あれ、一人分どこいった?
「ワシがまた人の世に戻りたいと思うのは、やはり人が好きで寄り添いたいと思うのと同時に、贖罪の気持ちがあるのだと思う……」
クロと窓辺で穏やかな風に吹かれながら、銀河が言った。
「贖罪?」
「そうだ……。まぁ、ワシが座敷童として間違ったせいで、無くなってしまったあの家には、今更どうしようもないのはわかっているのだけれどな……」
ほかの家について、幸運をもたらすことで犯した罪を贖おうとしているのかもしれない……。
そんなことを言う銀河に、クロは「うーん…」とうなり声をあげる。
「それ(家がなくなったのは)、銀河のせいってわけじゃないと俺は思うけどなぁ。家として存続できなかったのは、不運に対処できる力が彼らに無かったからだろー」
「だがそれは座敷童のワシが力を失い、家についておれなくなったからだからだ……。ワシがついておれば、あの家が不運に陥ることはなかっただろう」
「けど、家が水に流されなかったってのは、幸運なことのはずだろ?まずは、その連中はその部分を幸運として受け止めなくちゃいけなくない?」
村を追われたのは不運なことだろうが、その前に幸運なこともあったのだから、それに関しては感謝があっていいはず。
「あやつらにとって、それは幸運でも何でもない……当たり前のことなのだ……」
あのまま銀河が何もしなければ、家が水の下になっていたなんて知らないのだから――。
「けどさぁ、大岩が砕けたことを、村の人たちに責められて追われたってことだけど、それだって、本人たちが日頃からちゃんとしていたら避けられたことだろ」
恵まれている境遇をやっかむ人間がいたにしろ、本人たちがそれ以外の人間にそれなりに好かれていれば、いくらなんでも村を追われるまでにはならなかったはず……。
いくら幸運に恵まれようと、周囲にいる人と良好な関係を維持すべきなのは、普通の感覚を持っていればわかること。
「銀河が大岩を砕いたことは、座敷童として間違いだった……てのは、確かにそうなのかもしれない……。俺も、華子のこと井戸に見せられて、その後の華子のこととか見てて思うことあるけど……」
座敷童がいることで得られる幸運に慣れ過ぎて、急に降りかかった不運に対処できなかった『家』の者たちに責任があるはず。
「だって、不運が急に人に降るのって、本来普通にあることだろ?」
幸運も不運も、それなりに被りながら生きるのが人の生き様というもの。
座敷童が家にいれば幸運が多くはなるが、幸運ばかりがくるわけではない。
「それに、家族の中でもそれぞれ色々思うことあるじゃないか。家の中で利益や思いが対立したら、どっちかが不運で幸運――だってこともあるだろ?」
「それは……」
「俺たちは神様じゃない。ただ人が好きで、そこに寄り添うことが好きなだけの、お守りな存在なんだろ?お守りは、贖罪なんてしないんじゃないか?俺が言うことでもないんだろうけどさ……」
銀河はクロの言葉に息を吐く。
「だが、悪かったと…すまなかったと……。そう思ってしまうのだ……」
ずっと後悔している。
そんなつもりはなかったが、自分が――座敷童の自分が、あの家に不幸を呼んでしまったような……そんな思いがぬぐえなくて……。
罪悪感がどうしても消えない――そう言った銀河をクロは少し見つめてから言った。
「なぁ、銀河……。その罪悪感が消えないと、次の家に行くの無理なんじゃないか?」
他家への思いをもったまま、座敷童としてどこかの家に新たにつくのは無理な気がする――と、クロは思う。
「かもしれんなぁ……」
そう言った銀河は、自分の力の戻りが他の座敷童より遅い気がしているという。
「罪悪感に足引っ張られてる?」
「さあな……。まぁ、ここでゆっくりしておれば、そのうちこの思いもも消えるだろう……」
「んー……。贖罪のために戻りたい……なんて言ってる間は無理なんじゃないかぁ?」
「言ってくれる……」
そう言った銀河は苦笑いしたが……。
「すまんな。ワシの愚痴語りにつき合わせて……。少し気が晴れた……」
そう言って窓辺にもたれ直し、気持ちよさそうに風に髪をなびかせた。
「そっか……あ?」
「どうした?」
銀河と同じように窓辺にもたれようとしていたクロが、不意に首を傾げる。
「誰か……ああ、紅だ。紅が来た」
「うん?」
クロの言葉に銀河が反応するのと同時に、床下から紅が顔を出す。
「何してるのー。来ないからー、おやつ持って来たげたよー」
そう言いながら鉢の乗るお盆を手に、身軽にひょいっ!と上がってくる。
「あ、そんな時間だったか。ごめん。話し込み過ぎた」
「もー!なーに話してたのー?」
ふくれっ面をする紅に、銀河は頭を掻きつつ言う。
「ワシの昔語りだ。紅、暇ならそなたも聞いてくれるか?」
「いーやっ!」
速攻で紅はぶんぶんと首を振った。
「年寄りの昔話ってー、子供にーめっーちゃ嫌われるヤツなんだからー」
だって面白くないんだもの!っと言って、ぷーっとふくれっ面をする。
そんな紅を銀河はくつくつ笑う。
「見た目はともかく、中身は紅もワシと似たような年であろうが」
「ふーんだ!」
銀河に揶揄われながらも、紅は手を動かして盆からガラスの小鉢を取り出す。
緑や青、赤の木賊模様の入った涼し気な鉢には、白っぽく半透明な平たい麺が盛り付けられている。
「心太…?いや、葛切りか」
心太にしては幅が広い。
「そうよー。スズメ一押しの黒蜜たーっぷりー。黄な粉もーかけてねー!」
美ー味しーいよーっ!
という紅だが、クロは首を傾げる。
「葛切りに黄な粉ってかけたっけ?」
「かけちゃいかんという決まりはないな……」
あまり見かけんが……という銀河は、黄な粉の鉢を押し付けようとする紅の手を断っている。
「黄な粉ー、かけた方がー美味しーいのにー!」
抗議する紅だが、クロものど越しを楽しみたいからと、黄な粉無しにする。
「ちぇーっ!せーかく、あたしがー……あれ?」
黄な粉につれない二人にふくれっ面を見せた後、ふと気が付いたように紅は盆に目を落とし首を傾げる。
「どうした?」
「もう一個ー、あったはずなのにー、無ーい!」
「なにが?」
「葛切りー!」
紅曰く、すでに紅は囲炉裏部屋で一鉢葛切りを食べてきたが、せっかく二人に運ぶのだから、自分も一緒にクロの部屋でお山の景色を見ながら食べよう……と思って、白波に三鉢盛ってもらったのだそうな。
「でもー、二つしかないのー。もう一個どこー?」
「知らんよっ!」
「下に忘れて来たのではないのか?」
紅はきょとんとしてクロと銀河に聞いてくるが、ずっとクロの部屋にいた二人にわかりようがない。
黄な粉の鉢を取るために、一度台所に寄ったというので、その時に忘れてきたのだろうということになったが……。
「なんで、空ー?」
三人で台所に行くと、そこにあったのは空っぽになったガラスの鉢だった……。
〈葛切りの作り方〉 二人分
・くず粉40g
・水120ml
・黒蜜や好みのシロップ、餡、黄な粉など。抹茶アイスも意外と合います。
白玉とか添えるのも有り。もちろん季節のフルーツも(⌒∇⌒)
☆分量は二人分ですが、工程は一人分づつになってます。
1:くず粉をボウルに入れ、くず粉をつまむようにして塊をほぐしてから、水を入れてよく溶かす。
2:1をザルで濾す。
3:流し缶が浸かる深さの鍋に湯せん用の熱湯を沸かす。
(沸騰状態保持)
4:流し缶に2の半分(一人)を混ぜながら入れる。
(だいたい2ミリ位の厚みにする)
5:4を鍋に浮かべて湯煎する。
6:熱湯に浮かべるとすぐに(30~40秒)表面が乾き、半透明になって固まってくるので、そうなってから流し缶を熱湯に沈める。(トングとか箸で缶の縁を押して沈める)
7:生地が熱湯に浸かったら透明になる。(数秒で変わる)→トング等で流し缶を引き上げる。
8:氷水を入れたボウルに流し缶ごとつける。
9:冷めたら流し缶から葛を取り出す。
(冷やしすぎると口当たりが悪くなる)
10:好みの幅に切る。(1センチ未満くらい)
11:器に盛って、好みのシロップ等をかける。
※火傷に超注意!!!
お読みいただき大変ありがとうございますm(__)m
よろしければぜひまた続きを読みに来て下さい(o_ _)o))




