これが魔王?
「ピコラ、裏の畑から、モルビドグラスと、ルーチェグラスを持ってきてくれないか?」
今日は、そこそこの客入りのため、在庫が頼りない。
「分かった。他にも頃合いのがあれば持ってくるね!」
ピコラはパタパタと裏の畑に走って行った。
「ユージン、デザートの盛り付けは、こんな感じでいい?」
リコラは最近、キッチンの手伝いをするようになってきた。
今のところ、デザート担当だ。
「ありがとう。いい感じだ。これで良し。3番の席に運んでくれるか?」
リコラの飾ったデザートプレートに、アイスクリームを盛り付けて運んでもらった。
チーン♬
誰かが入店してきたようだ。
客数が増えてきて、変な客もくる可能性もあるため、来客に気づけるよう、アルプにベルをつけてもらった。
「いらっしゃいませ。ご案内いたしますのでお待ちくださ……」
営業スマイルで振り返ると……
見覚えのある厄介な迷惑客と共に、なんだかねちっこそうな目つきの、なんとも貧相な男が来店した。
「……マジか、また来やがった」
奴らは既に敷地内に入っている。
今回は言い逃れできないか。
「席の準備をいたしますので、少しだけお待ちください」
俺は、テーブルの準備を始めたリコラの元に颯爽と向かい、
「リコラ、魔族だ。今すぐピコラ達と地下へ」
小声でリコラに伝える
黙って頷いたリコラは、顔を伏せたまま走って裏庭に向かった。
「お待たせ致しました……」
入り口に戻ると、貧相な男に侍る、お連れの2人が偉そうにふんぞり返っていた。
——なぜ入れたんだ?
来店するお客様で、わざわざこいつらに紹介カードを渡す奴はいないはず……
と、思っていたら
「この店は、紹介カードがなければ入れないらしいな」
貧相な男がいやらしくニヤリと笑い、俺に紹介カードを渡してきた。
「……確認させて頂きます」
——嫌な感じの客だな
明らかに厄介客だと、俺の経験が危険を知らせている。
カードを見ると、しっかり3人分記名付きだが、想像通り脅されたであろう名前だ。
「確認させて頂きました。どうぞこちらへ、お席にご案内いたします」
正直不安は残るが、ルールに則って来店したのだから仕方がない。
こう言う輩ほど、何度断ってもへこたれないんだよな……
「ほぅ、なかなか良い店のようだな」
貧相な男が店を見渡し、満足そうに話しかけてきた。
「ありがとうございます。当店の料理は全てお任せで、メニューがございません。苦手な食べ物はございますか?」
本当はメニューはあるっちゃある。
だが、こいつらには、マハトからの食材を出したくない。
「面白い。店主、私を満足させることができたなら、城で専属として働け」
厄介客を連れた貧相な男は、一見、穏やかそうな笑顔で、有無を言わさず偉そうに命令してきた。
「はは、ご冗談を。光栄ですがお断りします」
なんだコイツは、もしかして馬鹿か?
——何様のつもりだ?
俺が思わず鼻で笑ったら、
「きき、貴様!! 断るなど! 何様だ!」
厄介客シエルボが、ガタンと椅子を倒して立ち上がった。
「シエルボ、黙りなさい。おい、お前、田舎者とはいえ、まさかこの方のお顔すら知らないと言うのか?」
厄介客セルヴォは、心底驚いたのか、困惑した顔をした。
「それより、今日はどうされますか?」
俺は、質問には答えず、要望を聞いた。
コイツらと長々話す気はない。
「……だぞ、やばいな」
「……ね、早く帰ろう」
来店している客が、そーっと席を離れ入り口に向かっている。
良く聞こえなかったが、コイツらと顔を合わせたくないのだろう。
「とりあえず……」
お任せでいいか? と尋ねようとしたら
「お前達!! 魔王様に挨拶もなく帰るつもりか!!」
シエルボは、今度は他のお客様に向かって怒鳴り散らした。
——これが魔王?
この、ショボいのが?
このショボいのより、セルヴォの方がまだマシじゃないか?
——とりあえず、騒いだのは丁度良いな。
「お客様、他のお客様のご迷惑になります。態度を改めないようなら、本日はお断りさせて頂きます」
俺は、あえて突き放すようにシエルボに苦言を呈した。
怒って帰ってくれないかな?
なんて思っていたのに……
「シエルボ、座れ。店主、躾がなっていなくて済まないね」
なぜだか急に魔王は下手に出て来た。
——コイツ何考えてんだ?
「とりあえず、オススメの品を頼むよ」
魔王は、何事もなかったように、ニコニコと人が良さそうに話しかけてくる。
「……かしこまりました」
仕方がない、何か作ろう。
キッチンに戻る頃には、来ていたお客様は全て帰ってしまった。
「……計算高くて、内心で人を見下すような嫌らしい経営者によくある顔をしてるな」
カウンターから魔王を観察する。コンサル時代の昔の顧客に、雰囲気がそっくりだ。
一見、ニコニコしてる。
セルヴォも近いが、さらにクセが強そうだ。
「あの手のタイプは、他責傾向が強い、コンサルの時は手こずったな……」
売上が悪いからと、コンサルに入ったのに、全く成果が出ないどころか……
「計画に調子良く返事する割に、アドバイスは全く受け入れず、コンサル入れたのに、売上上がらないとクレーム入れて来たんだ」
思い出すだけでウンザリする。
——何度も徹夜で分析したよな
やれば確実に業績が伸ばせたのに、無能な経営者は全く変わる気がなかった。
「経営者自らが変わらなきゃ、業務なんか伸びるわけないんだ……」
有能な経営者は、コンサルを情報収集の手段にしているだけで、己の理論をちゃんと持っている。
「売上悪いから、どうにかしてくれって丸投げしてくるやつらは、考えが及ばない無能だと自分で言っていると同義だ」
経営者が素直に前向きならまだいい。成長の余地はある。
だが、他力本願の他責思考はダメだ。
あの魔王から、そんな匂いがプンプンする。
「能力ないのに、イエスマンで周りを固めて、権力を振り翳す。従業員からの信頼はないから業績が伸びないんだ」
作業をしながら考えていたら、気分が悪くなってきた。
決して、ユムシの下処理のせいではない。
「さて、これ、どうするかな……」
手元のユムシ(巨大ミミズ)を見つめる。
「よし、刺身だな」
ちょっと意地悪な気持ちになったので、生食をオススメする事にした。
「こっちの世界、生食文化だしな」
適当にスライスして、ごま油、にんにく、塩でつけダレを作る。
「調味料があれば、奴らには料理だよな」
あとは、腹持ちが良くて、火を使わず、低コストな物がいい。
「塩揉みしたキャベツでいいか」
オリーブオイルと、レモンをかければ立派な一品だ。
——店を気に入られても困るんだ。
だが、料理人としてはちゃんとやりたい。
「ま、あとは100%ニンジンジュースをスープ皿にでも出しておくか」
俺は、サッと魔法でラシモルートを絞ると、魔王達の席に向かった。
「お待たせ致しました。本日のメニューは、ユムシのお造り、モルビドグラスのマリネ、ラシモルートのスープです」
盛り付けだけは完璧だ。
こんなところで、映えるだけの盛り付けが役立つとは皮肉だな……
それぞれの前に並べると、
「ほお、これは素晴らしい! 随分と見た目が美しいな」
魔王は喜んでいる。
ユムシを一切れ口に含むと……
「これは!! 一級品のワームでは? 店主、ちょっと態度は悪いが、ちゃんとわかっているではないか」
魔王がご機嫌になってしまった。
——ユムシ、高級品だったのか
せっかくもらったのに、ガバルに悪いことしたな。
「……全部冷たい」
「しっ、シエルボ黙りなさい」
シエルボとセルヴォは不満顔だが、魔王の手前、何も言えないようだ。
「ところで、店主よ、名前はなんと言う?」
魔王は機嫌良く、尋ねて来た。
名乗りたくない。名乗らなきゃダメか?
返答にちょっと、間が空いたせいか、
「貴様ぁ!! 早く名乗らんかぁ!」
シエルボがまた吠えた。
「シエルボ、魔王様にはじをかかせたいのですか? やめなさい」
こう並べて見ると、セルヴォが一番まともに見えるな
魔王は穏やかそうに微笑んで見えるが、多分、二人に興味がないだけだろう。
「……ユージンです」
店の名前は、なんだか教えたくない。
「ユージンか、お前、俺の物にならんか?」
魔王はニコニコとしている。
断られるとは、思ってないんだろうな。
「お断りします」
だが、俺は断固として断るぞ?
「そうか、店は1人でやっているのか?」
ん? 探りか?
「……ひとりです」
まさか、子供を狙っているのか?
「そうか、少し彩が欲しかろう。我が物になれば、鮮やかな色を選び放題だぞ?」
魔王は、下品な目つきでニチャッと笑いかけてきた。
確か、色欲が強いんだったな……
「お盛んですね。でも、私には無用です」
魔王に侍らなければならないなんて、可哀想だよな
——リコラを隠して正解だったな。
「なんだ、ユージンは男色か? なら、この二人はどうだ?」
魔王は勘違いしたのか、よりによって、シエルボとセルヴォを進めて来た。
二人はギョッとして、なぜだかソワソワし、身だしなみを気にし始めた。
「お気遣いありがとうございます。お二人は素敵だと思いますが……私は、まだこの店を続けたいのです」
反論した方が面倒になりそうなので、俺は男色だと、あえて肯定してみた。
すると、シエルボとセルヴォがキメ顔でこちらを見つめて来た。
「この二人でもダメだと言うのか。なら、どうしたら……俺か?」
魔王はハッとした顔をして俺をみた。
——違う!! お前は一番要らない!
魔王は満足げにうんうんと、頷き、
「ユージン、お前の気持ちはありがたい。だが俺は女しか抱けないんだ……」
魔王はなぜかひとりで納得をして、遠くをみている。
「いや……違……」
否定をしようとしたら、シエルボとセルヴォが立ち上がり
「魔王様、そろそろ戻りましょう!」
シエルボがこちらをチラチラ見ながら、魔王を席から魔法で無理矢理立たせた。
「シエルボ。なんだ、どうした?」
急な事に、魔王は驚いたのか、ドギマギしている。
——魔王は肝まで小さそうだな
「魔王様、そろそろ戻らなければ、マハトがうるさいですよ」
セルヴォも。なぜか俺に目配せをした後、魔王を追撃している。
コイツの口から、マハトの名前が出るのは不思議な感じだ。
「うっ、奴が戻る日か? そ、そうか。ユージン、済まんな、急ぎの用事が出来たから、今日は失礼するよ」
魔王はマハトが苦手なのかもしれない。
「お気を付けてお帰りください」
——とっとと帰れ。
そして、二度と来ないでください。




