犯人不明
囲炉裏部屋にて――。
「ああ、イタズラ者が出たんですね」
自分が食べようと思っていた葛切りが、何者かに食べられてしまったと訴えた紅に、白波はそう言った。
少し眉を顰めはしたが、特別困ったという感じではない。
「白波、心当たりあるんだ?」
クロがそう問うと頷きが返る。
「おそらく力を得た精霊が近くにいるのだと思います」
「え?精霊が葛切り勝手に食べちゃうのか?」
精霊は自然の一部だ。
基本的には食べ物なんて必要としない。
目につくところにあれば興味を持つことはあるだろうが、家の中にまで入ってくるなんて……。
驚くクロに白波は頷く。
「数年前から、たまにあるんですよ。僕が準備していたお菓子がいつの間にか一つ減っていたりとか、庭の朝顔の花がそっと机の上に置いてあったりとか……」
「へー」
「この前の冬なんか、気がついたら机の上に小さな水溜まりが出来ていたんですが、何だろうと思ってその水を触ったらとても冷たくて……。あれはきっと、外に張っていた氷を僕に見せようと思って欠片を運んで来てくれてたのが、僕が来る前に溶けちゃったんだろうと思うんです」
白波は嬉しそうに笑う。
「へ?なんで氷なんか運んでくるんだ?」
「だって、氷ってキレイでしょう?だから僕に見せたいと思ってくれたんだと思うんですよ」
ただその姿を見たことは無いらしい。
「ふーん、精霊か……。そういえば裏の畑に精霊結構いるよね?彼らの中の誰かな?」
クロの頭の中に浮かぶのは、この前聞いた「内緒」と言った声だ。
そして白波は、畑の精霊は多分違うと首を横に振る。
「僕は毎日畑に入ってますからね……。彼らがイタズラを仕掛けてくるのはそこでです」
畑にいる精霊は家の中に入ってくることは無い。
白波が畑に来たときを狙って、背中にこそっと泥をつけたりとか、服の裾や襟元に引っつき虫(ハギやオナモミ等)をつけたりするイタズラをたまにやらかしてくるそうだ。
「引っつき虫を襟元につけられると、背中に入ってすぐには取れなくて、こそば痒くて困るんですよねー」
仕掛けられたイタズラを思い出し、白波がちょっと遠い目をしている。
「はは…。よくあるイタズラだけど、白波には効果大なイタズラみたいだな……。けどそっか……自分たちのテリトリーに白波のほうが来るんだから、わざわざこっちに来る必要なんて無いんだ。てことは、畑の精霊は除外っと!あとは…竈があるから火……は、無いか……」
クロは自分で言いかけた可能性をすぐに却下する。
座敷童という『家』と縁が深い存在として、火はとても大切であるとともに、とってもとっても(大事なことなので二回…略)怖いものでもある。
特に白波の暮らすここは古式ゆかしい日本の建物――純木造建築物。
火は天敵である。
もし火の精霊なんぞにやらかされたら、イタズラがイタズラで済まない可能性大!
「ここにはスズメがいますから、そんなに警戒するほどでもないですよ?」
火の怖さに思いを馳せ、つい眉間にしわを寄せていたクロを白波がなだめる。
「あ、そうか……」
スズメは大きな力を持つ者の力の欠片――はっきりと本人が言及したことはないが、神の力の一部だろう。
ここはそんな大きな力を持つ者に特別に造られた界。
言ってみればスズメは創造主の力の欠片。
そんなスズメのいる場所で、酷いことが起こるはずがない……。
(でも……)
少し考え込んでしまったクロのスキを狙ったように、紅と黄魚の声が白波にかかる。
「白波ー、あたしにー葛切りー」
「あたい、にも…。でも黄な粉、いらない」
「なーんでよー!」
「ツルツルツルーって、食べたい」
鉢を持って麺を手繰るような手つきを黄魚が見せる。
「黄な粉ーかかっててもー、それっくらいーでっきるでしょー!」
黄な粉押しの紅は、黄な粉がかかっていても、すすって食べられると主張するが……。
「イヤ、黄な粉かけててそれやると、その辺に黄な粉が飛び散るからやめたほうがいいと思う」
「なーんですってー、アオー!裏切る気ー」
アオから否定的意見が出て、絡む対象がアオに変わる。
「るせー。てか、犯人捜しどうなったんだよ!」
「えー?どっかの精霊で決定でしょー。もー誰でーも、いー!」
「なんだとーっ!てか、どっかってなんだよ!」
「どっかってー、どっかよー……。どこの子かーわかんないんだもーん!」
散々アオを犯人扱いしていた紅だが、白波から黄な粉をたっぷりかけてもらった葛切りの鉢を受け取ったことで、食べられてしまった葛切りのことなどどうでもよくなっている。
「だってーもう食べられちゃってー無いんだもーん!犯人捕まえてもー、食べられちゃったー葛切りはー戻ってー来ないよねー」
だから犯人捕まえても仕方ない……。
ある意味真実――。
が……。
「ここで捕まえとかなきゃ、またこの先なんか食われるかもしれないぞ?」
アオが脅す。
「えー?」
紅はアオの脅しにどうしたもんかという顔を一瞬浮かべるが……。
その頭に、パタタタっとスズメが飛んで来て止まる。
「んー?スズメーなにー?」
「もしまた食われたら、白波に今のようにまた作ってもらえばよい。姿を見せぬイタズラ者のことなど放っておけ」
「だよねー。わかったー」
「えー、いいのかよ、そんなんで……」
紅はあっさり了解し、アオはちょっと口をとがらせていたが、他に手もないとすぐに気づいて、肩をすくめて了解する。
「はい。おかわりが欲しければいつでも言って下さい」
にこやかにそう答える白波――。
「じゃあ、ワシにもくれ。さっきは黄な粉抜きで食ったから、今度は紅の顔をたてて少し風味つけ程度に黄な粉をかけてくれ」
「たーっぷりーがいいよー」
「沢山はいらん!」
「白波ー、オレも銀河と一緒のヤツ」
「きーっ!アオがーまた裏切る―!」
「白波、私にも。私は今度は白蜜がいいわ。あと黄な粉もいらない」
「何だと!ここは黒蜜であろう!」
緑花の白蜜発言に、紅の頭に乗っかっていたスズメが反応して飛び立つと、緑花の頭に止まりなおす。
緑花の頭に止まったスズメは、ツンツンと頭を突いているが緑花は気にしていない。
「黄な粉ーかけなさいよー!」
当然のように紅も叫んでいる。
いつものにぎやかな囲炉裏部屋――。
「白波、俺も銀河と同じやつ……」
「クーロー!」
黄な粉はたっぷりかけるものだと、またも叫ぶ紅の声をクロはどこか上の空で聞く。
クロはさっきのスズメ――『姿を見せぬイタズラ者…云々』発言を聞く白波を見るスズメの様子が気になっていた。
(スズメって、白波のこと観察してる……?)
そんな気がした。
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