神様?
「その風の精霊がついた男は、あちこちを旅してまわる行商人だった」
「あー、風のが気に入りやすいタイプだね」
「ワシもそう思う。で、その行商人は子供を連れておってな、それがとても仲の良い親子だった」
「母親は?」
「子を産むときに儚くなったそうだ。まぁ、あの頃にはよくある話だな……」
今ほど医療は発達していない時代ゆえ、お産で人がなくなるのは珍しくはなかった。。
とはいえ、愛する連れ合いをなくす悲しみは今も昔も変わらない。
「かなり仲の良い夫婦だったらしい…。夫婦で仲睦まじく行商する姿は、それを目にする者もほっこりさせていたと聞く」
「そっか……」
「辛い思いをしたのに、残された我が子と自分の生活を続けるため、懸命に働くその姿に、風の精霊は絆されたようだ」
「そっか…。あ、でも…そいつ、見えたの?」
クロの問いに銀河は首を振る。
「見えてはなかったな。だが、気配に聡い人間ではあった。人につられて大岩のところに来た際に、自分が何かに護られた気配がわかったらしい。それで、あやつに話を聞きに来おった」
「え?そいつ、銀河のとこのやつが人外と交流できるの知ってたのか?」
「行商人というのは、人の噂話には詳しいものだからな」
「それもそっか……」
サクは大っぴらに、自分のところに座敷童がいることや、自分に人外のものを見る力があることを話してはいなかった。
が…スエノは実家である村長の家にはそのことを打ち明けていたし、色々ついていることの多いサクの家について、それとなく察している者も多かった。
銀河はサクに頼まれ、その男についた風の精霊と話をし、男とその子の関係が気に入ったので、座敷童としてついてやりたいという思いを持っている――という精霊の希望を伝えた。
「ありがとうございます」
男はサクから銀河の話しを伝えられるとサクと、おそらく側にいるだろうと察した銀河に向かって深く頭を下げ、そして――。
「すまんな……儂はサク殿と違って、人ならざるものを見ることができん。だが、この感謝の気持ちは真実だと知ってくれ。そして、儂ら家族とともに生きてくれ!よろしくお願いする!」
そう言って、その場で風の精霊に向かって土下座をした。
そんな親の姿に慌てた子――四才ほどの幼子も、それに倣ってその隣で膝をつく。
「お、お願いします!」
いきなり他家の人の前で、何もない空に向かって土下座した父親にきっと驚いただろうが、さすが行商人の子。しっかり場の空気を読んで、大したものだったと銀河は笑った。
親子の連携ピッタリなその行動に風の精霊(まだ座敷童にはなっていなかった)は大喜びしたらしい。
なので銀河はサクを通し、座敷童の加護をより得たいと思うのなら、小さくても狭くてもいいから自分たちの家と呼べる場所を作るように伝えた。
「そしてなぁ、そんな話をした後で、その男はこう言ったのだ……」
苦いものを思い出すように銀河は言う。
「サクさん、あんた、あんましこのこと人に言わんほうが良い……というか、もっと隠さねばいかん!こうやって相談に来て、散々色々助言をもらった儂が言うのはおかしな話だが、人に見えんもんが見え、しかもそれと話しができて、言っとることを他のもんにも伝えられるなんて、人に知られちゃいけないよ……」
若干トホホな顔をしながら、その男はサクを諭した。
普通には人が持っていない、得な力を持っていることがもし周囲に知れたら……。
不本意なことに巻き込まれるかもしれん――。
大変なことになるかもしれん――。
だから、内緒にしろと……。
「行商人というのは、色々な里や村を回るので、そうでないものより目端が利くからな……。色々考えた上で助言をくれたようだ」
「うーん……確かに面倒ごとに巻き込まれることもあるにはあるが……」
そこまで言われるほどか?
と、首を傾げたクロに銀河は言う。
「ワシはその男の言うことは十分にあり得ると思ったぞ。あやつにもそう言った。だからあやつはそれ以降、できる限り力を隠すようになった……。なのでスエノやその親あたりは知っておったが、子供たちは自分たちの親――あやつが座敷童と話せることを知らぬままだった」
「子供たちにまで隠したんだ?」
「ああ…。なにせその男のことがあってすぐ、あやつは『神主』になる羽目になったんでな……」
苦々しい銀河の顔。
「ん?神主になったから、俺らと話せることを、自分の子供に話せなかったての?なんで?」
「ワシの本体である大岩が、御神体とされたんだぞ。もし、あやつがワシと――その大岩から生まれたものと会話できるとなったら、周囲の者はどう思う?あやつの子が勘違いするとは思わぬか?」
本人たちは単なる世間話をしているだけでも、そうと知らぬものから見れば神降し――いわば巫覡(男性版の巫女)と思しき状態だ。
いくら座敷童は神ではないと言ったところで、そうと信じた者の心は頑なだ。
「……権力が集中しそうだな…」
「権力というか、信心だな。人によっては、そういうのを好むかもしれんが、あやつは嫌がった。そして我が子が親の力を知って、増長する可能性を恐れた……」
ごくごく普通の人であるサクの子達――。
そんな彼らは基本的に善良で、家の中のやり取りは、座敷童の銀河の糧になりえるほどのもの……。
けれど、自分の親が神主となっただけでなく、神とされる存在と気安く会話し、守護まで得ていると知ったら?
「稀有な力を持つ親の元に生まれた――そういったことに特別意識をもって、他の者を見下すようになりはしないか……?」
ただの村人から神主になったというだけでも、かなりの出世なのだ。
そこにさらに色を付けてしまっては、人生経験の少ない子供など、あっという間に好ましくない方に性格が傾きそうだ。
「あるだろうな……」
クロも長い座敷童の時の中で、その手のことは何度かあった――。
「ワシも、あやつの子と気持ちを通じさせたい思いはあったが、そこに生じる危険性を考えて、あやつ以外と繋がりを持つことはせんかった。まぁ、見えたり、話ができるどころか、こちらの存在を察せる者すらあやつ以外に生まれんかったしな……」
ちなみに行商人の男はその後儲けを重ね、やがて都で店を構えたという。
土地を持たない旅の行商人が、都に店を構えるなど大出世以外の何ものでもない。
最初は気休めの噂でしかなかった話に信ぴょう性が生まれてしまった……。
「……大岩をそのままで放置出来なかった村長の気持ちはわかるなぁ。だって、大きな岩だったんだろ?」
「巨石と言ってよかったな」
「きっと、村のシンボルみたいな面もあったんじゃないの?よそ者に村のシンボルを汚されたくはないよね…」
だから御神体にして、管理人代わりに神主までつけてしまった。
「ワシもその気持ちはわからんとは言わんが……。勝手に神格化されたのは迷惑だった。あやつも仕事を押し付けられて迷惑がっていたぞ」
「でもまぁ…。毎日釣れない釣りするよりは、神主やるほうが……って、あれ?神主になって何してたんだサクさんは?」
サクは銀河と話ができるので、たとえしめ縄をまかれたとしても、その大岩が御神体とされるようなものではないとわかっているのだ。
なので、まさか大岩に向かって祝詞を上げることはないだろう。
「周囲の掃除をしとったなぁ……。あとは運を求めて岩を訪ねてきた者たちの話し相手になっておった」
「……掃除…うん、大事だね」
なんとなく、その光景が目に浮かぶ気がしたクロだった。
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