表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界リストランテ『ピッコラ』  作者: 黒砂 無糖
集まる。そして始まる。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

55/61

襲撃か?


「なんの音だ?フィアール、聞こえるか?」


『…… ……』


 糸電話から声が聞こえた気がして、糸電話の持ち主に声を掛けてみたが、俺の声は届いていないようだ。


『……だ!……な!…………』


 遠くで誰かが叫んでいるようにも聞こえる。


「とりあえず、焼けたやつから食べていいぞ。熱いから火傷するなよ」


 俺は、ピコラ達に先に食べるように伝え、みんなから少し離れて糸電話の音に集中した。



『ドン!! バキッ!! ガチャン!』


 何かが壊れる音がした。


 ——襲撃か?!


「おい!フィアール!ソワ!コルージャ!聞こえるか! 大丈夫か?!」


 焦った俺は、つい大声を上げた。


 ——しまった


 何のために子供達から離れたのか……


 子供達が驚いた顔でこちらを見たが、アルプが何やら話をして落ち着かせている。


 食事を再開し始めると、アルプはこちらにやってきた。


「ユージン、何かありましたか?」


 手際よく防音結界を張ると尋ねてきた。


「アルプ、すまん。助かった」


 俺も初めから、防音結界を張るべきだった。


「もしかして拠点の襲撃ですか?  まさか救助要請がありましたか?」


 アルプは糸電話の音を大きくした。


 このような状況に慣れているのか、既に把握をしているようだ。


「救助要請はないが、繋がっている。さっき何か破壊された音がしたんだ」


 音を大きくした糸電話からは、今は品が良いとは言えない下品な笑い声が響いている。



『おい!料理人と店をさっさと出せ! 魔王様直々の命令だ! 抵抗するなら全て壊せとのことだ。邪魔すんじゃねぇよ』


 マハトが逃げろと言った理由はこれか……


『お待ちください。ここは無関係です。旅の料理人なら店を畳んで人間の国に向かいましたよ』


 コルージャが、毅然と対応している。


「落ち着いていますね。このまま様子見をしましょう」


 アルプと共に聞こえてくる会話に集中した。


『なんだとぉ? もういないのか?! おいテメェどうなってるんだ?! ここにヤツはもういねぇらしいぞ?』


 口の悪い男が、大声で探しているのが俺だと思うと気分が悪く、思わず顔を顰めた。


『隊長、コイツらグルじゃねぇの? かち割って家の中見りゃ分かんだろ、やろうぜ!』


 襲撃しにきた魔族は、理由は関係なく、ただ暴れたいようだ。


『それもそうか。おい、お前らさっさとやりやがれ。中を見せろ!』


 隊長らしき魔族が合図をすると、


『おらぁ、どけよ!!』


『ガチャンバリーン! ガタガタン!』


 破壊音が響いてきた。


 ——やめてくれ!!


「アルプ、まずいぞ!どうすればいい?」


 このままじゃ、ログハウスが……


「コッ、コルージャならきっと大丈夫です」


 オロオロする俺とは違い、アルプは、食いつくようにただ糸電話を見つめている。



『おやめください。私はここを間借りしていますが、中には紡糸スパイダーの族長と、紬族の族長がアトリエにしているだけですよ』


 コルージャは怯むことなく、淡々と魔族に説明をしている。


『はぁ?んなもん関係ねぇだろ!隊長がやれって言ってんだ。どけよ!』


 ドスン! と何かが倒れる音がした。


「コルージャ?!」


 今の音、コルージャ大丈夫か?



『中に入れないなら、ぶっ壊せばいいって、最高な気分だねぇ!』


『ドドン!ガチャーン』


「ああ……」


 ——ログハウス破壊されていく


『そうだ!やっちまえ!ホラ、火の玉ダァ』

『ドン!!ガシャーン!!』


 俺は何も出来ず、力無くその場に座り込んだ。



『おやめください!中には族長が!!』


 コルージャの叫び声が聞こえる……



「頼む……みんな逃げてくれ」


 神さま……どうか……



『こっちは壊しにきたんだよぉ。やめるわけねぇよなぁ!族長?んなもんしらねぇよ。ホラよ、今度は特大だぁ!』


『ズドーン! バチバチバチ!!』


 そんな……俺は何も出来ないのか……


 横を見たら、アルプはギュッと目を瞑り険しい顔をしている。



『やめて!止めてください!!このままではどうなっても知りませんよ!!』


 コルージャが、これ以上ないくらいの金切り声を上げて制止している。


『はは!糸があるからかぁ?よく燃えんじゃねえか。ったく、うるせえ鳥だな。お前みたいな頭でっかち野郎に何が出来るってんだ』


 コルージャを馬鹿にする魔族に対して、俺の中の苛立ちがどんどんと募っていく。


『トガン、バリーン』


 ログハウスが破壊される音だけが、無慈悲に糸電話から響いてくる。


「アルプ!ジェリコを呼ぼう!」


 俺は、なんとかしたくてアルプに伝えたが、アルプは、歯を食いしばったまま、じっと黙ったまま糸電話を見つめている。


 俺が通信機に手を翳したその時……



『あーあ……知りませんからね』



 俺達の怒りと悲しみとは裏腹に、コルージャはずいぶん冷めた物言いをした。


「コルージャ?」


 どうしてそんなに冷静なんだ?


 こちらは何も見えないから、ただ心配しているだけだ。



『ちょ、おい!なんだコレ?!動けないじゃないか!』

『隊長!!糸!糸が首に!!ちょ、まて、待ってくれ!』


 どうやら暴れていた魔族に、コルージャ達が何かしたようだ。


「ふう、始まりましたか。ユージン、安心してください。もう大丈夫ですよ」


 アルプはホッと息を吐き、力を抜いた。


 ——大丈夫って?



『ここは族長のアトリエと言ったじゃないですか。仕事の邪魔をしたら糸から逃げられないことくらい、子供でも知ってるのに……』


 コルージャが、ため息混じりに呆れたように呟いている。


『なんだとぉ?くそッ。マジ外れねぇ』

『あれ?ちょっと!!俺の付けた火が消えてる?!なんでぇ?』


 魔族の混乱する声が聞こえてくる。


「紡糸スパイダーの糸はかなり丈夫です。族長のフィアールと紬族の族長ソワもいますし、奴らは糸から逃げられないでしょうね」


 アルプは楽しそうに、ふふふと笑っている。

 

『あー、引火したログハウスは、早急に糸のバケツリレーが行われてましたよ』


 コルージャの言葉を聞く限り、フィアールもソワも器用に糸を操り、火事を広げなかったようだ。


「族長二人がいるなら、ログハウスも補強していたはずです。多分無傷だと思いますよ」


 アルプはさっきとは違い、楽しそうに糸電話に耳を傾けている。


『ちょ、おい、なんかどんどんじわじわ巻かれてるんだが……お、お前ら助けろ!』


 焦った魔族の声がする。


『あなたはここに手を出した主犯ですし、息の根を止めるためですかな?随分と丁寧にゆっくり巻かれてますね』


 コルージャは不安を煽るように、じっとりと魔族に語り聞かせている。


 ——コルージャ、怖いぞ?


『何だと?!こんな細い糸、俺の牙と力があれば簡単に……き、切れないだと?!』


 ドタバタと暴れているのか、音だけが聞こえている。


『あなた方は、紡糸スパイダーとシルク蝶のことをご存じないのかな?だとしたら、かなりの勉強不足ですね』


 コルージャは、ダメな生徒に注意をしているみたいだ。


『う、うるさい!俺は魔王様の使いだぞ?!それをお前……どうにかしろ!』


 魔族は立場を傘にまだ文句を言っている。


「魔王ねぇ……」


 まともなヤツなら、あれを王として敬うのは嫌だろうな。


『全く人に物を頼む態度ではありませんね。魔王がなんと言ったか知りませんが、ここには、店もなければ料理人もいません』


 コルージャがピシャリと話を切った。


『キサマ、何様だぁ!!偉そうにしやがって!さっさと糸を外せぇ!』


 隊長らしき魔族が、威圧感たっぷりに怒鳴り散らしている。


『何様……ですか。私は叡智のコルージャですが、ご存じありませんでしたか?』


 コルージャは静かに問い返している。


「コルージャってもしかして有名?」


 子供達から先生とは言われているが……


 アルプは、コクンと頷いた。


『コルージャって……あの?』


 あれ? 魔族が急に大人しくなった?


『ここは迷いの魔の森じゃないぞ、嘘だ!』


 魔族達は焦り、否定している。


 ——コルージャ、もしかして大物なのか?


『どうでもいいですが、あなた方は、こちらからしたら住居を破壊した、ただの邪魔者でしかないのです。お引き取りください』


 コルージャは自分の存在証明をシレッと流し、魔族にさっさと帰れと伝えた。


『クソォ!キサマ!魔王様に逆らったな!!』


 なんて言うか、こうなると騒ぐモブだな……


「同じ言葉しか吐かなくなったな。これ、ジェリコを呼んだ方が良いか?」


 何となくだが話の終わりを感じて、アルプに尋ねてみた。


「コルージャだけでなんとかなりそうですから、今回はいいでしょう」


 アルプの決断を聞いて、ホッとしていたら



『おい、お前達何をしている』


 聞き覚えのある声が聞こえてきた。


 ——この声はまさか、セルヴォか?


『あぁ?お前らセルヴォ様にひとことも伝えず、何勝手に糸で遊んでんだよ』


 シエルボもやってきたようだ。



「ちょっと厄介だよな……」


 アルプを見たら、頷いたので俺は急いでジェリコに連絡をした。


『——私は距離的に無理ね……誰か近くにいたら向かわせるわ』


 ジェリコ達は今遠征中らしく、代わりに近場の隊員を派遣してくれるらしいが……間に合うのだろうか?


『おい、コルージャ。命が惜しくば、そいつらを解放しろ』


 セルヴォが低く威圧する声で、仲間の解放を提示してきた。


「コルージャ!命をかけるな、解放して逃げてくれ!」


 俺は怖くなって糸電話に叫んだ。


 セルヴォはそれなりに強いと聞いている。


 仮にもマハトと同格の魔族だ。逆らうわけにはいかないはずだ。


『お前達ご苦労だったな。後始末は俺たちにまかせろ』


 セルヴォが魔族に声を掛けたが、


『そんな、セルヴォ様がわざわざ手を出さずとも、雑魚の後始末なんざぁ、俺らが適当にやりますんで』


 暴れたいだけの魔族は、獲物を取られたくないのか諦め悪く食い下がっている。


『黙れ!!コイツらは、我々を欺いた。裁きは自分で下す。巻き込まれたくなかったら、お前らはさっさと帰れ!』


 セルヴォが噛み付くように叫んだ。


『ちょ、待ってセルヴォ様!それは!!俺たちもヤバいですって!』


 見えないからわからないが、セルヴォが何かをしているみたいだ。


『うげっマジか、ヤバい、ズラかるぞぉ!』

『あの人ヤバいって!やり過ぎだぁ!』


 魔族達が慌てて逃げていったのか、声は遠くに消えていった。


『お前達、絶対に動くな。大人しくしてろ。

 ——シエルボ、行ったか?』


『セルヴォ様、奴等、攻撃魔法の範囲外まで逃げたようです』


 魔族は、セルヴォの魔法に恐れをなしてあっさり逃げ出したようだ。


 ——これ、大丈夫なのか?!


 俺の心配をよそに


『ボムッ ズガガーン』


 糸電話から、爆発音が聞こえてきた……


「コルージャ!!おい、コルージャ!!」

「コルージャ!?」


 まさか、全て破壊されて……


 あまりのショックで、俺とアルプは膝から崩れ落ちた。




『魔法を空中で爆破させましたか……理由をお伺いしても?』


 糸電話から、冷静なコルージャの声が聞こえてきた。


 ——無事か! え?空中で爆破?


 なんでセルヴォはそんなことしたんだ?



『……騙されたのは魔王だけだ。俺は、初めにサンドイッチとやらを貰ったんだ』

『……私もシエルボからサンドイッチを貰って、料理があることは知っていた』


 ボソボソと二人が理由を話している。



『もしかして、まさか二人ともここを守りにきてくださったのですか?』


 コルージャの問いかけに、


『また、いつかユージンの料理が食べたいからな。あっさり殺してしまったら、それがかなわなくなるだろう?』


 シエルボ、セルヴォは、ログハウスを守りにわざわざきてくれたらしい。


「あいつら……」


 それならいつか、ちゃんとした料理でお礼をしなきゃな。


『そうでしたか。ユージンにその言葉伝えておきますね』


 コルージャの言葉に、


『ああ、頼む』


 シエルボは素直に答え、


『少しの間、ここには結界を張っておく。更地にしたと伝えるから、建物は見えなくした方がいい。お前達も逃げておけ』


 セルヴォは、今後のことまで引き受けてくれていた。


 ——二人はぶっちゃけ嫌な客だった


 ……だけど、俺の料理は本当に気に入っていたんだな。


 俺の中に、複雑な気持ちと喜びの感情が入り混じっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ