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異世界リストランテ『ピッコラ』  作者: 黒砂 無糖
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マハトが行方不明

「さてと、やるか!」


 シュヴェルトフィッシュの解体ショーだ。


 一刻も早く、子供達に魔素を取り込ませてやらなければ……


「えっと、雷撃の威力は……部屋の中でやるのはちょっと怖いな」


 俺はキッチン横のリビングを抜けて、窓から外のデッキに出た。


「ユージン、どうかされましたか?」


 外に出る俺に気付いたアルプが、後ろからトコトコとついてきた。


「シュヴェルトフィッシュの解体だ。俺は雷魔法は慣れてないから、部屋の中だと怖いんだ」


 解体をする様子を、頭の中でシミュレーションしていたら、


「とりあえず、私が魔法でやるので、ユージンは見ていてください」


 アルプが手本を見せてくれるようだ。


「ああ、助かる。ありがとう」


 俺は、シュヴェルトフィッシュの入っている袋を手渡した。


「とりあえず、3匹ほど解体しましょうか?」


 アルプはそう言って、鞄からシュヴェルトフィッシュを一匹取り出すや否や


 バチバチバチッ!


「……え?」


 パッと雷が光ったので、何も見えなかった。


 なのに……


「もう出来たのか?」


 一瞬だった。


「雷魔法と風魔法を、同時に発動したので、解体だけなら簡単ですよ」


 アルプはシュヴェルトフィッシュの剣を切り離し、頭とヒレと骨と肉へと解体した。


「俺がやると、魔力が足りなさそうだな……」


 この後、皮を剥いで部位ごとに分けたいが、それは手作業でやるか。


「ここまでの解体でよろしければ、今ある分は時間を見てやっておきますよ。ユージンは料理に集中してください」


 アルプの協力のおかげで、俺は魔法でシュヴェルトフィッシュを、調理しやすい切り身にすることができた。


「はい、こちらは大丈夫です。はい、わかりました。お帰りをお待ちしてます」


 切り身の肉質に満足していたら、アルプが通信していた。


 ——相手はマハトかな?


「もしかして、マハトが帰ってくるのか?」


 あいつのことだから、無事に辿り着けたか心配したんだろうな。


「はい、仕事の目処が立ったらしく、一度様子を見に来られるとのことです」


 アルプは主人の連絡にホッとしている。


「シュヴェルトフィッシュもあるし、マハトにうまい物をたくさん食べさせないとな」


 以前会った時はかなり疲れていたし、少しは回復出来ればいいが……


「現状マハト様は、酷く疲弊しています。魔素の豊富なシュヴェルトフィッシュは、物凄くありがたいです」


 目を潤ませたアルプは、勢いに任せて5匹のシュヴェルトフィッシュを解体した。


「……コルージャもそろそろ合流するよな? ソワとフィアールはどうするんだ?」


 また、みんなで一緒に食事をしたい。


「お二人は族長なので……まだ未定ですね」


 サクサクと解体を終わらせたアルプは、ポーションをクイっとあおると後片付けをした。


「一応、剣だけは外しましたが、他は全て分類分けして入れてあります。不要な物は処分してください」


 アルプから返された鞄の中には、解体後のシュヴェルトフィッシュが、丁寧に振り分けられていた。


「ありがとう……とりあえずアラで、コンソメを作っておくか」


 アルプと部屋に戻り、俺はキッチンで大鍋を取り出した。


「カジキのアラだけで、ものすごい量だ」


 俺は魔法で熱湯の玉を作り出し、アラを熱湯に次々とくぐらせ血やぬめりを取り、その後洗浄魔法で汚れを落とした。


「やっぱり魔法だと下処理が簡単だな」


 別荘のキッチンにもオーブンがあったので、骨をこんがり焼く。


「鍋からアラが溢れそうだな。大きな別荘だし、キッチンに大鍋ないかな?」


 俺はあちこちの棚を見て歩いた。


「おお! やっぱりあった」


 ストックルームに、ラーメン屋にありそうな大きな寸胴を見つけた。


「使ってなかったのか? 新品みたいだ」


 使っていいだろうか?


「アルプ、この鍋使っていいか?」


 あちこちの部屋の整理をして歩いているアルプに尋ねると、


「キッチンにある物は、在庫も含めて何でも使って構いませんよ。不都合があればお伝えください」


 大変ありがたい言葉だ。


「分かった。ありがとう」


 ストックルームに戻り、在庫を確認すると、


「おお! 普通の野菜がある!」


 ——ありがたい!!


 野菜を手にウキウキとキッチンへ戻り、鍋にアラと、普通の玉ねぎ、にんじん、セロリ、にんにくを入れ水を張る。


「白ワインも……あった」


 棚から白ワインも拝借し、ローリエと一緒に鍋に入れ、沸騰直前まで加熱し、ごく弱火でじっくり味を出す。


「人間の国が近いから、普通の食材が手に入るんだろうな」


 俺は、考えながら次の作業に移った。


 コンソメは、アクを取りながら後から塩胡椒で味付けするだけだ。


「俺は普通の食材が嬉しいけど、この食材だと魔素が足りなくなるな」


 ピコラの畑が安定するまでは、シュヴェルトフィッシュを多用するしかないか……


「カジキは色々な食べ方があるから、とりあえず助かるけど」


 魔物肉も、在庫があるうちにどうにかして手に入れないとダメか。


「とりあえず、定番はステーキだ! マハトはガリバタ醤油がいいか?」


 カジキに塩こしょうをして放置する間に、醤油・みりん・酒を合わせておく。


「……とりあえず竜田揚げやフライをたくさん作って、おやつに食べさせるか」


 子供達には、細かく補給するようにした方がいいだろう。


「下処理だけして、保存するか」


 ステーキ用の切り身とは別に、揚げ物用に、一口大の大きさに切っておく。


「水気を飛ばして、小麦粉を薄くまぶすのは魔法でやれそうだな」


 量がすごいことになっているから、手作業ではちょっと大変過ぎる。


「フライパンから香るバターとにんにくの香りって罪だよなぁ」


 もう、これだけで美味い気がする。


 半分は、粉をまぶした状態で保存をして、残りはこんがりとソテーだ。


 香ばしい香りに顔が綻んできた。


「ガリバタ焼きにする以外は、この状態で保存するか」


 ソテーのソースは、色々変えたい。


 ジュワァァ


「くうっ、白飯が食いたい!」


 タレを投入し、照りっと濃厚になったら……


「シュヴェルトフィッシュのガリバタステーキの完成っと」


 俺は出来立て熱々をそのまま鞄に保存した。


「おやつの竜田揚げも作っておくか」


 一口大に切ってあった切り身に、醤油、酒、みりん、生姜で下味をつける。


「フリッターもいいし、カレー風味や、サクサクのパン粉も美味いよな」


 今回は竜田揚げだし、シンプルに片栗粉だ。


「下味が馴染んだし、水分を軽く飛ばして粉をつけるのは魔法でやるか」


 最近の俺は、当たり前のように魔法を使う。


「……慣れって怖いな。たまには手仕事でやらなきゃ感覚が麻痺しそうだ」


 ふと不安を感じたが、油の中でシュワシュワと音を立て、色づき浮いてくる切り身を見ていたら


「二度揚げするか……」


 気付いたなら手仕事を増やせばいい、と思い至り、切り身を油から引き上げ休ませた。


「おやつには、カリカリが最強だ!!」


 ジャワワァァァ


 高温で仕上げていたらキッチンにアルプがやってきた。


「ユージン、いい香りがしますね。ここにお茶、置いておきますね」


 アルプは、ひと通り仕事が片付いたのか俺のためにお茶を入れてくれた。


「アルプ、いいところに来たな?」


 俺がニヤリと笑うと、


「何か、お手伝い致しますか?」


 アルプは首を傾げながら近寄ってきた。


「作った者だけが味わえる、揚げ物の特権のお裾分けだ」


 俺は、串に揚げたての竜田揚げを突き刺しアルプに渡してやった。


「え? そんな貴重な経験を良いのですか?」


 アルプは、キラキラした目で竜田揚げを見つめた。


「ほら、バレないうちにさっさと食えよ」


 俺も、引き上げたばかりの塊をひとつ摘み上げ、二人で急いで熱々の竜田揚げでサクッと音を立てた。



 揚げ物の正解は、立ち食いだと思う。



 ***



「マハトは、今日来る予定だよな?」


 手を変え品を変え、飽きる事なく子供達にシュヴェルトフィッシュを食べさせてから、早くも二週間が過ぎた。


「今日は、漬け丼も作るか」


 たくさん作って、マハトに持たせてもいいな。


「漬けダレは、みりんと酒のアルコールを飛ばして、醤油とごま油を混ぜて……」


 身を刺身にして、タレを魔法で冷やしたら漬けて染み込むまで放置。


「後はご飯の上にのせて、大葉・白ごまを散らして、エリソンの卵の黄身をのせて……」


 海苔がないのが若干不満だ。


「風味が足りないか? 仕方がないか……」


 ないものはない。


「……目の前は海だ、探せば海苔もある?」


 考えてみたけど、作業を考えただけで気が遠くなるので諦めた。


 ふと、外を見たら、アルプが落ち着きなくウロウロしている。


「アルプ、マハトはまだ来ないのか?」


 声を掛けると、アルプはハッとしてこちらを見た。


「ユージン……昨夜からマハト様に連絡が付きません」


 アルプはプルプル震えながら、苦しそうに言葉を吐き出した。


 俺の思考に、一瞬出会った時の血塗れのマハトがよぎった。


「……仕事が忙しいのか?」


 ——頼むから、そうあってくれ。


 アルプは、緩く首を振った。


「連絡を……しない方ではありません……」


 アルプも、俺と同様に最悪な事態を想像しているのだろう……



「?! ッはい!」


 アルプの通信機に連絡が来たのか、慌てて通信を繋いだため、音声が聞こえる。


『シュピンネです。休暇中に悪いのですが、急ぎマハト様につないで頂きたい』


 シュピンネからの連絡のようだ。


「アルプです。主人はまだこちらに戻られていません」


 アルプは、平静を保ったままシュピンネに言葉を返した。


『ん? 偵察をした後、そちらの様子を見に行くと言われていたのだが……まさか、マハト様はまだ戻ってないのか?』


 シュピンネの声に緊張が走っている。


「マハト様がそちらを出たのは、いつ頃でしたか?」


 努めて冷静に振る舞うアルプを見ていると、俺の心が痛くなった。


『二週間ほど前か?』


 アルプに連絡があった日と同じだろう。


「マハトに直接連絡はしたのか?」


 俺はつい、通信に口を挟んでしまった。


『ユージンか? 我々は、マハト様に直接連絡をすることはない。基本的に秘書のアルプを経由するよ』


 アルプも頷いている。


 通信具の登録は3件……上限の限界か。


「一旦マハト様の不在は伏せて下さい。連絡がつき次第、折り返しご連絡します。不明が続くようなら後日……」


 アルプは、拳にグッと力を込めている。


 ——魔族の力関係が揺れるよな。


『分かりました。こちらはお任せください。定期的に情報共有致します。では』


 通信を切ったシュピンネの声にも、明らかに緊張感が現れていた。


「マハト様……」


 通信を終わらせたアルプは、涙を流しその場にへたり込んでしまった。


 アルプはマハトの行動を理解しているだけに、身を切られる思いだろう。


「アルプ、大丈夫だ」


 ——根拠なんかない。


 ただの俺の願いだ。



 ——マハトがいない



 それだけで、魔族の安全が脅かされるんだ

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