。
——地味に気になるんだ。
「ユージン、これ、食べてもいいですか?」
アルプは俺のプリンを指差した。
まさか、アルプはただプリンが食べたいだけじゃないよな?
「食べかけでいいなら、いいぞ」
俺が了承すると、アルプはウキウキしながらプリンを口にして、
「あれ? 本当にちょっと苦いですね」
と言って、苦味に眉根を寄せた。
「やっぱり苦いか」
アルプの味覚がバカなわけじゃなかった。
——さっきと何が違うんだ?
「魔素の量は……同じ感じですね」
不満そうなアルプは、体感する魔素に添付量は同じだと理解した。
「はぁ、何が違うんだ……」
全くもって、俺には見当すらつかない。
「……発動条件は同じですか?」
アルプには思い当たることがあるのか、俺に質問を投げかけた。
「発動条件?」
なんのことだろう?
「はい、魔法はイメージや、タイミングなどで変化する事はあるので……」
そう言って、アルプはむむむと考え込んだ。
「イメージか……」
どうだったかな、魔力付与の時?
特別なことはしていないはずだが、何か忘れているか?……
行動を思い起こしている時、あることを思い出した。
「あ、ちょっと確認してくる」
完全に忘れていたが、確か『調整中』の能力があったはずだ。
俺は目を閉じて、意識を頭の中の黒板のある小部屋に向ける。
——あ、やっぱりあった。
『調整中』だった場所には、新たな記載が増えていた。
②新能力『味変』
調整完了です。大変お待たせしました!
なんだこれ?……補足説明があるな。
神能力『味変』とは
酸味、苦味、甘味、辛味、塩味の五味内、もしくは無味であれば、成分はそのままで自由に変化ができる。
(例)
苦い薬→甘い薬→苦い薬
酸っぱい葡萄→甘い葡萄→1粒辛く
こんなことも出来ちゃいます!
イタズラするのも楽しいよ♡ ぜひ、色々とやってみてね!
あなたの信じる女神より☆
えっと、葡萄でロシアンルーレットを勧めてこられても、反応に困るな。
——『味変』が便利なのは分かった。
俺は、添付する時、無意識に魔素を『味変』していたようだ。
「ふう……」
毎度、あの黒板の女神のテンションに、置いてきぼり感を感じる。
目を開けると、ほんのり苦いプリンを悲しそうに見つめているアルプがいた。
「アルプ、それ貸して」
これ、このままでも『味変』できるのか?
俺はアルプの手から、食べかけのプリンを預かった。
「もしかして、捨ててしまうのですか?」
それは嫌だと、アルプの顔に書いてある。
たとえ苦くても、プリンに向けるアルプの熱意は変わらないらしい。
「捨てないよ。ちょっと試したいんだ」
俺は『味変』するために、プリン本体に手をかざした。
——苦味を甘味、いや、この場合無味か?
確か、あの時無味になればと考えたな。
「……」
アルプは心配なのか、プリンを痛ましげに見つめている。
魔法を発動してみると、ポワッとプリンが光った。
——なんとなく、さっきと光り方が違う?
「多分、これでいいはず……」
俺は、そっと一口プリンを口に運んだ。
「あっ、いい感じだ!」
——苦くない。いつものプリンだ。
上手くいったようだ。
能力『味変』はいい仕事をしてくれた。
「ユージン、プリンください!」
アルプが待ち望んでいたので、残りのプリンを渡してやると、
「あぁ……そうです。この味です」
見るからに幸せそうなので、そのままアルプにプリンを食べさせておいた。
「ユージン、一体何をしたのです?」
アルプはプリンを口に運びつつ、今、俺が何をしたのか尋ねてきた。
「俺、実は、新能力は2つあったんだ」
『調整中』だった能力だけど……
まあ、いつかの『準備中』よりはましか?
「えっと、ユージンは鑑定と魔力付与以外にも、能力あったのですか?」
アルプは驚いて目をぱちくりしている。
能力が、一気に2つ追加されたことに驚いたのだろう。
「ああ。前見た時は『調整中』だったんだ」
追加は嬉しいけど、なんか女神は、俺に対して片手間感があるんだよな。
まあ、使える能力を貰えたんだし、とりあえず満足しているからいいか。
「調整中って……結局、能力はなんだったのですか?」
アルプですら、俺の扱いが雑な女神に対して不信感を感じたのだろう。若干顔が険しくなった。
「新能力は『味変』だったんだ。味が色々変化できるみたいだぞ」
確かに、ちょっとしたイタズラするには、もってこいな能力だな?
——いや、食べ物で遊んじゃダメだ。
めちゃくちゃ興味はあるけど……
「すごいじゃないですか。だから魔素の味がしなかったのですね」
アルプはしきりに感心している。基本的に賢いから理解が早い。
やっぱりアルプは有能だな。
「ああ、おかげで今後、魔素の味を気にせずに添付することができるよ」
それはそうとして……どうするか。
「魔素を付与する料理か」
——兵士達は何が食べやすいんだ?
俺は軍事経験がないから、現場の状況は物語程度しか理解できてない。
魔法のある世界なら尚更だ。
「なあ、アルプ、ガッツリ補給、こまめに補給、ゆっくり補給、ちょっとだけ補給、とかやっぱり色々なタイプが欲しいか?」
兵糧なんて、今に至るまで考えたことすらなかった。
軍用レーションを参考にすれば良いのか? それとも、災害用の備蓄?
——宇宙食もありか?
「時と場合によります。ゆっくり食べる時もあれば、早急に補給する場合も。でも、急ぎの場合はポーション頼りになりがちです」
——時と場合、確かにそうだ。
確か初めて会った時、マハトはナッツを持ち歩いていたな。
「……片手間に補給できる物が必要だな」
だとしたら、コンビニの朝食ベースで考えてみるか。
パパッと食べれて、忙しい朝や昼に便利なお手軽栄養補給だ。
「……サラダチキンにプロテインバー、ゼリー飲料あたりか? なんだか味気ないな」
補給だけを考えると、料理としてはなんとなく面白くない。
栄養補給としてはいいのだけれど……
「なんて言うか、温度がないんだよな」
他に、もっと何かないかな?
頭の中のコンビニの店内をぐるぐる回っていたら、アルプから声をかけられた。
「私にも何かお手伝いできますか? ないようなら、ちょっとだけ席を外しても?」
アルプは俺にピラッと、食材の在庫表を見せてきた。
「ちょっと、連絡をしてきます」
マハトの部下に、食材の追加搬入の連絡をしたいようだ。
一体、どれだけの量仕入れるつもりだ?
「ありがとう。こっちは今は大丈夫だ」
アルプが場を離れたので、俺は一旦椅子に座り、メモを片手に兵糧を考え始めた。
「片手間に食べれて、満足度が高いものか」
まあ、温度はないけど、プロテインバーにシリアルバーは実際ありだよな。
プロテインの代わりにきな粉はどうだ?
……ナッツぎっしりもいい。
——あっ、一粒で300m!
「キャラメルか……その路線もアリだな」
甘味は疲れた脳と身体に必要だよな。
「後は、素直に飴とかも手軽でいいな」
味と色で分けて、魔素の量を変えるのも良さそうだな。
口で溶けるスピードで、ゆっくりじんわり補給できるだろう。
「そうか、料理には温度があるんだ。パッと補給するだけなら、気にしなくていいか」
ドライフルーツも魔法を使えば簡単だし、ありだな。
色々な補給品があれば、好きにやれるはず。
「ゼリー飲料は……ゼラチンがないか?」
もしかしたら探せばあるかもしれないが、まだ見たことがない。
寒天もないよな……
「なら、スムージーに添付するか」
一口サイズのクッキーもいいかもな?
「でも、口の中の水分持っていかれるか?」
これは、ちょっと考えなきゃだな。
「ガツンと食べたい時は肉か?」
いつもゆっくり飯が食えるとは限らない。
そんな時に、ガッツリ肉を食べるには……
「コンビニスナック……?」
唐揚げは高魔素だからすでに確定だ。わざわざ添付する必要はない。
「あ、串に刺して唐揚げ棒にするか」
串なら手が汚れても食べやすいだろう。
——串物、ありだな。
「ソーセージじゃなくて、フランクフルトも作ってみるか?」
確か、まだ太い腸が残っていたはずだ。
「焼き鳥串もいい感じだろ」
シーサーペントのつくねも良さそうだ。
「やっぱり、スタミナつけるには肉だよ。串に刺せばなんだっていけるんじゃないか?」
ステーキも串に刺せるし、なんでもありじゃないか?
「待てよ? 串ばかりだと串から作るのが面倒じゃないか?」
今回は振る舞う数が多い。
安定供給する手間を考慮するべきだ。
「うー、手の汚れは魔法で綺麗にできるけど、無駄に魔法は使いたくないよな……」
さて、困ったぞ。
「一旦、簡単に量産できる物から、作って魔素の量を確定するか」
シリアルバー、ナッツぎっしり、キャラメル、飴、は確定でいいだろう。
「肉関係は、とりあえず全て一口大にして、串に刺すかはまた考えよう」
素手で食べたくなければ、自分で突き刺して食べればいいか?
ま、状況次第だな。
なんだか、楽しくなってきたぞ!
「とりあえず、作るか!」
とりあえずナッツの加工からと、張り切って始めてみたものの……
「待て、殻を剥くだけでこんなに魔力を食うのか?」
あまりにもナッツの量が莫大だ。殻を剥くだけで魔力不足になってきた。
「ナッツはぎっしり……しなくていいかな」
とりあえず、ナッツ入りのシリアルバーでもいいかな?
俺はクラクラしながら、液体魔素をスプーンに垂らし少しだけ舐めた。
自ら集めた魔素の世話になるとは……




