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異世界リストランテ『ピッコラ』  作者: 黒砂 無糖
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ジェリコの再来

 マハトが行方をくらましてから、既に1カ月ほどが過ぎた。


「マハト、どこに行ったんだよ……」


 今日も、アルプとフリーゲンは空から探しに行くそうだ。


 空高く飛んでいくフリーゲンの影を、俺は目を細めてため息をついた。


「ユージン!コルージャ先生と一緒に森に行ってもいい?」


 ピコラとリコラが、エリソンを連れて走ってきた。


 コルージャは、先週合流したばかりだ。


「ああ、構わないがあまり奥に行くなよ?」


 大人がひとり増えることで、俺の気持ちはかなり楽になった。


「ほっほっほっ、この子達は戦闘力は十分……ですが、拾い食いをしないように何か与えた方が良いかと」


 ——おやつが欲しいんだな?


「はは、わかったよ。今日のおやつはヴィアジフライと、シュヴェルトフィッシュのスティックフライでいいか?」


 子供達には、無駄な不安を覚えさせないようにマハトの不在は伝えていない。


「ヴィアジフライ!!ヤッタァ」

「フィッシュフライは何味なの?」

「衣はふわふわかな?サクサクかな?」


 3人ともシュヴェルトフィッシュを気に入ってくれている。


「今日は、特別にスパイシーフライと、ガーリックペッパーの2色だ!」


 俺の言葉に、子供達がわぁっと歓喜する姿にホッとする。


 衣を変え、下味を変え、ディップソースにしたり形を変えたりと、オヤツとしてなんとかやり過ごしている。


「シュヴェルトフィッシュ、だいぶ少なくなったなぁ……とはいえまだ沢山あるけど、また、狩りに行かなきゃな」


 俺は一人でキッチンに篭り、残りのシュヴェルトフィッシュを、子供達のおやつ用に下処理をした。




 ***




「……ただいま戻りました」

「……タダイマ」


 森から帰宅した子供達とコルージャに夜ご飯を食べさせていたら、アルプとフリーゲンが帰って来た。


「アルプ、フリーゲンおかえり!今日はみんなで森のキノコ拾ったからキノコ汁だよ!」

「おかえりー、美味しいわよ」

「んぐっ……おかえりなさい」


 ピコラが元気に今日の収穫を報告した。


「良かったら、一緒に食べませんか?」


 コルージャが二人に気を回し、静かに話しかけたが


「帰宅前に、フリーゲンとナッツを食べてしまいましたから、後からいただきますね」


 ニコリと笑うと、アルプはフリーゲンと部屋に戻った。



「最近、アルプとご飯食べてないよね?」

「なんだか毎日忙しそうよね」

「元気がないのが心配ですね」


 子供達も気にはしているようだ。


「仕事が忙しいみたいですよ。さあ、あなた方もしっかり食べて、力を貯めましょう」


 コルージャが、子供達の相手をしている隙に、俺はアルプの部屋に向かった。


 コンコン


「アルプ、入っていいか?」


 念の為、確認すると


「どうぞ……」


 疲れた顔のアルプが扉を開けてくれた。


 最近のアルプとフリーゲンは、食事をほとんど取らなくなった。


「見るからにやつれてるぞ……アルプ、ちゃんと食べなきゃ持たないぞ」


 食欲が湧かない気持ちはわかるが……


「主人が食べられていないかもしれないのに、私だけ呑気に食事など頂けません」


 アルプの声が余りにもか細くなっている。


「気持ちは分かる。でも、マハトが助けて欲しい場合、今のアルプに力が出せるのか?」


 俺の言葉に、アルプはゆっくり顔を上げた。


「せめて、スープだけでも飲んでくれ」


 懇願する俺を、アルプはなぜか不思議そうに見ている。


「スープは魔素の多い食材を煮込んだ物だから、力になるだろう?」


 なぜ不思議そうな顔をするのかわからないが、なんでもいいから食べて欲しい。


 アルプは俺を見たまま、ポロポロと涙を流し始めた。


「ユージンは……マハト様を諦めていないのですね……食べなきゃ……ダメですね」


 アルプは、思い当たる場所は手当たり次第、全て探したのだろう。


 探しても探してもマハトは見つからない。


「諦めるわけないだろう。あいつは……あいつなら絶対大丈夫だ」


 俺は、ずっと自分に言い聞かせている。


 ——女神がいる世界なんだ。


 マハトほどのいいやつは、きっと大丈夫だ。


「……ぐずっ、主人を信じてくださり、ありがとうございます」


 アルプは深々と頭を下げた。


 俺は、鞄からアルプとフリーゲン用の食事を取り出した。


「ミルクチーズリゾットと、コルージャ監修で子供達が採ってきたキノコ汁だ。これなら食べられないか?」


 アルプはミルク好きだから、作っておいたんだが……


「……ありがとうございます。フリーゲンと一緒にゆっくり頂きます」


 アルプが気を遣って「必ず食べます」と言うので、俺は頷き部屋を出た。


「……ゆっくり食べろよ」


 今すぐじゃなくていい。



 ——でも、必ず食べてくれ



 俺は、そのまま海辺のデッキに向かい、満天の星空を眺めた。


「どうにかして、食事の魔素の量を増やせないだろうか?」


 目線を下げ、静かな海を眺めながら、何かいいアイデアがないか頭を悩ませていた時



「ん?あれ?渦があるぞ?」



 海面に渦潮が現れている場所がある。


 ——こんな渦はなかったぞ?


「まさか……魔物でも出るのか?」


 俺は不安でジリジリと後ろに下がると、いつでも逃げられるように準備をした。


 ゴゴ……ゴゴゴゴゴゴ


 渦が波打ち、振動が音として響いてくる。


「やばいか? 何かデカいモノだ」


 家には結界があるから、何かあっても物理対策は万全なはずだ。


「よし、逃げよう」


 俺が海に背を向けた瞬間——



 ドバシャァァァァァァン!!



 水中爆発したかのような、叩きつける激しい水音が背後で起こり……



「ぅぁぁあああ〜!!ユージン避けてぇ!」



 叫び声が頭上から段々と近づいてきた。


「あぇ? うわぁ!!」


 名前を呼ばれたので咄嗟に振り返り、慌てて落下物を避けたら



 ドゴォン!!ミシミシミシ



「なぁっ?!」


 目前にガバルが落下してきた。


「お、おおい!! ガバル?大丈夫か?!」


 物凄いスピードで落下したぞ?


 てか、なんで空から?


「うぅ……いてぇ……くそっ、あのババァ」


 ガバルは顔を歪めながら、ゆっくりと体を起こした。


 とりあえず無事か……良かった。


 ホッとしたのも束の間



 ドゴォォォォォン!!ギシギシギシ



 俺の背後に、更に大きな何かが落ちた。



「誰がババァだぁ!!このクソガキがぁ!」



 あまりの威圧感に恐る恐る振り返ると……


「あらん♡嫌だぁ〜!ユーちゃんじゃないの。お久しぶりねん♡」


 態度をコロッと変えて、ジェリコがクネクネし始めた。


「何が『お久しぶりねん♡』だ。ユージン、聞いてよ。オイラ、さっき空中からコイツに投げられたんだぞ?」


 ……通りでやたら落下が早かったわけだ。


「……大丈夫か?」


 むしろ、何で無事なんだ?


「うん大丈夫だよ。ピコラ達は元気? ここ、いい感じの別荘だな!」


 ガバルは立ち上がると、周りをキョロキョロし始めた。


 マハトの事、ジェリコには情報共有した方がいいよな……


「ジェリコ……」


 俺が話し始めようとした瞬間


「あー!! ジェリたんとガバルだぁ!!」


 真っ先に発見したピコラが叫ぶと


「あ!ガバル、ジェリたん!おかえり!」


 ピコラの声にリコラも寄ってきた。


「ガバル?!血が出てるよ!」


 いつのまにか足元にいたエリソンは、ガバルに治癒魔法をかけている。


 ジェリコは子供達を微笑ましく見つめた後、スッと真顔になり


「ユーちゃん、話があるの。中に入らせてもらっていいかしら?」


 ジェリコは感情を殺した面持ちで、俺の返事を待たずに家に向かった。



 ——知ってそうだな



 俺は、ガバルとエリソンを抱き抱えてリビングへと向かった。




 ***




「ガバル、部屋の割り当てをピコラから聞くといい。ピコラ、ガバルの晩飯とオヤツも入れておくからみんなで食べろよ」


 ピコラに鞄を渡すと、はしゃぎながら仲良く部屋に入って行った。


「とりあえず、防音結界を張りますね」


 リビングには、アルプとフリーゲン、コルージャ、ジェリコ、俺が集まっている。


「……子供達は知らないのね?」


 ジェリコの言葉にアルプは静かに頷いた。


 事情を理解している者が揃っているので、あえて口に出すことはなかった。


「……まさか、ジェリコが来るとは思わなかったよ。地下拠点は大丈夫なのか?」


 あの場所は、魔族の逃げ場だったはずだ。


「ガバルを別行動にしたのは、もしもの時用に、ここまで直通の地下通路を作るつもりだったのよ」


 地下拠点から行き来しやすいように、トンネルで繋ぐつもりだったらしい。


「でもね……マハトが行方をくらましてから、案の定、魔王が暴走し始めたわ」


 ストッパーがいなくなったから、好き勝手に命令しているようだ。


「そのせいで……地下拠点もバレたのよ」


 ふぅ、とジェリコがため息をついた。


「私はバカの言いなりにはならないから大丈夫だけど、他の子は心配なの。だからみんなでこっちに移動する事にしたのよ」


 だから少し時間がかかっちゃったわ。と、珍しくジェリコは弱った顔をした。


「全員で移動してきたのか?」


 かなりの大所帯だよな?


「ええ……みんな争いを好まない、心優しい魔族ばかりよ」


 ジェリコはそう言い、魔王に対する苛立ちを飲み込んだのか、グッと目を閉じた。


「……魔素は大丈夫なのか?」


 ここは魔素が薄いことくらい、ジェリコなら知っているよな?


「ちょっと傷の治りが遅くなるけど……大人ばかりだから、何とかなるはずだわ」


 やりきれないのか、フッと力無く笑った。


「ジェリコ、拠点には今何人いるんだ?」


 俺に出来ることは、栄養を考えて料理を提供するだけだ。


 ——少しは役に立てないだろうか?


「今は保護をしている負傷者は25人。隊士の常駐は15人、後は交代で外回りよ。それがどうかした?」


 かなりの人数だな……今持っているだけで間に合うだろうか?


「とりあえずコレをやる。ジェリコはシュヴェルトフィッシュを取ってきてくれないか?」


 俺はとりあえず、子供のおやつ用に大量に作っておいた揚げ物をジェリコに渡した。


「あら、コレは何?いい香りねぇ」


 ジェリコは揚げ物の香りに反応した。


「シュヴェルトフィッシュの揚げ物だ。子供達に毎日おやつとして食べさせている」


 下味をつけたストックがまだあるから、子供達はまだなんとかなるだろう。


「まあ、いい事ね♡そう言えばシュヴェルトフィッシュはこの辺りだったわね」


 ジェリコは、揚げ物を鞄にしまうと、腕を組み何か考えている。


「魔素はジェリコ達にも必要だろ? 1日1回は必ず食べてくれ」


 少しでも魔素の足しになればいい。


「ユーちゃん助かるわ。ありがとう。代金代わりに部下にシュヴェルトフィッシュ以外にも、魔物を捕獲するように伝えておくわ」


 ジェリコは、効率を考えていたのか、高い魔素を含む食材を補完してくれるようだ。


「魔物は助かるよ。子供達だけだと討伐は少し心配だったんだ」


 ジェリコの部隊なら、強いし基本的に水陸両用みたいだし安心できる。


「食材はいくらでも捕まえてくるけど、ユーちゃんには保護した魔族と、隊士たちにも料理を作って欲しいの。お願いできるかしら?」


 腕を組み直したジェリコは、真剣な顔で交渉をしてきた。


「それこそ、俺が望むところだ。食材を持ってきてくれるなら、いくらでも作るよ」


 今は、俺がやれる精一杯でみんなの期待に応えたいんだ。

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