食べたの、誰?
台所に入ってすぐ、三人は空になったガラスの鉢を見つけた。
台所は、白波が食事をするための板間と、竈や流しのある土間に分かれている。
入ってすぐは板間だ。
その板間にある白波の食事用テーブルの上に、空になった鉢が置いてあった。
「なんでー?」
鉢が空っぽなのに気が付いた紅はぽかんと口を開ける。
階段を下りてくる間、紅は銀河とクロに黄な粉をかけて食べる葛切りのおいしさを力説していて、台所についたらたっぷりと黄な粉をかけて二人の前で食べる気満々だったのだ。
それが空っぽ……。
ショックである――。
「紅、落とさぬ間に盆を置け」
ポンポンと背を銀河に軽く叩かれてハッとした紅は、両手で持っていた盆――銀河とクロが食べた後の鉢と黄な粉の入った鉢が乗っているを、テーブルの上に置く。
紅がお盆を置く間に、クロはガラス鉢を手に取った。
「ちゃんと洗ってある……」
鉢は薄手の透明なソーダガラスで三色使いの木賊柄(まっすぐ縦に細い線が均等に並べて描かれたもの)。
形は朝顔の花のようなラッパ型だ。
縁を爪で軽くはじくと、キン!と軽く高い音がした。
(律儀な奴だな……)
そんな風にクロは思う。
「洗っただけでなくて、しっかり乾かしてあるな……。これならすぐに水屋に仕舞える」
ふむふむと、感心したように銀河が言った。
水気の切れていない食器を棚に仕舞うと、カビの元になる――。
だがそんな銀河に、紅がそういう問題じゃないと抗議する。
「もー!こーんなにキレイにしちゃったらー、黄な粉派かどーかーわかーんないじゃなーい!」
拳を握ってそう言った。
「え、怒るのそこ?」
「当たり前ーでしょー!大問題よーっ!」
呆れるクロに、紅はふんすっ!と胸を張る。
「黄な粉はー、ぜーったいに美味しいんだからーっ!」
黄な粉が不味いとは言わんが、それ(鉢が洗われていたこと)はなんの問題もないとクロは思う。
問題は……。
「これ食ったの誰なんだ?」
紅がうっかり置き忘れた葛切り――。
食べ終えた後の鉢をちゃんと洗ってきれいにしたとはいえ、勝手に食べるのはよろしくないだろう。
紅が食べる気で白波に準備してもらったのを、ここに居る皆知っているはずなのだ。
「アオか緑花かスズメだろう」
銀河が言う。
「やつらは囲炉裏部屋で食ってるんじゃないのか?」
「だとしても、何かの用事でここに来て、まだ誰も手を付けていない葛切りを見つけたら食うだろうさ」
「そんなに何杯も……。というか、勝手には食べないんじゃないか?」
「……む、そうか…」
クロの言葉にしばし考え込む銀河。
「いやだが、これは長く放置したら乾いて不味くなってしまうしまうぞ?せっかく白波が作ってくれたというのに……」
そうなったらもったいない――銀河は言う。
「食べられなくなるくらいなら、声かける前に食べちゃうってことか?…そっか、それはあるかな……。でもさ、食べ終わった鉢、自分で洗う?」
座敷童は『童』――子供である。
気ままに遊び、好奇心赴くままに動くのがその本質。
お片付けなんて、本来であれば気にもしないはずなのだ。
「美しい鉢が汚れたままなのがイヤだったのではないか?ま、誰が食ったにしろ、悪いのはここに置き忘れた紅だがな」
「えーなんでよー。あたしのー葛切りー勝手に食べたほうが悪いー!」
銀河に悪者判定された紅はふくれっ面をする。
「てかさー。容疑者はー、アオー、緑花ー、スズメー、白波ーの四人ー!」
上にいた銀河とクロは省いて良いが、白波を抜いてはダメだと紅は言う。
「容疑者?」
「あたしの葛切りー、勝手にー食べちゃった容疑者よー」
「なぜそこに白波を入れる?」
葛切りを作ったのは白波だ。
食べたいと思えば、自分でさっさと作るだろう。
何より座敷童のために作ったものを、勝手に食べるような人ではない。
が――。
紅は「えっへん!」と胸を張って言った。
「ちゃんとしたーアリバイない人はー、全ー員容疑者ー!基本だもーん」
「なんの基本だよっ!」
探偵ごっこのスイッチが入ってしまった紅だった……。
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