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祖父の心、孫知らず

「ワシはあやつから家というものを教えてもらった……」


 暖かくて、うれしいものだったと銀河は言った。

 それは座敷童として大切なもの――。

 大岩から生まれた銀河はサクと会うまで、家や家族というものを全く分からずにいた。


「サクさんと出会ったから、銀河は座敷童になれたんだね……」

「そういうクロも、タロと出会ったからではないか……」


 自分のことを棚に上げるなと、銀河が少々あきれ顔で言う。


「え?あ、そう言われれば、そっかな……?」


 クロは座敷童となる前から、タロを気に入り、付き合っていく中で人の関わり合いや、家――家族を知って、その心地よい気に惹かれ、力を得ているうちに変化していったから、出会いがきっかけだと自覚がなかったが……。


「そうか……そうだよなぁ…。俺もタロと出会ってなかったら、座敷童になってなかったなぁ……」 

「ワシだって、会っていきなり座敷童になったわけではないぞ。あやつの家に行くまで、散々あやつの話を聞かされていたんだ。家のことをまったく知らなかったとは言えん。それにあの鉄砲水の時に、あやつの父親がその身を挺してあやつを助けたのは、ワシが生まれる前のことだが、話を聞いてから記憶を探ったら、確かにあの大岩の中に記憶があったしな……」


 あれはとても強い家族の思いだったと銀河は言った。


「あー、そんなのもあったんだ……。じゃあ銀河が座敷童になったのって、それが導引か?」


 変化のきっかけなんて座敷童それぞれで、絶対の法則はない。

 だから、父親が命がけで子を助けた――その深い関わりに触れたことで、精霊が座敷童に変化したというのはありえなくはないのだが……。


「だが、ワシは生まれ()でたときは、ただの大岩の精霊だったからな……」


 銀河は首を傾げる。

 もし、サクとその父親とのことがきっかけで、銀河が座敷童になったというのなら、大岩の精霊であった頃のあの銀河は何だというのか……。


「座敷童になれるほどの力が足りなかったとか?」

「どうかな?あやつからその話を聞くまで、ワシはそのことに気がつきもしていなかったしな」 


 サクの昔話を聞いてから大岩の記憶を辿り、サクの話が本当のことだと銀河は知ったのだ。


「というか、最初はあやつに対してなんの興味も気持ちもなかったからな」


 毎日毎日、寄ってこられて、その積み重ねでようようその存在に気が付いた。


 大岩から生まれた精霊――。

 大岩が持つ力が凝って生まれた存在――。

 それは大岩の分身だ。自然の中にただ佇むだけの岩に、周囲に対する興味などない。

 ただそこに()()()()が、その本質()()()……。


「銀河の本質が変わったのは、サクさんとの関わりのせいだよね」

「それは間違いないな。もし、あやつのように見えるものが全くおらず、ワシの存在を知り、関わってくるものがおらなんだら、そのうちまた大岩に吸い込まれてワシの存在はなくなっておっただろう」


 自然とはそういうものだと銀河は言う。


「サクさんが、銀河に関わってくれて良かったと、俺思うよ……」

「ワシも思う。ワシは座敷童に変化できたことを、今も有難いことだと思っておる……」


 悲しい思いも、苦しい思いも、辛い思いも、悔しい思いも……したくない思いをする羽目になりはしたが――。

 それでも、座敷童になれて良かったと銀河は言った。


「とは言え……人界に戻る気には、まだなれんのだがな……」


 銀河はそう言って自嘲する。


「助けたのに、恨まれたって言ったよな?何があったんだ?」

「……御神体である大岩を砕いた」

「だってそれは、村を助けるためだよね?」

「そうだ。だが、誰がそれを知る?」

「えーと……」


 銀河の問いかけに、クロは戸惑う。


「サクさん以外、わかるものは生まれなかったんだっけ…」

「うむ……」


 銀河はため息をついた。

 

「それが起きたのは、三代目の神主……あやつの孫が家長で、そろそろ次の代に引き継かねばならんと言われておった頃だった……」


 サクの子もすでに亡くなっていて、孫も老齢と言える歳になっていた。


「いい加減神主を代わらなければならないと周囲に言われておるのに、その三代目となった孫は(かたく)なでなぁ……」


 なにしろ霊験あらたかな神社の神主だ。

 人から「神主()」と()()()()してもらえる気持ちイイ立場である。

 その座を、たとえ我が子といえども譲るのを嫌がったのだ。


「あの大岩の場が余所者に荒らされないようにする――あやつ(サク)はその程度の思いで神主というものを引き受けたのだがな……。周囲の者に担がれて、神の御社(おやしろ)を造り、()()という体裁をとってしまったのがいかんかったのだろうな…」


 サクの子の頃、立派な御社が作られて、正式に神社と呼ばれるようになったという。


「ま、その御社が出来てからも、あやつは死ぬまで毎日大岩の掃除に行っておったがな……」


 銀河と自分を会わせてくれた感謝を、大岩にしているのだと言っていた。


「その三代目とやらは?」

「掃除は妻や子供まかせで、金を払う客(参拝者)が来た時に、大岩の前で偉そうに祝詞を上げることを仕事としておったよ」


 フン!と鼻を鳴らすように銀河は言った。

 毎日大岩の周りを掃除し、大岩に助けを求めに来た人々の話を聞いていたサクとは大違い――。


「あやつと違い、生まれた時から裕福に育ってしまったせいなのか……。傲慢な性格をしておったわい」

「銀河、そいつのこと嫌ってた?」

「好きではなかったな」


 ふむ……と、クロは頷く。

 座敷童はお守りだと、スズメに散々に言い聞かされている――。

 つまりその三代目の神主だった男は、お守りから嫌われていたということだ。


「あやつは自分の子にも孫にも、この家が恵まれた暮らしができるのは、家に座敷童がついていて、それが助けてくれているからだと――。それに感謝して暮らさねばならないと、口酸っぱく言っていた。子はある程度、その意を汲んでくれていたのだがな……」

「孫には通じなかった?」

「見えないからな……。年寄りのたわごとのように思っておったようだ。何しろその頃のあの家は、周囲に名だたる、霊験あらたかな神である大岩を祀る御社だ。大岩を崇めるのならまだ納得できるが、神ではない座敷童になぜ感謝せねばならないのだと、祖父であるあやつや、父親であるあやつの孫に説教されるたびに言っておったよ」

「なんだそれ!気に食わねーそいつっ!」


 そういったクロに銀河は苦笑する。


「多分、ワシもそう思っておったんだろう……」


 そうでなければ、座敷童が守る家に、あんな災害が襲うことはなかったはず――。


「護っていたが、気に食わない…。とんだ矛盾だ」


 寂しそうに銀河は言った。



お読みいただき大変ありがとうございます(o_ _)o))

よろしければぜひまた続きを読みに来てくださいm(__)m

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