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異世界リストランテ『ピッコラ』  作者: 黒砂 無糖
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疲弊するマハト

 あれから連日、2日と明けず交代で魔族が店にやってくる。


「ユージン、待たせたなシエルボ様が食べにきてやったぞ!今日はどんな料理を私に食べさせてるつもりだ?」


 今日はシエルボか……


 来店するたびに入り口で騒ぐため、仕方がなく迎え入れたが、一度受け入れてしまったせいで、非常に断り難くなっている。



「……本日は、グリヨンの素揚げです」


 グリヨンとは、コオロギだ。



 ▪️グリヨン (コオロギ)


 香ばしい風味

 エビや小魚に近い風味

 癖が少なく食べやすい


 ◻︎使い方


 洗浄魔法で体内から洗浄する。

 下茹でするか乾燥させる。羽と足を取る。


 素揚げ、煮物、炒め物


 *備考


 捕まえる時は、雷撃で絶命させる。

 顎が強いので絶命させなければ、意識を取り戻すと指くらいなら簡単に噛みちぎられる。



 異世界のコオロギなので、10cmとかなりでかいし物騒だ。


 ささやかな抵抗で、魔族には昆虫食をメインにしているが、どうも気に入ったらしい。


「ほう、グリヨンか! アレは酒のつまみにいい。持ち帰り用に詰めてくれ」


 こちらが要望を聞いている間は、シエルボは比較的大人しくなったので、まだいい。



「今日も、魔王様へお土産ですか?」


 ちなみに魔王はあれ以来、来店していないが、必ずテイクアウトが入る。


 魔族からの嫌がらせなどはないが、リコラを非難させなければならないし、こいつらが来ると、通常の客がいなくなるので正直迷惑だ。


「ははは、見つかるとうるさいし、仕方がないんだ。魔王様の分もついでに頼んだぞ」


 シエルボは機嫌よくふんぞり帰っている。


 俺は鞄から、まとめて作っておいたグリヨンの素揚げを器に盛り付けた。



「ピコラ、気をつけて」


 ピコラは、魔族にも慣れてきたので、最近は普通に客として対応していたのだが……


 シエルボと一言二言会話した後、


「グリヨンの収穫は大変だったんです!! だからちゃんと、ユージンに対価を払ってください!!」


 何を言われたのかピコラは、大声でシエルボに詰め寄ってしまった。


 ——ついに言ってしまったか


 最近、ピコラは、対価を払わない魔族達に対してずっと不満だと言っていた。


 みんなで頑張ったグリヨンの収穫も、ガバルが齧られたりと、かなり大変だった。


 ——我慢の限界だったな



「なんだと貴様!このシエルボ様にさからうつもりか?!」


 案の定、短気なシエルボはイキリ立って怒鳴り始め、ピコラに掴みかかろうとした。


「やめて下さっ……ってぇ」


 止めに入った俺は、勢いよくシエルボにガツンと殴られた。


 俺を殴ってハッとしたシエルボは、慌てて


「すまん! ユージンを傷つける気はなかったんだ!」


 と言って、ピコラをギロリと睨んだ。


「いや、ピコラを殴るのはもっとダメだろ」


 俺がピコラを後ろに庇ったその時、


「シエルボ!貴様ぁ!! 何をしている!」


 今日に限って、セルヴォまで現れた。


「お前、私のユージンを殴ったな?!」


 セルヴォは、ちょうど俺がシエルボに殴られた瞬間を見ていたようだ。


「セルヴォ様、何を言っているのですか? ユージンは、貴方のではないでしょう?」


 シエルボは引く気がないのか、フンと横を向いた。


「シエルボ、立場をわきまえなさい。ここは私に譲るべきです」

「はっ、セルヴォ様、部下に圧力をかけることは、良い上司のする事ですか?」


 二人は睨み合い、お互いになぜか俺の所有権を争っている。


「そもそも、なんで俺がこいつらに取り合いされてるんだ?」


 勝手に取り合わないで欲しい。


 そもそも、俺はこいつらが嫌いだ。


「……ユージンモテモテだね?」


 ほらみろ、ピコラに要らぬ誤解をされたじゃないか。


「ピコラ、違うぞ。けど、とりあえずここは危ないから、部屋に戻れ」


 頷いたピコラは、エリソンのお守りを発動して部屋に戻った。



 ガチャン!



 ピコラを見送っていたら、何かの割れた音がしたので俺は慌てて振り返った。


「うわ。マジか……」


 セルヴォとシエルボが、店内でつかみ合いの争いを始めている。


「おい、やめろ!」


 俺は、大声で声をかけ止めた。


「ユージン、望みはないとセルヴォにハッキリ言ってやれ!」


 するとシエルボは、セルヴォにボコボコにされながら俺に向かって叫んでいる。


「……いや、お前もな?」


 どっちもあり得ないって、なんで伝わらないのか……


 俺は、うんざりした気持ちで声を掛けた。


「なんだと?ユージン、まさか私の気持ちをたぶらかしていたのか?」


 セルヴォは、ハッと顔を上げ驚いたような目で俺を見つめてきた。


 たぶらかすって……


「そもそも、勝手に勘違いしたんだろ?」


 俺が、はあ、と深いため息をついていたら



「おい……なんだこいつら?」


 セルヴォとシエルボの背後の柱の影から、疲れた顔のマハトが現れた。


 俺が手で待てと合図をおくると、マハトは頷き、黙って様子を伺っている。


「くっ貴様ぁ!!仮にも私は客だぞ!」

「そうだ!セルヴォは客だ!!客に向かって!なんたる態度だ!!」


 セルヴォはともかく、シエルボはやっぱり馬鹿なんだろう。まだ、自分は選ばれていると勘違いをしている。


 二人は、興奮しているためか、冷めた目で見ているマハトに気づかず、ギャーギャー喚きながら暴れ始めた。


 激昂したシエルボが、店内で魔法を使ってセルヴォに攻撃を仕掛けようとした。


 ——流石に限界だ。


「お前らいいかげんにしろぉ!! 店がめちゃくちゃだ!」


 腹の底から声を張ったのは久しぶりだ。


「金も払わないで、店で暴れる。そんな奴らはそもそも客じゃない!出ていけぇ!!」


 俺の声に反応したのか、紡糸スパイダーの糸がどこからか飛んできて、魔族はまとめてぐるぐるに縛られた。



「ユージン、そのまま湖に捨てておけ」


 マハトが、ゲンナリした呆れた顔で言う。


 シエルボとセルヴォはようやくマハトに気付き、顔を青くしている。


「分かった。連絡はした方がいいか?」


 俺が通信具に手をかけると、


「ああ、しなくてもいいが、した方が確実だろうな」


 マハトは、ふぅとため息を吐き、カウンターの椅子に座った。


 ——マハト、かなり疲れてるな


 とりあえずマハトにお茶を入れて渡す。


「ジェリコ、今から迷惑客の魔族二人を湖に落とすからよろしく」


 俺は、ジェリコに連絡を入れた。


『まあ、あいつら……アタシのユーちゃんに何したの?』


 お前もかジェリコ……まあ、いい。


「俺を殴って、店で暴れて、コップと、皿と、テーブルと椅子を破損させた。糸で巻かれてるから、今から落とすよ」


 俺が話を終えるより先に、マハトが二人をポイっと湖に投げ込んでいた。


『そう……わかったわ。アタシに任せて♡』


 ジェリコにしては短い返事の後、プツンと通信が切れた。


「あー、アイツら死んだな」


 通信を聞いていたマハトは、俺を見て苦笑いをしている。


「マハト、おかえり。久しぶりだな」


 一回り細くなったか?


 アルプから疲れているとは聞いていたけど、こんなにやつれているとは……


「ユージンは、見ない間に、かなり面倒な事になってたな?」


 マハトはクックックと抑えきれない笑いを漏らしている。


「……魔人族なんて嫌いだ。笑うなら、しっかり笑ってくれ」


 やれやれと思い、壊れたテーブルなどを片付けをしようとしたら、


 パチン


 マハトが指を鳴らし一瞬で、破損したものを修理してくれた。


「いや、すまん。笑っちゃダメかと思った。ユージンの状況をアルプから聞いてはいたが……あれはマジでダメだな」


 マハトは再び、はぁ、とため息を吐き、カウンターに突っ伏してしまった。


「マハト、随分疲れてるな。とりあえず飯でも食うか?」


 俺は、先日作った炊き込みご飯をおにぎりにして、豚汁と一緒にマハトに出した。


「……やっぱりユージンの飯はうまいな」


 しみじみと呟きながら豚汁を啜るマハトの姿には、哀愁が漂っている。


 ——俺がマハトにできる事はなんだろう?


 何か協力できないだろうか?


「おかずも食うか?」


 おかずとして、石芋と魔牛で作った肉じゃがと、ランバグラスの胡麻和えを並べてやる。


「うわ、コレ、どっちも美味いなぁ」


 炊き込みご飯のおにぎりは一気に消えたので、追加でストックからおかかのおにぎりを取り出し渡してやる。


「豚汁のおかわりいるか?」


 食べ出したら勢いがついたのか、次々とマハトの箸が動いている。


「ん」


 口の中がいっぱいだからか、マハトは頷き、豚汁の器をぬっと渡してきた。


 マハトがたくさん食べて、落ち着いてきたタイミングで、ジェリコが魔族2人を引きずりながら上がってきた。


「ユーちゃん♡お・ま・た・せ♡」


 ジェリコに小突かれ、床にひれ伏した2人は、ともにぼろぼろのヨレヨレだ。


 ——ジェリコに相当締められたな


「これに懲りたら、二度と顔を出すんじゃねえぞ。じゃなければ……うふ♡どうなっても知らないわよぉ?」


 耳元でジェリコに囁かれた2人は、ブンブンと頭を振っている。


「も、申し訳ありませんでした」

「に、二度とここには来ません」


 セルヴォとシエルボは、俺と言うか、マハトに向かって深く頭を下げた。



 ——さすが双璧。力も権力もあるんだな。



「はーい、よく出来ました♡ユーちゃん!このお客様二名様とは永遠お別れよぉ〜」


 ジェリコはわざわざ、セルヴォとシエルボを煽るように俺に声を掛けてきた。


「おかえりはあちらですよー」


 マハトは、入り口に向かって指を指した。


「だって。ほらぁ、貴方達、急ぎなさぁい。さっさと行かないとぉ♡ わかるよな?」


 ジェリコは急にドスの効いた声色になり、二人の尻を撫で掴んだ。


「「ギャヒィィ!!」」


 セルヴォとシエルボは尻を押さえ、青い顔をして、ぼろぼろな状態の割に、あり得ないスピードで逃げて行った。



「……ジェリコ」


 一体、アイツらに何をしたんだ?


「なぁにぃ?どうかしたのかしらぁ?」


 うふふ♡と笑うジェリコの瞳は、全く笑っていなかった。


「いや……ご協力ありがとうございます」


 怖いから、聞くのはやめておきます。


「んもーっ!ユーちゃんたらぁ。みずくさいわよぉ。アタシはいつだって味方なんだから、いつでも頼ってねん♡」


 確かにジェリコは頼もしくはある。


 チラッとマハトを見ると、目が合ったのに、なぜかスッと逸らされた。



 ——え?もしかして不味いのか?



 今更、ジェリコの協力を断ることはできないだろう。


 ジェリコは今も毎度ながら、物理的にハートを飛ばしてくる。



 ——いや、それ、何飛ばしてるんだ?



 魔法、魔法だよな?!


 もしかして、俺、狙われてるのか?

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