ステータスに異変?
ジェリコの部隊が移転してきてから、さらに2カ月の月日が過ぎた。
マハトはまだ見つかっていない。
「ユージン、ラマンティーヌ族から献上された食材は、直接鞄に入れてもいいですか?」
アルプは、鞄を手にしながら少し困った顔をしている。
俺は警戒心を露わにしてアルプを見た。
「待て……今回は、アイツら何を持ってきたんだ?」
ジェリコ部隊であるラマンティーヌ族は、魔力も力も強い。
食事が美味いからと、張り切って大型の魔獣を食材として持参してくる。
——前回は、巨大なクラーケンだったか。
あの時はあまりのデカさに驚いたし、別荘前のデッキからはみ出すから、アルプと二人での解体は大変だった。
味はうまかったけど……
クラーケンは味も見た目も肉質も『モンゴウイカ』によく似ていた。
「今回は……シーサーペントですね」
アルプは、ガクッと項垂れながら報告してくれた。
「そうか……やるしかないよな」
俺は、鞄を持ったアルプと一緒に解体のため外に出ていった。
最近のアルプはかなり落ち着いている。
***
——先月の話。
キッチンでアルプと一緒に食材整理をしている時、ふと気になって声を掛けたんだ。
「アルプは最近、落ち着いてるよな?」
俺は、闇雲に探しに行かなくなったアルプを不思議に感じて尋ねてみた。
「そうですね……マハト様が、どこかに身を潜めているのだと理解したのです」
アルプは振り返ると、手を休めることなく静かに話し始めた。
「そもそも本来の私は秘書ではなく、マハト様の眷属にあたるんです」
俺は話をゆっくり聞いた方がいいかと思い、アルプに椅子に座るよう促した。
「眷属?」
使い魔とかか?
「ありがとうございます。せっかくならお茶でも入れましょう……私とフリーゲンはマハト様と契約をしています」
だから特別なんです。と、アルプはお茶を入れながら笑った。
「特別か……それで?」
アルプとフリーゲンは魔力も知能も高い。
エリソンも『一族の中では特別』だと言っていたな。
「私もフリーゲンも契約紋が消えていないので、マハト様は確実に生きています」
俺にハッキリと言い切ると、アルプはお茶を口にした。
「最初の頃は、生きるか死ぬかの二択でした。でも、2カ月過ぎても変化がないので、命に別状はないと理解はしました」
アルプは、理解はしたけど納得はしていないのだろう。
「マハトの奴……どこにいるんだろうな」
部下も必死に痕跡を探しているが、今のところ全く見当たらない。
「マハト様が連絡してこないのは、理由があるはずです」
健気に信じて待っているアルプは、マハトの生存が確信できただけで良いのだろう。
「マハトのことだし、命があるなら絶対に大丈夫だ」
——アイツなら必ず打開できる。
俺は、少しだけホッとしたんだ。
「ユージン、マハト様を信じてくださり、ありがとうございます」
***
シーサーペントの解体作業をしながら、俺はアルプとのやり取りを思い出していた。
「しかし、こいつもデカいな……」
切り落として避けておいたシーサーペントの頭に、使い道などあるのだろうか?
「ユージン、胴体部分は肉だけ取り出してください。皮と骨は素材になりますので」
何に使うのかよくわからないけど、俺は言われた通りに魔法で肉だけ取り外していく。
「アルプ、頭はこのままでいいのか?」
皮を剥いだ方がいいのだろうか?
「骨以外は外してください。目玉は薬になりますから別にしてください」
ジェリコ部隊から、大小構わず毎日のように何かしらの魔物が届いている。
「目玉……デカいから、ちょっとグロいな」
献上される魔物は海だけでなく、陸や空の上まで手当たり次第だ。
おかげで子供も大人も魔素の供給は、無駄にたっぷりだし、飽きることもなくなった。
「特殊な素材なら魔素を濃縮したり、増やしたり出来ないかな」
バスケットボールより大きな目玉に洗浄と浄化の魔法を使いながら、魔力の増強が出来ないかと考えていたら、ふと自分の能力に違和感を覚えた。
「あれ? なんか……違う……か?」
なんだ? 自分の能力が変だ。
「アルプ! ちょっと頼んでいいか?」
近寄ってきたアルプに、能力を確認してくると伝え目玉を渡した。
「……分かりました。体は大丈夫ですか?」
アルプは心配そうに俺の顔を見上げた。
「問題ないよ。ちょっと頼むな」
俺は、椅子に座ると目を閉じて頭の中の空間を見に行く。
——久しぶりにここを覗いたな。
能力が書いてあった黒板を見てみたら、
おめでとうございます!
器が育ち、魔力量も高くなったので
『新能力』が開花しました!!
——やっぱり、何か変わったんだ。
しかし相変わらず、テンションが高い……
続きを確認しようと視線を下げた先に、能力が記載されていた。
新能力①『魔力付与』(ただし食材に限る)
——マジか?!
しかし、俺の能力は食材限定なんだな……
まあ、かなりありがたいけど……
——①ってことは、もうひとつあるのか?
さらに視線を下げたら、
新能力②『調整中』
……
——おい、またかよ!
女神よ、紛らわしい書き方をするな。
……しかも、追伸がある?
P.S.
君は女神を信じてくれたし、器の変化も大きいみたいだから、特別に2つサービスよ♡
あなたが幸せな日々を送れますように☆
あなたが信じた女神より♡
いや、ありがたいけど、せめて記載するのは能力が確定してからにしてくれ。
調整中なら、全て終わってから告知してくれたらいいのに……
「……ふぅ」
俺は目を開けて、ついため息が漏れた。
「いかがでしたか? 何が変化したのですか?」
心配したアルプが、俺にお茶を入れて待っていてくれた。
「新能力開花だって。食材に魔力付与ができるようになったよ」
俺を見ていたアルプは、嬉しそうにパァっと笑顔になった。
「ユージンにピッタリの、素晴らしい能力じゃないですか!!」
俺が、食材の魔素を増やしたくてアレコレ挑戦していたことを知っているから、自分のことのように喜んでくれた。
「魔力付与は、魔素も増やせるのか?」
魔力とどっちが都合がいいのかな?
「同じですよ。魔力は力の表現なだけです。魔力の素が魔素ですから」
当たり前のことを聞いてしまったか……
「以前アルプから貰った知識の記憶の中に、魔力付与もあったよな?」
俺は、与えられた記憶の引き出しから、魔力付与の項目を探し出した。
頭の中にある魔法の知識の記憶は、アルプらしく丁寧に項目分けされている。
「ありましたか? 魔力付与は、自らの魔力を付与する場合と、大気中の魔素を集める場合とがありますよ」
アルプが教えてくれる間に、俺も魔力付与の項目を見つけた。
「へぇ、魔素は液状化もできるんだな……あ、ポーションの原料にあるぞ?」
ポーション用に、魔素を液状化する集め方もちゃんと記載されている。
「この魔法陣に魔力を流せば、効率がいいはずですよ」
アルプはサッと魔法陣を描いてくれた。
「私が魔素を集めるのは無理ですが、付与魔法持ちならこの魔法陣を使えます」
——アルプにもできないのか。
「やってみるか……」
俺はアルプから瓶と魔法陣を受け取り、記載通り付与魔法の逆転を使った。
「魔法陣に魔力を流したら、そのまま放置すれば、時間と共に集まるはずです」
アルプに教えを受けながら、俺はじっと小瓶を見つめていた。
「この辺りは魔素が少ないとはいえ、それなりに溜まるんだな?」
二人で小瓶を眺めながら、効率の良い集め方がないかと考えていたら、キッチンにコルージャがやってきた。
「おや? 魔素を集めているのですか?」
コルージャは、いつも見ただけで理解してくれるから、説明がいらなくて助かる。
「コルージャ、この辺りで効率よく魔素を集めるにはどうすればいいと思いますか?」
アルプも同じ考えなのか、コルージャに質問した。
食材から取ってしまっては意味がない。
「叡智の梟として、いい知恵はないか?」
俺も、コルージャに丸投げしてみた。
「ふむ……海水はどうですか? 海水は、この辺りの空気中より、かなり魔素の濃度が高いはずですが」
——さすが叡智の梟だ。
パッとナイスな答えをくれた。
「海水か、やってみるよ」
俺は鍋に海水を入れてきて、蓋の上に魔法陣と小瓶を置き、魔法を発動した。
「おお、かなり効率がいいぞ?」
大人3人で、成功した! と騒いでいたら、
「ユージン、おやつ……何してるの?」
ピコラがおやつを求めて近寄ってきた。
——魔素の補給にちょうどいいか?
「ああ、ピコラ、見てくれ! 海水の魔素を取り出せたんだ! これ、飲んでみてくれ!」
アルプとコルージャは、空気中から集めた魔素の様子を見ていたが、俺の言葉に
「あ! ダメです!」
「ピコラ!!」
二人が慌てて止めに入ったが、時すでに遅く、ピコラはグイッと飲み干し……
——ぐにゃりと力尽きた。
「ピコラ!?」
——毒だったのか?!
まずい、気を失っている。
「あー……魔素酔いですね」
「子供にあの量は刺激が強過ぎますよ」
アルプが呆れながらピコラをソファに運んでいった。
「もしかして、子供に原液を与えるのはまずいのか?」
恐る恐るコルージャに尋ねると、
「目を回すだけですよ。目覚めたらスッキリしているはずです」
と、教えてくれた。
ガバルが魔素酔いをしていたことを、今更ながらに思い出した。
「すごい効果でしたね」
アルプがニコニコしながら戻ってきた。
「……ごめんなさい」
無駄な仕事を増やしてしまったな……
「ユージン、こちらの魔素、私もいただいてみてもいいですか?」
海水から取った魔素の小瓶は、3本置いたが既に溢れそうになっている。
「ん? ああ、構わないよ」
アルプがウキウキと小瓶を手にすると、ソワソワしたコルージャが
「では、私もいただいていいですか?」
と尋ねてきた。
——なんか嬉しそうだな?
「なぁ、俺も試していいか?」
何となく、俺も一緒に試してみたくなった。
「倒れたら介抱するので、ユージンはゆっくり味わってください」
アルプから小瓶を渡しながら言われた言葉に、酒みたいだなと笑ってしまった。
小瓶にちょっとだけだしと軽く考えた俺は、案の定、飲み干した後に記憶を飛ばした。
「……申し訳ありません」
目覚めた俺は、開口一番にアルプとコルージャに謝った。
「いえ、我々も魔素の補給ができたので、スッキリしました」
コルージャは、穏やかに笑っていた。
「そうか……良かった」
「それより、目覚めが早かったです。ユージンは魔力量が増えたのですか?」
アルプに、能力以外は伝えてなかったか?
「確かに『器が育ち、魔力量が増えた』と書いてあったな」
毎日、高魔素食だったからかな?
「……そう、ですか」
アルプはスッと真顔になり、先程までと違って何か考えているようだ。
「ユージン、体に異変はないですか?」
コルージャも心配そうな顔になった。
「ん? 何も変わらないよ?」
——なんだ?
魔力量が増えると、何かまずいことでもあるのか?




