犯人?
「えーとー……。こーいうときってー、何からーすればーいいのー?」
「知らんわい!」
コテンと首を傾げて聞いてくる紅に、銀河は呆れたように言う。
「そうだなぁ…現場検証はこの程度にしておいて……。次は、アリバイ調べかな?」
「現場検証ーっ!ふおーぉぉーっ!」
クロの言葉に、紅が変なテンションを上げる。
どうやら現場検証という言葉が紅の探偵魂に響いたらしい。
「でー、アリバイってー?」
「とは、なんだ?」
「おい……」
探偵ごっこ開始!と心の中で思っていたクロは、紅と銀河に首を傾げられてガクッ!とする。
「探偵ごっこの基本中の基本だろうーが!日本語で言うと不在証明。事件が起きた時は、そこにいませんでした……って証明することだよ」
「ほー……てか、ごっこじゃない!」
「ふむふむ、アリバイとはそういう意味なのか。確かにそこに居なければ、事件は起こせんな……」
紅のセリフはスルーするクロ。
銀河は聞いたことのある言葉だが、特に興味がなく今まで意味は知らずにいたという。
「仕方あるまい。アリバイなんて言葉、普段のワシらの生活で聞くことはないぞ」
「そう言われればそうだな……」
座敷童でなくとも、警察関係や探偵系などの仕事をしているのでなければ、日常で必要とすることのない言葉だ。
「初聞きではないから何かで聞いたことがあるんだろうが……。おそらく紅やアオの会話などの中で聞き覚えたのだろう」
「あたしとアオでー、テレビの話をーすることあるからー、きっとーそれー」
由来が人である紅とアオは人の持つ文明の利器が好きで、その中でも特にテレビが好きなのだという。
「あたしの部屋にもー、アオの部屋にもーテレビあるよー。あれってー面白いよねー!」
「え、ここに電波来てるのか?」
クロは二人の部屋に行ったことはあるが、テレビのことには気づかなかった。
だがそんなことよりも、それで番組が見れることに驚いた。
「風の精霊が運んで来とるのだ」
銀河曰く、さすがにテレビの電波は界の狭間であるここに届くことはないらしい。
が、どこにでも行く風の精霊が、面白がりの二人のためにテレビの中身(番組)を運んでくれているのだという。
「んでーあたしー、探偵さんの出てくるのがー、いっちばんー!面白いとー思うのー」
「……てかそれで、なんでアリバイの意味知らないんだよ!」
「あたしのー見てるのでー、そうゆーの無かったもーん」
無いはずは無い……恐らくわからない言葉は雰囲気で捉えて、流して観ているのだろう。
探偵物のドラマを面白く見ているのなら、アリバイの意味ぐらい知っているべき!と思うクロだが、紅に詫びれる風情は無い。
「そういえばワシは文書――本や新聞のほうが好きなのだが、紅たちはよくテレビドラマの話などをしておるなぁ。ん?あ、イヤ……そう言えば、ワシも文字で目にしたことはあったかな……」
ふと、銀河がそう言う。
読んでいた本や新聞で、アリバイの文字を見たことがあるのを思い出したようだ。
そのときは文章の流れで何となく意味が分かっていたので、特に気にもしていなかったようだ。
「ったくもー…二人とも……。で、どうするんだ?アリバイ調べに、囲炉裏部屋に聞き込みに行くのか?」
クロがそう聞くと、紅は「もちろん!」と大きく頷く。
「じゃあ、行くかぁ!」
空になっている鉢を水屋に戻し、台所から出ようとする三人。
もしまだ葛切りの残りがあれば、もう一杯食べてもいいかな……なんて、言い合っていたら――。
すっ!と台所の戸が開いた。
「うぉっ!」
「だゎっ!」
先頭に立っていたクロが、入ってきた相手と出合い頭にぶつかりかける。
「…あっぶね!って、クロか…びっくりした~」
「…あ、アオ?」
戸に手をかけ、上体をのけぞらせているのはアオだった。
「なんで台所なんかに……」
「かーくほーっ!!」
クロに話しかけていたアオに紅がいきなり突進して飛びつくと、その片腕にぶら下がった。
「なっ、なんだー?」
「犯人はーオマエだー!」
「犯人???」
状況が読めないアオは目を白黒させている。
「なんだこれ……。どういう状況?」
「紅に聞け」
不意を突かれたクロも銀河もポカンである。
ちなみに今のアオの見た目は五〇過ぎのくたびれたおじさん。
紅は小学二、三年生くらいの元気溌剌少女――。
紅を腕にぶら下げたアオは、日曜日に娘と遊ばされているお父さんのよう……。
「たーいほだー!」
「なんでだよっ!」
「だってー!犯人はー犯行現場にー帰ってくるってー、言ってたもーん!」
「もーんじゃねー!意味わからんわ!説明しろー!」
抗議するアオは当然である。
紅は「犯人確保ー!」と叫びたがっていたが、とりあえず説明の邪魔だと黙らされ……。
そして、クロと銀河によりアオに説明がされた――。
「なるほどねー。てか、オレアリバイあるぞ。紅が配達に行ってから、ずっと囲炉裏部屋にいたからな!」
「えー!」
不服顔をする紅。
「証人もいるぞ。スズメと白波と緑花とオレ、一緒に居たからな。だから、残りの三人も犯人じゃないってことだよな」
「むぅ……」
紅が容疑者に上げていた四人全員にアリバイがあると言われて、紅は口をとがらせる。
「四人一緒にいたならそうなるな」
「そういや、緑花ゆっくり食べるタイプだったな……」
アオの言葉に銀河とクロは納得の頷きを返す。
白波は座敷童がおやつを食べているときは必ず給仕についているし、スズメはそこに付き合っていることが多い。
アオはその日によるが、今日はのんびりしたい日だったのだろう。
四人のアリバイはそれで完成だ。
「えー、じゃあー、誰が葛切り食べたのー?」
紅が問う。
と……。
「てか、一番疑わしいの紅じゃん」
「へー?」
「だって紅だけアリバイないぞ」
「!」
アオに指摘され、紅が目をまん丸に見開く。
「あれ、そういえばそうか……」
「言われてみれば……」
「ち、違ーうもーん!」
紅は否定の叫びをあげるが、アオは肩をすくめる。
「だって紅、全員容疑者だって、白波まで入れたんだろ?自分だって入れろよ」
「だってー、あたしがー被害者だもんー!」
「被害者が犯人なこと、ドラマで結構あるよね?」
「あるけどー!ちーがーうー!」
おふざけ前提とはいえ、いきなり容疑者扱いされたことにアオは恐らく怒っていたのだろう。
否定する紅を淡々と追い詰める。
「クロと銀河のとこに行く前にここで葛切り食べて、鉢洗ってから行ったんじゃないの?」
「あたしー食べてなーい!」
「いやいや、食べたんでしょ?黄な粉掛け美味しいもんね」
「黄な粉はー、美味しいけどー……」
「ほら見ろ」
「あたしーじゃーなーいもーん!ちーがーうーっ!」
「違わない、紅だ!」
状況からすると、確かに紅が自分で食べて、ふざけて探偵ごっこに持ち込んだ――と思うのが自然だが……。
「これは……そろそろ止んといかんな……」
「紅、ヤバイぞ…。泣くかも……」
銀河とクロでこそこそ話す。
攻撃側になっているアオは気がつかないが、第三者の目から見ると、紅は本泣きの一歩手前まで来ている。
クロと顔を見合わした後、銀河は言いあう二人の仲裁に向かう。
そのとき……。
(ん?!)
オロオロと慌てるような感情を背中に感じて、クロはハッと振り向いた――。
誰もいない……。
が――。
(いや…でも今、確かになんか気配が……)
クロは困惑して眉を寄せ、三人のほうへ顔を向けた。
「銀河……」
自分一人で判断しきれなくて、アオと紅に対処しかかっていた銀河に聞こうと声をかけたとき――。
「こん、にちは……」
台所の土間にある勝手口が開いた。
そして声と共に、夏らしいひまわり柄の浴衣を着た幼女が入ってくる。
「あ、黄魚……」
人界に行っている黄魚がまた遊びに来たのだった。
声に振り向き、その姿を認めた紅が……。
「容疑者ー追加―!」
突進した――。
「泣きかけてたの、誰だよっ!」
怒鳴るクロだった……。
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