田んぼで遊ぼう
「新入り来たって?」
床の穴からアオがひょこっと顔を出した。
場所はクロのルームの二階――屋根裏部屋だ。
クロはアオをの方をちらりと見て、壁際に置いていた座布団を取ってアオへとぽいっと投げる。
「ああ、消滅しかかってたけどなんとか持ちこたえたらしい」
「そりゃ、良かった!」
片手で穴から体を引き上げつつ、もう片方の手でクロに投げられた座布団をキャッチしながら、アオは嬉しそうに声を上げる。
「かなりギリギリだったそうだ……。なかなかに引きの強いもののようだな」
窓辺に身を持たれかけていた銀河が軽く身を起こし言う。
「そうだな……消滅しかかるほどに力を失う目には遭ったようだけど、助けを得られる縁を引き寄せることは出来たんだもんな……」
かなり強力な引きである。
「亀が連れてきたんだよな」
「連れてきたと言うか、拾ってきたような感じらしいぞ。緑花の家の子が作った袱紗をわざわざ持ち出し、それに包んで運んできたそうだ」
「賢過ぎぃ……」
アオが少し呆れたように肩をすくめる。
「オレさっき河原で遊んでてさ、その時に風の精霊たちが噂してたのを聞いたんだけど、スズメがすっごい血相変えて飛んできたんだって?」
ビュンっ!と音がしそうなほどの勢いで飛んで戻って来たとか……。
あんなスズメを見たのは初めてだと、風の精霊たちは言っていた。
よほど切羽つまった状態だったのだろうと――。
「ああ…一刻を争う状態だったみたいだぞ」
「こえー!」
ぶるぶると言うように、アオが我が身を抱きしめ言う。
「つまりそれってさぁ、緑花の家の子が作った袱紗使ってなきゃ間に合わなかった……ってことも有り得たんじゃね?」
「どうかな?だが、確かにあり得んこともないだろうな……」
緑花の家の子――萌の作る作品には、守護をしている緑花の力が微かだが宿っている。
その力があったからこそ、なんとかぎりぎりで間に合ったのかもしれない――。
「スズメが血相変えちゃうくらいだったんだから、そういうのもあり得るかもな……」
「てことは、亀ってば超ファインプ……」
「そんだけ力失ってても……ルーム創れちゃうってどうなんだよ……」
アオがファインプレー!と亀を褒めたたえる言葉を発しようとしたところで、遮る声が入った。
「あん?」
声がしたのは薄暗い部屋の隅から――。
アオが声をした方に目をやると、そこにいたのは膝を抱えた宝――。
「え、え?宝?え?なんでそんな隅っこに居るんだ?」
窓から離れ、少し薄暗くなっている部屋の角っこに、宝は填まるように座り込んでいた。
「拗ねてんだよ」
クロが苦笑いしながら言う。
「なんで?」
「今本人が言っておったろう」
「えっと?」
首を傾げるアオ。
「ルームだよ」
なかなか答えが思いつかないアオにクロが教える。
「ルーム?」
「おいらまだ創れないのに……消滅寸前で、身の形も造れない核だけのヤツが創れるなんて……」
がっくり……と言う感じで、宝は『はあ…』とため息をついて両ひざの間に頭を沈める。
「ルームはワシら座敷童の心象世界だと以前スズメに聞いたことがあるが……。スズメが言うには、スズメがそう創ったわけではなく、座敷童がここに集うようになったとき、自然と生まれたのだそうだ」
「勝手に出来たってことか?」
「ワシはそう聞いた」
「へぇ…」
銀河の言葉にクロもアオも興味深げな顔になる。
クロやアオは知らない情報だった。
「んじゃあ、宝も座敷童に戻れば創れるってことじゃん。今はオレらのルームに遊びに来ることで我慢しとけよ」
「うう……」
アオに気楽に言われて宝は呻く。
わかっている……というかそれしか手は無いのだが、ルームが無いと言うことが、いかにも自分は『中途半端な成りかけ』と突きつけられているようで悔しいのだ。
「あんな核だけのヤツにルームがあるのに……」
「そんな拗ねんなよ……」
クロが立ち上がって、隅っこから宝を引き出してくる。
「ほら、そっち!銀河と反対側の窓んとこ座ってな。そこ明るいし、お山が見えるからさ……」
クロは宝の視線をお山に向けさせる。
「俺は元山童だからかもしれないけど、お山見てるとなんか落ち着くんだよ。お山ってデカくて、どしっとしてるだろ?あの落ち着いた様子見てると、気に病んでることなんかどうでも良いってか、そのうちなんとかなるだろって思えるんだ」
宝はどうだ?とクロは問う。
「え、ど、どうだろう?」
クロに問われた宝は返事に戸惑う。
確かにお山を目にすると、ほっとする気持ちになりはするが、気に病むことがどうでも良くなったりはしないし、そのうちなんとかなる――なんて楽観出来たりもしない。
「なんでもお山で解決できると言うのは、ここではクロぐらいだと思うぞ?」
おろおろする宝に銀河が助け舟を出す。
「えー、やっぱそう?これって山童(元だが)限定かな?」
「いや……。クロ限定ではないか?クロ以外の山童と友になったことはないが、見かけたことはあるし、話しを聞くこともあったが、お山を見ているだけですべての問題が解決するなどと言う話しはクロから初めて聞いた」
むうっとクロが口をとがらせる。
「まぁ、お山が偉大で寛容な存在であることは確かなことだ」
銀河がまとめる。
「それよりもだ……」
銀河が宝に視線を向ける。
「なに?」
「新入りに会ったのか?」
「会ってない」
銀河の問いに宝は首を振る。
「ルームに入ったわけではないのか?」
銀河が問うと――。
「入ったよ。キレイな田んぼだった」
遊びたかったのにスズメに連れ出されてしまったと宝は言った。
「ルームに入ったのに、部屋の主に挨拶しなかったのか?」
クロが問う。
「挨拶する前――てか見つける前に連れ出されたんだってば。スズメがまだダメだって――」
「ふむ……なんとか持ちこたえたが、不安定と言うことか……」
宝の返事を聞いて銀河が考えながら口にする。
「だとしたら、俺らが会えるのってまだまだ先になりそうだな……」
「まぁ、消えかけてたんだから仕方ないだろ……」
「消滅を免れただけで良しとすべきであろう」
挨拶したかったが、どうやら今はその時期ではない――と残念そうに言いあう三童……。
「オイラ、あの田んぼで遊びたかったなぁ……」
しょんぼりと宝が言う。
「あ、もしかしてレンゲ畑になってた?」
アオの問いに宝は首を横に振る。
「ううん、稲刈り直後の広ーい田んぼだったよ。稲株が奇麗に揃ってて、稲刈ったあとのいい匂いがしてたんだ……」
あの株踏むのって面白いんだよなぁ――と宝は言う。
踏んで何かがあると言うわけではないが、踏んだ時にくしゅ!と潰れるのが楽しいのだ。
「ふむ……」
銀河が顎に手をやり言う。
「ならば新参がもう少し力を取り戻して、身を作れるようになったら……」
「なーんか、一緒に楽しく遊べそうなヤツって気がするな!」
「宝の見たって言う田んぼの感じがそんな感じなら、きっとそうだと俺も思う!」
そう言いあって、仲間の復活を座敷童たちは心待ちにするのだった――。
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