好物かも?
パサッ!と軽い羽音が聞こえて、台所でぼんやりしていた白波はハッと顔をあげた。
「スズメ!」
「うむ」
「どうでした?」
厨の棚の上に降り立ったスズメが、ゆったりとした足取りで白波に近寄って来る、そして白波の目の前にコトリと軽い音を立てて黒塗りの銘々皿を置いた。
奇麗に空っぽになったその皿を見て、白波はほっと息を吐いた。
「良かった……気に入ってくれたんですね……」
「そう言うことだな」
銘々皿には白い団子を盛ってあった。それをスズメに亀が連れ帰った座敷童(の核)のところへ持って行ってもらったのだ。
皿が空になって戻って来たと言うことは、団子を件の座敷童が食べ……食べたとは言い難いが、取り込むことが出来たと言うこと――。
「これからも他の座敷童たちと同じようにこうやって菓子を運んでやれば、何もしないで放置するよりは早く力を回復できるはずだ」
「はい。良かったです……」
今までにも、力を失い枯れ葉のような老人の姿になってここに来たものや、己の自我――意識が昏睡した状態でやってきたものはいた。だが、今回のように消滅寸前の核の状態でやってきたものは、白波が知る限りは無かった。
ここは白波がここに居ることによって出来た『場』だ、つまり白波が知らないと言うことは、初めての事例と言うことで――。
「スズメ……」
ちろり…と言う感じで白波はスズメに視線をやる。
「うむ、なんだ」
「なんだか、ちょっと嬉しそうじゃないですか?」
「む?うむ?」
スズメからほんの少しだが動揺を感じ取り、ちろりがじとっとした視線に変わる。
「初めての事例が起って、スズメ面白がっていませんか?」
スズメが白波をこの界に閉じ込めて保護し、その身の時を遅くしたのは、座敷童が術を失敗するという稀有な事態に出くわしたから。
稀有な事態の行く末を見極めたいという思い――欲から発生したことだ。
人としてかなりイレギュラーなことではあるが、そのことを白波自身は恨むことも、悔やむこともない――というか、ちゃんと宝に再会できたことで今はただただ感謝しかない。
が……スズメは今や神の一柱である。
そんなスズメの目新しいことに対する面白がりについて、「どうなんだ?」と思う気持ちもある――。
「今までこっちが知らぬことを知れた――と言うことに対し興味は持っておるよ。そうだな……この先、あのものがどうやって座敷童に戻るのか……もしくは戻らず、他のモノに変化するのか、とても興味を持っておると言っていい」
「スズメ!」
「こっちが面白がろうと興味を持たまいと、アレにはなんの関係もあるまい。もちろんそっちもな」
「そういうことでは……」
結果として一緒だとしても、そこまでの心づもりとして何となく不満なのである。
座敷童という存在に対して、もっと親身になって欲しい――それが神としてのスズメに対する白波の思いなのだが……。
「様々に知り、知識を得ることがこっちの力となる。こっちの力が大きくなることは、そっちやそれ以外のモノにも恩恵にもなるのだ」
「それは……」
白波的には言いくるめられている感があるのだが、反論できなくて押し黙る。
と――。
「白波、オヤキ作って!」
宝がそう言って飛び込んできた。
「オ、オヤキですか?」
「そう!」
「えーと……」
白波はとりあえず答えの出ないスズメのことは頭のどこかに押しやって、思考を切り替えることにする。
神と問答して人が勝てるわけないのだ。
「中の餡はどういったのがいいですか?甘いのにしますか?それともしょっぱいものにしますか?」
甘いものなら小豆餡や芋餡、ずんだ餡などで、しょっぱい系は野沢菜、きんぴら、ひき肉などだ。
「そういうんじゃなくて、ご飯のオヤキ作って欲しいんだ」
「ご飯?」
「そう、米炊いたヤツ。あいつ、きっとそう言うのが好きだと思うんだ」
「あいつって……」
宝のいうあいつとは、今ルームに籠っている核だけになった座敷童のことだ。
「だって、あいつのルーム田んぼだもん。オイラ彷徨ってたときに見たことあるんだ。あんな感じの田んぼの傍で、おにぎりぺちゃんこにして焚火で炙ったやつ食いながら、沢山で笑ってる人間」
稲刈りを皆でやって、その後御馳走を皆で楽しんでいた――。
そんな光景の中でも、焚火を囲んで、おにぎりをオヤキにしたものを皆で嬉しそうに食べている姿はとても気持ち良かったと――。
ちなみに焼きおにぎりではなく、ぺちゃんこになっていて、おにぎりとおせんべいの間くらいの厚みでモチモチした感じだったらしい。
「オイラがうっかり引き寄せられそうになるくらい、幸せな気配だったんだ……」
もしそこで引き寄せられていたら、宝は白波と再会する前に違うものになっていただろう……。
白波は少し引きつった笑いを浮かべる。
「それは……僕は、宝がそこに捕まらなくて良かった!と喜ぶべきなんでしょうか?」
もしそこに彷徨っていたころの宝が行っていたら、きっとその稲刈りをしていた人たちに、何か幸運が引き寄せられていたかもしれない。
元とはいえ、座敷童であったものの欠片――粒子ほどの小さな状態だったそうだが……。
「わかんない。オイラは白波のところに戻りたかったから結局は行かなかったしね」
「……そうですね」
かもしれないを今さら言っても仕方が無い。
「好物食ったら、早く元に戻るかもしんないだろ?」
少し考え込んでしまいそうになる白波の思考を断ち切るように、宝が元気に言った。
「そうですね。わかりました」
ふっと笑顔を取り戻して白波は頷く。
「作り方わかる?」
心配そうに宝が聞く。
それに白波は笑顔を浮かべて頷いた。
「大丈夫ですよ。昔、風の子にそのオヤキのことは教わったことがあります。そういう田んぼの傍で作って食べることが出来る物って簡単なんですよ」
ちゃんとした道具も場所も無いところで作って食べることができるものは、だれでも簡単に出来るものなのだ。
「炊いたご飯に味噌とネギと片栗粉を混ぜて薄くして焼けば出来上がり!です」
とはいえ――。
「ご飯を炊くのに少し時間がかかるので、その間は待って下さいね」
そう言ってお米の準備を始める白波なのだった。
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