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異世界リストランテ『ピッコラ』  作者: 黒砂 無糖
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魔魚を捕まえろ!


「戦闘するしかないのか?何か罠とか……」


 罠を張れるなら、戦闘は可能なら出来る限り避けたい。


 ——そもそも俺は戦えない


「獲物の大きさ的に罠は無理ですね。戦闘が一番効率が良いです」


 アルプはあっさり俺の希望を打ち砕いた。


「……そっか、魔法でも無理なんだ」


 魔法に無限の可能性を抱いていたのに、少しガッカリだな。


「魔素が高濃度の獲物はかなり強いので、罠で捕まえようにも、魔力負けしますよ?」


 魔力負け……力負けみたいな感じか?


「ご心配のようですが、物理的になら我々が勝てない相手ではないから大丈夫です」


 物理ねえ……


 さらにやれる気がしないんだが。


「魔族は、みんな自分で魔物を狩るんだな」


 やっぱり魔族は血の気が多いか……


 人間が脅威に感じてしまうのも、仕方がないのかもしれないな。


「高位魔族は趣味以外で狩りなどはしませんよ。食材が欲しければ、狩りが得意な者に命令して取り寄せてます」


 なんだよ、必要に駆られてなら人間も一緒じゃないか。


 ——本当に、人間と魔族の境界は曖昧だ


 偏見で判断するのはダメだな……


「魔族国内は、魔法食材の魔素が少なくても魔の森の魔素があるから間に合いますが、ここでは食材すら足りませんから……」


 だから諦めて戦闘しろってか。


「魔族の国は、魔法食材も豊富だよな?」


 ピコラの畑は魔素を撒いていたけど、みんなそうなのか?


「魔族は基本的に食事には無頓着です。食に興味がある者や、種族の家業以外では食材は育てないので、さほど豊富ではないですよ」


 無頓着……ピコラも丸齧りだったな


「ピコラの畑は実りも種類も豊富だよな?」


 土地としては、食材を育てられないわけじゃないだろう?


「ピコラは、食に強い興味がある者だからです。通常の魔族は利益にならないなら、自分の魔力を撒いてまでやりませんよ」


 強い食への興味か……


「確かに、ピコラは俺が料理人だと知るとテンションが上がっていたな」


 そう言えば食レポも上手かったか……


「通常の魔族の場合、狩りは娯楽です。純粋に魔素だけを求め行う者もいますが」


 ガバルと出会った時に魔豚の血に塗れていたのも、魔素を求めたせいだったな。


「人間との取引を頻繁に行うもの以外は、魔族の国は取り立てて何もなく、寂れていると感じるでしょうね」


 求めるものが人間とは違うか。


 人間はうまい物が欲しくて、魔族は強くなる魔素を望んでいるのか……


「人間と上手く取り引き出来れば、争わなくても良さそうなのにな」


 でも、執拗に身内が狙われたら、警戒もするし反撃もしたくもなるよな。


「そうですね……どうであれ、今は魔王の力の影響下の魔の森に狩りに行くことはおすすめできません」


 魔王め……厄介な……


「でも、戦闘は危なくないか?」


 強い魔物なんて、子供達じゃ無理だろ


「もちろん安全ではありませんよ。しかし、早急に必要ではあるので、やるかやらないかは、本人達に決めさせればいい」


 アルプは自分達のためだから当然だと言うけれど……


「なんだか可哀想じゃないか?」


 子供達に痛い思いをさせたくはない。


 他にやれることがあれば……


「ユージン、あの子達は魔族です。魔族の評価は力が全てです。邪魔しちゃダメですよ」


 アルプは、ピシャリと俺の甘ったれた考えを叱責した。


「魔族は力が全て……か」


 ここでは、俺の過ごしてきた常識で物事を見てはダメだ。


 ——返す言葉もないな


 俺は黙ったまま、アルプの入れてくれたお茶を口にしていた時、



「たっだいまー!」

「はぁ、疲れたわ」

「無事に終わりました」


 子供達がバタバタとリビングに入って来た。


「おかえりなさいませ。皆さんの魔素のために、今からシュヴェルトフィッシュを狩りに行こうと思うのですがどうしますか?」


 アルプはなんの躊躇もなく、子供達に狩りの提案をしている。


「「「シュヴェルトフィッシュ?!」」」


 獲物の名を聞くと、3人とも驚き目を見開いている。


「知ってるのか?」


 有名な魚なのだろうか?


「知ってるも何も、魔素がたっぷりの超高級魚だよ!」


 ピコラは目を爛々と光らせている。


「どんな味かなぁ?今から行くの」


 リコラは味が気になるようだが……


「待て、戦闘になるんだぞ?」


 お前達はそこに、躊躇いはないのか?


「もちろん知ってますよ」

「うん、早く行こう!!」

「ねえ、また、槍を作る?」


 ——3人とも行く気満々だ


「だが、強い魔物だぞ?危ないだろう」


 気が引けているのは俺だけか?


「ボクは強いから大丈夫だよ」


 俺の不安をよそに、ピコラはニカッと笑い胸を張っているし、


「僕は船に結界を張るよ」


 エリソンは自分の役目を決めている。


「私は……雷槍で刺すわ!」


 リコラですら、前線に出るつもりのようだ。


「ならば、防御はお任せください。では行きましょう」


 アルプの言葉で、今から魔物討伐に出向くことが決まった。


「……俺も行かなきゃダメだよな?」


 戦闘は嫌なんだが……


「ユージンは船動かしてね」


 ピコラから、役割を振られてしまい、問答無用で強制参加となった。


「……はい」


 行くしかないか……



 ***



 別荘にあったマハトの船は、昨日の小舟とは違い大きさもしっかりした立派な船だ。


 操縦桿を握るだけで行きたい方向へ進む優れ物だが、俺の気は晴れない……


「準備できました!探索します」


 エリソンが魔法をかけた針を、数本海へ投げ入れた。


「……あっちにいます」


 エリソンは真剣な顔で一点を見据えた。


 ——探知魔法か


「了解!いっくよー」


 ピコラが魔法を発動すると蔦は長く伸び、海中に魔法の蔦がゆらゆらと漂っている。


「あ、気づいた!こっち、こっちだよ」


 ピコラは蔦を通じて、探知をしながら魔物をおびき寄せるつもりだ。


 ピコラの蔦がスルスルと引き寄せられていくさまを、俺はぼんやり眺めていたが


「来た!! リコラ!いくよ!」


 ピコラの鋭い声に、びっくりした俺は意味もなく操縦桿を握りしめた。


 ドッバーン!! バシャァァッ


 海中から、鼻先が鋭い剣のような大きな魚が勢いよく飛び出し、水飛沫がバケツをひっくり返すように降ってきた。


 ザバーン! ジャバーン!!


「うわっ! デカッ!」


 魔物は船の反対側に着水したが、既にピコラの蔦が巻き付いているので、海中には潜れないようだ。


「ピコラ、少し遠いわ!」


 リコラは、空中では獲物に槍が届かなかったので、身を乗り出し狙いを定めている。


「分かった!もう一度行くよ!」


 ピコラは更に蔦を短くして、獲物をグンと持ち上げると


 バシャァァァァン


 さっきより近距離に、3mはありそうなシュヴェルトフィッシュが飛び出した。


「危ない!!よけて!!」


 シュヴェルトフィッシュは勢いよくこちらに向かって鋭い鼻先を向け突っ込んできた。


「エリソン!」


 アルプが間一髪、空間に結界を張ると、同時にエリソンは船に結界を張った。


「結界完了です!」


 ドン!!ギシギシギシ


 シュヴェルトフィッシュが結界に激突したその時、


「今よ!!えい!」


 アルプが合図と共に結界を消すと、リコラは雷槍をシュヴェルトフィッシュの目に深く突き刺し感電させた。


 ドゴォン ビチビチビチ


 獲物の重さに船はかなり揺れたが、エリソンの結界のおかげで傷ひとつ付かなかった。


「終わった……のか?」


 シュヴェルトフィッシュは痺れているのかプルプル震えている。


「ユージン!!危険ですから鞄にしまってください!」


 慌てたアルプの声にハッとし、俺は急ぎ船からはみ出す大きな魚を鞄にしまった。


「見た目は剣サーモンに似てたな?」


 サイズ感はバグってるけど……


 みんながそれぞれ作業をする傍らで、俺は鞄の中に入れた海の魔物を鑑定してみる




 ▪️シュヴェルトフィッシュ(カジキに類似)


 身は淡いピンク。白っぽい赤身。

 淡白でクセが少ない。

 身はしっとりと柔らかい。


 ◻︎使い方


 生でも食べられるが、加熱調理向き。

 加熱しすぎると、やや固くなるので注意。

 下味をつけると旨みが引き立つ。


 *備考


 陸上に上がっても俊敏なので、雷魔法で意識を奪っておかなければ、近寄るだけで長く伸びた剣によって切り刻まれる。



「カジキか!!コレはかなり楽しみだ」


 雷魔法、俺使えるか?


 無理なら、アルプに頼もうかな?などと呑気に考えていたら


「リコラ!!」


 バリバリバリ!!


 ドゴォォン!!


 雷鳴が周囲に響き衝突音と同時に、船が大きく揺れた。


「うわっ?何?!」


 俺は無防備だったので立っていられず、目の前の棚に捕まった。


「ユージン!!早く!!」


 ピコラの叫び声で、目の前にさっきより大きなカジキがいることに気付いた。


「え?あ、あれ?」


 俺は、状況を全く飲み込めてないけど、とりあえず慌ててカジキを鞄にしまった。


「まだ、狩りの最中だったのか……」


 俺は一匹で終わりだと思っていた。


 ——まだ狩りは続くのか


 その後、何度も雷鳴と衝突音が鳴り響いた。


「シュヴェルトフィッシュって、かなり強いはずじゃなかったか?」


 俺は、次々と船上に打ち上がるカジキを、無の境地で鞄に入れていった。



「ふー、もう魔力が持たないや」

「私も、もう無理」

「僕はまだ平気ですよ」


 船にへたるピコラとリコラの傍で、エリソンはけろっとしている。


 ——さすがエリートだ。


「終わりにして帰りましょう。ユージン、船をお願いします」


 ——アルプもエリートだったな


「……お疲れ様でした」


 疲れを全く見せないアルプにかける言葉ではないが、見ていただけで疲れてしまい、他の言葉が出てこなかった。


「あー、楽しかったわねぇ」

「リコラ、今度はポーション持ってこよう」

「次は僕も雷撃してもいい?」


 子供達にとっては、今日の狩りは遊びの延長のようだ。


 ——魔族はやっぱり強いな


 味方だと頼もしい限りだ。


 そして、俺は弱いな……


 俺は複雑な気持ちで船を岸に向かわせた。

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