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異世界リストランテ『ピッコラ』  作者: 黒砂 無糖
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悪いのは……どっちだ?

 ログハウスの外に出たら、フリーゲンが元のサイズに戻り、マハトを乗せていた。


「マハト、アルプから料理受け取ったか?」


 料理は前もってアルプに渡してあったので、確認してみたら


「ああ、助かる。ありがとうユージン。とりあえず急ぐからまた連絡するよ」


 慌ただしく返事をすると、マハトはフリーゲンと共に空へ昇っていった。



「アルプは留守番なんだな?」


 いつもフリーゲンと一緒にいるから、一人だと不思議な感じがする。


「……はい。私では役に立てませんから」


 不安そうな、寂しそうなアルプが気になったので、俺はつい声を掛けた。


「アルプ、たまにはお茶でも飲まないか?」


 せっかく友達になったわけだし、話を聞いてやりたくてリビングで話すことにした。



「そもそも、人間と魔族は何を理由に争ってるんだ?」


 領地でも取り合っているのか?


「争いの理由ですか? 歴史的に何度も繰り返してはいますが……先に手を出したのは、欲に駆られた人間です」


 アルプはお茶を淹れると、ソファにちょこんと座り、行儀良くお茶を手に話し始めた。


「人間から先に手を出したのか?」


 なんでそんなことを……


「はい。先代魔王の頃、人間が魔族の土地にある鉱山を求め攻め入ってきたので、魔族が返り討ちにしたのがきっかけです」


 資源か……争いはどこも似た内容だな。


「明らかに人間の欲じゃないか……それが今でもまだ続いているのか?」


 先代魔王の頃からなら、随分長いな。


「前の魔王は平和主義でした。なので犠牲者は少なく平定に持ち込みましたが……」


 アルプは頭をゆるく左右に揺らした。


 一度治ったのになぜ?


「平定したなら、なぜ今も争いが続いているんだ?」


 お互い納得していなかったのか?


「今の魔王は、和解したことが気に入らなかったのです。このままでは人間に舐められると、周りに不満を言っていました」


 アルプは言葉を切ると、がっくり項垂れた。


 おぉ、バカが余計なことを……


「マハト様は、先代と同じく平和を求めていましたので、リューグナーは何としても自分が魔王になろうと目論んだのでしょう」


 魔王リューグナーって言うのか……名前だけは、無駄にかっこいいな?


「好戦的な魔族は、ただ暴れたくて今の魔王に力を貸していますが、数は少ないです」


 アルプは頭を上げ目を細めると、思う事があるのか遠くをみつめた。


 魔王の側近を見る限り、支持してるやつの頭が悪そうだから大変なのだろう。


「魔族は本当なら争いたくないんだな」


 ——まともな魔族は今、辛いだろう。


「我々魔族は強大な力を持ちますが、基本的に、自分達の土地から出ず、人間が無闇に排斥したり、攻撃しなければ何もしません」


 強いからこその余裕だな。


「確かに、ここにくる魔族達は、魔王達以外は朗らかで優しいよ」


 俺の言葉に、アルプはコクンと頷いた。


 ——性格もかなり控えめだ。


「本来なら人族も魔族も、魔力の差はあれど性格的な差異はないと言われています」


 獣魔族のアルプですら、見た目は違えど性質は変わらない。


「ここにいる魔族は、みんな気が優しくて穏やかだ。魔族も人間と同じく、いいやつも、悪いやつもいるよな」


 人間も魔族も、一部の悪質な欲のために争っているのか……


 なんかめちゃくちゃ嫌だな。


「はい。稀に膨大な力を持ち、物騒な考えの魔王が台頭すると、種族間としての大きな争いになるので……」


 アルプは目をしょぼしょぼさせながら、言いにくそうに語尾が小さくなっていった。


「それがどうかしたのか?」


 どんよりとした空気を纏いながら、アルプは言葉を続けた。


「その時は必ず『勇者』が現れ、愚王は必ず討伐されるのです」


 転移者だから実は俺が『勇者』じゃないかと、以前からマハトも言っていたな……


「魔族は愚王に逆らえない拘束があります。討伐に来る『勇者』をありがたいと思うのは魔族としてどうかとは思いますが……」


 ——逆らえない拘束って、一体なんだ?


 気になるが、今はアルプの話が先だ。


「愚王だもんな、討伐されるのは当然だよ」


 魔族が自ら逆らえないなら、外部に頼るしかないだろうと思っていたら


「でも実際は『勇者』が魔王討伐に来ると、魔王の強権が発動されてしまいます。その時、全魔族は人間の敵となるのです」


 せっかく愚王からの解放が目前なのに、愚王を守るために戦わなきゃならないのか?


「ちょっとまて、それは、魔族的にかなり悲惨な状況なんじゃないか?」


『勇者』が来ても、平和を望む魔族が争いに駆り出されるなら、コイツらはただの被害者じゃないか。



 ——神も仏もあったもんじゃないな。



「そうなんです。我々魔族は人間と争う気は全くありませんから『勇者』が来るとそれはそれとして困るのです」


 アルプはお茶を飲み干すと、話に疲れたのかフーッと息を吐き、ソファに深く沈んだ。



「……悩ましい話だな」


 思った以上に、厄介な命に関わる話だ。


 軽はずみに、気持ちを言葉にできないなと思ってお茶を飲んでいたら……



「愚王は民の命を軽んじるのです」



 リビングにいつの間にか、コルージャが降りてきていて、話しに参加してきた。


「働き手を争いに利用するので、このままだと農作物の収穫もままならず、この先、民は飢えにも苦しむのですよ」


 争いによって起こり得るリアルな現実を、コルージャが追加してきた。


 アルプは立ち上がると、コルージャの分のお茶を追加して淹れ、ソファの前に置いた。


「お気遣いありがとうございます。それよりお二人とも、魔族の歴史はご存知かな?」


 コルージャは、ソファに座り俺たちを穏やかそうに見ながら目を細めた。


「いや、俺は全く知らない」

「私は、一般的な事だけですね」


 俺たちの言葉に頷いたコルージャは、お茶を片手にゆっくり話し始めた。


「魔族はそもそも、昔は各地の魔素の強い場所で各々の種族ごとに、小規模にひっそり暮らしていました」


 俺は昔話を聞くような気持ちでコルージャの語る話を聞いた。


「魔族の国の領地は、元は隣国アレクサンドル国のものでした。大きな魔力溜まりがあり、人間は近寄れず魔の森と呼ばれました」


 魔族は昔、バラバラに暮らしていたのか。


「魔の森には魔素を求めて魔獣が集い、それを追いかけるように魔族も集い、気付いた時には国ほどに発展していきました」


 魔族はもしかして元は狩猟民族か?


「魔の森に人間が入れないとはいえ、他人の領地なのに、勝手に集ってしまって大丈夫だったのか?」


 そもそも、そこから争いになったのでは?


「アレクサンドル王は、魔族の代表と話し合い、無駄に人に危害を加えない事を約束することで、魔族国の建国を認めました」


 おお、アレクサンドル王、懐が深いな。


 有効な取引きでもあったのかな?


「初代魔王とアレクサンドル王は、いずれ古き約束を違える者が現れるかもしれないと、女神に頼んである仕掛けをしました」


 コルージャの目が、なんだと思いますか?と尋ねているように見えた。


「……勇者の転移か?」


 話の流れからきっとそうだろう。


「はい、勇者の発現です。勇者は異世界からの転移だけでなく、転生もあれば、人間の国から生まれ選ばれることもあるのです」


 勇者の発現は転移だけじゃないらしい。


 アルプも知らなかったのか、感心しながらコルージャの説明を、さっきからしきりにメモにとっている。


 ——アルプは真面目だな。


「アレクサンドル王との約束を違えた者が、魔王に立った場合、勇者メンバーに女神達の加護が降り、魔王を打ち滅ぼす」


 勇者メンバー?


 勇者は一人で討伐に来るわけじゃないのか。


「でも、それって、人間に都合が良すぎないか?愚王のせいで苦しんでいる魔族が、争いに巻き込まれるのは可哀想だ」


 俺の言葉に、コルージャとアルプが目を丸くした。


「ユージンは、人間に都合が良いと考えるのですね?」

「あなたは魔族のことを、随分と理解して下さっているのですね」


 二人から言葉をかけられ、俺は一瞬何が間違ったかな?と思ったが


「いや、女神の加護とか、随分人間が優遇されてるなと思っただけだ。魔王討伐は魔族の民が沢山傷つくじゃないか」


 女神も、加護が与えられるなら、愚王にバチのひとつでも与えればいいのに……


「ふふ、魔族を気遣って頂きありがとうございます。あなたは思った通り、優しく素晴らしい人間ですね」


 コルージャに手放しで褒められてしまい、なんだか居心地が悪い。


「コルージャ、ユージンは私の友達ですから、素晴らしいのは当然ですよ」


 俺が褒められたのに、なぜかアルプは自慢気に胸を張り、立ち上がると、丁寧にお茶のおかわりを入れてくれた。


 さっきより、アルプは元気になったな。


「本来の魔王城は、人間の国から最も離れた魔族の国の最奥にあります」


 コルージャは機嫌よく話を再開した。


「魔王が先日移った城は、かつてアレクサンドル国だった頃の古城なのです。人間の国は今では5つに分かれてしまいましたが」


 アレクサンドル王は、きっとかなり影響力の強い王だったのだろう。


「分かれた国同士は揉めてないのか?」


 なぜわざわざ国が分かれたんだ?


「分かれたとはいえ、連合国のような感じですよ。互いに協力し合ってます。古城も5国が共同管理している歴史的建造物ですね」


 それ、かなりまずい事をしてるぞ……


「人間にとっては、その古城は聖地みたいな物じゃないのか?」


 国の歴史的に、重要文化財だよな?


「そのようですが、残念ながら、我々には止める事はできませんでした」


 コルージャも、アルプ同様にフーッとため息をついた。


「古城は人間の国にあるんじゃないのか?」


 なんで魔王はわざわざそんなところに……


「古城は、隣国フェルゼンと魔族の国の境の山中にあります。かつて、魔の森から来る魔獣を阻む結界の役割もしていたのでしょう」


 その距離感、一触即発なんじゃないか?


「大半の魔族は争いを好まないのに、このまま争いになるとしたら酷すぎるな……」


 魔族は人間の住めない土地を譲り受けたんだよな?


 魔族から攻め入るのは、恩を仇で返すようなものだ。


 ——現魔王、馬鹿すぎるだろ。


「納得はできませんが、魔族の定めだからとみんな諦めていますよ」


 コルージャとアルプは悲しそうだ。


「そもそも、今回は人間が手を出して、やり返しただけだろ? 正当防衛じゃないのか?」


 俺ですら納得がいかない。


「その結果、愚王のせいで、優しい魔族達が勇者の魔王討伐に巻き込まれるのか?」


 目の前にいる、優しい魔族は種族として仕方がないんだと受け入れている。


 魔族と人間、これ、悪いのはどっちだ?

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