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異世界リストランテ『ピッコラ』  作者: 黒砂 無糖
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新たな拠点

「これで終わった……のか?」


 ログハウスは今、どうなっているんだろう?


「とりあえずは終わったみたいですね。子供達が心配しています。ユージン、私達も食事にしましょう」


 アルプは結界を解くと、憂うことなくさっさと子供達の元へ向かっていく。


 その後ろ姿を見送ることで、ようやく俺も状況を受け入れた。


「本当に終わったんだな……」


 ——食欲が湧かない


 食べなきゃ疲れが取れないけれど、さすがに気持ちが乱れているから、仕方がない。


「正直、今は何も食べたくないな……」


 俺はため息と共に、無意識に独り言を口にしていた。


『ユージン、聞いていましたか?』


 糸電話からコルージャの声が聞こえる。


「ああ……無事か?怪我してないか?」


 やっと話が出来ると思うと、つい早口になってしまう。


『ご心配をおかけしました。みな無傷です。こちらはもう大丈夫ですから、ご飯はしっかり食べなきゃダメですよ』


 コルージャに俺の独り言が聞こえていたのか、ちゃんと食べるように注意された。


「……はい。ちゃんと食べます」


 先生と生徒のようなやり取りに、俺は思わず苦笑いしてしまった。


『ここの修繕が終わったら、話もしたいので、結界の周囲の見張りをラマンティーヌ族に任せてそちらに伺いますね』


 詳しい話はその時にしたほうがいいか。


「……何も出来なくて済まなかったな」


 ——襲撃は俺のせいだ


『ユージン。あなたも私も大人です。大人は子供達を守らなければならない。お互いやれる事をすれば良いのですよ』


 ——確かにそうだ。


 俺はどう足掻いても戦う術は持っていない。


「暗い顔をしていたら子供達が心配するか。落ち込んでいる場合じゃないな。ありがとう、コルージャ」


 気持ちを切り替えなければ。


『では、また後日。何かあったらまたご連絡しますね』


 コルージャの言葉の後、通話を切ると、糸電話からの音は一切消えた。


「よし、飯にするか」


 俺は手を組み、グッと背伸びをして、暗い気持ちをしっかりと切り替えた。


「どうだ?魚は美味いか?」


 俺に気を遣っていたのか、子供達はかなり大人しく食事をしていた。


「ユージン……アルプから聞いたけど、みんな大丈夫だった?」


 子供達はずっと心配していたのだろう。


 しょぼくれながら俺にも尋ねてきた。


「ああ、大丈夫だ。コルージャが引き継ぎ次第こちらに向かうと言っていたぞ。美味い魚食べさせてやらなきゃな」


 俺は、健気に待っていた3人の頭を順番に撫でながらアルプの隣に座った。


「え?!先生が来るなら、ピコラまたスコルピオンを捕まえなきゃ!甘辛うまうまは絶対好きだと思うよ!」


 ピコラ、それはお前が気に入っただけだろ?


「そうか、じゃあまた頼むな」


 子供達はやっと安心したようだ。朗らかな笑顔が戻ってよかった。


「ユージン、先生は鯖の串焼き好きかな?」


 リコラは、自分の捕まえた魚をコルージャに食べて欲しいのだろう。


「鯖は煮ても焼いても美味いから、喜ぶと思うぞ。俺も食っていいか?」


 リコラはパァッと笑顔になると、俺に鯖の串焼きを渡してきた。


「ユージン、貝はどれも美味しいですよ」


 エリソンがくいくいと袖を引いたので振り返ると、皿に帆立と蟹が乗っている。


「これ、くれるのか?エリソンありがとう。うん、めちゃくちゃ美味いな」


 俺は片手に串刺しの鯖を手に、膝の上の皿から帆立の殻を持ち、行儀は悪いがそのまま齧り付いた。


「ユージン!コレも!コレもモチモチで香ばしくてウマーだよ!」


 ピコラも席を立つと、焼きイカを皿に盛り持ってきてくれた。


「んっ!コレも美味いな。鯖も脂が乗ってて、絶品だ。みんなありがとな」


 子供達は、緊張が取れるにつれよく喋りよく食べた。


 しかし、俺の皿に、次々と取ってきた海産物を乗せてくるから……


「ぐっ、ま、待て、これ以上はさすがにもう食えない……」


 あっという間に俺は満腹になってしまった。


 食事を終え片付けを済ませた後、子供達は荷馬車に乗り込むと


「海賊焼き、美味しかったねぇ」

「楽しかったし、またやりたいね」

「今度はもっと沢山拾いたいな」


 口々に思い出を話しながら眠りに落ちる姿に、なんだか俺は救われた気持ちだ。


「アルプ、先に寝ろよ」


 交代で見張りをする事にしたから、アルプは先に寝てもらおう。


 アルプは俺のことを馬車で眠らせるらしい。


 なら、俺は釣りでもしながら夜通し起きておけばいい。


「長い夜になりそうだな……」


 火の番をしながら、たまに投げておいた釣竿を構う。


「凄いな。満天の星空だ……」


 見上げた空には、数多の星がキラキラと煌めいている。


「さすが異世界。空が広いや」


 今までは森に囲まれていたし、夜は室内にいたからあまり気にしていなかった。


「……なんか、すごくいいな」


 気分が上昇した俺は、鼻歌を歌いながら釣竿を引いてみた。


「お?手応えありだ」


 糸を手繰り寄せたら、針全てにエビが引っかかり、ぴちぴちと跳ねている。


「針を増やしてみるか?」


 一本の糸に、幾つもの針がついた仕掛けを作り、俺は3本の竿の管理を始めた。


「おお、コレかなりいい感じじゃないか?」


 引き上げてみると、全ての針にエビがかかっていた。


「ブイヤベースでも作るか」


 俺は魔法で釜を作ると、鍋でオリーブオイルで魔法で砕いたにんにくの香りを出し、スライスした玉ねぎを炒めてトマトを投入。


「煮込む間に、魚介の下処理だな」


 エビは殻付きのまま背ワタを取り、イカは輪切りにし、魚を下ろすのも全て魔法だ。


「あさりはないけど、帆立があるし、いい味になりそうだ」


 鍋に魚介を入れて、貝が開いたら塩・こしょうで味を整えれば完成だ。


「オリーブオイルは仕上げでかけるか」


 俺は星空を眺めつつ、長い夜を過ごした。



 ***



「そろそろ行きましょう」


 まだ暗いうちからアルプが起きてきたので、そのまま馬車は出発した。


「休憩はせずに、別荘に直接向かいます」


 アルプに言われ、既に眠かったので魔法は使わず、座ったまま俺は眠っていた。


 ガタンと車輪が石を踏みつけた音と衝撃に、目を開けると目前の景色に目が覚めた。


「アルプ、まさかあれがマハトの別荘か?」


 進行方向には、白塗りの壁のクラシカルな豪邸が佇んでいる。


 ——貴族の邸宅って感じだな


「はい、こちらはマハト様が自ら望み、秘密裏に所有している別荘なので、魔族の軍事介入が少なく安全ですよ」


 マハトは、大切にしているプライベートの別荘を解放してくれたのか……


「マハトには感謝だな。アルプ、お礼をするなら何がいいかな?」


 マハトには世話になりっぱなしだ。


「マハト様はユージンを気に入ってますから、美味しいご飯で良いかと」


 門を潜り、石畳のアプローチを進み、玄関前のポーチに馬車を止めると、子供達は荷台から飛び降りた。


「わぁ!目の前が海だ!」

「ピコラ、エリソン見て!船よ!」

「砂浜もあります!」


 きゃーと奇声を上げ、子供達ははしゃぎながら海に走っていった。


「海は昨日遊んだのに、まだ新鮮なんだな」


 見た感じ表は海に面していて、裏は森に繋がっているようだな。


 ——なかなかの豪邸だ。


「海と森か……」


 前のログハウスと環境が近いか?


 アルプに案内されて中に入ると


「ユージン、オカエリ」


 姿を小さくしているフリーゲンが、玄関ホールで迎えてくれた。


「ホールも広いな。フリーゲンが大きくなっても問題なさそうだ。フリーゲンお疲れ様」


 フリーゲンを撫でてやると、俺の肩に乗り、甘えているのか頬擦りしてきた。


「ユージン、オナカスイタ」


 こうしていると可愛い。


 だが、フリーゲンは空の覇者だ。


「そうだな。飯にするか。おーい!!飯にするから先に荷物しまえよ」


 外にいる子供達に声をかけると


「「「はーい!!」」」


 3人してピャッと走ってきた。


「部屋割りは、こちらでお願いします」


 アルプによって、既に部屋は割り振られていたので、各自荷物を配置し、自然と食堂に集まった。


「取り急ぎ作り置きだが……」


 俺は昨夜のうちに作っておいたブイヤベースを丸パンと一緒にそれぞれ配った。


「うわぁ!美味しい匂いだぁ」

「見て?ほらお魚だよ」

「僕の拾った貝もあるよ」


 夜の間も魚は釣れ続けたが、なぜだかエビだけはよく引っかかっていたので具沢山だ。


「疲れてるだろうし、しっかり食べろよ」


 アルプとフリーゲンは特に疲れたはずだ。


「エビがプリップリだねぇ、あ、そうだ!!アルプ、畑作っていい?」


 ピコラが食レポついでに畑について尋ねたら


「僕も……鶏小屋作れますか?」


 エリソンは不安そうにアルプに質問した。


 ——自分の仕事が心配だよな


「先程お伝えした位置ならば、許可を得ていますので、好きに弄って構いませんよ」


 アルプが返事をしたら、一気に食事のスピードが上がり


「「ごちそうさまでした!!」」


「エリソン行くぞー!!」

「ユージン、行ってきます!!」

「ああ、ピコラ、エリソン待って!!ごちそうさまでした!行ってきます!」


 子供達は大騒ぎして外に出ていった。


「ふふ、お疲れ様でした」


 慌ただしさに呆然としていたら、アルプがお茶を入れてくれた。


「ありがとう。子供だけで平気か?」


 ついていくべきだろうか?


「海の隣、山の向こうは人の国で、ゴルドファブレンというとても豊かな国ですから、この辺りは食材も豊富で安全ですよ」


 辺境だけど平和なんだな。


「ここ、前のログハウスに環境が似てるな」


 食材には困らないだろう。


「そうですね。ここは生活しやすいですが、魔素が少ないので魔物食材をしっかり食べる必要があるのが少し面倒ではあります」


 魔族にとって、魔素の量は成長期の子供には死活問題なはず……


「この辺りは、魔物が少ないと言っていたよな?子供の器を成長させるための魔素の量は間に合うか?」


 俺のせいで巻き込んでしまったからには、かなり責任を感じるんだが……


「沖に出たら、魔素の含有量が高いシュヴェルトフィッシュがいるので、なんとかなるかとは思いますが……」


 魔素の多さは強さじゃなかったか?


 それを捕まえなきゃダメなんだよな?


「……釣りか?」


 俺は少しの希望を胸に、恐る恐るアルプに尋ねてみたが


「釣りというより戦闘ですね」


 アルプによって、あっさりと俺の希望は打ち砕かれた。

読んで頂きありがとうございました。

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