表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界リストランテ『ピッコラ』  作者: 黒砂 無糖
集まる。そして始まる。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

46/62

ジェリコは最強

 シエルボとセルヴォは、こちらに目配せをしながら抗う魔王を引きずり帰っていった。


「なんか、ナルシストな勘違い野郎の集まりだったな……」


 厄介だと聞いていた得体の知れない魔王を、一人で相手にしていたせいか、俺はどっと疲れが来てしまった。


「あいつら、支払いするつもりは一切なかったよな……」


 魔族は、対価を払う習慣がないのだろうか?


「最初は、ここも誰もが物々交換だったな」


 しかし、あの魔王と取り巻きは、権力を振りかざしてただ飯にありつこうとしていた……



「そういえば、昔、顧客から似たような話を聞いたな……」


 あれは、コンサルの顧客と雑談になった時だったか?


「確か自称インフルエンサーが来店した時に『店の事を宣伝するから常に特別扱いをしろ』と、遠回しに圧力をかけてきたんだ」


 店主は過ぎたことと、笑いながら話していたけれど、聞いた時には、呆れて言葉が出なかったな


「店主が『角を立てずに断るのが難くて困りました』と言っていたっけ……」


 あの時は結局『客層が違う宣伝は、却って店にはマイナスになるから』と、お断りする形で話がついたんだったか?


 あの店主、よくもまあ咄嗟に上手いことが言えたよな。


「俺の店にもいたが『自分は特別だ』と勘違いしている奴って、何処にでもいるよな」


 総じて横柄で態度がでかくて、馴れ馴れしいか、声が無駄にでかいんだよな。


「大事にしてほしいなら、相手を気遣えって話。サービスする側だって人間だ。感じのいいお客様を大切にしたいと思うからな」


 感じが悪くて見下してくるような相手を、大切にするわけがないだろう。


「まあ、たまに笑顔で無理を言ってくるやつもいたけどな……」


 そのタイプは、ごめんなさいねと言いながら、求める要求は厄介極まりないんだ。


「悪いと思ってるなら、言わなきゃいいのに、なぜ無理を言うんだろうな? 俺には全く理解できんな」


 俺は、去っていった魔王たちも、かつての厄介客も似たような物なんだろうと、懐かしくも遠い目をしてしまった。


「そういえばあいつら、なんだか面倒な勘違いしていたよな?」


 牽制し合ってくれたおかげで、さっさと退散してくれたから助かりはしたが……


「魔族は長生きするみたいだし、人間とは微妙に感性が違って色々幅が広いのか?」


 ある意味、ポジティブなナルシストが多そうなイメージだ。


「……店の客は、今日はもう来ないよな」


 魔王達のせいで、お客は帰ってしまったので今は誰もいない。


「今日は、もう疲れたからやめよう……」


 子供たちに、もう大丈夫だと連絡しよう……でも、その前にジェリコに報告か。



「ジェリコ、聞こえるか? 実はさっきまで魔王がいて、もう帰ったんだが……」


 俺は通信具でジェリコに連絡を入れた。


 通信具は、同時通話ではなく交代でのやり取りなため、ちょっと話がしにくい。


『ユーちゃん? さっき羊から聞いたわよぉ。今急いで戻っているけど、帰ったってことは大丈夫だったのねぇ?』


 ジェリコは外出中、アルプから連絡を受けてこちらに戻るところだったようだ。


「ああ、こっちは大丈夫だから、気にするな。わざわざ、戻らせて申し訳なかった」


 ジェリコも忙しかっただろうに……


『気にするななんてつれないわよぉ。もうすぐ着くから、ユーちゃんも地下にいらっしゃい。話はその時にね♡ 急ぐから通信切るわねぇ』


 じゃあねん♡と、ジェリコは通信を切った。


「……あの感じだと、直ぐに帰ってくるな」


 俺は、急いで後片付けをして、地下のジェリコの拠点に向かった。


 ログハウスの奥に設置されたガバルのトンネルは、俺の知らない間に木造の扉と階段がつけられていた。


「地下室に向かうみたいでドキドキするな」


 俺は今まで、ジェリコの拠点には行ったことがないので、なんだか新鮮だ。


「ここか……結構広いな」


 階段を降りた先は思っている以上に、地下空洞が広く、壁にはいくつも扉がついている。


「壁の扉の奥も部屋なのか?」


 見渡すと水辺から離れた最奥に、石造りの建物の外壁がある。


「あの建物の前にいるのは護衛か?」


 外壁の前で、ラマンティーヌ族が槍を手に持ち見張りをしている。


「ジェリコほどではないが、あいつもかなりデカいな」


 ぱっと見た感じは、ゴリゴリの戦士っぽい。


 ——明らかに強そうだ。


「でも、やっぱり性別はどっちと言えば正解なのか……わからんな」


 見張りはポニーテールをしているが、色黒で顎髭が生えている。


 そして、上半身はビキニだ。


「ビキニが、バグだな」


 俺は、黒ビキニの見張りに話しかけてみることにした。


「こんにちは。いつもお世話になってます。上に住む者ですが、子供達は……」


 どこにいるかと尋ねようとしたら、


「ああ、もしかして、ユージンですか?隊長から話は伺っております。隊長は直ぐに戻りますので、こちらでお待ちください」


 思いの外丁寧な対応をされ、俺は建物の外の見通しの良いベンチに案内された。


「ありがとう。待たせてもらうよ」


 見た目に色々思う事はあるが、種族の特性だと認識して、俺はベンチに座った。


 ぼんやりと水面を眺めていたら、水場からラマンティーヌ族が何人か上がって来た。


「あれは……怪我人か?」


 筋肉質なラマンティーヌが、続々と水から上がってくる姿は壮観だが、みな負傷している魔族を抱えて壁の扉に次々と運び込んでいた。


「争いの爪痕が垣間見えるな……」


 運び込まれていく魔族の傷が生々しい。


 ——本当に争いの最中なんだな。


「ユージン、隊長がお戻りになられました」


 苦々しい気持ちになっていたら、見張りの戦士が、ジェリコの帰還を知らせてくれた。


「ああ、ありがとう」


 示された場所に顔を向けると、ジェリコが部下から報告を受けているところだった。


「なあ、ジェリコはラマンティーヌ族の隊長なのか?」


 族長みたいな立場なのだろうか?


「地上というのは辺境に住まうと、海底と違って情報が手に入りにくいのか?」


 見張りの男が、呆れた表情をしながら、ジェリコは『魔族海底部隊の総司令官』だと教えてくれた。


 ——俺は世間知らずすぎだな。


 仲良くなった相手のことくらい、少しは聞いておけば良かった。


「めちゃくちゃ偉い人だったんだな……」


 だからマハトと親密だったのか


「ハハハ、魔王軍幹部のツートップですから、偉いなんてもんじゃないですよ。隊長は、我々ラマンティーヌ族の誇りです」


 ジェリコは部下からかなり慕われているみたいだ。ちなみに黒ビキニは副官らしい。


「隊長は、陸のマハトと海底のジェリコと呼ばれ、魔族軍の双璧を担っています」


 陸軍と海軍みたいな感じなのかな?


「あの2人、実際はどっちが強いんだ?」


 まあ、どっちもかなり強そうではあるな。


「そうですね、純粋なパワーだけなら隊長かと。魔法ありきの戦闘だとマハト様ですね」


 精神攻撃のジェリコに、信頼のマハトなのかと思ったが、違ったようだ。


「見事な双璧なんだな」


 俺は2人のふざけた姿しか知らないから、なんだか新鮮に感じた。


「陸・海……空もあるのか?」


 また別の部隊があるのだろうか?


「空は、黒龍のフリーゲン様の命令があれば、魔物がまとまりますね」


 知らなかった……フリーゲンはマハトのペット兼乗り物だと思っていた。


「フリーゲンって、実はすごいんだな」


 意外だと感心していたら……


「フリーゲンスゴイ?ホメル?」


 声がしたので振り向くと、小さくなったフリーゲンが、直ぐそばに飛んできた。


 擦り寄って来たフリーゲンに威厳は感じないが、最大サイズの時は圧倒されたよな。


 俺はフリーゲンを撫でながらふと気付いた。


「……魔王ショボいな」


 それに引き換え、さっきの魔王の貧相な見た目たるや……


「魔王は、普段何してるんだ?」


 デスクワークなら得意なのか?


「ふんぞり帰ってるだけですよ」


 俺の質問に、足元に来たアルプが答えた。


「隊長からは、魔王は可能な限り、マハト様が拠点から出さないようにしていると聞いてますが……」


 副官がアルプに確認している。


「ええ、魔王は基本的にマハト様が閉じ込めてます。アレは城にこもってる時は色事に励んでいますね。まあ、ウロウロされると邪魔なので」


 ——エロ魔王だ。


 完全に役立たずじゃないか


「強権が発動しない限りは、基本的には魔族国はマハト様が回しています」


 実質の王はマハトだとアルプが言い、副官も頷くことで同意していた。


 ——かなり大変だな。


「人間を制圧せよと命令はされていますが、細かな指示はありません。マハト様が上手く誤魔化して下さってます」


 副官は、怪我人が運び込まれていった部屋を見ながら話を続けた。


「魔王に余計な口出しさせないために、被害を最小限に抑えてますが、一見派手に見せるているので怪我人が絶えません」


 命に別状はなくても、被害者が少なからず出てしまうようだ。


「それに最近は、拠点が変わって、拘束が厄介になりました。肉体の制御権をなくせば、弱い魔族は見境なく人を襲いかねない」


 副官は悩ましげに頭を振っている。


 襲いたくないから商人は自害して、ピコラに逃げるように言ったんだよな……


「弱いと言っても、普通の人間よりは強いので、マハト様は拘束された魔族を抑えているので疲弊してるのです」


 アルプは、マハトの力になれないことに心を痛めているようだ。


 マハトは、人間も魔族も守るつもりか……


 ——1人では無理だろ


「何度か魔王を殺そうとしましたが、拘束があってできませんでした。定めだから仕方がないと知っていても、納得はできません」


 直接打てるなら、とっくにやってるってことだよな……


「ちなみに魔王は、マハト様以上にジェリコ隊長が苦手なので、こちらに目が向けないおかげで、我々は比較的自由に動けています」


 副官は、こちらに近寄って来たジェリコに向かって敬礼をした。



 ——ジェリコ、最強か?



「あらぁ、ユーちゃん。お・ま・た・せ♡」


 なぜか二足歩行になっているジェリコが、俺を見て肉をブルブルさせながら、ウインクと投げキッスを同時に発動した。



 魔王の気持ちが少し分かってしまった。

ここまで読んで頂き、ありがとうございます

楽しい!続き気になる!など、

一言のコメントでも良いので、感想など頂けたら嬉しいです。

もし良かったら、応援して下さいね。

これからも頑張ります!



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ