俺も、人間なんだがな
「まともな魔王だったなら、我々は基本的に人間と争う事はありません。たとえ好戦的な魔王でも取り巻きが宥めることでしょう」
コルージャの言葉に、それはそうだなと俺は納得をした。
魔王が約束を違えるから、勇者が現れ争いが肥大化する。
「魔王さえ押さえられたら、争いはなんとかなるのか?」
誰か魔王を洗脳できないのか?
俺の質問に、コルージャが首を振り否定をすると、アルプが話し始めた。
「今回はそうもいかないのです。人間が先に魔族を襲い始めたので、魔族側に人間を攻める口実を作らせてしまいましたから……」
こっちの人間は、馬鹿なのか?
「人間も魔族も、あっちもこっちも、余計なことをするやつばかりだな」
まさか、人間は争いを望んでいるのか?
「本当にそうなんです。そのおかげで血の気の多い魔族は、馬鹿な魔王の口車に乗って大義名分を持って暴れようとしています」
——完全に負の連鎖だ
「それに……魔族狩りに会うのは、決まって弱い魔族です。先日も、子供の魔族が奴隷として人間に誘拐されていたようです」
子供を……酷いことをするな。
「奴隷にって、なんで子供を?」
同じ働き手なら、大人の方が使い勝手はいいのでは?
「魔力を労働力に利用しようとする奴らがいるそうです。大人の魔族は強くて手が出せないのだと思います」
そうか、たとえ子供でも魔力量は人間より上なのか……
「子供の魔族を攫って、調教するつもりだったのでしょう。そんなことしても無駄なのに」
アルプは忌々しいと呟き、お茶を啜った。
「無駄?」
どういう意味だ?
俺は説明して欲しくてコルージャを見た。
「魔族の子供は、大人と違って基本的に周りに魔素がないと力が湧かないのですよ」
コルージャはこのまま説明しても良いかと、アルプに尋ね、アルプは頷いた。
「子供は魔力が少なく、魔力の器も育っていません。なので周囲に濃い魔素がなければ時間をかけて、力がなくなっていくのです」
確か魔力がなくなると、命を落とすと言っていたよな?
「それは、命に関わるんじゃないのか?」
なんて危険なことを……
「子供は魔力が少ないので、急な変化ではないため大丈夫です。しかし、枯渇すれば人間と同様までしか器が育たなくなります」
ん?人間と同様なら……人間と何が違う?
「そうなると、どうなるんだ?」
器が育たない魔族は、人間になるのか?
そもそも、魔族と人間の違いってなんだ?
「器が合わない場合は、魔族の国で暮らす事が困難になるでしょうね」
器か……そもそも器ってなんだ?
「器が育っていないと、人間同様、魔素が濃い魔族の国で生活するのは難しいですから」
ダメだ、詳しく聞くほどに、わからない事が増えていく。
「人間は魔族の国では暮らせないのか?」
俺はなんで平気なんだ?
「魔族の国の魔素は、聖魔法との相性が悪いのです。人間は聖魔法がベースにある場合が多いので難しいかと」
聖魔法、癒やし的なやつか?
もしかして転移者には、元から器があるんだろうか?
ダメだ、謎ばかり増えていく……
「あれ? マハトも回復魔法を使えたよな?」
俺も、今なら軽い回復魔法なら使える
「魔族の浄化や回復魔法は、人間の聖魔法とは違います。闇属性の応用による回復魔法です」
属性のシステムはよくわからんな。
「俺は魔法のことはよくわからないが、アルプ、また細かいことを教えてくれ」
食材の特性を活かすためにも、ちゃんと理解して使っていきたい。
そう思ってアルプを見たら、アルプは小さく頷いてくれた。
「魔素の話になりますが、昔、聖女と魔王が恋に落ち共にいたことがありました」
コルージャは、アルプを見ていた俺を見ながら、昔話をはじめた。
「2人はとても仲睦まじく、穏やかに暮らしていましたが、魔族の国は魔素が濃すぎて、段々と聖女の体を蝕み始めました」
聖女と魔王が恋仲?!
どんな出会いだよ……
「このままでは、命に関わるからと、聖女は魔王の手によって封印されました」
魔王が聖女を封印?!
なんだそれ、物語なら普通逆だろ……
「ちょっとまってくれ! 意味がわからん。聖女が魔王と恋仲になって封印だと?」
そもそも、なんでそうなった?
混乱している俺を放置して、コルージャは話を続けた。
「魔王討伐に来た聖女が、魔王を見て一目惚れをしまして……後々、わかった話ではお互い一目惚れだったようですね」
コルージャは楽しそうに笑っているが……
聖女、魔王を討伐に来たのなら、人間側から見たら聖女の闇堕ちだよな?
「それ、その後、大丈夫だったのか?」
人間が攻めてくるよな……
「聖女は、人間の国に不満があったようで、魔王と人間の国を潰していましたから、こちらには影響はありませんでした」
は? いや……は?
聖女、何やってんだ?!
「……」
呆れて言葉が出てこない。
俺この場合、どっちの味方したらいい?
「しかし、残念ながら聖女は純粋な魔力、長期滞在により魔素が影響し魔力が濁り……」
コルージャの顔が険しくなった。
「魔王は自らの手で、愛する聖女を封印したのです」
——命に関わったから封印したのか
「魔力は濁っちゃダメなのか?」
俺は、大丈夫なのか?
「魔力の弱い人間は、魔素が濃い魔族国だと魔力酔いを起こしますが、魔力量が少なければ、多少濁ったところで問題はありません」
濁りに関しては、俺は魔力が少ないから大丈夫か。
「俺は魔力が少ないが、魔力酔いを起こしたことはないぞ?」
なんでなんだ?
「ユージン、ここは魔族国ですが、人間の国に近いから比較的魔素が薄いのですよ」
混乱していたら、アルプが横から小さな声で説明してくれた。
「魔王の愛した聖女は、魔力の量も質も全てが一般的な者とは違いすぎましたから、難しかったのです」
コルージャはアルプの言葉に同意を示しながら、話を進めた。
「聖女は聖魔法ですよね? 闇の影響が強い魔族の国での生活なんて無理があります」
アルプはことの重大さが理解できるのだろう。難しい顔をした。
「命に関わるほど、魔素が濃いのか……」
——ちょっと怖いな
俺も、釣られて険しい顔をしてしまった。
「人間が魔素に対応するなら、食事で魔素を徐々に取り込み、魔力量が増やせば、ある程度適応できるようになりますよ」
険しい顔をしていた俺に、コルージャは対応策を教えてくれた。
「ユージンは馴染みが早いようなので、特異体質かもしれませんね?」
アルプは俺を見て心配したのか、目を光らせ俺を観察している。
——アルプ、何が見えているんだ?
「馴染み……早いのか」
言われてみれば、毎食、魔素が濃い物を食べているけど平気だよな?
「確かに、そうですね?」
コルージャも納得しているようだ。
「稀に、適応力がある者もいますので、ユージンはそのタイプかもしれないですね」
稀か……
きっと、転移者だからだよな。
「黒髪ですし。もしかしたら、先祖に魔族の血が流れているのかもしれないですね」
アルプの言葉に同意をしたコルージャは、ピッと指を立てると、
「かつては、勇者が闇堕ちして魔王化した事もありましたよ」
と、さらにおかしな話をした。
勇者も闇堕ちしたのか?!
「確か魔王になった後、魔素に適応するまでは何度も死にかけたはずです」
——絶対なにかおかしいだろ。
「話はだいぶそれましたが、人間には、魔素が濃い魔族の国での生活は厳しいのと同様に、魔族もまた同じなのです」
連れ去られた魔族の子供が心配なのだろう。コルージャの瞳が暗くなった。
「人間が攻撃をやめることができたら、魔族は止まれるのか?」
一部のバカのせいで、人と魔族が争うのは違うよな。
「……今はもう難しいですね」
ふぅ、とアルプがため息をついた。
「魔王は人間を思い通りに支配したいと考えています。抵抗をやめたら直ちに滅ぼしにかかるでしょう」
アルプは、話をしながら手をギュッと握りしめている。
「……マハト様が、今のままでは壊れてしまいます」
絞り出すようにアルプは言葉を吐いた。
「……いっそ、勇者が現れて欲しいですね」
コルージャは、アルプに気遣い声をかけた。
「勇者は、頻繁に現れるのか?」
今まで、どのくらいいたんだ?
「先程話した通り、暴走する魔王が現れると均衡をとるように勇者が現れますが……」
コルージャは、アルプのことを気にしながら話を続けた。
「マハト様が食い止めているので、人間には被害がなく、まだ女神から大丈夫だと思われているのかもしれないです」
女神、魔族は無視か?酷くないか?
「コルージャの言う通りです。支配力は強まっていますが、なんとかなってますからね」
マハト次第なのか……
「アルプ、マハトが崩れたら、どうなる?」
あいつ、かなり疲れていたぞ。
「マハト様が崩れたら、魔王自ら幹部への命令になるので、幹部がまず潰れるでしょう」
だろうな、マハトが潰れたら、シュピンネ達魔王軍もやばいよな?
「そして幹部が潰れたら、魔王の命令を跳ね返せる人がいなくなるため、全魔族が戦闘に駆り出される可能性があります」
それは、避けたいな
なんとかできないのだろうか……
「……人間は卑劣です」
アルプは小さな声で悔しいと話した。
「あいつら、弱いくせに、強気に出てくる。力で叩くと『魔族は弱い人間相手に血も涙もない』と責められます」
過去に嫌な思いを何度かしたのだろう。
アルプは下を向いて、プルプル震えながら話をしている。
「悪いのは全て他の者だからと『他人はどうでもいいから、自分だけを救済しろ』と言ってくる者もいました」
人間は自分勝手で、仲間を簡単に売ると文句を言っている。
「悪政を働く魔王を勇者が討ってくれるのはありがたいのですけれど……卑劣な人間どもが魔族を下に見るのは腑に落ちないのです」
アルプの言葉を理解できるし、気持ちもわかるが、複雑な気持ちになった。
——俺も人間なんだがな
「好戦的な勇者が来ると、魔族の被害は甚大になるでしょう。魔王は確実に倒されますが……マハト様が必ず巻き込まれてしまう」
アルプは、頭を抱えている。
「勇者と話せばわかるんじゃないか?」
マハトはいいやつだから、話せばわかるんじゃないか?
「勇者の存在が定かではないので無理かと。勇者が攻めてきた場合、魔王の強権が発動されて正面衝突する事になるでしょう」
そうなれば、疲弊したマハトだと必ず倒されてしまう。とアルプは心を痛めている。
「なんとか人間の情報を取れないか?」
トビ族は人間と仲良かったよな?
「ここは平和ですが、魔王が人間の地の側まで移動したので、今の魔族は人間に近づくと攻撃してしまうでしょう」
打つ手がありません。
そう言って項垂れるアルプに、俺は言葉をかけることすらできなかった。
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