野営と海とアブナイ食材
「海だぁー!!」
「わぁ!キラキラしてる!」
「綺麗に足跡がつくんだね」
子供達は、荷台から飛び降りるなり、砂浜を弾けるように海に向かって走りだした。
「はは、ずいぶんはしゃいでるな」
転移した時にも感じたが、今日は夏ほどじゃないが、そこそこ気温が高い。
子供の水遊びに丁度いいだろう。
「ユージン、大丈夫ですか?」
元気いっぱいの子供達とは裏腹、クッションを引いても硬い御者台により尻に受けたダメージは絶大で俺はヨレヨレだ。
「ああ、なんとか生きてる」
痛む尻と腰に、アルプが回復魔法をかけてくれた。
「……魔法をかければよかったのに」
アルプは、残念な物を見るような目線を向けてくる。
「いや、これでいいんだ」
御者台で眠りこけるなんて、子供達に見られたらカッコ悪いだろ
「……今日はここで休みます。念のため、動物避けに焚き火を用意しましょう」
アルプは、木に馬を繋ぐと近場の砂地に移動し、しゃがみ込んだ。
「動物?魔物じゃ無いのか?」
周りを見てみるけれど、よくわからない。
「この辺りは、ログハウスの周りに比べると魔素が薄いので、動物の方が多いです。魔物より、動物の方が野蛮なので……」
魔素が関係するのか。
「動物が野蛮?」
魔物の方が危険じゃないのか?
「魔物は強いほど知能が高く、魔力量を読むので無駄に近寄りません。我々からすると安全ですが、動物は危険な奴ほど強くて」
確かに熊は魔力関係なく襲いそうだ……
「魔物の強さは魔力量が基準か、単純な力じゃないんだな」
アルプは俺の話に頷きながら、鞄から薪を取り出している。
——今夜はキャンプ飯だな。
「アルプ、今夜は釣った魚を食わないか?」
海を見ながらの海賊焼きは最高だろう。
「いいですね。焚き火の形はどうします?」
魚を串に刺して、浜焼きにするのもいい
「そうだな、ひとつは周りで魚を焼きたい。もうひとつ……金網とか作れないか?」
海賊焼き用と二つ欲しい。
「金網……ですか?」
アルプに分かりやすく説明するために、俺は、砂地に指で絵を描いた。
「この金網の上で海産物を焼きたい」
砂に描いた俺の適当な絵を見て
「ああ、わかりました」
理解したアルプは、鞄から鉄の籠手を取り出し、変形させて金網を作ってくれた。
「台座になる丁度いい石を探してくるよ」
俺が森に向かおうとしたら、
「ユージン、魔法で砂を火に強い石に変化させればいいですよ」
魔法で、石は作れると言われた。
「火の準備は私がしますから、ユージンは食材を探してください」
アルプは少し離れた位置で、船と釣竿を砂浜に取り出し、火起こしに戻って行った。
船と釣竿をカバンに入れ、はしゃぎながら走り回るピコラ達の元へ向かう。
「ピコラ、釣りするぞ」
知らせに行くピコラを見送り、俺は砂浜で靴を脱ぎ、ズボンの裾を折り曲げていたら、
「ユージン、魔法でやれば?」
ピコラとリコラはパチンと指を鳴らし、水着と言うか、ノースリーブの短パンのツナギへとそれぞれの服が変化した。
「そんなことが出来るのか?」
便利な魔法だと感心したら
「イメージするだけだから、形状変化は簡単な魔法よ?」
リコラはそんなことも出来ないのか?と、不思議そうに首を傾げた。
「そうか……簡単か」
ちょっとだけ凹んだ俺は、半袖短パンをイメージして、魔法を発動した。
「出来たな……」
確かに、今までも魔法で色々状態や形を変えてきた。大人になると、柔軟性がなくなるんだろうか?
「無くなった布はどこへ消えたんだ?」
分厚くなったのか?
どうでもいいことを考えながら、小舟を水に浮かべ乗り込むと、ピコラとエリソンを抱えたリコラも乗り込んだ
「ユージン、船を動かしていい?」
「ん?いいけど、この船オールがないぞ?」
作ればいいのかな?
「オールって何?船はこの操縦管だよ?魔法で動くんだ」
ピコラは、船の先に立ち上がっているパイプを掴んだ。
この船は、小さい魔導船らしい。
「いくよー!!」
ピコラが魔力を通すと、小舟は自動的に進んでいく。
沖で釣りを開始して10分……
「あー、なかなか釣れないよぉ」
既にピコラは根を上げ始めた。
「そんなに簡単には釣れないさ」
釣りなんて、そんな物だろ?
「お魚は沢山見えてるのになぁ……」
この海は透明度が高く、海底に泳ぐ魚まで見えている。
「うーん、そうだ!」
ピコラは鞄から木の棒を取り出すと、自分の背丈より長い槍のような物を作り出した。
「エリソンお願い! ビリビリ針をこの先につけて!」
エリソンは鞄から針を取り出すと、ピコラの槍先に取り付けて魔法をかけている。
「どうやるつもりだ?」
魚は見えるが、その長さじゃ届かないぞ?
「ボク潜ってくる! 針が刺さると魚が気絶するはず!」
そう言ってピコラは水中に潜って行った。
「あぁ! ピコラずるい!!」
リコラも同じ物を作ると、エリソンの針に魔法をかけてもらい、後を追った。
「……エリソンはいいのか?」
エリソンはコクンと頷くと、手ぶらでトポンと海に入り潜って行った。
「うさぎだけじゃなく、この世界はハリネズミも潜るのか……」
海底で、泳ぎながら魚を仕留めているピコラとリコラが見える。
「エリソンは小さいから見えないな……」
大型の魚に食われないだろうな?
俺は、少しだけ心配しながら、針が引っかからないように、子供達の居ない方角へ糸を垂らした。
ザザン ザザン ザザン
波音を聴きながら、綺麗な海と海底で動きまくる子供達を眺めつつ、俺はひたすらボーっとして過ごした。
ザバーッ
「ユージン! おっきい魚沢山獲れたよ!」
いつの間にか時間が過ぎ、最初に上がってきたのはピコラだ。
鞄を見せてきたので、中を覗くと3種類の魚が5匹入っていた。
「こんなに? ピコラ凄いな」
俺が知っている魚の名前もあった。
「えへへ」
ピコラが自慢げに笑うと
ザバッ
「ユージン! お魚いっぱい獲れたよ!」
リコラが続いて上がってきた。
報告の仕方がピコラによく似ている。双子だからだろうか?
リコラは2種類の魚を4匹
「沢山だな。ありがとう」
リコラの魚は、俺がよく知っている魚だ。浜焼きにはピッタリだろう。
「うふふ」
リコラが嬉しそうに笑っていたら
ピチャッ
「ただいま帰りました」
エリソンがひょこっと水から顔を出した。
「エリソンお帰りー」
ピコラがエリソンを引き上げている。
食われなくてよかった。
「エリソンは何を獲ったんだ?」
声を掛けると、エリソンもスッと鞄を差し出してきた。
「色々な貝と蟹と、なんだこれ?」
とりあえず色々な物を獲ってきたようだ。
「エリソン深くまで潜ったんだな。どこにいるか全くわからなかったよ」
潜ると、色合い的にもわからなくなる。
「素潜りは得意なんですが、海水は浮かびやすいし、しょっぱいからちょっと苦手です」
エリソンは、誰より早く全身に洗浄魔法を使っていた。
「ユージンは釣れた?」
ピコラの問いかけに、俺はニヤリと笑い
「すまん、ゼロだ!」
しっかりと開き直った。
子供の活躍を見ていながら、情けないことに、俺は一匹も釣れなかった。
「えー、もう、仕方ないなぁ。ピコラのお魚あげるから美味しい料理作ってね?」
ピコラは可愛くぷぅっと膨れた後、ニコニコしながら鞄を預けてきた。
「あー!ピコラずるいわ!ユージン、私もお魚あげるから作って!」
リコラは笑うピコラの横に来ると、同様に鞄を預けてきた。
「僕も……お願いしてもいい?」
足元に寄ってきたエリソンも、俺に向かって鞄を掲げている。
「勿論だ。みんなで一緒に食べよう。準備もしたいからそろそろ戻るぞ」
子供達の素直さにほっこりしながら、それぞれ船底に座る。
「じゃあ、進みます!!」
帰りの操舵はリコラが請け負った。
「お魚、楽しみだなぁ」
「もう、お腹空きました」
キャッキャと笑いながら子供達ははしゃいでいる。
——俺は子供達に助けられてばかりだ。
まあ、釣り糸近くで、子供達が魚を追いかけ回せば、釣れるわけはないが……
決して、俺が下手なわけじゃないはず。
…………
「ああ、いい匂いだぁ〜」
金網の上には、エリソンが獲ってきたカニとウニと帆立と鮑がぐつぐつ煮えて、海辺に旨そうな香りが漂っている。
鑑定してみたが、これは魔法食材ではなかったので、普通に海賊焼きにした。
「帆立にはバターと醤油、ウニと蟹は塩。鮑は、醤油だな」
ジュワァァっと音を立てて、磯の香りに醤油の香ばしさが追加された。
「ふぁぁぁぁ!海の香りに焦げた醤油がたまらない!おなかすいたぁ!」
ピコラは、食べる前から食レポ中だ。
「ユージン、お魚はいつまで焼けばいい?」
お手伝いしてくれているリコラは、鯖と鯛の塩焼き当番だ。
「もう一度、裏返して少し経ったらいいぞ」
鯖と鯛は一般食材だったが……
「問題は、こいつらだよなぁ」
▪️トゥーボルーラ (イカに類似)
皮を剥くと身は白く透明感があるが、加熱すると不透明な白になる。
モチモチな弾力のある食感
甘味がある。
◻︎使い方
内臓に毒。水の中で皮を剥き内臓を取る。
空気に触れたまま処理すると、身が毒に侵され紫色になり食用不可となる。
*備考
神経毒を使う場合は、取り出した内臓を一日天日干しすると毒性が高まる。
……怖っ!
この世界の食材、物騒すぎる!
水中で綺麗に剥かれたイカは、イカリングにしてくれと言わんばかりだが……
「今日は、焼きイカにするか」
俺は、食べやすいサイズに切り分け、格子状に切り込みを入れ、焼き網の上に置いた。
イカの身はキューっと音を立てて、チリチリ焼かれていく。
「次は……見るからやばそうだが、きっとあの魚だよな?」
▪️スコルピオン (カサゴに類似)
白身魚。白い身は締まりがあり上品な味。
油は強くないが、旨味が濃く出汁が出る。
加熱しても身が崩れにくい。
◻︎使い方
煮ても焼いても美味。
皮と骨から良い出汁が出る。
骨付きのままの調理推奨。
下処理をする場合、初めに雷で気絶させ、手に刺さないよう毒針を外す。
*備考
背びれ、胸びれに鋭い棘がある。
意識ある状態で触れると、強い毒のある棘を飛ばしてくるので注意。
爆発したり、猛毒だったり、飛び道具もありなんだよ……
「鬼カサゴかと思ったが、まさか針を飛ばしてくるとは……危なすぎるだろ」
スコルピオンを取りだす瞬間、速攻で雷で気絶させ慎重に下処理をする。
「水に酒と醤油と砂糖を入れ、生姜っぽい葉っぱを足して、カサゴの煮付けだ」
俺は好きだが、子供に煮付けは喜ばれるだろうか?
ちょっとだけ気になったので、少しだけ、甘さを強くしておいた。
「最後は、最大の難関か……」
▪️ゼーシュランゲ 海蛇
身は白く弾力があり、歯ごたえがしっかりしている。
鶏肉と白身魚の中間のような味。
油は控えめであっさりしている。
◻︎使い方
スープ、炒め物、干し肉
薬膳料理として使われる。
*備考
かなり強い毒なので、取り扱いに注意。
風魔法で頭を落とした後、浄化魔法を最低5回はかける(サイズによる)
——また毒か……
「んー、今日食べる食材は既に沢山あるから、ゼーシュランゲは今度にするか」
新しい拠点に向かうまで、何があるかわからないから魔力は温存したい
そんなことを考えていた時、ポケットの中に入れていた糸電話のカップが震え……
ザワザワと争うような音が聞こえてきた。




